シンジ、七夕伝説って知ってる?
そう、一年で一度しか逢うことが許されない恋人達のお話。
一年で一度しか逢えないなんて、寂しいよね?
シンジはあたしと離れ離れになって、一年に一度しか逢えなくなっちゃたらどうする?
天の川を泳いでも、逢いに来てくれる?
それとも、カササギの背中に乗ってやってくる?
あ、カササギに乗るのは織姫だっけ?
あたしは天の川に三日月の船を浮かべるの
そして、シンジを待つわ。
雨が降っても……
銀河があふれても……
きっと、きてくれるよね。
七夕記念
NEON GENESIS EVANGELION FAN FICTION
星に願いを
「いて座 O型。恋愛運は◎。片思いの人は、告白するチャンスがやって来ます。相手の好意を感じ取れたら、行動を起こしてみては? だってアスカおねーちゃん!」
「ふぇ?」
あたしは、ヒカリの手料理でいっぱいになったおなかをさすりながら、ノゾミちゃん――ヒカリの妹――のほうを振り向いた。
今日はあたし、ヒカリの家で夕食をご馳走になっている。
ヒカリも腕によりをかけて準備してたみたい。
あたしごときに申し訳ないなあ、と思いつつ、ヒカリ自慢の料理に舌鼓を打ち、おなかも心も満足したあたしは、現在、リビングのソファに体をうずめ、幸福の時をすごしている。
ヒカリと友達になってからというもの、洞木家の夕食におよばれされることがしばしば。母親がいない洞木家では、ヒカリが家事全般を取り仕切っていて、食事もほとんど毎日、彼女が作っている。
何回かご馳走になったけど、ヒカリの料理は一級品だ。
シンジのもとてもおいしいけれど、ヒカリの腕前もなかなか。
実際、いい勝負なんじゃないかと思う。
あたし?
むなしくなるから、そのことについては言及は避けよう。
「ラッキーデーは7日。キーワードは星。七夕の日にプラネタリウムに行くのも吉。うっわー、プラネタリウムを見ながら告白かぁ。ロマンティックねー」
うっとりとした表情で、目を宙にさまよわせている。
見ようによっては、かなりアブナイかも……。
「なあに、それは?」
ソファでくつろいでいたあたし。何の気なしに聞いてみる。
「これこれ!」
あたしの前に差し出されたのは、ハイティーン向けの女性雑誌。
日本の小学生はこんなものも読むのか。進んでいるなぁ。
などど、ちょっと思ったりして。
「『どらこ』の星占い! これホントに良くあたるのよ。あたし達の間ではめっちゃ評判なの」
占い、か。
雑誌に載っている占いは、あたしも時々――実はよく、見る。
4種類の血液型で、全人類の性格が決定されるわけではない。生まれた日によって、12分の1の運勢にきっちり分けられるわけじゃない。
そんなことはわかっている。わかってはいるが、女性の心理としては、信じたくなるのよね。
特に、あたし達の年頃の女の子は、気になる男の子との相性とかが。
こっちの雑誌の運勢に喜声をあげ、あっちに載っている占いで落ち込んだり。
本気で信じているわけじゃあない。
女の子は、恋愛というゲームを楽しむの。
占いはそのアイテムのひとつ。
女性向の雑誌って、恋愛占いのページが、絶対、ある。
それだけ、需要があるということなのよね。
あたしも、好きな人との相性は、やっぱり気になる。
その、気なる相手と言うのが……。
「七夕に碇のおにいちゃんと二人でプラネタリウム。いいなぁ。この前ジオ・シティーにできたのよね。おっきなやつが。ノゾミも行ってみたいなぁ」
相変わらず、きらきらと瞳に光を輝かせながら言う。
言う、が、ちょ、ちょっと待ってよ。
「ちょっと待って。なんであたしがシンジと行かなきゃならないの? そもそも、なんでノゾミちゃんがシンジのこと知っているのよ」
「だってヒカリおねえちゃんが、いつも言ってるもん。アスカおねえちゃんは碇おにいちゃんのこと好きなのに、意地を張っちゃって全然進展しないんだって」
「だ、だれがシンジのことなんか……」
ヒカリ! あんた妹に、何あることないこと言ってんのよ。
だれがシンジのことを好きだって?
そんなこと、一言でも言ったことないでしょ!
「楽しそうね」
そこへ、夕食の後片付けを終えたヒカリが、トレイに紅茶のセットを載せてリビングルームへ入ってきた。
「ヒカリ、ノゾミちゃんに変なこと吹き込まないでよ」
「なんのことかしら?」
ヒカリはニコニコとした顔で、あたしと、ノゾミちゃんと、自分のティーカップに紅茶を注いでいく。
聞いてたわね、ヒカリ。
「ヒカリ、それはあんたの勘違いよ。言っておくけど、あたしはシンジのこと、なんとも思ってないんだからね」
「あら」
ヒカリはあたしの方を向くと、さらににっこりとした笑顔で話し始めた。
「この前、碇君が体育の授業で怪我をした時、まっさきに保健室に飛んでいったのは、どこのどなたでしたっけ?」
うっく。
なんてこと、覚えているのよ。
確かにこの前、体育の授業中ソフトボールがシンジの顔にあたって、鼻血を出してぶっ倒れて、そのまま保健室に運び込まれたことがあった。
あたしは、ボールがシンジにあたる瞬間を見ていた。
そのあたり方がかなりひどかったもんだから、あたしはびっくりして授業だということを忘れて、ものすごい速さでシンジのところに駆け寄ったわ。
血があちこちに飛び散っていて、見るからに大怪我に見えたのよ。
それであたしは青くなって、先生に抱えられたシンジに付き添って、一緒に保健室に行った。
シンジが目を覚ますまで、付き添っていたのも事実よ。
あとでクラスのみんなにもからかわれたけど。
でも、それがどうしたの?
あたしは同じエヴァのパイロットとして、シンジのことを心配したのよ。
あたりまえじゃない!
「と、とにかく、あたしはシンジのことなんか、なんとも思ってないんだったら!」
「あ、そうなんだ。じゃ、あたしがもらっちゃおっかなぁ?」
ヒカリとそっくりだが、ちょっとだけ大人っぽい声が、リビングの入り口から聞こえてきた。
見るとヒカリのお姉さんのコダマさんが立っている。
彼女は第壱高校に通う高校生。
第壱高の制服――セーラー服に身を包んだコダマさんは、ヒカリに似て(ヒカリのほうが妹だからヒカリが似たのか)とてもかわいらしい。
「実はあたし、シンジ君て結構好みなのよね。アスカちゃんがいらないんだったら、あたしが付き合っても全然オッケーよね?」
大きな瞳をぱちっと閉じて、きれいにウインク。
うっく。
やっぱ高校生ともなると、女性の色香っていうものが感じられて、悪いけど中学生のヒカリはまだまだ子供に見える。
あたし、プロポーションはそこいらの同級生に負けないつもりだけど、コダマさんにはかなわないかも。
ムネ、大きいし、くびれているところはちゃんとくびれている。
あたしと違って包容力も有りそうだし。
しかも、ミサトと違って、若い。(悪かったわね。byミサト)
こんな女性に迫られたら、シンジなんていちころで傾いちゃうかも……
「え、え、え、ええ。全然いいですよ。あいつでよければ、のしつけてあげちゃいます」
内面とは裏腹な言葉が出た。
「あら、アスカちゃんがあげちゃうってことは、シンジ君は今まで、アスカちゃんの所有物だったって訳ね」
「ち、ち、ち、ちがいます!」
「アスカお姉ちゃん。ムリしてるぅ」
この家ではあたしが、シンジを好きなことが既成事実となってしまっているらしい。
コダマお姉さんも、ノゾミちゃんも、それをわかっていてあたしをからかっている。
ヒカリをじろっと睨むが、相変わらずニコニコしている。
三対一じゃ、かなわないわ。
ため息をついて、降参のしるしに肩をすくめて見せる。
「ああん!」
そんなあたしの様子を横目で見ながら、コダマお姉さんがなにやらテレビを操作していたところで奇声を上げた。
「どうしたの、コダマおねえちゃん?」
「ビデオ、録画されてない……」
そう言うと、がっくりとテレビの前でうなだれる。
ちょっと演技がかったしぐさだ。
ヒカリは、しょうがないなぁ、という顔をして。
「お姉ちゃん。またやったわね。昨日は停電の日でしょう」
「……そうだっけ?」
顔を上げたコダマさんは、世にも情けない顔をしている。
コダマお姉さん。その顔やめた方がいいよ。
もともと美人な顔のつくりなので、崩れた顔とのギャップが……。
「昨日、停電だったんだ。それは仕方ないですね」
「あ、アスカ、違う。停電は前もってわかってたの。それをチェックしなかったお姉ちゃんが悪いのよ」
「だって、あんまりじゃない。こんなに頻繁に停電するなんて」
「頻繁に停電するんだから、その日ぐらいちゃんと覚えていたら?」
「毎日のように停電するんだもん。覚えてられるわけないわよ」
「え? ここってそんなに停電するの?」
「あら、アスカ知らなかった? 最近、かなり頻繁に、停電するのよ」
後で知ったことだが、エヴァの起動実験やらなにやらで、ネルフは一時的だが、かなりの電力を使うらしい。
使うとはいっても、そこはちゃんと設計されていて、問題ないつくりになっている。しかし、この前襲来した使徒の所為で、発電施設の一部がどうやら壊れてしまったらしい。現在、施設の復旧作業を行っているが、それまでネルフが大電力を使う場合、どうしても現在の発電力ではまかないきれない。そこで、民間に回している電気を、一時的にネルフの方へ回してもらっているみたい。
その所為で、一般の家庭が停電するという事態が起こっている。
それも、発電施設が復旧するまでの間ということで、市と話し合いがまとまっているらしい。
病院や、警察は自家発電の設備をもっているので、少しくらいの停電は大丈夫みたい。あと、セキュリティシステムなんかの為に、必要最低限の電力は配信されている。
「いつも、停電は5分程度だけど、やっぱり冷蔵庫の中身は心配よね」
ヒカリ、主婦らしい発言だわ。
「しょうがないわね。この鬱憤は、シンジ君とのデートで晴らすかぁ」
横目であたしの方を見ながらにやにやしている。
コダマお姉さん、どうしてもあたしをからかいたいみたい。
「うわっ。すごい行列……」
「確かに……そうね……」
ジオシティに新しくできたプラネタリウムは、オープンしてから数週間が経った今でも人気のスポットらしく、あたし達の目の前はまるでディズニーランドのスペースマウンテン並の行列ができていた。
まして、今日は七夕。
普段よりも人が出ているみたい。
並んでいる人たちを見ると、ほとんどがカップル。浴衣姿の女性も見える。
いったいどれくらい待つのだろう。
シンジのほうを見ると、明らかにいやそうな顔をしている。
ヒカリ姉妹に言われたからではないが、シンジとプラネタリウムへ行くことになった。昨日、プラネタリウムのチケットを、ミサトからもらったのだ。
「たまには息抜きにでも行ってらっしゃい」
ミサトはにやにやしながらチケットを渡してくれたが、その表情の意味するところは明確である。
ミサトの思惑に素直にはまるのもくやしいので、ヒカリでも誘おうかと思ったが、聞けばネルフの方から流れてきたチケットらしい。
それならばネルフの関係者以外のものが使うのも、どうかと思う。
しかたがないので、シンジを誘ったというわけ。
「……これに、並ぶの?」
確かに……。
さすがに最新鋭のプラネタリウムだけあって、超人気。
多少の混雑は予想していたが、これほどとは思わなかった。
あたしは気を取り直し、シンジをキッと睨んだ。
「何言ってんの。さあ行くわよ!」
シンジの手を引っ張って、列の最後尾につく。
つくとすぐに後ろに新しい行列ができた。
「一体どのくらい待つのかしら」
「さっき、看板が出てたけど、一時間待ちらしいよ」
「……一時間」
さすがにそれを聞くと、気が滅入ってくる。
しかし、自分が言い出したことを曲げることはできない。
それに、実は占いのこともちょっとだけ気になる。(ちょっとだけよ!)
もしかして、真っ暗になって星なんか見たら、いい雰囲気になっちゃたりして。
そんでもって、手がちょっと触れちゃったり。
一度は引っ込めるんだけど、そのうちお互い、相手を探し。
そして、どちらからともなく、指を絡め……。
はっと気が付くと、シンジが冷ややかなのまなざしであたしを見ている。
知らないうちに、妄想の世界に入ってしまって、いやんいやんのポーズを取っていたみたい。
気が付くと、前の列は先へ移動してしまっていた。
「な、なにぐずぐずしてるの。あんなに離れちゃったじゃない!」
その時、突然あたしの携帯が鳴った。
急いで取り出すと、ディスプレイにエマージェンシー・レベルAが表示される。
「アスカ、非常召集だって!」
シンジの携帯にも連絡が入ったようだ。
「ああん、もう! こんなときに」
舌打ちしたが、仕方がない。
レベルAは、使徒襲来相当の非常召集だ。
ぐずぐずしているわけにはいかない。
「シンジ、行くわよ!」
「うん!」
あたし達は列を離れて駆け出した。
「誤報ですって!?」
「そうなのよ。ごめんねアスカ」
目の前ではミサトが手を合わせてあたしを拝んでいる。
あたしとシンジはせっかく並んだプラネタリウムを後にして、一目散にネルフへ向かった。
幸い、ジオ・シティ―からネルフ本部へ向かうゲートは割と近い位置に配置されているので、思ったよりも早く本部に到着することができた。
しかしそれが、よりによって、誤報なんて。
「一体、なんだってそんなことになったのよ!」
あたしは、語気を強めた。
だって、やってられないじゃない。
せっかくシンジとデートだったのに。
「ごめんね、せっかくシンちゃんとデートだったのに」
「ち、ち、ち、違うわよ!」
なぜか人に言われると、とても恥ずかしくなる。
乙女心は複雑なのよ!
「と、と、とにかく!間違いだったならあたし達は用済みよね。帰るわよ」
「ええ、非常事態宣言は解除されたから、大丈夫よ。ゆっくり休んでね」
「シンジ、行くわよ!」
あたしは、どかどかと床を踏み鳴らしながら出口へ向かった。
「今から行っても、もう遅いと思うよ」
シンジが後から追いついてきた。
「なんでよ! なんで遅いのよ」
「あそこは、最終が7時45分なんだ。今から行っても間に合わないよ」
何故だかシンジが申し訳なさそうに言う。
あたしは立ち止まり、シンジを振り返ってにらみつけた。
「なんでそんなこと、あんたが知ってるのよ」
「い、いや、綾波と行った時に、ちょっと調べたから……」
「ファ、ファ、ファ、ファーストと行ったですってぇ!」
あたしの忍耐は、すでに臨界点に達していた
ただでさえデートの邪魔をされて不機嫌なのに、その邪魔の元が誤報。骨折り損のくたびれもうけを地で行っているようなものだ。
そして極めつけ。
よりによって、ここでそんな名前を聞くとは。
「なんで、そんなこと今まで黙っているのよ!」
「な、なんでったって……」
あたしの語気に押されて、シンジは目を白黒させた。
「プラネタリウムができた日、父さんが綾波と行けって、チケットをくれたんだ」
あの、ひげおやじ!
あたしより、あの人形女の方がお気に入りって訳ね!
確かにあたしはあいつに比べて、全然おしとやかじゃないし、騒がしいし、家事一切だめだし、きっと生意気だと思われているし、絶対しゅうとを大事にしてくれそうにも無いし……。
……そう、考えてみたら落ち込んできたわ。
「いいじゃない。また行けば」
その一言に、あたしはキッとシンジを振り向いた。
わかっていない。
今日が何の日か。
あたしの気持ちも。
全然、わかってない……。
自分勝手だとは思うけど、そう思ったら突然悲しくなってきて、涙腺が緩んできた。にらみつけているシンジの顔がぼやけてくる。
「シンジの……シンジのばかぁ!」
あたしはそのまま、振り向いて駆け出した。
[続く]
あとがき
七夕記念のつもりが、2日遅れです。(^^;
しかも、連載?
なんだか、とてつもなく無謀なことをしているような気が……(汗)
えー、と言う訳で、全三話を予定してます。(爆)
今回は第一話のAパートで、第一話はもうひとつBパートがあります。
一応2話も3話もA、Bパートで行く予定ですが……予定なんで変わるかもしれません。(汗)
えっと、よろしければしばらくお付き合いくださいませ。
それでは、最後に。
このお話を気に入っていただけたら、とても嬉しいです。
そして、辛抱強く待っていただけたなら、また次のお話でお逢いましょう。
ご意見・ご感想は なお または、Luna Blu 掲示板 までお願いします。
簡単に感想が送れる フォームもあります。