合コンにかける青春
〜邂逅編〜



あれは高校生のときであった。大学受験も切羽詰った話ではなかったし、ようするにヒマだった僕らは、常に女の子の話で盛りあがっていたものである。

たいてい、こういうとき話題に上るのは合コンの企画だ。それは放課後マックから、土曜日の居酒屋まで規模は本気度によってさまざまであるが、それは女の子側の事情も多分に作用するからにほかならない。

こちら側が、オールで居酒屋カラオケコースオッケーであったとしても、女の子のうちのひとりでも門限に厳しかったり、居酒屋に行くのをためらうようであれば、そうはならないのである。

従って、「お酒を飲みに行く合コン」というのは滅多にないことであり、それはそれでかなり希少なことだったのである。

ある日、某女子校の女の子との3人同士の合コンがとりつけられた。その企画を持ってきたのは、一つ上のM先輩であった。しかしどうやら、女の子は僕と同学年らしい。

もうひとりT先輩が行くメンツであろうことは予想されたことだったので、最後の一席が僕に用意されたのだった。

実はこの3人、結構戦闘力が高い3人である。珍しく、居酒屋合コンだったので、僕はもうウキウキわくわくだった。

***

当日。土曜日であった。私服をもって登校し、デパートのトイレで着替え、制服を渋谷駅のコインロッカーに突っ込む。これがセオリーだ。

渋谷の居酒屋の相当数が、モラルなく、高校生の客を暗黙のうちに認めているが、さすがに制服での入店は不可能である。あたりまえか。

待ち合わせまえに、M先輩とT先輩をセンター街のファストフード店で待つ。さすがに土曜日の渋谷はえらい混みようである。しかも当時はいくぶん下火になったとはいえ、「チーム」が徘徊していた時分であり、センター街は高校生の溜まり場のような感があった。



M先輩とT先輩が登場。

「あの、今日の相手ってどんなコたちなんですか? T女子校(仮名)ですよね♪」

文化祭チケットがプラチナチケットと呼ばれた人気女子校である。かわいい女のコが多いと噂の学校だった。

M先輩「ああ、一人は普通かな。あとの二人はわかんない。“かわいい”とは言ってたけどな。そう頼んでおいたし

その“かわいい”がクセモノなのである。はっきりいって、これまでの人生において、女のコがいう「かわいい」と男性側から見る「かわいい」が一致したことは一度もない。

待ち合わせ時刻。オクトパスアーミーの前にはそれらしき女のコが3人、立っていた。

「うおお〜、3人ともめっちゃカワイイじゃないですか。っていうか、一人はすごい美人ですね」

今から思い出しても、あのうちの女のコは一人、とてもかわいかった。今でもチェキっ娘くらいには勝てそうな気がする。

M先輩「…ん? あれ、違う」

僕の視線とはほんの少しだけズレた方向にM先輩は歩いていった。

日本語というのは素晴らしい言葉だと思う。いや、素晴らしいのはそういう日本語を作り上げたこれまでの無名の人々であるのかもしれない。

そもそも日本語の起源は、大和時代前後にまで遡れるが、その当時の語彙数なんて知れたものであったはずだ。それが、長い年月を通じて人間の生活が言葉を成長させていったのである。僕はそういった無名の人々の生活を尊重するし、そこから生まれた言葉も尊重して使っているのである。

その言葉のなかに、「隣の芝生は青い」という言葉がある。実は同じような質のものを持っているにも関わらず、自分のソレがなんとなく見劣りしてしまう、という意味の言葉である。そしてこの言葉の言外には、「自分の芝生の青さに気付きなさい」、つまり「足るを知る」ことの重要性も含まれているのである。

「(心の声)ん? 一人は普通だな。ほうほう。髪の長いちょっと美人系といったところか。二人目は、ちょっとカワイイかな。で、問題の3人目は…」

武蔵丸発見!!

「隣の芝生が青い」「足るを知る」という言葉が持つ意味はよくわかっていたけども、そのときは明らかに隣の3人の女のコの方が圧倒的なレベルで勝っていた。

こっちの芝生は腐っていたのである。特に、眉毛が特に太くて、体型がビヤ樽のようなサードチルドレン。あえて無名な人々に反論したい。明らかに隣のほうがいいんですけど?

「(小声で)ちょ、ちょっと、M先輩、ヤバいですよ。向こうにはジャパニーズリキシがいますよ!!別の意味ですごい戦力です!」

その言葉に対して返ってきたのは次のような無慈悲な言葉だった。

M先輩「悪いな。おまえ、アレ担当な」

これは、ドラフト一位指名で入団した途端に戦力外通告を受けるようなものであった。

なんでやねん!!

いきなり勝負から外されたのである。

T先輩は、と見ると、少し“ひいて”いた。

これがその晩の合コンの始まりだった。


 
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