え? また文化祭?

〜かっこ悪い振られかた〜

 僕はその女の子を一目見たときから好きになってしまった。

ほんとは、ここはそういう場所ではないはずなのに、だ。

私立男子校の文化祭でやってるようなフィーリングカップルは、

あくまでも「ショー」であって、

「本気」で彼女を見つけようなどとは思ってはいけないのだ。

司会の友達から事前に質問事項を聞き出し、ボケを用意する、そんな感じだ。

だから、最後の「告白タイム」でもそれなりのボケを期待されている。

それで笑いを取れなければ、これだけの観客に申し訳が立たない。

 

日焼けした黒い肌。

聡明そうな瞳。

サラサラのセミロング。

端正な顔。

スキのない姿勢。

手強そうな相手だった。

何より、イギリスから帰ったばかりの帰国子女だった。

女の子を好きになるのはこれが初めてではないし、

一目見て気に入ったことも何度かあった。

でも、いずれの場合も「落ちついて対処」できた。

しかし、今回は勝手が違った。

鼓動が一向に収まらないのだった。

 

おそらく、用意していたネタはすべてあたまから消去されてしまったのだろう。

思うように自分のペースで笑いが取れなかった。

というより全然つまんなかったはずだ。

だって完全にうわの空だったから。

ちなみに、そんな状態の僕を好きになってくれたのが、

「ハチ公口の悲劇」に出てくるジャミラである。

 

よく覚えてないが、なんとかイベントは進行し、

そして「告白タイム」でもなんとか笑いは取れた。

今から思うと、観客の恥かしさ紛れの笑いだったと思われる。

なぜなら、ひざを付き、バラ一輪を差し出して

じゅてぇぇぇぇむ

と叫んだのだから。

よくそれでOKしてくれたものである。

普段の生活でそれをやられたら、極刑ものだろう。

 

そして住所と電話番号を聞きだすことにも成功した。

当時は、携帯電話はおろか、ベルすらも普及していなかったのである。

家の住所と電話番号というのは、聞き出すのも、かけるのも勇気と知恵が必要だったのだ。

もし相手の母親が出て、

「失礼ですがどちらさまでしょうか」

と言われたら、それだけで心拍数が跳ね上がってしまう。

いや、それだけならまだいい。

オトコからの電話を無言のままいきなり切る、というオヤジも世の中には存在するのである。

ほんの少しだが、ロミオの気分を知ったような気にもなった。

 

僕の甲斐甲斐しい努力が始まった。

繰り返し言うようだが、僕はモテるわけでもモテないわけでもない。

ただ、運に恵まれない、といったところだろうか。

好みの女の子には振り向かれず、そうでない女の子に好かれてしまう。

世の中うまくいかないものだ。。

さて、努力。

電話もしたし、手紙も出した。

それも、しつこくならない程度を見計らって、である。

電話は、その間相手を拘束することになるが、手紙なら、時間的拘束はない。

しかも、読みたくなければ読まなければいい。

ということで、案外すんなり受け入れられてしまうものらしい。

そして、こちらの手の内を見せない程度に気持ちを伝えるというしたたかさ(笑)。

一度にすべての気持ちをぶちまけると相手がびびって引いてしまうのは当然だろう。

しかし、やはり手強い相手だった。

全然なびいてこーへん

彼女が通っていた学校も私立女子校で、どうやら学校ぐるみで某KOと仲がよろしかったらしい。

毎週のように、週末は飲み会、合コンだ、と出かけていらした。

こっちはどっちかというと人気のない男子校である。

学校の知名度では勝負にならない。

何度デートの誘いを断られたか!

 

それでも、努力はしてみるものである。

ある日、渋谷でデートをすることになった。

もちろん事前準備アリである。

そして事前バイトアリでもあった。

某KO学生とはりあうためには、こづかいだけでは足りなかったのだ

その日のために準備したお金はしめて4万円。

もし充分に飲み食いして、帰りがタクシーになっても足りそうな金額だと思われた。

そして。

居酒屋。アクセサリーのプレゼント。カラオケ。バー。ゲームセンター。

彼女は、あろうことか、「ザル」だったのである。

いかがわしい愚策が実行不可能になるくらいまで、散財させられたのであった。

確信犯か?!

 

それでも僕はその女の子が好きだった。

たとえ「ザル」でも「放蕩娘」でも関係なかった。

そのすべてが好きだった。

だから、気を惹くような可能性のあることはなんでもしたのである。

クリスマスにバラの花束。

バレンタインにバラの花束。

誕生日にバラの花束。

今から考えると、ちょっと恥かしい。

 

それだけ恥ずかしいことをくりかえしても、

何の反応もなかった!

ひどい話である。

 

そして、時は過ぎ…

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