シルヴィ・ギエム・オン・ステージ プログラムD
(東京バレエ団)

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01年11月11日(日)

宮城県民会館

 

テーマとヴァリエーション

振付:ジョージ・バランシン(振付指導:パトリシア・ニアリー)

音楽:ピョートル・チャイコフスキー

衣装:宮本宣子

装置:野村真紀

荒井祐子  木村和夫

太田美和  高村順子  門西雅美  小出領子

芝岡紀斗  古川和則  窪田央   平野玲

ううむ・・・よくなかったです。

最初は,新国立劇場の上演が刷り込みになっているせいの違和感かなあ,と思っていたのですが,見ているうちに,どうも技術的に問題があるような気がしてきました。
あのですねー,観客専門の私が言うのもなんですが・・・腕の動きというものは,肩から先だけ動かすんじゃない,背中から動かすんだって言うじゃないですか? それから,後ろに水平に上げた脚は下向きじゃなくて,外向きにするんですよねえ? こういったことができていない方が多いのではないでしょうか?
だから,見ていて爽快感がなくて,バランシンを見ている気がしない。
男性は,音楽に遅れているのではないかしら,ばたばたしていたし・・・。
主役の2人については,チュチュと白タイツで踊られる作品の主役としては,動きに品格が足りないと思いました。あ,でも,身長差があるので,低いリフトの多いこの作品でも浮遊感があったのはよかったかな。
ブルーを基調にした衣装や装置は美しかったですが,ティアラの大きさにバレリーナのプロポーションが負けている感も・・・。

東バのレパートリーの広さは立派なことと思いますが・・・結果としてこういう舞台を見せられるのでは,「手を広げすぎないほうが賢明では」とか言いたくなってしまいます。

 

ラシーヌ・キュービック

振付:モーリス・ベジャール

音楽:ラウル・ガレロ

衣装:フランソワーズ・ア=ヴァン

シルヴィ・ギエム

初めて見ました。

最初は,アルゼンチンタンゴで,こういう衣装(黒のレオタードにシースルーの袖と短いスカートがついていて,素脚)で,こういうヘアスタイル(おだんごアップ)で,こういうセット(パイプだけの立方体)で・・・??? と思いましたが,見ているうちに,「うーん,この音楽でギエムが踊るには,これが一番いい振付だわ」という気がしてきました。
彼女以外には踊れないかもしれない,彼女だからこそ踊れるダンスで,この衣装とセット・・・さすが,ベジャールは名人ですねー。

たしか全4曲だったような気がするのですが,その3曲目,立方体の中に入って,その枠(?)に腕や脚をからめたり,180度開脚を見せたりするダンスが,とてもよかったです。身体能力をフルに使って,哀愁を帯びた,しかもセクシュアルな感じもある音楽を,見事に表現していると思いました。

 

春の祭典

振付:モーリス・ベジャール

音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

美術:ジョエル・ルスタン,ロジェ・ベルナール

生贄: 後藤和雄

2人のリーダー: 高岸直樹  芝岡紀斗

2人の若い男: 大嶋正樹  平野玲

生贄: 吉岡美佳

4人の若い娘: 佐野志織 早川恵子 市来今日子 荒井祐子

うーん,名作ですよねー。よくまあ,40年も昔にこういうモノを作ったものです。

吉岡さんが,よかったです。
彼女の生贄役は何回か見ていて,少々たおやかすぎて弱いかなあ,という印象を持っていたのですが,今回は,女らしい雰囲気はそのままなのですが,集中力(吸引力?)が見事で,たいへん引き込まれました。
この作品,男性の生贄のほうは,周りから(運命から?)指名される「犠牲者」の印象が強いのに,女性のほうは,最初から真ん中に立っていて不思議だなー,と思ったりもしていました。しかも,ギエムさんや井脇さんが踊ると,女性ダンサーの中で一番強そうなので,ますます生贄らしくない(笑)。
その点,この日の吉岡さんは,「自分の運命を感じつつ,恐れつつ,立っている女」みたいな感じで,説得力がありました。

後藤さんは,よく言えば少年ぽい,悪く言えばひ弱そう。(ごめんなさい) 「犠牲者」らしすぎて「選ばれた男」には見えなかったかな。でも,そういう個性の生贄もいいのかも。
「2人のリーダー」の一人で高岸さんが出ていましたが,やはり上手でした。

 

ボレロ

振付:モーリス・ベジャール

音楽:モーリス・ラヴェル

シルヴィ・ギエム

飯田宗孝  森田雅順  木村和夫  後藤晴雄

よかったです〜。

ギエムは見事。動きに抑制が効いていて,余裕があって,力強くて,美しい。
特に,最後ほうで,寝そべって,手をあごの下にあてて回りの男性たちを眺めるところなどは,うわ〜,かっこいい〜♪

で,このシーンを見て思ったこと。
今回の「ボレロ」は,けっこう「物語」があるのかしら? 以前彼女で見たときは,もっと抽象的な「動きを見せる」作品に見えたのですが。(もちろん,今回も,「動きを見せる」という点でも見事だけれど。)

そうなってくると,衣装が気に入らなくなってくる。
東バの「ボレロ」のリズムの衣装は,いつから今みたいな上半身裸になったのでしたっけ? ギエムが初めて踊ったころは,ドンが踊っていたころと同じく,多少は衣装らしかったですよね。
現在の衣装は,ギエム編「抽象ボレロ」には合っていても,今回の彼女の踊り方には合わないのではあるまいか? うーん・・・。
などと考えていたら,プログラムでは,ギエムが,東バの「ノーメイク,上半身裸」は優れている,といったようなコトを語っていました。あらら,これは失礼(笑)。

 

いや,しかし,ギエムが地元で見られるとは,本当にありがたいことです。

会場は,当地では誠に珍しい満員御礼状態。カーテンコールも,1回目からこれも誠に稀なスタンディングオベーションとなり,何回も続きました。

(01.12.19)

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シルヴィ・ギエム・オン・ステージ プログラムC
(東京バレエ団)

01年11月23日(祝)

神奈川県民ホール

 

白の組曲

振付:セルジュ・リファール(振付指導:クロード・ベッシー)

音楽:エドゥアール・ラロ 《「ナムーナ」からの抜粋》

シェスト: 遠藤千春  大島由美子  福井ゆい

テーム・ヴァリエ: 井脇幸江  木村和夫  後藤晴雄

セレナード: 市来今日子

ブレスト: 太田美和  吉田和人  大嶋正樹  高橋竜太  倉谷武史

シガレット: 吉岡美佳

マズルカ: 高岸直樹

アダージュ: 吉岡美佳  後藤晴雄

フルート: 荒井祐子

3月の「四大バレエ団競演」のときにも見た作品。

プリンシパルが続々と登場して,妙技を披露するのですが,東バのファンでないからか,どうも盛り上がらんよなー,という全体的な印象は同じ。ポーズや動きが,今一つ美しく感じられないのよねえ。「テーマ・・・」と同じく,技術的な問題があるのではないかしらん。

今回はテープ演奏でしたが,その結果前奏曲がほとんどなかったので,この音楽があまり好きではない私としては,ま,テープでもいいか,と。

高岸さん(マズルカ)と荒井さん(フルート)は,長期ツアーの疲れでしょうか,3月に比べて調子が悪いようで,残念。
吉岡さんは優美な踊りでよかったです。

プレスト(パ・ド・サンク)ほかで登場する男性4人組の中で1人だけ,他の人より遅く動く方がいて,とても気になりました。やっていることは,他の3人と遜色ないので,テクニックの問題ではなく,音のとり方か何かが違うのではないですかね? なぜ揃えない(揃えさせない)のか不審でした。

 

www:ウーマン・ウィズ・ウォーター

振付:マッツ・エック

音楽:Flaskkvartetten

シルヴィ・ギエム

もちろん,初めて見ました。

とても印象的でした。
映像作品の舞台化で,上手に机があるだけの舞台の上,ギエムが,灰色の簡素なドレスで踊ります。(なんとなく囚人服を連想)

エックの振付については,なんと言えばいいのですかね・・・神経質? 痙攣的? バレエ的な天上志向と逆のモノ?・・・適切な表現を見つけられませんが,とにかく,ギエムの,全身を使った踊りの迫力に圧倒されました。そして,コップの水に口をつけたり,ぐっと飲み干したりする演技にも。

「生身の女」という感じが非常に強くて,うーん,すごい舞台でした。(「感動した」というのとはちょっと違う。やっぱり,「圧倒された」というのが一番近いかな?)
単調だけれど緊迫感のある音楽も,非常に作品の雰囲気にあっていて,効果的。

映像の印象が強かったので,この後水をかぶるのかな・・・というところで終わってしまって,あっけにとられました。「水をかぶる手法」について,あれこれ想像して楽しみにしていたので・・・(東バのダンサーがバケツ(笑)を持って登場するのかしら,とか・・・)
でも,短いからこそ,インパクトが強かったのかもしれません。

 

スプリング・アンド・フォール

振付:ジョン・ノイマイヤー

音楽:アントニン・ドヴォルザーク 《「セレナーデ」ホ長調作品22》

美術・照明・衣装:ジョン・ノイマイヤー

第1楽章 モデラート:
首藤康之
後藤晴雄  後藤和雄

第2楽章 テンポ・ラ・ヴァルス:
斎藤友佳理
吉岡美佳−後藤和雄  早川恵子−古川和則  井脇幸江−後藤晴雄  荒井祐子−吉田和人 佐野志織  市来今日子

第3楽章 スケルツォ,ヴィヴァーチェ:
首藤康之
後藤晴雄
吉田和人  後藤和雄  高橋竜太  大嶋正樹  古川和則  倉谷武史  平野玲  中島周
斎藤友佳理

第4楽章 ラルゲット:
斎藤友佳理  首藤康之

第5楽章 フィナーレ,アレグロ・ヴィヴァーチェ:
全員

美しい音楽に乗せて踊られる,叙情的で雰囲気のある抽象作品。

以前,ルグリの公演で抜粋(というより,たぶんもともとのパ・ド・ドゥ)の上演を見たことがありますが,全編を見るのは初めて。フォーメーションというかグルーピングというか,ダンサーの組み合わせが流れるように次々と変化していくのが面白く,今回のほうが楽しめました。

斎藤さんは,ううむ・・・動きにキレがなくて,いいとは思えませんでした。そもそも,動きではなく,雰囲気とか顔の表情で見せる芸風の方だと思うので,この作品には合わないような気が・・・。
首藤さんは,衣装(←つまり,上半身裸)も似合って,よかったです。久しぶりに好青年役(?)を踊る彼を見ましたが,やっぱり,ちょっと不穏な感じ(色気と言ったほうが適切なのかな?)がありますね。
後藤和雄さんが清々しい感じで,目を引かれました。

しかし,ノイマイヤーはすばらしいです〜♪
墨絵のような模様の背景幕1枚のセットが,照明で微妙に変化するのが美しいし,衣装はシンプルな白で音楽の雰囲気にあっているし・・・。振付だけではなくて,そういうところまで自分でやってしまうのよねえ。うーん,「作家」ですよね〜。かっこいいわあ♪

 

ボレロ

振付:モーリス・ベジャール

音楽:モーリス・ラヴェル

シルヴィ・ギエム

飯田宗孝  森田雅順  木村和夫  後藤晴雄

この日は,前回の発見(?)に基づき,「物語」があるのかな? というコトに注目して見てしまいました。

うん,別にギエムは孤高の人として踊っているわけではなく,回りの男性たちとコンタクトをとっているんだなー,というコトがよくわかりました。(いや,今ごろ気付いたのは私だけなのかもしれないけどー。)

煽っているところもあれば,煽られているときもある。でも,その結果として観客に与える印象は,決して卑俗なものではないし,熱狂的なものでもない。

で,それは,ギエムの踊りが清冽だからということもあるけれど,リズムたちが,テンションを高めながら踊ってはいるけれど,でもやっぱり紳士的だからなのかなー,とも思いました。
それは,もしかすると,東バのダンサーたちが「世界のギエム」を尊敬している(言葉を換えれば,隔てをおいている)からなのかもしれないけれど,私としては,それが日本人のいいところだと思いたい。日本の男性ダンサーが,マクミランのデ・グリューやノイマイヤーのアルマンを踊ることができなくても,過剰にエキサイトしない,こういうリズムを踊れるのなら,それは意義があることなのではないかしらん。

すみません,話がそれました。
言いたかったのはですね・・・私にとって今回の「ボレロ」は,抽象的な「動きを見せる」だけの作品ではなく,「物語」の感じられるものであった,と。そして,それは,セクシーな女とそれに群がる男たちの物語でないのはもちろん,巫女と狂信的な信者の物語とも違って,例えば,ドロクロワ描く「民衆を導く自由の女神」みたいだった,というコトです。
人々を目的に向けて結集させることができる,信頼できるリーダーと,それに従う男たち・・・リーダーが女性であるというところが,誠に現代にふさわしく,感慨深いものがありました。
とてもいい上演だったと思います。

(01.12.20)

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