NEON GENESIS EVANGELION
Luna Blu
Episode 3 : Lightning Strikes
「シンジ。知ってるか、あの話」
放課後の掃除の時間、ケンスケが話し掛けてきた。
「ほら、最近北のほうで出るってやつさ」
「で、出るって?」
ケンスケは、身を乗り出して話しはじめた。
「ああ。夜、一人で歩いていると、自分の足音のほかに、もうひとつ足音が聞こえるのさ。でも、振り返っても誰もいない。気のせいか、と思って歩き出すと、また聞こえるんだ。怖くなって聞かないようにしていると、そのうちにその足音がだんだんと大きくなって、ついにはすぐ自分の後ろにいるように聞こえるんだ」
「お、そいつは、わしも聞いたことあるで」
掃除もしないで他のクラスメートとほうきでふざけていた、トウジが割り込んできた。
「びびって走り出すと、その足音もついてきて、しまいにゃ追い抜くっちゅうはなしやろ?」
「違うよ。今回のはそんなカビが生えたような、怪談まがいのものじゃないんだ。現にオレは数名の目撃者からの証言を得てるんだぜ」
ケンスケは鼻息を荒くした。
「そいつの姿なんだけど、目撃者の話を総合すると、髪は燃えるような赤色で、頭からは角が2本生えてて、鼻は天狗みたいに高く、目は青いらしいんだ」
「ほー。そりゃ、浦島太郎とかに出てくる鬼みたいやんか」
「トウジ。浦島太郎の話に鬼は出てこないよ」
「ほ、ほうか? 」
「実は、目撃者により微妙に証言が異なってるんだけど、それはそいつがパニックに陥ってるからさ。パニックになった人間は物事を正確には覚えてないもんなんだ。一番違うのが背の高さで、3メートルを超える大男だって話もあるけど、自分の背の半ぐらいしかないって言うやつもいるんだ」
ケンスケはメガネに手をやり、微妙に位置を調整した。シンジ達は掃除の時間であることも忘れてケンスケの話を熱心に聞いていた。
「何でもええが、そいつがここらへんにいるちゅうこっちゃな」
「まだ、断定することはできないけど、9割方、何かがいると思って間違いないね」
「よっしゃ、これからそいつを拝みに行かへんか?」
「難しいと思うよ。何しろ、いつ出てくるかわからないんだから。実はオレもここ2、3日張ってたんだけど、てんでだめさ」
「ほ〜。ならほんまは、うそちゃうんか?」
「オレもその点は疑ったさ。でもな、お互い面識のない証言者もいるんだ。万が一、虚偽の証言だとしても、これほど似通った情報がでてくるとなると、偶然じゃないと思うね」
「さよか。ここんとこ退屈してたんで、おもろいと思たのにな」
「まあ、実際は、動物かなんかだと、おれはにらんでるんだけどね」
「シンジ。もしかして、おまえんちのほうと違うか?」
「う、うん」
「気をつけたほうがええで〜。帰りにぼけっとしとると、襲ってくるで〜」
トウジがふざけてシンジにヘッドロックをかけた。
「ト、トウジ。痛いよぉ」
シンジが不平を表明したとき、闇の底から聞こえてくるような恐ろしい声がした。
「す〜ず〜は〜ら〜」
トウジが振り返ると、そこには鬼より怖いとうわさされる、クラスの委員長こと、洞木ヒカリが立っていた。
「い、いいんちょ ……」
「ふざけてないで、…… ちゃんと掃除しなさい!」
Luna Blu
第参話
明日、春が来たら
シンジは学校からの帰り道を走っていた。
彼は、彼の小さな友人−レイを学校には連れていかないと決めていたので、一刻も早くレイにあいたくて、走っていた。
「レイ、僕は学校にいってくるからね。おとなしく留守番しててね」
しかし、シンジが学校へ行こうとすると、一緒についていこうとした。
「レイ、だめだよ。学校には連れて行けないんだ」
レイは、無邪気な笑顔で首をかしげた。シンジはそれを見ると、学校なんて行かずにずっとレイと一緒にいたくなった。
「あのね、学校は勉強をしにいくところなんだ。だから、レイが学校に来ても、僕は一緒にいてあげることが出来ないんだよ。学校から帰ってきたら遊ぼう」
シンジは、ゆっくりとレイに言い聞かせるように言った。
シンジは、レイに自分の言葉の意味が通じているのかわからなかったが、それからレイはシンジが学校が終わるまで家で待っているようになった。
それから、シンジは学校が終わると、いつも家まで走って帰るようになった。
「レイ、待ってるかなぁ?」
シンジは走りながら、レイのことを思っていた。
レイはシンジが帰ってくると、いつも嬉しそうにシンジの周りをぱたぱた飛び回るのだった。レイの方でもシンジのことを友人と認識しているみたいで、家の中ではシンジにしかなつかなかった。
シンジは走りながら、ふと辺りの様子がおかしいことを感じて立ち止まった。
空を見上げると、さっきまで快晴だった天気がにわかに崩れてきており、風も出てきて、今にも雨が降り出しそうな気候に変わっていた。シンジは気候の急変よりも、胸のうちにある何だがもどかしい感覚に違和感を覚えた。
何かよくわからない不安を感じつつも、シンジは歩き出した。
すると、自分の歩く足音の他に、別の足音が聞こえるような気がした。歩きながら聞き耳を立てると、その足音はかすかだが確かに後ろから聞こえてくる。
その足音は、なんとも形容しがたい音を立てていた。シンジは今まで、こんな変な足音を聞いたことがなかった。
ふと、さっきのケンスケの話を思い出し、背筋がぞくっとした。
振り返る勇気もないまま、早足で歩き出しすと、歩調に合わせて後方の足音も早足になった。シンジは、恐怖の余り泣きそうになったが、もう少しで家に着くところなので、我慢して歩きつづけた。
しかし、その足音はだんだんと大きくなり、ついには自分のすぐ後ろにその足音の主がいるような気がした。
「う、うわあああぁぁぁ〜!」
とうとう、恐怖に耐えきれなくなって、シンジは叫びながら走り出した。怖いので目を瞑りながら走ったので、案の定、道に足を取られ、転んでしまった。
シンジは、反射的に振り返って、見た。
そこには、今まで走ってきた道があるだけで、他には何も見えなかった。
「な、なんなんだよ」
シンジは涙目になって立ち上がると、服についた砂を払った。
と、そのとき、足元をみると、影がゆらゆらと揺れているが見えた。
目の錯覚か、と思って、涙が浮かんでいる目を袖でこすってみたが、相変わらず自分の影はゆらゆらと揺れている。再度目をこすって見ると、自分の影がゆっくり、ゆっくりと起き上がって来るところだった。
シンジが呆然としていると、影はシンジと同じ形となって、目の前に立ち上がっていた。シンジは驚きのあまり、大きく目を見開くだけで、何もできないでいた。
よく見るとその影には、いつのまにか鱗のようなものがびっしりと表面を覆っていた。顔の部分はトカゲみたいに口の部分が前方に突き出て、手は身体の割に小さい。そして、影の後ろの方には、いつのまにか身体と同じくらいの大きな尾が生えていた。
その姿はまるで、太古の昔に絶滅した恐竜を思わせた。
頭の部分が、上下半分にぱかっと開き、その中からへびのような赤い細長いものが、ちらちらと見える。上下にはびっしりと鋭い歯が生えていた。
それは、大きく開かれた口、だった。
「うわぁ ……」
シンジは、腰を抜かしてその場に座り込んだ。今まで影であったものがシンジをギロッっと睨んだような気がした。その視線に恐怖を感じたが、体が思うように動かない。
その大きく開かれた口の上についている目らしきものがぎょろぎょろと動いて、シンジをなめまわすように見た。
影の目がにんまりと細くなった。まるで、おいしそうな獲物を見つけたような目だった。
影は、かぱっと大きく口を開け、シンジの上に覆い被さってきた。
食われる!
と思い、目を閉じた。
そのとき、ふわり、とシンジのほほを柔らかな風が吹きぬけたような気がした。
何が起こったのか、よくわからなかったが、いつまでたっても影がおそってくる様子がない。
恐る恐る目を開くと、目の前に金色のものが、ふわっと揺れていた。
「あんた、大丈夫?」
目の前にある、金色のものが振り返って言った。
それは、シンジが見たこともない女の子の髪だった。しかも、その子は嘘みたいにかわいい美少女だった。
彼女は金色の髪を頭の上の両端で赤い大きなリボンで止めている。その女の子は、青い大きな目でシンジを見ていた。
シンジは、馬鹿みたいに口を開けて、ぽかんとしていた。
するとそこに、先ほどシンジを襲ってきた影が彼女の背中を覆い尽くすように、ぬっと出てきた。
「うわああああ!」
シンジは、夢中でその女の子にしがみついた。
「きゃああああああ! どこさわってんの! スケベ、エッチ、変態!」
「しかたないじゃないか。 朝なんだから!」
「なに、わけのわからない言い訳してんの! 早くはなしなさい!」
パン!
小気味いい音がして頬が鳴ると同時に、その勢いでシンジは 3m ばかり吹っ飛ばされていた。
目を回して起き上がると、先ほどまでシンジ達がいた場所に影の大きな口があった。女の子は、すでに影の向こう側に跳びのいていた。
よく見ると、その女の子の手には刀が握られていた。それは 1m 近くはある大きな日本刀だった。日本刀は 70cm から長くても 90cm 位のものが普通である。長さが 1m もあるものは力のある大男でも扱うのが困難で、実戦向きではない。その大刀を今、彼女は正眼に構え、影と対峙していた。まるで、刀の重みを感じないような、涼しい顔をしている。
影は、その大きな口から、ぶくぶくとあぶくみたいなものを出しながら、唸り声を上げた。獲物を横取りされた、と思っているみたいだった。
勝負は一瞬で決まった。
影がゆらりとその少女の方へ動いた。と、同時に少女は、影に向かって刀を真下に振り下ろした。
影は、その瞬間、頭から真っ二つにされた。
影は、恐ろしい唸り声を上げ、狂ったように暴れた。しかし、苦しげに断末魔の悲鳴を上げ、身体を二つにされても、なお、彼女へ襲いかかろうとした。彼女は襲撃に身構えたが、最後の攻撃は予想しなかった方角から来た。
影の後ろから、大きな尾が ぶ〜ん とうなりをあげて彼女に襲い掛かる。彼女は、刀でかろうじて大きな尾の攻撃を防いだが、衝突のエネルギーは 100% 彼女に伝わり、後方に吹っ飛ばされた。
影はそのまま、どうっと地面に倒れ、半分にされた体からどろどろとした体液を流した。
攻撃自体は防いだものの、彼女の飛ばされた先には、あるべき地面がなかった。そこは、深い渓谷に続く、崖、だった。
「きゃぁ ……」
短い悲鳴をあげながら、彼女は、渓谷に流れている川へ落ちた。
どっぼーん。
ああっ!
女の子が川へ落ちた!
思うまもなくシンジは立ち上がり、彼女が落ちた崖から下を覗き込んだ。崖の上からみると、彼女はすでにだいぶ流されていた。シンジは、転がるように急な斜面を駆け下り、渓谷へ出た。その時には、すでに、はるか遠くの川面の波間に、彼女の金色の髪が見え隠れしていた。
シンジは必死で追いかけるが、川の流れが速く追いつけない。みるみる彼女との差が開いていく。渓谷は足場が悪く、シンジは何度も転んだ。
この先は確か …… 滝があるんじゃ ……
シンジは、思い出した。
もし、滝に落ちたら、間違いなく大怪我をする。
いやそれどころか、死んじゃうかも!
シンジは、最悪な結果を想像して身震いした。
シンジは、やっとのことで滝の上にたどり着いた。
滝の標高差は約 30m。シンジは、滝の上で呆然と滝壷を眺めていた。滝は轟々と音を立てて絶え間なく川の水流を砕き続けている。
ここから落ちたとしたら ……。
シンジは、ごくり とつばを飲み込んだ。怖い考えになったので、その考えを振り払うように頭をふるふると振った。
ど、どうしよう。
助けなきゃ。
でも、どうやって?
それよりも、いったい、どこにいるんだろう?
もう、もっと下流まで流されちゃったのかな?
「ちょっと!」
滝の上でおろおろしていると、シンジの後ろで声がした。振り返ってみると、先ほどの女の子がずぶぬれで立っていた。
「これ、あんたの?」
彼女は自分の腕に抱いているペンギンを示した。
「助けるつもりなら、もっとちゃんとしたのよこしなさいよ。あやうく溺れるところだったじゃない」
彼女は返すわ、と言ってそのペンギンをシンジに差し出した。シンジは反射的に受け取ってしまった。そのペンギンは、ぶるぶると体を震わせて、自分の体についた川の水をまきちらした。
「っくしょん!」
女の子は、ずずっと鼻をすすった。
「あんた、気がきかないわね。女の子が川に落ちてずぶぬれなのよ。何とか言ったらどうなの?」
シンジは、呆然としてその女の子を見つめたままだった。
「まあいいわ。ちょっと、あんたんちのお風呂、貸しなさいよ。いくら春先とはいっても、川の水は冷たくて、このままだと風邪をひいちゃいそうよ」
シンジは、女の子の剣幕に目を白黒させた。
「あ、あたしはアスカ。あんたは?」
Fine Storia
3a
Continua alla prossima puntata
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