KISSの温度「A」Edition

 カーテン越しに朝の柔らかな光りが差し込み、あたしの金色の髪の毛が、きらきらと反射している。
 光の妖精がくるくると踊っているみたいだ。
 
 あたしは半分覚醒した頭で時計を見た。
 あと一時間は、この暖かいベッドの中で過すことが出来る。
 ほんのちょっとのささやかな幸せに、あたしは微笑んだ。
 
 シーツを首まで引っ張り、すっぽりと包まる。
 朝が、ますます寒くなってきた。
 裸で寝るには、そろそろ限界かもしれない。
 最近また大きくなった胸を抱えた。
 大きいほうがあいつも喜ぶと思うんだけれど、肩凝りが酷いのよね。
 走ると揺れて痛いし……
 
 視線を隣に戻すと、同居人の顔が見える。
 開きかけた口から、すーすーと小さな寝息が聞こる。
 黒くてやわらかい髪の毛が、それにあわせて揺れている。
 
 いつもは彼の方が早起きで、あたしが目覚めるころには、キッチンで朝食の支度をしている。
 たまには早く起きて驚かせようと思うんだけれども、体は正直で、昨晩の疲れの所為で彼が起こしに来るまでぐっすり。
 でも、あいつだって、疲れているはずなのに――。
 
 あたしは枕にしていた彼の腕から離れ、シングルのベッドの上に肘を付いて、上半身を起こした。
 じっと彼の顔を見つめる。
 薄い眉。
 高い鼻。
 整った唇。
 良く見るとやっぱり男の子なんだけれど、ちょっと見女の子に見えなくもない。
 かわいらしい顔立ちしている。
 コンプレックスだって言ってたけど、あたしは――好きだ。
 
 人指し指で、唇に触れてみる。
 やわらかい。
 つつっとなぞってみる。
 んって彼がやけに色っぽい声を出した。
 昨日のことを思い出した。
 
 彼の瞳が彷徨い、あたしを見つけた。
 そして微笑んだ。
「――おはよ」
 あたしは顔を赤くして視線をそらした。
 まるで、いたずらがばれた子どもみたいに。
 彼の腕が伸びてきて、あたしの髪の毛をやさしくなでる。
 あたしはそれが気持ちよくて目を閉じた。
 
 
 
「そろそろ起きないと」
 彼は時計を見て言った。
「イヤ」
 あたしは反射的に答えた。
 彼はあたしの顔をみる。
「でも、学校に遅れちゃうよ」
「――いい。遅れても」
 拗ねてるんだ、あたし。
 困らせようと思って。
 でも、あいつは全然困った風ではなかった。
「朝ご飯、食べられなくなっちゃうよ」
「――いらない」
「今日は、スクランブルにソーセージを焼いたのを添えて、ヨーグルトとコーヒーにしようと思うんだ。あ、紅茶が良かったかな?」
 とたんにお腹がすいてきた。
 現金なものだ。
 あたしが見事彼の作戦に落ちたことを確認して、彼は微笑んだ。
 あたしはちょっと悔しかったので、彼の上に乗った。
「アスカ――重いよ」
「失礼ねっ。レディに向かって」
「ごめんごめん」
 シンジは笑った。
 あたしは彼の唇に人差し指を当てた。
 そして、ゆっくりと顔を近づけ、自分の指にKISSをした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ガラッ。
 
 部屋の扉が開いた。
 そこには銀色の髪の女の子が立っていた。
 瞳の奥には怒りの炎がちらちらと燃えているようだ。
「碇君――ごはん」
「ごめんごめん、すぐに支度するよ」
 と言って、シンジは裸のままベッドを抜け出した。
 あたしはベッドから上半身を起こして、彼女に向かって、あっかんべーをした。
 
 
 
 
 
 


 あとがき という言い訳
 
 プレ一周年記念です。
 かなり短いです。
 最短記録。
 僕にも書けるんだ。(^^;
 
 ということで、もう一つのお話も読んでくださいね。
 
 


 2000/11/20
 なお

 
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