MORI Hiroshi's Floating Factory Gyro Monorail Workshop
ジャイロモノレールの作り方
2010


Gyro monorail No.7

/☆Go Back☆/
 「鉄道模型趣味」(機芸出版社)2010年8月号に掲載された記事の再録です。機芸出版社および平岡幸三氏(図面制作)の許可を得て公開しています。


「鉄道模型趣味」誌掲載時のページ(2010年8月号)


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シンプルなジャイロモノレールの作り方
How to build simple gyro monorail

森博嗣
MORI Hiroshi

図:平岡幸三(図-7以外)


1. まえがき

 ジャイロモノレールの試作9号機がうまく走ったので、原理を解説した内容を今年1月にTMSに投稿した。そのあと、次のステップとして、さらに大型の試作機を製作するつもりだったが、遠方への引越が数カ月後に迫り、短時間で完成する簡単なプロジェクトに急遽切り換えた。その結果誕生したのが、今回ご紹介する試作7号機である。


試作7号機(2010年8月号)


 9号機より新しいのに何故7号機なのか……。実は、試作段階でホイールが1つしかないシングルジャイロの車両を製作していた。ホイールが1つではカーブを曲がれない(9号機のようにツインジャイロにする必要がある)。車両がヨー軸で回転したときの影響を小さくするためには、ホイールの回転軸もヨー軸に近づけることが有効である。この理屈から、垂直軸回転ジャイロならばシングルでも、ある程度のカーブ走行が可能なのではないか、と推測して実験を行った。その試作7号機は、実験のあと分解し、次の8号機、9号機へと部品が受け継がれた。

 9号機の成功で、バランシングスイッチやサーボのノウハウが得られたので、残っていた部品を掻き集めて、再度7号機を組むことにした。もし製作記事を書くのならば、多くの人がトレースして作れるようシンプルなものが適切だろうとも考えた。コンセプトとしては、工作が簡単でサイズが手頃なこと、特別な部品を使わないこと、そしてなによりも、鉄道車両らしいスタイルであること、などを目指してデザインした。

 本稿では、ジャイロモノレールの原理にはふれない。理屈を理解していた方が間違いがないので、TMSの808、809号の解説をご一読いただきたい。


2. 使用部品

 購入が必要な主な部品を表-1に示す。高価なものはない。充電式の電池を使ったが、これが最も高かった。ジャイロのモータはマブチの380。サーボと走行用のモータにはいずれも安価な260を使用した。5Vで作動する2回路のリレーは、通信販売で1個100円程度で入手できる。


表-1 使用部品


 余計な話だが、『模型とラジオ』や『子供の科学』の工作記事には部品リストがあった。そこに示された金額と小遣いをいつも比較したものである。そのノスタルジィで、今回わざわざ部品表を作ってみた。

 車輪には、ホームセンタで入手できる戸車を分解して用いた。また、減速と伝導にタミヤのパーツを利用したが、これらはたまたま手持ちがあったからにすぎない。無動力で、手で押したり傾斜を転がしたりする車両にすれば、もっと軽量でコンパクトになる。

 ボディの前後に使ったのは、工事現場などで使う電球のカバーで、白いプラスティック製のもの。最初から2分割になっているので好都合だった。日頃から「使えそうなもの」を(ビーバの巣のように)備蓄しているため、こうして日の目を見たときには清々しい気持ちになる。


3. 全体のレイアウト

 図-1に全体のレイアウトを示す。この車両ではシャーシが、ジャイロのジンバルを支えるフレームの役目を兼ねている。このため床が高くなるので、その下に重量物となるバッテリィを配置した。Gゲージの車両とほぼ同じサイズで、線路もGゲージ(の片方だけ)を使用することを想定している。



図-1 ジャイロモノレール全体図



4. ジャイロとジンバル

 ジャイロのホイールは、精度が高い(心が出ている)にこしたことはない。旋盤があれば簡単に作れるが、ない場合には、東急ハンズで売っている円柱を輪切りにした真鍮材を購入するか、ネットなどで専門店が切り売りしているものを求める。中心にモータ軸と同径の穴をあける際には、中心を正確に決めることが大切で、今回の工作の最難関といえるだろう。細めの穴にモータ軸を叩き込んでも良いが、メンテナンス性を考えて、ネジで固定する方式とした(斜めにネジ穴を通し、イモネジで固定)。

 図-2に示すように、モータはアルミのチャンネル(コの字断面)材にネジで固定した。これがジンバルとなる。ジンバルの回転軸にはベアリングを用いたが、もっと簡単な支持でも問題はない。軽く動き、しかもガタのないものとする。


図-2 ジャイロの組立て



 このとき問題なのは、ジンバルの軸の位置である。ホイールをモータに取り付け、ジンバルに仮固定した状態で、重心位置を調べる。そして、ここが大切な点だが、回転軸は重心よりも3mm程度下にしなければならない(図-3)。すなわち、ジャイロが停止しているときには、ホイールが重くて、前後どちらかに倒れる「不安定な状態」にしておく必要がある。ここを絶対に間違えないように。ホイールが回転すれば、この不安定さが、逆に車両を安定させる。逆に、ジンバルの高い位置に軸を取り付け、下を重くして静的に安定したバランスにしてしまうと、ジャイロモノレールは絶対に立たなくなる。

 3mm程度としたのは、それ以上になると、車両の進行方向の加速度を拾い、発進や停止のときに倒れてしまうからである。


図-3 ジンバルの回転軸と重心位置の関係



 ちなみに、ジャイロのホイールはどちらへ回転させても良い。ジャイロの回転方向は、その他の装置および設定とは無関係である。


5. サーボとバランシングスイッチ

 ジンバルの動きを制御するためのサーボは、260モータを平ギアで1段減速させただけの簡単な機構とした。図-4に示すように、0.5mm厚くらいの鉄板か真鍮板でギアボックスを作る。回転角はせいぜい120度程度なので、平ギアに直接アームを取り付けた。このアームとジンバルをピアノ線でつなぐ。


図-4 サーボモータの組立て


 バランシングスイッチによってサーボモータの回転方向を切り換える。バランシングスイッチの軸は、ジンバルの動きとリンケージされている。そしてこの軸に、スリップするが摩擦で動くレバーを取り付ける。具体的には、図-5に示すように、レバーをOリングで挟み、押さえのストッパで摩擦を調整する。


図-5 バランシングスイッチの組立て


 スリップレバーは電気接点になっていて、これにより2個のリレーを作動させる。単にモータの回転方向を変えているだけの回路だが、できるだけ接点を近づける必要があり(図-6)、両方のリレーが同時にONにならないようにしている(ショート防止のため)。図-7に回路を示す。なお、本稿の図では省略されているが、リレーはバランシングスイッチの裏側上部に取り付けた。


図-6 バランシングスイッチの接点    図-7 バランシングシステムの回路図   


 さて、ジンバルが動き、スリップレバーが動き、リレーが作動して、サーボモータが動く。このときに大切なのは、ジンバルが動いた方向に、サーボモータを回転させること。つまり、ジンバルの動きを助ける(加勢する)方向へ、力を作用させる(図-8)。


図-8 サーボの動作方向


 サーボの役目は、ジャイロの歳差運動を減衰させることである。すなわち、ジンバルの動きを止めるためにサーボがある。常識的には、ジンバルが動こうとしたら、その反対方向へ力を加え、ブレーキをかけるものだと考えてしまうだろう。だが、それでは逆になる。前述の、ジンバルの上を重く不安定にするのも、同様の理屈による。ジンバルを不安定にすることが、ジャイロモノレールの安定性を得る技術の核心である。

 バランシングスイッチは調整する必要があり、そのときパイロットランプがあると便利なので、リレーがONになったときに点灯する発光ダイオードを、それぞれのリレーのコイルと並列に取り付けておくことをおすすめする。

 全体の組立て図を図-9に、また、内部の構成を写真-1示す。


図-9 主なユニットの取付け



写真-1 車体内部
 バランシングスイッチの上に2つのリレーが取り
付けられている。車両中央にはウサギのフィギュア。



6. 走行装置

 モノレールを自走させるための機構が欲しくなるだろう。全輪駆動が理想だが、今回は単純に1輪駆動とした。本機はシングルジャイロのためカーブを曲がることができないので、直線区間での往復運転を想定して、ゆっくりと走らせる設定にした。タミヤのウォームギアボックス(260モータ付き)があったので、これをそのまま利用し、同じくタミヤのラダーチェーンで動輪へ伝動した。プーリーなどを使えばもっと簡単だろう(写真-2)。


写真-2 走行装置


 車両前後にわたる長いバーを最下部に取り付け、これで逆転スイッチを押す仕組みにした。レールに障害物を置いておけば、バー先端がそれに当たり、進行方向を自動的に切り換え、往復運転ができる(写真-3)。


写真-3 車体裏面
 中央左がジャイロ。その右に走行用逆転スイッチ
があり、前後に伸びるバーでこれを操作している。



7. ボディ

 顔になる前後の部分は、前述のように工事用ライトのカバー(傘)である。ちょうど四角の穴があったので、ここに床板を差し入れ、木ネジで固定した(写真-4)。


写真-4 車体前面


 重心を下げるため、ボディは軽量化しなければならない(本機の総重量は約1.2kg)。骨組みを航空ベニアと角材で組み、側面と屋根はバルサで製作した。サーフェイサを吹きつけサンディングする作業を数回繰り返したあと、ウレタンで塗装した(写真-5)。


写真-5 完成した7号機


 ヘッドライトには10mm径の発光ダイオードを、また、スモールライトには極性で緑と赤に色が変わる発光ダイオードを用いた。これらを走行モータと並列にするだけで、進行方向のヘッドライトが光り、スモールライトは前が緑に、後ろが赤になる。


8. 電源

 モータは全部で3機。今回は軽量化のため、ジャイロのモータ用には、7.2Vのニッケル水素バッテリィパックを用いた。サーボモータには、単4電池4本で6V。このモータは充分に回転できないので、大きな電流が流れる。したがって、ここだけは内部抵抗の大きい普通のマンガン電池が適している。走行用モータには、単3のニッケル水素電池2本を用いた。

 リレーを作動させるための電源は、当初サーボモータと共用していたが、電圧降下が生じてリレーが誤動作するトラブルがあったため、ジャイロの電源と共用することにした。

 ジャイロとサーボモータのスイッチは、内部にパネルを取り付け、窓から操作するようにした。走行用のスイッチは床下にあり、バーを押して操作する。スイッチについては好みの問題であり、取付け位置などは図には示していない。


9. 調整

 まず、左右に倒れても完全に横倒しにならないように、補助脚を取り付けることをおすすめする。塗装したボディに傷をつけないためである。レールの両サイドにクッションを置いても良い。

 事前に以下のことを確認する。

1)ジンバルが軽く動くこと(サーボモータのギアや、バランシングスイッチがつながっているので、ある程度の抵抗はある)。

2)サーボの動作(ジャイロを回さずに、ジンバルを手で振ってみる。少し動かしたら、その方向へ振り切ること、この動作が前後でほぼ等しいことを確認)

3)ジャイロの回転数および振動(通常ならば8000rpm程度。回転計があれば確かめる。振動が大きい場合は原因をつきとめて対処する)。

 この状態で、走行装置以外をすべて作動させ、自立するかどうか確かめる。調整箇所は、バランシングスイッチのスリップレバーの摩擦で、Oリングを挟むストッパで調整する。また、挙動を見ながら、レバーの接点の距離や弾力を変えてみる。

 左右にふらつきながらも自立すれば、まずまずの成功である。さらに調整を繰り返せば、ほとんど揺れない状態に近づけられるが、そうなるほど、サーボに負担がかかり、電池の消耗も早い。電池が加熱することがあるのでときどき確認すること。

 なお、本機はジャイロが密封されていないため、回転音がかなり煩いので、周囲に気を遣っていただきたい。


庭園内で試験走行する試作7号機

走行シーンの動画



10. あとがき

 さきに完成したツインジャイロの9号機に比べると、この7号機はまだ調整が完璧にできていない(そのまえに引越になってしまった)。少々重心が高いこともあるが、ふらつきを完全に止められない。電池の状態によって条件が変わることも頭が痛い問題である。

 繰り返すが、この車両はシングルジャイロのため、理論上カーブが走行できない。実際に試してみたところ、180度くらいまではなんとか曲がれた(かなり苦しそうに車体を左右に揺さぶる)。これは、カーブ半径の問題ではなく、曲がる角度の積算なので、軽く蛇行するSの字のカーブならば(トータルとして進路が一方向なので)問題はない。どうしてもエンドレスを一周させたい人は、もう1つ逆回転のジャイロを取り付け、両ジンバルが対称に動くようにロッドかギアでリンケージをするしかない。ツインジャイロになれば、カーブを高速走行できる車両になる。

 何がどの程度に利くのかは、理論式だけではわからない。現実のファクタは非常に複雑である。まだまだノウハウを蓄積していく必要があるだろう。少しでも多くの方がジャイロモノレールに挑戦されること、そして情報交換ができることを願っている。

 最後に、本稿の図面は(図-7以外すべて)平岡幸三氏によって描かれたもので、実際に筆者が作ったモデルが、もしこれらの図面のような精確さで作られていたら、もっと完全な性能を発揮したものと想像する。しかし、多少いい加減な工作(写真参照)でもジャイロモノレールは実現できる、と解釈いただければ幸いである。

 振り返ってみると、ジャイロモノレールを成功させるためのキーは、「絶対にできるはずだ」という信念だった。これがなければ途中で諦めてしまっただろう。信念とは、確固たる理論から生まれるものである。 (2010年3月記)


参考文献

1) 筆者の鉄道模型のサイト.
2) 筆者の動画サイト.

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