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Occasional Thoughts Around Books

by MORI Hiroshi
Aug. 1999


本棚には入れたくない


 幾つかの理由で、本を紹介する行為に森(私のことである)は向いていない。

 第一に、あまり本を読まない。
 一週間に一冊読めば上出来。読むのに時間がかかる。したがって、比較対象となるような広範囲のデータを持ち合わせていない。
 第二に、人から「これ面白いよ」と薦められて本を読むことが大嫌いだ。
 だから、なるべく人にも薦めないように心掛けている。強く薦められるほど、読みたくなくなる。当然「書評」など一切読まない。
 第三に、本が手もとにない。
 読み終わると捨ててしまうことが多いからだ。森は本の中身を読む。本は単なるメディア。紙やカバーに価値があるのではい。読むのは文庫ばかり。ハードカバーは買わない。

 さて、最初なので、がつんと言い訳を書かせてもらった。大げさな方が面白いから極端に書いたが、第三の理由はほぼ本当で、森がこれまでの人生で、自分のお金(=時間)と交換したハードカバーは十冊に満たない。その中の二冊を慎んでご紹介しよう。

 つい最近発行された「マニアックス」と、何年か前に出た「ミステリーズ」の二冊。ともに山口雅也の短編集である。山口氏には一度だけお会いしたことがある。実にこのままの人だった(何のことだかわからないだろう・・、それで良い)。

 とにかく、カバーが凄い! これに尽きる(いや、尽きてはいけない)。森が買ったのは、もちろんカバーが良いからだ。当たり前である、中身は買わないと読めないのだから。立ち読みなどというはしたない行為はしない紳士なのである。この装丁に二千円出しても良い、と判断した。英断だった。

 ところで、本棚という家具が世の中にはあって、相当にいかがわしい。意味がよくわからない代物といえる。図書館のように毎日出し入れする人は、あの形態で我慢しなくてはならないが、たいていの場合は、入れたきりになる。不揃いで美しくもない背表紙を並べて陳列するわけだ。収納が目的ならば、段ボール箱に詰め込んだ方が体積ははるかに小さいく、合理的だ。○○全集などといった類の馬鹿でかい本を並べて喜んでいる人もいる。ハードカバーの箱だけに三割くらいの値段をつけたら、きっと売れることだろう。

 そういった「装飾」に耐えうる数少ない本が、この「マニアックス」「ミステリーズ」であろう。立派なインテリアとなる。

 さて、中身の話もしなくてはならないだろう(当たり前だ!)。実は、中身も良い。でも、あまり誉めたり、薦めたりすると、読みたくなくなる天の邪鬼もいるだろうから、ほどほどにしておこうと思う。

 「ミステリーズ」を読んだときには、「日本のミステリィもついにここまで来たか」なあんて思った(偉そうに。いったい何様であろうか?)。巷に溢れる大衆車や外車ではない。かといって、ばりばりのフェラーリでもない。クラシックカーのレプリカでもない。これは、モータショーにしか現れないコンセプトカーに似ているな、と感じた。一言でいえば「ここまで来たか」という「斬新」さ。その衝撃はとても強かったので、裏表紙でのけ反っている山口氏の写真が目に焼きついた。で、ご本人に会ったら、そのままだったのだ。「格好いいじゃん!」である。

 「マニアックス」は、「ミステリーズ」の凄さ再び! という入魂の本作りだ。いや、こちらも良い。ただ、内容は多少違う。何故なら、この数年の間に、世間にコンセプトカーもどきがわりと出回った。形だけ新しいものが増えた。そんな中で、山口氏が見せた「新しさ」が、やっぱり一味違う。仄かに有機的で、ただならぬさりげなさが熟成している。未成年者には飲めないだろう。

 良い作品があって、良い本作りがある、という希に見る連鎖といえる。本棚に並べておくには惜しい。置場所に困る本だ。



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