かさじぞう
〜おじいさんとおばあさん〜



 



ある年の大晦日の晩。

その日はとても寒く、朝から雪が降っていました。

しかし大晦日ということもあり、町はお正月のための買い物をする人たちで賑わっています。

おじいさん: 「アフロのカツラはいらんかえ〜、アフロのカツラはいらんかえ〜

おじいさんは声をはりあげて笠を売っていました。

畑仕事ができない冬のあいだはこうやって自分で編んだアフロのカツラを町で売っているのです。

ところが最近町にドンキホーテとかいう大型のディスカウントショップができたため、おじいさんのアフロのかつらはめっきり売れません。

数日前から毎朝6時に町へ来て売り歩いていましたが、結局一日に2つ売れればいいほうで、まだ5つのカツラが売れ残っています。

おじいさん: 「はて、こまったものだ・・・」

しかし時間は流れます。

夕刻、人々は家族が待つ家へ帰っていき、日がとっぷりと暮れる頃には町にはしんしんと降り積もる雪とおじいさんがいるだけになりました。

おじいさん: 「仕方ない、帰るとするか・・・」

おじいさんは売れ残った5つのカツラを背負って村へと足を向けました。





*****





おじいさんの家は町から10マイル、約16キロ離れたところ村はずれにありました。

帰り道でのこと。

おじいさん: 「おや、こんなところにお地蔵さんが6人も・・・」

いつも通っている道だったのですが、そのとき初めて気付きました。

お地蔵さんは半分くらい雪で埋まっていました。

おじいさん: 「かわいそうに・・・。あ、そうじゃ!」

おじいさんは一体ずつていねいにお地蔵さんにかかっている雪をはらいました。

そして売れ残ったアフロのカツラをかぶせていきました。

おじいさん: 「ありゃ、一つ足らん」

少し思案したあとで、おじいさんは、ぽん、と手を打って自分がほっかむりしていた手ぬぐいを最後のお地蔵さんにかけてあげました。

おじいさん: 「風邪で飛ばされたりせんようにしっかり結んどかんとな」

おじいさんは手ぬぐいをお地蔵さんのあごの下でしっかりと結びました。



そして家にやっとたどり着いたおじいさん。

奥から出てきたおばあさんは雪まみれになっているおじいさんを見て驚いた顔で言いました。

おばあさん: 「あらあら手ぬぐいはどうしたんですか、おじいさん」

おじいさんは笑顔で手を振り、いやいや実はね、と事の顛末を説明しました。

外ではしんしんと雪が降っています。

きっと今年一番の、そして来年一番の大雪になりそうな感じでした。

囲炉裏に薪をくべながら、

おじいさん: 「・・・ということだったんじゃ。思わずかわいそうになってしまってな」

それまでずっと黙って聞いていたおばあさんが、やおら口を開きました。

おばあさん: 「おまえバカか?

口調は落ち着いていましたが、目は怒りで真っ赤に染まっています。

おばあさん: 「確かにカッコイイがな。雪に埋まりそうになってるお地蔵さんを助けるなんて美談に違いない。ご近所に言うたらみんなホメてくれそうやがな。

けどな、アタシはどうなるねん?

あんたがこの10年間調子に乗って借金して遊んだおかげで、ふくれあがった借金は何十兆円にもなるんや。

年金、保険、借用証書、エトセトラエトセトラ。今の収入で返済する気やったらあと300年くらいかかるんやで?

それとも何か?あんたが死んだあとでアタシが払うんか?

そんで挙句には、せっかくアタシが作ったアフロのカツラもあげてもうたんか。

おまえはやっぱりバカか?

アタシが言いたいんは、お地蔵さんにいいことをするな、というんちゃうねん。

ウチの家計のことも考えて、もっと他にするべきことがあるやろ、もっと他にいい方法があるやろ?ということや。」

おばあさんが一気にまくしたてたのをおじいさんは黙って聞いていましたが、やがておもむろに立ち上がると、

おじいさん: 「ワシが一番エライんや。ワシのやることに口を出すな。第一、そういう見栄がなけりゃ村でもいい顔ができんやないか」

といって、
近くにあった猟銃でおばあさんを射殺しました。


*****


その日の深夜。

あたりはしんと静まり返っていて、雪に降り積もり音さえ聞こえません。

そこに、遠くのほうからずん、ずん、ずん、という音が小さく、そしてだんだん大きく聞こえてきました。

ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン

玄関を強く叩く音に目を覚ましたおじいさんは、こんな時間に誰だろう、と思いながら玄関を開けました。

果たして、そこには見覚えのあるお地蔵さんが独り立っていました。

アフロのカツラをかぶったお地蔵さんが1人。

お地蔵さん: 「ちょっと話があるさかい、上がらせてもらうで」

お地蔵さんは、おばあさんの射殺体をちら、と見てから、それを横にどけて囲炉裏の前に座りました。

お地蔵さん: 「まあ、とりあえず、あのあとにウチら兄弟に何が起きたんかを説明させてもらうわ・・・」

お地蔵さんは語り始めました。




つづく
 

 
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