Dancin on the moon 【7】





り〜んご〜ん・り〜んご〜ん・り〜んご〜ん



古風な鐘の音が体育館の中に響き渡る。

誰もが残念そうに近くにいた人間と目配せしあった。

それまでさざ波のように広がっていた楽しげなお喋りの声が静まり、館内に静寂が戻ってくる。

『楽しい時間は瞬く間に過ぎてしまうもの。シンデレラも鐘の音を聞きながら帰宅の途に付きました。今宵の宴はここまでにしとうございます。』

何処か芝居掛かった司会者の声がマイク越しに聞こえる。

皆夢から醒めてしまったように瞬きを繰り返した。

『今宵は満月。月の光を浴びながら素敵な気分をお土産にどうぞお帰り下さいませ。合同ダンスパーティに出席して下さった皆様どうもありがとうございました!』

終焉の合図と共に拍手が館内に響き渡る。

幕下で最後の仕事を見守っていた快斗と新一は拳を当てて成功を喜んだ。

この割れんばかりの拍手と楽しそうな参加者の顔を見ればこのイベントが大成功だったのは疑いようも無い。

立役者の二人としてはそれを嬉しく思うのは当然の事であった。

館内のざわめき、開け放たれたドア。

ダンスパーティが終わって皆残念そうに、それでも顔には熱狂の余韻を残して帰って行く。

本格的な後片付けは明日やる事になっているので今夜は此れで実行委員を解散する事になっていた。

最後に簡単な指示を出す快斗と新一の顔を見咎めた江古田高校執行部役員が不思議そうな顔をした。

「なんであの二人、あんなに嬉しそうな顔してるんだ?」

「このダンパが上手く行ったからじゃないですか?」

帝丹の実行委員長がそう答える。

執行部役員は顎に手をやってうーんと唸った。

「いやぁとてもそういう顔には見えないんだけど?」





そう、二人にとってダンパは成功して当然の物なのだから、成功を喜んであんな顔をするような可愛い性格ではない。

これからが二人にとっての本番なのだ。











「お疲れ様でした。」

責任を果たした満足感と安堵感からふわりと軟らかな笑顔を浮かべて青子と蘭は教室を後にした。

生徒達があらかた帰ってしまって先程までの熱気が嘘のように静まり返ってしまった校舎の中を二人昇降口を目指してゆっくりと歩く。

多少目元が赤いものの、それは疲れているからと誤魔化せる程度にはなんとか復活した二人は穏やかな表情で並んで歩いた。

言葉はなくとも想いは通じるとばかりに笑顔だけ浮かべる。

靴を履き替えて外に出ると心持ちひんやりとした空気が頬を撫でた。

「気持ち良い〜!」

青子が大きく伸びをしてはしゃぐ。

無理をしている雰囲気はない。

蘭も髪の毛をかき上げて首筋を空気に晒す。

汗ばんだ肌に風が心地良く、蘭の気持ちをふわりと浮かせた。

「青子ちゃん今日お父さんは?」

「夜勤って言ってたよ。」

「じゃあ家に来ない?話したい事一杯有るの。」

「本当?おうちに行っても良いの?でも突然じゃ蘭ちゃんのお父さんにご迷惑じゃない?」

「平気だよ。今日は仕事で留守にしてるから遠慮しなくて大丈夫!」

「じゃぁお邪魔する!嬉しい!」

「私も嬉しい!」

きゃっきゃっと手を取り合ってはしゃぐ二人の前に今まで何処に消えていたのか、快斗と新一が立ちはだかった。

気が付く二人。

驚きに言葉を失ってしまった。



「え?どうしたの?快斗・・・」

「やだ・・新一・・・居たの?」



こんなに驚いているのは、今更に男性陣二人がタキシードを着ていたから。

「さ、行こうか♪」

快斗が青子の腕をがっと掴む。

「向こうにタクシー待たせてるから。」

新一が蘭の腕をがっと掴む。

「「え?」」





訳も分からず拉致された二人はそのままタクシーに押し込められて行き先も分からぬまま連れ出された。





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