牛が多くの牛乳を生産するためには牛そのものの遺伝的能力も重要ですが、それとともにその能力を十分に発揮させることができるだけの栄養を与えなければなりません。
パナマで飼われている牛のほとんどは雨季には草地の草を食べ、最も多くの栄養(蛋白質もエネルギーも)を草から得ています。放牧している時に、牛の能力を発揮させる、即ち多くの牛乳を生産するためには、いかにして牛に消化の良い牧草をたくさん食べさせるかが重要になります。
第一に草の栄養価について考えてみましょう。
牧草は葉や若い茎が食べられると、それまで活動していなかった芽が伸び、新しい茎や葉になります。伸びきってしまう前のまだ柔らかい若い茎や葉には蛋白質も多く含まれ、また牛の主なエネルギー源になる繊維質の消化率も高いのです。
ブリサンタやデクンベンでは、茎が伸び、葉が茂ってくるとこのような成長はあまり行われなくなり、それまで柔らかかった茎や葉は次第に固くなってきます。牧草はどんどん成長する段階を過ぎ、花を咲かせ、種を付ける段階に入ります。そうすると牧草に含まれる蛋白質や繊維質の消化率は低くなってしまいます。
スワシやアリシアのような葡伏茎タイプの牧草の場合は、成長して時間が経過したものは花を咲かせる段階に入りますが、同時に葡伏茎の先端は伸び続けています。しかし牧草全体に占める若い茎や葉の割合は次第に低下します。
牛にたくさんの栄養分を摂取してもらうためには、栄養分が多く含まれ、かつ消化しやすい成長したばかりの若い草を食べさせるのが基本です。
次に牛が食べる草の量について考えてみましょう。
草を食べている牛を観察してみると明らかなのですが、例えばブリサンタやデクンベンでも再生草が若いうちは1株の伸びた茎葉全体、あるいは一口で食べられる量の草(茎葉)を舌でまとめて絡め取って食べます。これは成長した茎葉全体が柔らかいためです。
一方、時間が経過するとそれまで柔らかかった茎葉も次第に固くなってしまいます。そうなると牛は葉を少しずつ選んで食べるようになります。これでは同じ量の草を食べるにしても多くの時間がかかってしまいます。
また、若い茎や葉は消化が良いので、胃の中にとどまっている時間は短いのです。即ち早く消化され、反芻胃(panza)から出ていきます。そうなると牛はまた草を食べることができます。即ち消化の良い草ならば牛はよりたくさん食べることができることになります。
これに対して成長しきった茎や葉は消化するのに要する時間がより長くなります。このため食べる量も若い茎葉よりは少なくなってしまいます。
牛にたくさん草を食べさせるためにも若い草を食べさせることが重要です。
栄養摂取量全体は摂取した飼料の量と栄養の含有率のかけ算になります。既に述べたように、牛に若くて柔らかい草を食べさせるということは、栄養価の高い草をたくさん食べさせるということになり、量と質(栄養含有率)の両面から栄養摂取量を増やすということになります。
次に牧草生産のために施した肥料、特に肥料成分のうち窒素についてどれだけ効果的に家畜の栄養に変わるかを考えてみましょう。
通常、放牧地における施肥は放牧した直後、即ち草からすれば若くて柔らかい茎葉のかなりの部分が食べられてしまった後に施されます。
植物は茎葉が食べられて少なくなると、今まで休眠していた芽を伸ばそうとします。肥料分を積極的に吸収し、それを芽が伸びて葉や茎になる材料、即ち蛋白質にします。これを若いうちに牛が食べれば、施した窒素肥料が牛の必要とする蛋白質となって吸収される割合は高くなります。
しかし、更に時間が経過しますと、茎や葉は固くなります。古くなった茎葉に含まれている蛋白質のうち、一部はアミノ酸にまで分解され、新しい茎や葉に移動しますが、それは全部ではありません。かなりの量の蛋白質が固くなった茎や葉のところに残ります。茎や葉の細胞は固くなり、消化率が低くなってしまいます。また牛が食べ残してしまう割合も大きくなります。肥料の中の窒素成分により作られた蛋白質が結果として有効に利用されない(牛の栄養にならない)ということにもなります。
施肥した肥料が有効に牧草の栄養になり、更にはこれが牛に食べられて牛の栄養に効果的に変化するためにも若い草を食べさせることが良いのです。
植物の葉は、十分に光合成が行える明るさのところにあれば、長期間(どれ位の期間かは植物の種類により異なりますが)生きて光合成を行い、そして「天寿を全うして」枯れていきます。
しかし、他の葉の陰になり、十分な強さの光を受けない状態に置かれた葉は若くして枯れてしまいます。これは植物にとって健康な状態とはいえません。牧草はたくさんの葉や茎があるように改良された植物です。そのため、牧草が生育すると、地面に近いところにある葉は上に覆い被さった葉の陰になり、いつも暗い状態に置かれます。牧草が生長し、まだ茎葉が若い時に牛に食べられれば、その下にあった葉に光が当たるようになり、光が当たった葉はより長生きするようになります。
繁った葉がいつまでも牛に食べられることがなければ、その下にある葉は光が当たらないために次第に枯れてしまうことになります。これらの葉を作るためにも牧草は栄養を消費したのですが、この葉からは十分な見返り(その葉を作るのに使った分の栄養=糖分をその葉が光合成により生産すること)がありません。植物体としてもその分は無駄に葉を作ってしまったことになります。
また、このようにして枯れた葉には、カビが繁殖してこれを腐らせます。日陰で風通しが悪く、いつも湿度が高いという条件は多くのカビにとって活動しやすい条件なのです。このようなカビが植物のすぐそばにあるということは植物にとって好ましいことではありません。そのようなカビの中には植物体に悪影響を及ぼすものもあります。このようなカビが発生しやすいという状況は植物にとっては不健康な条件といえます。
近年、このような枯れた葉について繁殖するカビの中に、家畜にとって有害な物質を生産するものもあることがわかってきました。
家畜の健康のためにも、牧草の葉が光があたらなくて枯れてしまわないようにする、即ち牧草が伸びたらすぐに牛に食べさせることが重要です。
牛には若くて栄養価の高い草を食べさせる。それが牧草にとっても、牛にとっても、最も良いことです。そのために最も重要なのは放牧間隔を短くすることです。実際には放牧間隔が1ヶ月以上にもなり、伸びた牧草は成熟して固くなり、牛はいつも固くて栄養価の低い牧草を食べていることが多いようです。もっと放牧間隔を短くし、若くて柔らかい草を牛に食べさせるようにしてください。
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