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傷寒論の方剤の構成生薬に関する一考察

Abstract
 The aim of this study was to undertake a computer-based analysis of how herbal medicines are used in Shanghanlun. Gancao is found in 62.5% and Dazao in 35.7% of Kanpo medicines, respectively. A combination of Guizhitang, Sinitang, and Xiaochaihutang covers the 10 most frequently used herbal medicines (Gancao, Guizhi, Dazao, Shengjiang, Shaoyao, Qanjiang, Rencan, Fuzi, Banxia, and Huangqin). In addition these three Kanpo medicines are repeatedly described and can thus be considered to be the basal Kanpo medicines of Shanghanlun. The combination of Gancao and Guizhi comprises 33% of all Kanpo medicines, and the combination of Gancao and Dazao covers 32.1% of this total. Shanghanlun does not combine either Fuzi or Mahuang with Chaihu.

要旨
 傷寒論の生薬をパソコンを用いて分析し、次のようなことがわかった。
 傷寒論では甘草は62.5%の方剤で使われている。桂枝、大棗は35.7%の方剤で使われている。
 桂枝湯、四逆湯、小柴胡湯の構成生薬の中によく使われるトップ10生薬(甘草、桂枝、大棗、生姜、芍薬、乾姜、人参、附子、半夏、黄ごん)はすべて含まれる。この3方剤は重複記述も多く、傷寒論の基礎となっている方剤と考えてよいだろう。
 甘草、桂枝の組み合わせは、全体の33.0%に見られ、甘草、大棗の組み合わせは全体の32.1%に見られる。
 傷寒論では、附子剤と柴胡剤を組み合わせることはしない。
 傷寒論では、麻黄剤と柴胡剤を組み合わせることはしない
緒言
 この論文は、傷寒論に使われている生薬はどのようなものが多いのか、またどのような2生薬の組み合わせが多いのか、またどのような2生薬の組み合わせがないのかをパソコンを用いて分析したものである。
方法
 日本漢方協会学術部 編: 傷寒雑病論 二訂版, 東洋学術出版社, 東京, 1990 を底本とした。この本は趙開美刊 仲景全書所収の傷寒論十巻を底本としている。
 ソフトはMicorsoft Access 2000 Microsoft Visual Basic 6.0を用い、プログラム言語はVB(Visual Basic) VBA(Visual Basic for Applications) DAO(Data Access Object) SQL(Structured Query Language)を用いた。
結果と考察
 傷寒論に出てくる方剤数は112であり、使われている生薬数は85である。この85生薬のうち3方剤以上で使われている生薬は34生薬である。16生薬は2方剤で使われており、35生薬は1方剤のみで使われている。3方剤以上で使われている34生薬を使われている方剤数順に示したのが、表1である。
 甘草が一番多く使われており、70方剤て使われている。これは全体の62.5%にあたる。桂枝、大棗は40方剤使われている。これは全体の35.7%である。この最初の5つ、甘草、桂枝、大棗、生姜、芍薬は桂枝湯の構成生薬である。また甘草、乾姜、附子は四逆湯の構成生薬である。甘草、大棗、生姜、人参、半夏、黄ごんは、小柴胡湯の構成生薬である。この3方剤の構成生薬でトップ10の生薬が、すべてそろう。小柴胡湯はさらに柴胡が入るが、柴胡はトップ10には入っていない。柴胡は18位になる。この3方剤で、トップ10の生薬がすべてそろうということは、この3方剤が傷寒論の基礎的な方剤になっていると言ってよいのだろう。
 傷寒論では方剤の構成生薬の記述は1回だけのものが多いが、別の篇で繰り返し何回か記述されることがある。方剤の構成生薬記述の記述回数順に並べたものが表2である。桂枝湯は10回、四逆湯は9回、小柴胡湯は8回掲載されている。トップ3になるのは、やはり桂枝湯、四逆湯、小柴胡湯の3方剤である。この3方剤の重要性を認識していたから、繰り返しの記述になったということであろう。
 表3は構成生薬数別に方剤を見たものである。傷寒論の方剤の構成生薬数は9までと言ってよいだろう。
 次に2生薬の組み合わせを考える。生薬は85使われており、それから2つを組み合わす組み合わせは数学的には85C2が3570だから、3570通りある。しかし傷寒論で使われている生薬の組み合わせは513通りだけである。8方剤以上で使われている2生薬の組み合わせを、使われている方剤数順に示したのが、表4である。甘草、桂枝の組み合わせが使われている方剤数は37であり、全体の33.0%になる。甘草、大棗の組み合わせは全体の32.1%である。 第10位までの生薬は、すべて桂枝湯の構成生薬である。ここでも桂枝湯が傷寒論の基礎的な方剤であることをうかがわせる。7方剤で使われている2生薬の組み合わせ数は7通りであり、6方剤て使われている2生薬の組み合わせ数は10通りであり、5方剤て使われている2生薬の組み合わせ数は16通りであり、4方剤て使われている2生薬の組み合わせ数は19通りであり、3方剤て使われている2生薬の組み合わせ数は34通りであり、2方剤て使われている2生薬の組み合わせ数は67通りであり、1方剤て使われている2生薬の組み合わせ数は331通りである。
 6方剤以上で使われているトップ22生薬の組み合わせは22C2=231であり、231通りある。傷寒論で組み合わせのあるのはその内164通りである。よく使われている生薬でも67通りの組み合わせはない。どんな組み合わせがないのかを示したのが表5である。特記すべきは、附子と柴胡の組み合わせがないことと、麻黄と柴胡の組み合わせがないことである。つまり傷寒論では、附子剤と柴胡剤を併用することはせず、麻黄剤と柴胡剤を併用することもしないのである。
結論
 傷寒論では甘草は62.5%の方剤で使われている。桂枝、大棗は35.7%の方剤で使われている。
 桂枝湯、四逆湯、小柴胡湯の構成生薬の中によく使われるトップ10生薬(甘草、桂枝、大棗、生姜、芍薬、乾姜、人参、附子、半夏、黄ごん)はすべて含まれる。この3方剤は重複記述も多く、傷寒論の基礎となっている方剤と考えてよいだろう。
 甘草、桂枝の組み合わせは、全体の33.0%に見られ、甘草、大棗の組み合わせは全体の32.1%に見られる。
 傷寒論では、附子剤と柴胡剤を組み合わせることはしない。
 傷寒論では、麻黄剤と柴胡剤を組み合わせることはしない。
参考文献
日本漢方協会学術部 編: 傷寒雑病論 二訂版, 東洋学術出版社, 東京, 199

表1 生薬別の使われている方剤数 (3方剤以上で使われているもの)
順位 生薬 使われている方剤数 方剤全体に対する割合 (%)
1 甘草 70 62.5
2 桂枝 40 35.7
2 大棗 40 35.7
4 生姜 37 33.0
5 芍薬 29 25.9
6 乾姜 22 19.6
7 人参 21 18.8
8 附子 20 17.9
9 半夏 18 16.1
10 黄ごん 16 14.3
11 大黄 14 12.5
11 麻黄 14 12.5
13 黄連 12 10.7
14 茯苓 11 9.8
15 白朮 10 8.9
16 杏仁 9 8.0
17 梔子 8 7.1
18 柴胡 7 6.3
18 枳実 7 6.3
18 石膏 7 6.3
21 厚朴 6 5.4
21 芒消 6 5.4
23 牡蛎 5 4.5
23 細辛 5 4.5
25 香し 4 3.6
25 当帰 4 3.6
25 粳米 4 3.6
25 葛根 4 3.6
29 阿膠 3 2.7
29 桃仁 3 2.7
29 知母 3 2.7
29 黄柏 3 2.7
29 竜骨 3 2.7
29 沢瀉 3 2.7


表2 方剤の重複記述回数
順位 方剤 重複記述回数
1 桂枝湯 10
2 四逆湯 9
3 小柴胡湯 8
4 五苓散 7
5 大承気湯 6
5 調胃承気湯 6
7 小承気湯 5
7 大柴胡湯 5
7 白虎加人参湯 5


表3 構成生薬数別方剤数
構成生薬数 方剤数
1 5
2 11
3 19
4 24
5 17
6 8
7 17
8 5
9 3
10 1
11 0
12 1
13 0
14 1


表4 2生薬の組み合わせ
順位 生薬 生薬 方剤数 方剤全体に対する割合 (%)
1 甘草 桂枝 37 33.0
2 甘草 大棗 36 32.1
3 大棗 生姜 33 29.5
4 甘草 生姜 32 28.6
5 大棗 桂枝 26 23.2
6 桂枝 生姜 24 21.4
6 甘草 芍薬 24 21.4
8 大棗 芍薬 21 18.8
9 生姜 芍薬 20 17.9
10 桂枝 芍薬 19 17.0
11 甘草 人参 16 14.3
12 甘草 乾姜 15 13.4
13 甘草 半夏 14 12.5
14 甘草 麻黄 13 11.6
15 大棗 半夏 12 10.7
15 甘草 附子 12 10.7
17 甘草 黄ごん 11 9.8
17 大棗 人参 11 9.8
19 人参 半夏 10 8.9
19 生姜 半夏 10 8.9
19 生姜 人参 10 8.9
19 大棗 黄ごん 10 8.9
19 桂枝 麻黄 10 8.9
24 半夏 黄ごん 9 8.0
24 乾姜 附子 9 8.0
24 乾姜 人参 9 8.0
27 生姜 麻黄 8 7.1
27 大棗 麻黄 8 7.1
27 芍薬 麻黄 8 7.1


表5 トップ22生薬の組み合わせのないもの
番号 生薬 生薬
1 大棗 梔子
2 桂枝 梔子
3 桂枝 枳実
4 芍薬 梔子
5 芍薬 芒消
6 乾姜 大黄
7 乾姜 杏仁
8 乾姜 枳実
9 乾姜 厚朴
10 乾姜 芒消
11 人参 麻黄
12 人参 杏仁
13 人参 梔子
14 人参 枳実
15 附子 半夏
16 附子 杏仁
17 附子 梔子
18 附子 柴胡
19 附子 枳実
20 附子 石膏
21 附子 厚朴
22 附子 芒消
23 半夏 白朮
24 半夏 杏仁
25 半夏 梔子
26 黄ごん 杏仁
27 黄ごん 梔子
28 黄ごん 厚朴
29 大黄 麻黄
30 大黄 白朮
31 大黄 石膏
32 麻黄 黄連
33 麻黄 梔子
34 麻黄 柴胡
35 麻黄 枳実
36 麻黄 厚朴
37 麻黄 芒消
38 黄連 茯苓
38 黄連 白朮
40 黄連 杏仁
41 黄連 梔子
42 黄連 柴胡
43 黄連 枳実
44 黄連 石膏
45 黄連 厚朴
46 黄連 芒消
47 茯苓 杏仁
48 茯苓 梔子
49 茯苓 枳実
50 茯苓 厚朴
51 茯苓 芒消
52 白朮 杏仁
53 白朮 梔子
54 白朮 柴胡
55 白朮 枳実
56 白朮 厚朴
57 白朮 芒消
58 杏仁 梔子
59 杏仁 柴胡
60 梔子 柴胡
61 梔子 石膏
62 梔子 芒消
63 柴胡 石膏
64 柴胡 厚朴
65 枳実 石膏
66 石膏 厚朴
67 石膏 芒消

2008年11月3日作成
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