Dancin on the moon 【8】
「え?」
連れて行かれた先は洒落た建物の中。
「え?」
笑顔で小さなドアの中に押し込められた。
「ええ??」
待っていたのは何故かドレスを持った女性4人。
「えええ???」
抵抗する間もなくシャワー室に入れられて、出て来たら手際良くドレスを着せられて、髪を纏めて化粧をするまで手早くプロの技を見せられた。
「さ。中にどうぞ。」
品の良い中年のスタッフに導かれて重厚なドアを開けるとそこには先程までのダンスパーティ場が広がっていた。
いや、正確に言うとこちらは本物なんだろう。
年代幅広く男女が手を取り合ってくるくると踊っている。
「何?ここ・・・」
呆気に取られて呟く青子に答えが帰ってくる。
「ダンスホール。」
何時の間にか隣に立っていた快斗に青子は吃驚する。
「ほら。蘭はこっち。」
その場の雰囲気に飲まれてぼぅっと突っ立っていた蘭の右手から新一が手を差し出す。
しかし、蘭はなかなかその手を取る事が出来なかった。
まだ蘭の中でわだかまりが解け切っていなかったからかもしれない。
けぶるような美しい瞳を新一に向けて蘭は小さくその名を呼んだ。
「新一・・・」
視線の先で新一が優しく笑った。
和んだ目元は蘭と共に居る時にしか見せない極上の笑顔を演出する。
少し気取った仕種で新一がもう一度手を差し出した。
淑女を誘うように・・・
「Shall We Dance?」
引き寄せられる様にその手を大きな手のひらの上に乗せる。
ぎこちない笑顔になったのは感動している所為なのでしょうがない。
蘭の願いを叶える蘭だけの魔法使いはそのままドレスアップした蘭を引き連れてホール中央に進み出ていった。
「見てる方がちょっと恥かしいな。」
快斗がそんな二人を見て笑う。
「そうかなぁ?やっぱり工藤君蘭ちゃんの事ちゃんと分かってくれてたんだ。良かったぁ♪」
「ったく、あいつが初めっからしっかりしてりゃあこんなにややこしい事にはならなかったんだよ!」
「また快斗はそういう事を言う〜。工藤君は探偵さんやってるから忙しいの!」
「・・・いっつも思ってたけど、青子って工藤には激甘だよな。」
なんだか他の男を誉める青子もフォローする青子も面白くない。
それが喩え絶対に青子をそういう意味で好きになる事が無い工藤新一であっても。
「なぁに?拗ねてるの?」
「ちげーよ、ば〜か!」
口だけは一丁前に否定していても見事に態度が裏切っている。
決して視線を合わせようとはせず、膨れっ面。
此れでは青子がくすくすと笑い出したのも致し方無いと言えよう。
「なんだよ!なんで笑うんだよ!」
「も〜。快斗ってば子供っぽ〜い!」
ふんわりと理性をぐずぐずに溶かすような極上の笑顔を惜しみなく快斗だけに向けて青子が快斗の腕に抱き付いた。
押し付けられる軟らかな体と鼻腔を擽る甘やかな香り。
吸い込まれるような透明な瞳が快斗の視線を絡め獲った。
「で?快斗は青子の事ダンスに誘ってくれないの?」
甘えるような口調に快斗は頬を染める。
青子に甘えられるのには滅法弱いのだ。
「誘うに決まってんだろ?」
まともに威力有る瞳を見れなくて視線を床に落としながら早口で囁く。
腕の辺りから笑いの振動が優しく響いてくる。
ちょっと悔しくて少々乱暴に青子を腕から引き離すと、改めて向かい合って呼吸を整える。
大人しく快斗の言葉を待つ青子が可愛くて可愛くて、もう何度目になるかも分からない好きだと言う気持ちの確認をしてしまう。
キッドの口調をすこぉし滲ませて快斗はゆっくりと青子にダンスを申し込んだ。
「今宵私と踊って頂けませんか?」
「・・・喜んで。」
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