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Occasional Thoughts Around Books

by MORI Hiroshi
Aug. 1999


科学は子供だけのものか?


 「最近の子供は・・」なんて言う大人にだけはなりたくないものだ。そもそも「あいつは大人だ」とか「大人しい」のように使う場合はまあまあ悪くないニュアンスなのだが、それ以外になると「大人」という単語は実にいかがわしく響く。大人って基本的にイヤらしい。「友達を作りなさい、友達は財産だ」などと子供に諭したりするが、友達を「作る」という作為的な表現もイヤらしいうえ、「財産」とは何事だ。もう最低・・。

 気づいているか、日本の大人たち!

 今回の森は多少酔っ払って書いている(これぞ大人だ)。このコーナに多少相応しくない本をあえてご紹介したい。「子供の科学」なる月間雑誌である。この雑誌、知っている人は知っている。知らない人は知らない(集合論として正しい)。戦前からずっと続いている名門中の名門科学雑誌。裏表紙はマブチモータの広告だ。森もこれを小学校3年生のときから30年以上毎月買っている。これを読んでいるうちは清く正しい「子供」でいられる、としたら最高なのだが・・。

 さて、冒頭でイヤらしく強調したように、やはり「大人の科学」では駄目だろう。もう、昼間は閉まっている謎のお店になってしまう。「子供」の科学だから素晴らしい。今回、言いたいことはこれだけである。

 一時、バブル同様に「科学ブーム」なるものがあって、いろいろな雑誌が登場した。カラーページをふんだんに使っているものの内容は乏しく、つるつるの紙に光が反射して肝心の文字が非常に読みにくい本ばかり。そういった単にファッション的な科学誌が多いなか、「子供の科学」は質実で読みやすく、内容はもちろん剛健である。

 何が凄いのかというと、媚びていない。ごまかしていない。つまり、子供に対する最も基本的な姿勢を堅持している。大人が読んでも難しく、実験や趣味や、ちょっとした工作の記事だって、技術的に本物なのだ。決して俗にいう「子供用」ではない。子供用でないことが、本当は「子供」のためになる。

 子供にこそ一流のものに触れさせたい。

 子供用でごまかしては駄目だ。これが基本。子供は大人のように馬鹿じゃない。「大人が酒を飲んで寝ているのに、どうして子供は勉強しなくちゃいけないのか?」と疑問に思うくらい頭が良い。そんな質問されたら、あなたは何と答えるか? 「オレも昔は勉強したんだぞ」なんて「昔」を持ち出したらもう脱落者。あなたの子供がこんな質問をした場合、やることはただ一つ。即座に酒をやめて、子供より勉強しよう。これしかない。これが教育というものだ。「勉強しなさい」などと連呼するお母さんには、「あんたが勉強しなさい!」とアドバイスしよう。大学は何歳でも入学できる。今からでも遅くない。子供と一緒に勉強して大学に入ったらどうです? そんな親の姿を見れば、子供だって勉強するだろう。とまあ、わかってはいるけどね〜。

 そういうわけで(どういうわけ?)、駄目な大人もせめて「子供の科学」くらい読んで、たまには少年・少女時代を取り戻そう。消費税だの不況だのよりは、「光より速く走るとどうなるのか?」の方が確実に「豊か」である。え? 光よりは速く走れないって? いやいや、あなた、それこそ勉強不足。

 宇宙旅行をすると地球より時間が遅く進む「事実」を、今でもお伽話だと思っている大人が世の中の半分以上だ。競馬とか宝くじで確率の勉強をしているつもりかもしれないが、もう少しだけ「ものの道理」を知っていると、もう少しだけ「人間の大人」らしくなれるだろう。「ホーキング、宇宙を語る」でも読んで、子供たちに道理を語る大人こそ、現代に不足している大人なのだ。それこそが真の大人の「力」であって、子供は、そんな「大人の力」にこそ惹かれ、憧れるだろう。

 ああ・・、しかし、今月は教訓めいているな。寒風吹き荒ぶノスタルジィか・・。



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