1999.8.28.
パリのコンサート・ホール
コンサート・ゴーアーとは言えない私は、それ程熱心にコンサートに通ったわけでは無かった。 会社が郊外にあったので、コンサートに間に合うように帰ることも難しかった。 大体は週末のマティネになってしまう。 その中で集めたクラシック音楽のコンサート・ホールの情報です。 なお、各ホールの歴史に関する記述では、音楽の友社刊 『ガイドブック音楽と美術の旅 フランス』を参照させて頂きました。
1.シャンゼリゼ劇場 (Theatre des Champs-Elysees)
15, avenue Montaigne, 8e
シャンゼリゼ通りにあるわけではなく、メトロなら13号線 Alma-Marceau で降りるとすぐ。 高級ブティックの立ち並ぶ木立の美しいモンテーニュ通りに面しており、シャンゼリゼ通りのFranklin Roosevelt で降りて歩いていくのも楽しい。 白い大きな建物だが、ホテル・プラザ・アテネ等の大きな建物が並ぶ通りなので、特にホールという感じはせず気づかずに通り過ぎてしまうかも知れない。 切符売り場は入って左側。 長い列になると入り口を全てふさぐ感じになり、中に入る人は必ず列の人々の間をすり抜けなければならないという構造は不便だ。 窓口は2つで、小さなディスプレイでどの場所かを教えてくれながらの発券。 いくつか示して選ばせてくれることも多い。 長い方の列に並んでいると、実は学生・失業者割引専用だったりするので注意。 オルケストル(平土間)席などの高額席はゆったりと一個一個独立した応接室にあるような肘掛け椅子。 上の方のバルコンは普通の跳ね上げ式。 上の方でもステージからそう遠くならないが、舞台が全部は見えない場所もあり、Visibilite Reduite などと言って安くなる。 オペラでも80フランくらい。
1913年のオープン以来、ストラヴィンスキーの春の祭典が初演され大騒ぎになるなど、フランス近現代音楽シーンを見つめてきた劇場で、モーリス・ドニの天井画も素晴らしい。 ウィーン・フィル・クラスのオーケストラが来ると、大体このホールが使われる。 オペラの上演も盛んで、オペラ座の方はガルニエもバスティーユもパリ・オペラ座専用なので外タレはここかシャトレ劇場になるのだ。
10時過ぎにコンサートがはねて、着飾った人々がパリの町に消えていく。 アルマ橋の方に歩いていくと、セーヌ川越しにライトアップされたエッフェル塔がそびえ、本当に美しい街だと思わせる。
2.サル・プレイェル (Salle Pleyel)
252, rue du Faubuourg St. Honore, 8e
こちらはサントノレ通りに面している。 サントノレと言っても長いとおりで、反対側はシャトレのあたりからパレ・ロワイヤルを抜けて続いてくる。 こちらはその反対側でテルヌ通りと接続する終端の近くになる。 最寄りのメトロは2号線 Ternes だが、凱旋門のある Charles de Gaule Etoile で降りて、ワグラム通りかオッシュ通りを下って来ても良い。 オッシュ通りをサントノレを越えて行くと日本大使館の前を通り、モンソー公園に突き当たる。 チケット売場は入って右側。 2つあって、こちらはディスプレイで席を選ばせてくれないようだ。 当日券の場合は、手書きの料金表が貼り出されている。 当日券でも1時間前くらいから売られるので、早めに行ってチケットを買い、近くのカフェで時間をつぶしても良い。
オルケストルと第1バルコンの前方が最も高く、次にパルテール(オルケストルの後ろで、バルコンがかぶさっている辺り)と第2バルコン後方、最後が第2バルコン。 高額な公演では、もっと細分化される。 席への入り口は左右に分かれていて、席番が偶数か奇数かによって振り分けられる。 オルケストルは少し奥の方の入り口、パルテールとバルコンは手前の左右で第2バルコンは階段を相当上ることになる。 骨董品的なエレベーターに乗るのも一興。
パリ管の殆どの定演や、ラジオ・フランス国立オケの定演の一部、佐渡裕さんのラムルー管にパドゥルー管、コンセール・コロンヌなどの定演がひっきりなしに開かれている。
なお、ロビーの突き当たり最奥には、小ホールのサル・ショパンがある。
公演が終わり外に出てそぞろ歩くとオッシュ通りの先に凱旋門が輝いており、パリならではのコンサート体験が出来る。 サントノレの並びには紅茶のマリアージュ・フレール、斜め向かいにメゾン・ド・ショコラがあり、コンサート前についお土産も買ってしまいたくなる。
3.サル・ガヴォー (Salle Gaveau)
45, rue de la Boetie, 8e
最寄りのメトロ駅は9か13号線 Miromesnil (ミロメニル)だが、シャンゼリゼ通りから歩いても良い。 ピアノや声楽のリサイタル、室内楽にぴったりの小ホール。 窓口がどこか分からず、切符の買い方など最初はとまどうかも知れない。 サイズは小さいが、大物音楽家が次から次にやって来る。
4.シャトレ劇場
1, place du Chatelet, 1er
シャトレ広場に面して向かい合う、シャトレ劇場とパリ市立劇場。 シャトレ劇場の方は、シャンゼリゼ劇場と同じようなプログラムで、フランス以外のオーケストラ、オペラなど。 人気の出し物は COMPLET (SOLD OUT)になることもある。 シャンゼリゼより古く、1862年のオープン。
目の前がシテ島で、コンシェルジュリーがある。 シテ島の向こう側はサン・ミシェルで、いわゆるカルティエ・ラタンになる。 逆に、シャトレからレアルを越えて北に行くとサン・ドニ凱旋門のあたりは非常にいかがわしい地帯となる。 夜遅くに出歩くのは薦められない。
5.パリ市立劇場
2, place du Chatelet, 1er
シャトレ劇場などとは異なる、2階席の無い中規模のホール。 一律80〜100フランで、シュタルケルとかジョルディ・サヴァールあたりの有名どころを呼ぶなど、さすがに市がバックについている感じ。 また、現代舞踏団の公演も頻繁に開かれている。 但し、安い上に隻数が少なく、殆どの公演は事前に売り切れてしまうようだ。 サラ・ベルナールが芸術監督をしていた時期もあり、隣のカフェもサラ・ベルナールという名前だったはず。
6.ガルニエ・オペラ座
Place de l'Opera, 9e
旧オペラ座だが、数年かけてレストアし、今はバスティーユと並んで使われている。 どちらかというとバレエの公演に使われるようだ。 シャンゼリゼ劇場のようなスタイルだが、エントランスから大階段を上って席へのアプローチは素晴らしい。 観光客も含め、大勢の人が訪れるが、窓口の応対は親切だと思う。 親切すぎて、どの席が良いかアドバイスするうち、後ろの人を待たせて窓口の二人が議論を始めてしまったこともあった。
冬ならば、出し物がはねた後、キャプシーヌ通りのブラッスリーでカキを食べたりするのもいい。
メトロは Opera だが、凱旋門からはRERのB線で Auber が一駅で便利。
7.バスティーユ・オペラ座
120, rue de Lyon, 12e
ミッテランが建てた新オペラ座。 モダンすぎて味わいがないかも知れないが、椅子はふかふかだし嫌いではない。 切符も買いやすい。 満員のことも多いし、当日券があってもかなり並ぶ。 字幕が付くが座席によっては見えない場所もあるので、字幕が必要なら買うときに確認すべき。 しかし、高い下の方の席で舞台の上の字幕を見ると、舞台がおろそかになる上に肩が凝る。 豪華な雰囲気こそ無いが、別に着飾らなくてもフラリと行ける気安さはある。 以前はしょっちゅうストをしている時期もあったが景気も良くなったし最近は大丈夫かな。 ゼネストにならなくても、たとえば裏方がストに入ったために、オペラがコンサート形式になってしまったり。 まるで、サキの短編小説「ビザンチン風オムレツ」みたいなことになる。
メトロは Bastille で、この辺りは夜になると若者が多くなる盛り場。 ロケット通りとサンタントワーヌ通りに挟まれたあたりが特に賑やかだ。 人が多いのでスリなどに注意。 また、賑やかな通りをすこし外れると急に人通りが無くなったりする。 非常に危険というわけではないが気をつけるに越したことはない。
8.オペラ・コミック (Opera Comique)
5, rue Favart, 2e
通りの名を取ってサル・ファヴァールと呼ばれる。 私は行く機会が無かった。 ラーメン屋や日本メシ屋に行くのに何度となく正面玄関は拝んだものだが。
9.シテ・ド・ラ・ミュズィーク (La Cite de la Musique)
209, avenue dJean Jaures, 19e
ヴィレット公園の近くにコンセルヴァトワールが移転し、音楽ホールや音楽博物館も出来た。 興味ある企画シリーズや、リーズナブルなプライスで魅力的なコンサートが開かれる。 しかし、場所が悪すぎる。 特に夜は女性の一人歩きは薦められない場所ではある。 車で来て近くに停めておくか(盗まれる可能性も十分だが)、タクシーを使うか、近くのホテル・フォレストヒルに泊まるか。 コンセルヴァトワールで勉強している日本人の女性は、学校の近くで便利だと言うことで歩いて行けるアパルトマンに住んでいたけれど、バスティーユでオペラを観た後はタクシーで帰るか送ってもらうか、ということであった。 そんなこんなで、大ホールには行ったことが無く、アンフィテアトルの昼間のホプキンソン・スミスによるリュート・リサイタルを聴いたのみ。
メトロなら、5号線 Porte de Pantin から。
10.ラジオ・フランス (Maison de Radio-France, Salle Olivier Messian)
116, avenue du President-Kennedy, 16e
オリヴィエ・メシアン・ホールというホールが中にあって、放送用のコンサートなどが安価で開かれる。 私は行ったことがない。 RER(高速郊外鉄道)C線の Kennedy-Radio France の駅前。 パリの Hotel Nikko (日航ホテル)とはセーヌを隔てて向かいになる。
11.教会
室内オーケストラ、宗教曲、古楽のコンサートは教会で開かれることも多い。 ノートルダム、マドレーヌ、サンテュスタシュと言ったカテドラルでのオルガン・コンサートや、パリで最古のステンドグラスを持つサント・シャペルでの宗教曲など。 サン・ジェルマン・デプレ教会でもオルガンの演奏会がある。 聞いたことの無いような小さな教会で開かれるコンサートもある。 雑誌 Pariscope には、その週のコンサートがある全ての会場の住所が記載されているので、ミシュラン等の通りの名前で検索できる地図(殆どのパリ市街地図はそうなっている)で調べることが出来る。
但し、町を歩いていてよくポスターが壁や柱に貼られているようなコンサートの中には、アマチュアの音楽家による練習発表会のような演奏を100フランくらい取って聴かせるものもあり、玉石混淆。
12.その他
歴史的建造物の中でのサロン的コンサートもあり、比較的安価に聴くことが出来る。 アンヴァリッド(廃兵院)の中でのピアノ・リサイタルなどシリーズ化されているものも。 ソー公園のオランジュリーでの音楽祭や、ブーローニュの森のバガテルでのピアノのシリーズなど。