千歳会館

〜渋谷という街〜

正直に言おう。僕は、お酒に弱い。

飲んでも別に意識がなくなるわけでもなく、すぐに気分が悪くなるということもない。

でも、飲めばすぐに顔に出るし、ビールを飲み進めるとすぐに満腹になって、

それ以上飲み食いができなくなるのだ。

そして、中ジョッキを3杯くらい飲んだ時点で、眠くなってしまう。

そんな僕が、「酒豪」の女のコを好きになってしまったらどうなるか。

今回はそんなお話。

渋谷には、ほとんど居酒屋だけによって構成された有名な建物がある。

それが「千歳会館」だ。

宇田川町の派出所の目の前にあって、一階部分がアメリカ屋になっている。

そしてその奥には、アンナミラーズがあったりするのだ。

飲み食いする場所に困った場合は、たいていここに足を運ぶことになる。

休日前夜で混雑が予想されるときでも、ここにある居酒屋のいくつかを回れば、

たいして並ばずに席に着くことができるし、

違う階にカラオケがあることも、非常に使い勝手がいい。

酔っ払って、女のコとカラオケに行くのは、悪党の常套手段である。

さて、その日、僕とサトミちゃん(仮名)は、センター街のPront(カフェバー?)で

待ち合わせをした後、

いきなり飲みにいくことになった。

そのとき、時間はまだ5時半。

夏だったので、まだまだ明るい時刻だ。

しかし、ムダに時間を過ごすよりも、空いている時間に行ってのんびりと

お酒を飲みながら会話するのも良いではないか。

そう思って、千歳会館に赴いた。

突然だがここで彼女は当時17歳。高校在学中である。

僕は当時19歳。大学生であった。

サトミ「最近、飲みに来てないから、なんかうれしいわ」

僕「高校生があんまり飲んじゃダメ(笑)」

サトミ「学校にはジンとか持っていって、ビンで飲んでるんだけどね」

僕「…!?(驚愕)」

おまえはアル中か?!

この時点で「僕が犯そうとしている過ち」に気がつくべきだったのだ。

スポーツパブと称された居酒屋に入ると、やはり開店直後のため、客は僕らだけ。

この時間帯は、サービスタイムなので、生ビール中ジョッキが100円であった。

サトミ「ねえねえ、安いよ、ここ、なんかうれしいなぁ」

僕「そ、そ、そうか?」(←不安)

僕は、飽くまで、ゆったりと会話を楽しみたかったのである。

そして注文されるビールの数。

まあ、一杯目は平気だ。夏だし。

二杯目も行けた。まだまだ余裕だ。

三杯目。今日はまだいけそうだ。

ここまでの所要時間、約20分。

なんで地獄の飲み比べせなあかんねん?!

サトミ「ねぇ、顔真っ赤だよ、大丈夫?」

そういうサトミちゃんは一向に真顔である。

しかし、この時の僕の頭のなかでは、愚かなことに、まだ、

サトミちゃんを酔っ払わせて、その後…、ヘヘヘ

という愚策にとりつかれていたのである。

そしてその後、サトミちゃんは、ビールから日本酒に切り替えた。

当然僕もそれにつきあうことになる。

間違っても「僕、ウーロン茶」などとは言えないのである。

悲しき男の性か。

お銚子が四本ほど並んだところで、もはや、正常な思考能力は失われていた。

しかし、「頼りになる年上の男性像」を演じきらなければならない以上、

醜態は見せられない。

とりあえず、今のところ摂取アルコール量では彼女に劣っていないはずだった。

しかし、現状を見る限り、彼女はまだまだ余裕である。

もはや、「ザル」を超えて「枠」である。網目すらなさそうだった。

翻って、僕は、もう限界を超えていた。

“アムロの能力に、ガンダムがついていかない”状態。

マグネットコーティングが必要だった。

吐くのだ。

僕「ちょっとトイレ」

トイレの中の鏡のなかには、

ジョニーライデン少佐機よりも真紅になった顔があった。

ついでにいえば、ズボンの中のソレも真っ赤だったのである。

酔っ払った頭の中で、

真っ赤だな〜、真っ赤だな〜♪

と歌ってしまったのは、仕方のないことであった。

しかし、吐くことは容易ではない。

充分に苦しんだ後、結局目的を達することなく、トイレを後にした。

苦しんだだけ損してしまった。

そして席に戻ると、新たに注文された日本酒が2本、気恥ずかしげに置かれていた。

また注文したんかい!?

僕は、時計を見た。

まだ7時にもなっていなかった。

僕の戦いは、まだ始まったばかりなのであった。

そしてその道は、はるかに険しいものであった。

 

続く

メインページインデックスへ戻る
お遊びページインデックスへ戻る
恋愛は格闘技だ!インデックスへ戻る
次のページへ行く