『時節の色』/『スプリング・アンド・フォール』(東京バレエ団)
2008年3月22日(土)
ゆうぽうとホール
ノイマイヤーの2作品を続けて上演してくれるのは嬉しいが,牧と新国の公演の間だし年度末だしどうしたものか・・・と思い悩んでいたのですが,ノイマイヤーのアフタートークという追加イベントに釣られて見にいきました。
で,見にいってよかったわ〜,と。
ノイマイヤーのトーク自体は,聞いたことのある話が多く物足りないところもあったのですが,目の前で話すのを見られて満足。それに加えて,このバレエ団のために創作された『時節の色』でのベテランダンサーたちの表現に大いに満足した舞台でした。
スプリング・アンド・フォール
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:アントニン・ドヴォルザーク 《「セレナーデ」ホ長調作品22》
美術・照明・衣装:ジョン・ノイマイヤー
初演:1991年4月28日 ハンブルク国立歌劇場
東京バレエ団初演:2000年2月4日 ゆうぽうと簡易保険ホール
第1楽章 モデラート:
後藤晴雄
平野玲 松下裕次第2楽章 テンポ・ラ・ヴァルス:
小出領子
高村順子−松下裕次 西村真由美−横内国弘 佐伯知香−平野玲 吉川留衣−野辺誠治 田中結子 前川美智子第3楽章 スケルツォ,ヴィヴァーチェ:
後藤晴雄
平野玲
高橋竜太 松下裕次 野辺誠治 氷室友 長瀬直義 小笠原亮 宮本祐宣 横内国弘
小出領子第4楽章 ラルゲット:
小出領子−後藤晴雄第5楽章 フィナーレ,アレグロ・ヴィヴァーチェ:
全員
東京バレエ団でこの作品を見るのは,たぶん2回目。(前に見たときの感想はこちら)
今回の感想を一言で言えば,「前に見たときのほうがよかったなぁ」ということになります。
で,そういう感想になった最大の要因は男性陣。
私は,後藤さんがなぜこのバレエ団で重用されているのか理解できないのですが,今日も同じことを思いました。踊りがきれいなわけでもないし「身体が語る」わけでもない。この日は,全体の白眉であるべき第4楽章のパ・ド・ドゥで「お疲れ?」の様子も見えましたし・・・。どこがいいんでしょうかねー???
あ,でも,上半身裸の姿が鑑賞に耐える身体なのはよかったです。上背はありますし,引き締まった筋肉ですし,色が白すぎないのも男性的で好ましいです。
というわけで,彼に関しては,誉めるところがあってめでたいのですが,男性群舞に関しては,誉めようがなくて困ります。
まず,「上半身裸の姿が鑑賞に耐えない」方が多い。最近見るたびに「男性の容色レベルが落ちたなぁ」と思っていたのですが,それを再確認・・・というより,思っていた以上に深刻なのね,と。
さらに,踊りのほうも,振りを追うのにせいいっぱいの方が見受けられ・・・以前の「女性については議論百出にせよ,男性は東バが断然日本一」だった印象が強いせいかもしれませんが,がっかりしてしまいました。
中では,高橋竜太さんがよかったです。動きにキレがありますし,小柄ではあるけれど,子どもっぽくなく大人の身体。
ソリストの平野さんもまずまず。白いシンプルな衣裳で踊る作品にふさわしい清爽感のある雰囲気でした。
女性のほうは,概ねソリスト以上のダンサーで揃えてあったからでしょうか,特に苦情はありませんです。というか,皆さん雰囲気があってよかったです。
シンプルな白の衣裳に髪を下ろした姿には,清楚な女らしさが感じられましたし,「入れ替わり立ち替わり」もバタバタせずにスムーズ。中でも,西村さん(←たぶん)がきれいでした。
そして,主演の小出さんがとーーーってもよかった。
「この人はプリンシパルだ」と納得させてくれる存在感がありましたし,軽やかに音楽的に踊りながら,とってもドラマチック。
全体のハイライトであるべき第4楽章のパ・ド・ドゥが,パートナーの体力不足? で今一つしっとり感に欠けたのが惜しまれますが,すべての動きがエモーショナル。感心しつつ感動しました。ブラヴォ♪
それにしても,すてきな作品ですね〜。
ノイマイヤー自身によるいこの作品の美術は見事。背景幕と照明の効果だけで,こんなに雰囲気出せるなんて・・・と,改めて感心したことでした。
時節の色
振付・舞台コンセプト:ジョン・ノイマイヤー
音楽:
C.ドビュッシー「雪の上の足あと」(前奏曲), C.ドビュッシー/富田勲「雪は踊っている」(子供の領分), F.シューベルト/H.ゼンダー「勇気」(冬の旅), A.ヴィヴァルディ「冬」第1楽章(四季), F.シューベルト/H.ゼンダー「春の夢」(冬の旅), F.メンデルスゾーン「春の歌」, 三木稔「踊る春」(《四季》ダンス・コンセルタント), C.ドビュッシー「雪の上の足あと」(抜粋), G.ヴェルディ「夏」(バレエ音楽), A.ヴィヴァルディ「夏」第1楽章,第2楽章,第3楽章, 湯浅譲二「あかあかと日は難面も
秋の風」(芭蕉の情景 1980), 三木稔「水巡る」(《四季》ダンス・コンセルタント), 湯浅譲二「名月や門に指し来る
潮頭」(芭蕉の情景 1980), F.シューベルト/H.ゼンダー「辻音楽師」(冬の旅)
美術・衣裳・照明: ジョン・ノイマイヤー
世界初演:東京バレエ団,2000年2月4日,ゆうぽうと簡易保険ホール
プロローグ−ドビュッシー
男: 高岸直樹
男のさまざまな時節: 平野玲, 長瀬直義, 中島周
時: 木村和夫
想い出: 斎藤友佳理I
冬−ドビュッシー/富田勲,シューベルト/ゼンダー
高岸直樹
高村順子−高橋竜太 長谷川智佳子−横内国弘 佐伯知香−小笠原亮 森志織−山口優 福田ゆかり−野辺誠治 岸本夏未−宮元祐宣 阪井麻美−氷室友冬−ヴィヴァルディ
高岸直樹
井脇幸江−平野玲 田中結子−中島周II
春−シューベルト/ゼンダー,メンデルスゾーン
斎藤友佳理−高岸直樹春−三木稔
吉岡美佳
西村真由美, 乾友子, 高木綾, 奈良春夏, 寺嶋麻衣, 村上美香, 前川美智子, 吉川留衣, 小泉あゆみ, 矢島まい, 渡辺理恵, 川島麻実子間奏 I−ドビュッシー
長瀬直義III
夏−ヴェルディ
長瀬直義
高橋竜太, 松下裕次, 野辺誠治, 氷室友, 小笠原亮, 宮本祐宜, 横内国弘, 山口優夏−三木稔
吉岡美佳−長瀬直義
高村順子−高橋竜太, 佐伯知香−横内国弘, 森志織−氷室友, 福田ゆかり−小笠原亮, 川口幸恵−宮本祐宜, 岸本夏未−野辺誠治, 阪井麻美−山口優, 河合眞里−松下裕次
高岸直樹夏−ヴィヴァルディ
高岸直樹
木村和夫間奏 II−ドビュッシー
高岸直樹
木村和夫IV
秋−湯浅譲二
高岸直樹
斎藤友佳理
平野玲, 長瀬直義, 中島周
井脇幸江, 長谷川智佳子, 高村順子, 佐伯知香, 田中結子, 岸本夏未, 河合眞里
松下裕次, 野辺誠治, 小笠原亮, 宮本祐宜, 横内国弘秋−シューベルト/ゼンダー
高岸直樹
木村和夫
斎藤友佳理〈ワゴン〉
梅澤紘貴, 周藤壱, 谷口真幸, 中谷広貴, 安田峻介, 井上良太, 佐々木源蔵, 杉山優一
この作品も見るのは2回目だったのですが(7年前の感想はこちら),主要な役を務めるベテラン・ダンサーたちが,前回に増した表現力を見せ,見応えのある舞台でした。
特に,木村さんの充実が印象的。前回見たときは高岸さんと斎藤さん,それに吉岡さんと大嶋さんに比べて,彼の【時】は印象が薄かったのです。どれくらい印象が薄かったかというと,今回の舞台を見ていて「そうだった,前にもこういう場面を見た」と思うところが全くなかったくらいなのですが・・・今回は,主役3人の一人として存在感を発揮していました。
例えば,冬の場面,白い衣装のコール・ド(雪?)と戯れる【男】の腕をいきなり引っ掴んで彼らから引き離すと,にわかに舞台が黒の世界に変わる鮮やかさ。それから,夏の後半で【男】と二人で踊るシーンの緊迫感。
高岸さんのまっすぐな個性と対照的に不穏な空気を漂わせ,見事だったと思います。
高岸さんはさすが。何もしないで「見る」立場のときも含めて,求心力ある存在として舞台上にいました。
今回感心したのは,「若いな〜。カワイイな〜」ということ。冬の場での傘がおちょこになったところや春での【想い出】との踊りなど,まるで少年のような若々しい表情。「無垢」感も漂わせ,前より若返ったんじゃ? とちょっとびっくり。
ただ,体力的にはそろそろ苦しくなっているみたいで,最後の秋の場面での【想い出】とのパ・ド・ドゥなどでは,リフトが「彼にしては大変そう」でした。もっとも,このパ・ド・ドゥは重苦しいドラマチックなものなので,切迫感が増すという効果があったかも。
斎藤さんは,じんわりと暖かい,いかにも日本的な母性を感じさせ,ほんとにはまり役だよな〜,と。
彼女の踊りは,私には「きれいだわ〜」に見えたことはないのですが,たぶんこれは,好みの問題なのでしょう。
「きれいだわ〜」という意味では,吉岡さんが出色。
春のブルーのドレスも夏の真紅のドレスも白い肌に映えてよく似合い,動きも滑らかで静謐な美しさ。うっとり〜。
残念だったのは,(『スプリング・アンド・フォール』と同じく)高岸・木村以外の男性陣。
群舞が,薄くて子どもっぽい身体ばかりなのですよね。若返ったから・・・なのだと思いますので,上半身の筋肉をつけるよう今後ご努力いただきたいものです。
同じことが,ソリスト役だった長瀬さんにも言えて・・・前回見た大嶋さんがすてきだっただけに・・・。
あ,でも,カーテンコールでの彼は気に入りました。常に脚を5番に入れて立っているのですよね。ノイマイヤー作品でそういう必要があるのかどうかはわかりませんが,舞台上では常にきれいにあろうとするのは大切なことですよね〜。
タイトルの『時節の色』の「色」というのは,中国の詩にちなんでいるそうで,要するに「青春・朱夏・白秋・玄冬」ですが,手垢のついた「青春」という言葉が青いドレスの女性たちとして眼前に現れたのには,はっとさせられました。
春のシーンでの【想い出】はサーモンピンクの衣装で,こちらのほうが「暖かくなりましたね〜」という一般的な春のイメージに近いのですが・・・でも,それに続く【男】の「青年期」であろう場面で青ですから,「ああ,そうか」と心の中で頷いてしまったのでした。(ノイマイヤーといえども「青年」という日本語を知っていたわけではないと思うが)
この作品は,簡単に言ってしまえば,四季の移り変わりと一人の【男】の人生とを重ね合わせて描いているのだと思いますが・・・最後に現れる「死の使い」が母のような【想い出】だというのが,非常にイミシンですよね〜。
って,「イミシン」などという用語は不謹慎かもしれませんが・・・人間にとって「死」というのはそれくらい身近にいるという意味なのだろうか? と考えてみたりしました。
そして,最後のシーンで高岸さんが両手を前に差し出して膝で進む姿は,死へと向かう姿なのかもしれないけれど・・・決して,重苦しく辛いだけのものには見えませんでした。というより・・・むしろ,「それでも進んでいく」みたいな前向きの印象さえあって・・・。
それにしても,ノイマイヤーの趣味のよさには感動します。
キモノに代表されるような日本風のものを一切持ち込まず,「季節を愛でる」という日本文化を発端に,このような作品を創作するとは・・・。私には詳細に語る教養も能力もありませんが,たしかにこれは日本を題材にした作品だし,たぶん,外国人だからこそ作ることができた作品なのだろうと思います。
うん,とてもよい作品でしたし,よい上演でした。
オーダーメイドなだけあってダンサーの個性を生かした作品だと思いますし,それを超えて見る価値があるとも思います。
高岸さんと斎藤さん抜きでこの作品が成立するのかどうかという懸念はありますが・・・これからも上演してほしいなー,また見たいなー,と思いました。
(2008.07.27)
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Dvorak: Serenades Op. 22 & 44
Antonin Dvorak Neville Marriner Academy of St. Martin-in-the-FieldsHans Zender : Schubert's Winterreise - A Composed Interpretation
Franz Schubert Hans Zender Ensemble Modern『スプリング・アンド・フォール』の音楽 「セレナーデ ホ長調 作品22」を収録 『時節の色』の音楽(の一部) ツェンダー編曲(オーケストレーション)による「冬の旅』