落石に肝を冷やす
C沢の雪渓の急斜面を、アイゼンを着けて、汗を拭きながら
登って行くと、はるか上の方から黒い塊が転がり落ちてくる
のが見えた。
「ラクだ! 逃げろ」 大声を上げて、近くの岩陰に逃げ込み、
目を凝らして見上げていると、一抱えもあるような大きな岩が
時々雪の上をバウンドしながら、宙を舞って迫ってきた。
バウンドする度に方向が変わるので、怖くても目を離すわけ
にはいかない。
数m 前の岩角に激突する瞬間は、やはり身を縮め、首を竦
め、目をつぶった。大岩は砕け散って、拳大を含む大小さま
ざまな岩が、風を切って頭上をかすめていった。
岩陰にへばりついて、雪渓を転がり落ちていく岩を見送りなが
ら、心臓の早打ちする音を聞いていた。
晴れていて、遠くから落石の迫ってくるのが見えたし、大きな
岩陰があって逃げ込むことが出来たから良かったものの、
ガスの中から突然こんなものが現れたら・・・・と、背筋の寒く
なるような経験だった。
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