企業戦略論


今回から数回にわたって、基本的な企業戦略を説明したいと思う。僕は以前から、「多面的かつ的確に企業の姿を評価する」ことの必要性を説いてきたが、それは飽くまで大局的な企業戦略の一環に過ぎない。ここでは、そういった大きな流れの中で、何が大切か、そしてどういった順序でモノゴトを考えるべきかを、議論していく。

社長じゃないから関係ないや。まだまだ新入社員だからそんなのどうでもいいね。と、考えているならあなたもダメ社員。「摩天楼はバラ色に」という映画があった。その中で、主人公は末端に席を置きながらも、結局は社長になりあがった。別に、社長になることがえらいというわけでも最終目標というわけでもないが、やはり、「自分の価値」を高めた上で認められたいと願うなら、大局的な視点から自分の組織を眺めることは決してマイナスにはならないはずだ。そうして、企業組織と自らが、相互に刺激しあってよりよい環境と能力を構築できれば、幸いではないか。

第一回目の今回は、一般的な解釈を用いて、企業戦略の順序を説明する。


  • 最終目標の設置

概ね企業の最終目標は「利益追求」と「組織存続」である。この両者は、一見なんの関連性も持たないが、実は「永続的な利益を追求する」なら「組織存続」は必要条件だし、組織を永続させたいなら、恒常的に黒字であることが求められるのであって、相互補完関係であるといってもいい。

ただし、これは私営企業の場合であって、国営企業の場合は別である。郵便局や過去の国鉄を見てもわかるとおり、国営企業の企業目標は必ずしも「利益追求」でもなければ、「組織存続」でもない。林野庁が多額の赤字を抱えていることからも、「利益最優先ではない」ことは容易に想像がつく。

また、財団法人や学校法人の場合も、最終目標は利益追求ではない。したがって、それぞれの企業の立地条件によって最終目標は異なってくるのである。この点を、一番に再確認する必要があろう。

 

2.分析

企業の最終目標を再確認した後は当該組織が置かれている環境を分析する必要がある。ここでの分析はミクロの視点からマクロの視点、そして内部要因、外部要因と多岐にわたる。しかしこれらのステップを踏まなければ、企業戦略も部分的なものに成り下がってしまうので、大局的な戦略を構築する場合は、あらゆる局面に対して分析を行う必要があろう。

特に、市場内でのプレイヤー(競争者)に対する適切な評価、および市場特性に基づく「競争力優位」の発見は、極めて重要である。これらを見誤ると、戦略作成そのものが間違った方向を向くことになるからである。

 

3.短期的戦略、および長期的戦略の設置

競争市場内においては、他の競争者に対して“強み”を持つ必要がある。例えば、誤解を畏れずに言えばスバルの“強み”は「水平対抗ボクサーエンジン」であるし、SONYの“強み”はオーディオビジュアル色に特化した情報通信技術であろう。そしてそれらの“強み”の素となっているのが、それぞれ「戦闘機作りに由来する技術力」であったり、エンターテイメント性に強いグループ企業だったりするのだ。

このように、短期的には具体性をもった「競争力」を持つことが望ましく、そして長期的には「それらを生み出す素地」を構築することが望ましい。これらが最終的な目標=超長期的な企業目標への道しるべとなるのである。

 

4.具体的な戦術

短期的戦略は、主に技術力や科学力、そして学問的知識に裏付けられることが多い。なぜなら、短期的戦略はより強い具体性を伴わねばならず、その意味では即時的かつ即戦力になる技術が主要な部分を占めるようになるからである。

したがって、このステージで議論されることは、どのような技術を採りこむかという技術戦略、そしてどのように製品を市場に持ち込むかという流通戦略、どのように資金を調達するかという財務戦略、あるいはどのように潜在的市場を開拓するかという市場戦略などが主な議論となる。これらの戦略はむしろ区別を即すために「戦術」と言い換えたほうがよいだろう。

長期的な戦略は、継続的な競争力を生み出す素地をどこに求めるか、という基礎的な議論である。例えばトヨタがフォードなどに比べて、常に短いサイクルで新車を送り出すことに成功しているのは、「デザイインインシステム」と呼ばれる組織構造のためである。新車のコンセプト計画から、生産ラインの調整までをほぼ同時に行うことによって、モデルチェンジサイクルを短期化できるのである。つまり、トヨタの短期的な強みである「短いモデルチェンジ期間」は、長期的に構成された「デザインインシステム」によって生み出されているのである。

このように、長期的な戦略というのは、概して組織構造、企業文化にまで変化を要求することになる。そのため、企業が大胆な長期戦略の変更を嫌うのは当然であるかもしれない。しかし裏を返して言えば、一度企業が強みを生み出す仕組みを構造化してしまえば、当分の期間は競争力を維持し続けられるわけであり、長期的にはプラスであろう。ここでひとつ重要なことは、「長期的戦略を変更もしくは修正しうる自浄作用」をも同時に構造化する必要があるということである。言うまでもなく長期的戦略といえどもいずれは変更を強いられるのであり、そのときに余計な痛みを伴わないためにも、「修正の可能性

/自浄作用」は保存しておく必要がある。

 

.評価

そして最後には、それらの戦略を適正に評価する必要がある。ただ、戦略そのものを真空状態で評価することは不可能である。なぜなら、他企業の戦略や市場構造の変化など外部要因が存在する限り、当該戦略の結果は常に変動するからである。そこで、再び、「あらゆる事象」を視野に入れた評価の必要性が生じる。また、短期的戦略にしても長期的戦略にしても、一回で終了するものではない。変更を加えた上で、再び新生されるのである。したがって、このステージは、上記の

2.分析に立ち戻ることであり、細かい分析が必要になるのである。

 

以上のように、企業の戦略は実は、繰り返しの作業であって、これらが頻繁かつ適切に行われることによって企業は常に「ふさわしい企業行動」をとることが可能である。(理論的には、という限定がつくが。)

 

次回は、2.分析について、もうちょっと深い考察を加えてみよう。どんな視点で何を見なくてはいけないか、というお話である。



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