ラブレター
恋は盲目 。よくいったものである。たしかに、人は突然誰かを好きになったり、そして冷めたりする。そして、ひとを好きになっているときのパワーというものはすごいもので、普段はできないようなことも平気でできてしまうことだってある。っていうか、普段では考えられない暴挙にでることもある。恋とは、人を狂わせる力なのであるが、しかしそれは誰にも説明できない不思議なDNAがなせる業なのであろう。誰を好きになるかはわからないのだ。 今回の話は、思い出したくもない話だが、自分のことではないのでネタにすることにした。彼らはいまどうしているのだろう。 あれは小学校を卒業してからの春休みだった。別段なにもすることがなくヒマだった僕らはよく、友達どうし(男子のみ)で合宿と称して誰かの家に遊びにいったり泊まったりしていた。 当時、特に仲がよかったのが、 シンジ君とナオヤ君だった。この二人とはともに中学受験をして地元の中学に「行かない」少数派として徒党を組んでいた。小学校の時のクラスではほとんどがやはり地元の中学にいくので、結構、私立組は肩身が狭かったのである。 ある日、僕らはナオヤ君の家に泊まりにいった。その晩のこと、当然話題になるのは好きな女のコのことだ。卒業アルバムを取り出して盛りあがった。 僕「で、おまえらは誰が好きなん?」 シンジ「おれは樋口!」 樋口かおり。たしかにかわいかった。というより美人の部類か。聡明な顔立ちで、今でいう常盤貴子に近い。しかし、中学二年の段階で リッパなヤンキーになっていた(涙)。 僕「ふ〜ん。おれは柳沢慶子(笑)」 いまではどうしてるだろう。 ナオヤ「ああいうのがいいの?」 僕「かわいいじゃん。っていうか、ああいうタチの悪そうなのがいいんだよ。」 活発で、元気のいいタイプで、若干男勝りのところがあった。今でいう、榎本加奈子だ(笑)。 僕&シンジ「で? おまえは?」 ナオヤ「…川辺レイコちゃん」 僕&シンジ「いま、なんていった?(驚愕)」 聞きかえせざるを得なかった。 カワベレイコ(仮名)。男子のあいだでは、通称・ゴリ。ちょっと巨漢であった。男子3人くらいを相手にいつもケンカしている女子側の総番のようなお方で、僕は席が近かったためにいつも被害を受けていた(涙)。 僕「つまんねーよ。もっと“ひねらんかい!”」 間違いなく冗談だと思ったのだ。 しかし。 ナオヤ「でもウサギの世話とかしてるときはめちゃめちゃ優しいんだ!」(本気) 彼の目は真剣だった。よく、捨てネコを拾うようなヤクザを見て、根が優しい人だと思い込んでしまうのによく似ていた。普段コワモテなのでそういう部分的な優しさを見ると際立って見えてしまうというアレである。 僕&シンジ「そっか…」 恋愛話に華が咲いたその雰囲気から、さっそくラブレターを出そう、というところまで話が進むのは簡単だった。 ナオヤ「なんて書いたらいいかな」 しかし、僕もシンジ君もそんなものを書いたことがない。 僕「なんか、見本みたいなのがあったらいいんだけど」 シンジ「あ、ウチにマンガがあったぞ」 家はすぐ近くだ。シンジ君は数分後に、マンガを数冊持ってきた。それは、ちば拓作・「キックオフ」だった(笑&涙)。 ごぞんじだとは思うが、読めば鳥肌が立ってすぐに閉じたくなるような、あま〜いラブコメである。しかし、ホンモノの恋愛などしたことがない僕らは、それが「ホンモノ」だと信じてしまった。 シンジ「ほら、ここ。」 確かに、そこには主人公の女のコが受け取ったラブレターの一部が書いてあった。そして、そのマンガだけではなく、当時のヒット曲の歌詞からもフレーズを拝借することになった。採用された歌手は、 BoφWY、チェッカーズ、C-C-Bであった。 「キックオフ」に感化され、そして偏ったヒット曲に洗脳され、そして「恋愛」に恋する僕らが暴走するのは時間の問題だった。というより、その夜、 加速的に暴走していった。 じゃあ、こういうフレーズはどうだ? この歌詞いいよね。この単語使ってみようか。どういう言葉に感動するんだろう。 そういう議論の末、できたのが下記の“ような”ラブレターだ。記憶の片鱗をかき集めたものだから完全にあってるはずはないが、このようなものだと思ってくれればいい。 Dear おれのシャイニングスター 突然手紙だしてごめんよ。でも、抑えきれなかったんだ My Honey。中●小卒業してまだ数週間しかたってないけど、なんかもう数ヶ月たってるような気がするよ。だってキミがいないから。キミのいない空間は、とてもさびしい。おれがずっとキミのこと見てたって知らなかっただろ? でも、ずっと見てたんだ。 おれ、今日、市営グラウンドの周りを 5周も走ってきたんだ。とっても疲れたよ。でも、元気だから大丈夫。 最近毎日、新聞読んでるよ。ウチは読売だから一番先にコボちゃん読んじゃうんだけどね。でも、これからは毎日、新聞読むよ。 …(以下省略)
もはや断片的にしか覚えてないのだが、こんな感じだったはずだ。 よく理解できないと思うので説明しよう。まず、一段落目はナオヤ作である。何事も「掴み」が大事、ということで、歌詞からとったフレーズをちりばめ、「ハートをキャッチ」しようとしたらしい。 次の第二段落は僕の作。とりあえずワケがわからない。「男は、汗をかいてスポーツしてるときが一番かっこいいんだ」というマンガの影響大である(笑)。しかし登場が唐突で、前後の脈絡がないマラソン野郎にすぎなくなっている。しかも最後の、「元気だから大丈夫」って何? 3つ目の段落はシンジ作で、知性的なところを見せよう、という魂胆だった。新聞読んでればそれでいいのか? しかもコボちゃんなんていう名前を出してる段階ですでに中途半端なボケが入っているのではないか? などというツッコミが入りそうだが、まさにそのとおりだろう。 このあとにもツギハギだらけの文章が続くのだが、作った僕らはそれらが琴線に触れるものだと信じ込んでいた。しかし今に思えば、 逆鱗に触れるものであったに違いない。 この日のドラマはまだ終わらなかった。 続く…
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