第七章

:政府介入の方法

これまでの議論で、政府がなすべき行為の方向性は示された。つまり、新技術に対するシグナルと新市場に対するシグナルを発することである。しかしそれらにいかにして関わっていくか、という点については触れておかなくてはいけない点もある。特にこれまでの議論では政府介入は非効率性とレントシーキングを生むものであると解釈されているきらいがあるので、それらへの議論は必要だろう。

1) 従来の政府保護論〜従来、新古典派によって、政府介入は市場機能を歪めるものとして理解されてきた。まず、特定の企業や産業を保護することによって「ソフトな予算制約」を創造し、それらの危機感を奪う。ついで、保護された市場での静態的均衡に甘んじて競争力を失う。価格や金融に対する規制も市場機能を歪めて、本来あるべき適正配置を狂わせる、というものである。

2) 状態依存型レント〜これに対して、青木は「状態依存型レント(Contingent Rent)」という考え方を示している。これは、保護や特別措置を得るための条件として現在の状態を基準にするという形式のレントであり、どの企業や産業が保護を得るかというのは競争結果に依存するというものである。このパターンのレントにおいてはロビー活動や、政府援助に依存するという非効率性は生まれずに、企業競争を刺激することになる。競争を維持し、かつ向上させるという効果においては方向性や基準が示されることにより自由競争よりも優れているといえよう。

3) 〜従来のレントに対する状態依存型レントの説明は特に日本の戦後の政策の中に見られる産業内競争にあてはまる。通産省は輸出産業に対して、輸出実績を基準にした保護支援を与え、また生産量を基準にして新技術を企業に配分したのである。

 

第8章

:結論

以上見てきたように、国の開発過程において最も重要な要素は「企業家の努力」であり、これは政府の送るシグナルによって刺激を受けた競争を通じて、維持向上されるものである。政府はこのシグナルを新技術と新市場の可能性によって示すことができる。

政府は企業活動を促進させるために市場に関わるが、それは競争を抑制させるものであってはいけない。逆に競争を維持することを意識しなくてはいけない。

東アジアの高い経済成長や短期間の産業化は、貿易の自由化や輸出振興政策、あるいは開発指向の国家のどちらかによって説明されるものではない。むしろ、その要因は新古典派が基本とする競争を主導的な国家が刺激したことにある。つまり、イノベーションに対する市場機能の中枢である競争状態を、強いリーダーシップを持った国家が技術と市場両面において補完することに徹し、域内の企業努力を促進させたことにあるといえる。

 

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