エッセイ「木もれ日のアトリエから」B 
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 私がミニチュアを作り始めるきっかけとなったのは、会社帰りの本屋さんでふと手にした

一冊のドールハウスの本でした。ページをめくるごとに自分の中に新しい風が吹き込んでくるような

感動を覚え、こういう世界があったんだと、私の心は一気に引き寄せられてしまいました。


 ドールハウス作りの楽しさの一つに、身近にある材料を生かし、さまざまなものに見立てるという

ことがあります。たとえば透明のボタンがデザート皿になったり、靴下を買ったときに、左右の靴下を

とめてあった金具がパンばさみになったりというふうにです。


 もちろん既成のものを集めて作ることもできるのです。でも、そこらへんにあるものを生かす作り方は、

時間はかかりますが、新しい発見を伴い、いかにしてその質感や雰囲気を出していくかという苦労の末に

できあがると、思わず「やった!」という気分になります。


 また、作品を見てくれる友達も、はじめは物の小ささやかわいらしさに驚きの声をあげてくれるのですが、

そのうち急に黙り込み、ケースの中をじーっと見つめ始めたりするのです。

そしてやがて、「あら?この植木鉢って、もしかして歯磨きチューブのふたじゃないの?」などと

発見をし始めます。それなりに見なければ、見過ごす物でも、よくよく見てみると謎が解ける(ちょっと

おおげさかもしれませんが)というのも面白さではないでしょうか。


 といってもさまざまな小物の使い道をすぐに思いつくわけではないので、私のキャスター付きの

引き出しの中は、見る人が見れば宝の箱、はたまたゴミ箱?となるわけです。子供たちも

「おかあさん、これ何かに使えるかもね」と協力してくれるのでなおさらなのですが。


 それからもう一つ、心の中で夢見ていることを自由に表現できるのもドールハウスの面白さです。

たとえば私の好きな童話の世界をドールハウスで立体的に表現したら、私の中でストーリーが

さらに広がっていきます。私にとってだけでなく、見てくれる人にも語りかけるようであればいいなとも

思っています。


小さなテーブルと椅子にティーカップが一つあったら、それが家事を終えたあとのひと休みなのか、

お友だちに出したとっておきの紅茶なのか、あわただしく済ませた朝食のあとなのか、

それは見た人の想像におまかせしたいのです。それで私は、ドールハウスに主人公を登場させない

ことにしています。見てくれた人が、その人なりのシチュエーションを設定し、そこからストーリーを

展開させてくれたらうれしいからです。


 溢れる情報をこなしきれないような暮らしをしばし離れて、たまにはしんと心を静めて、

のんびりと想像の世界を散歩してみるのもいいのではないでしょうか。


                           フォトエッセイ集『木もれ日のアトリエから』('99発行)より
サラダ(バックは、キウイとフサスグリの実)
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