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3.施肥

3−1 施肥の重要性

牧草の生産のためには適切な施肥が必要なことは言うまでもありません。それまで適切に施肥を行ってきた場合には、1回程度施肥を行わなくても十分とはいえないまでもかなりの成長をしてくれます。これは牧草自体が必要な肥料成分をある程度体内に貯蔵してあることや、土壌にも肥料成分が蓄えられているためです。しかし施肥をしない、あるいは少ない量の施肥しかしないということが継続すれば、牧草体内や土壌中の肥料分の蓄えもなくなってしまいます。安定して牧草の生産を行うためには適切な施肥を継続して行うことが必要になります。

一般に牧草は野草よりも肥料を有効に吸収、利用します。そして野草よりもより速やかに生育し、野草を圧倒してしまいます。しかし、十分な施肥が行われない場合は、牧草の野草に対する有利性はかなり少なくなってしまいます。そして次第に牧草の勢力が衰え、野草が増えてきてしまいます。十分な施肥を行わなければ、多額の経費をかけて作った草地も、最終的には牧草は無くなり、元の野草地に戻ってしまいます。牧草地にするときに投資した経費も無駄になってしまうわけです。施肥を行うということは、牧草の生産性を高めるというだけでなく、牧草地を牧草地として維持していく、即ち雑草の侵入を抑制するという意味からも重要なことです。

施肥を行う場合でも、パナマでは尿素を施用することが一般的になっています。牧草の生育のためには窒素成分は最も多く必要であり、施肥を行わない場合には最も欠乏しやすい成分です。しかし、窒素だけの施肥では次第に他の成分も不足してしまいます。そうなれば窒素だけを施肥しても牧草は正常な発育をしなくなってしまいます。

このため、少なくとも2〜3回に1回は配合肥料を施肥するように指導がなされているはずです。

3−2 いつ施肥を行うか

植物は茎葉が牛に食べられたり、刈り取られたりした直後、別のまだ生きている芽を急速に発育させようとします。この時に旺盛に肥料を吸収しようとします。この時に施肥を行うのが最も効果的です。この時に施用した肥料は牧草に吸収され、牧草が生長するのに必要な蛋白質合成に有効に利用されます。

牧草がある程度伸びてくると成長速度は緩やかになり、蛋白質合成もそれまでよりは少なくなってきます。即ち植物体内における肥料成分の必要度も低くなってしまいます。

このような状態の時に施肥すると、肥料の吸収力は鈍ります。それでも全く吸収しないわけではありません。植物は当面の必要性が少なくても肥料成分を吸収します。植物学の分野ではこれを「ぜいたく吸収」と言います。植物が「ぜいたく吸収」した窒素成分の一部は硝酸態窒素となって茎葉に蓄えられます。このような状態の植物の葉は黒みを帯びたような濃緑色に見えます。このような植物(牧草)を牛が多く食べると「硝酸態窒素中毒」になる可能性があります。

パナマにおける牧草に対する施肥量は、一般的にはかなり少ないため、通常は牛が硝酸態窒素中毒になる危険性は少ないでしょう。しかし、「生育が悪いから」ということで多くの窒素肥料を施肥し、しかも施肥する時期が適切でないと場合によっては硝酸態窒素中毒になる危険性があります。

肥料成分が効率的に牧草に吸収され、植物の生長を促進し、栄養価の高い牧草を生産するためにも施肥は放牧した直後に行うことが重要です。

3−3 尿素を施用する場合の留意点(降雨との関係)

パナマでは肥料として尿素が多く使われています。尿素を使う場合に注意しなければならないことをお話しいたします。

尿素を施肥すると、尿素は水に溶けて土壌に浸み込みます。そして土壌中の微生物の働きでアンモニアに変化します。アンモニアは水に溶け、強いアルカリ性を示します。水が既に強いアルカリ性になっていると、それ以上アンモニアは水に溶けにくくなります。そしてそれが地表に近い所であればアンモニアガスとして空気中に揮散(evaporarse)してしまいます。

もし尿素がアンモニアにならないうちに土壌の中のある程度深い所まで達し、そこでアンモニアに変化した場合、上を土が覆っているためにすぐには空気中に逃げていきません。土壌中のアンモニアは別の微生物の働きで硝酸に変化します。水溶液は最初はアルカリ性だったのが酸性に変化します。そうなればそれまで水に溶けないでいたアンモニアも水に溶けていきます。そしてそのアンモニア全体は徐々に硝酸に変化し、植物は硝酸を吸収します。

「尿素は窒素成分のロスが多い」とよく言われます。それは施肥した尿素をできるだけ早く土壌中に浸み込ませないことが理由の一つと考えられます。パナマでは「肥料は雨が降った後に施用する」と言われます。

他の肥料の場合であれば雨の後に施肥しても全く問題はありません。燐酸やカリウムは尿素から変化したアンモニアのように蒸発してしまうことはないからです。配合肥料に含まれる窒素成分は硫酸アンモニウムや、塩化アンモニウムです。これらはアルカリ性であるアンモニアが酸性である硫酸や塩酸と結合しており、安定した化合物です。このような状態ではアンモニアのように揮散するということはありません。

問題となるのは尿素だけです。尿素の場合、雨の後に撒布すれば、撒布した直後に地表面にある水に溶け、尿素の濃い水溶液になります。そのような状態で微生物の作用でアンモニアに変化していきます。地表面あるいは地表のごく浅いところでそれが行われます。上を覆う土が無いか、あっても極めて薄いため、かなりの窒素成分がアンモニアガスとして空気中に逃げていきます。特に尿素散布後数日間も雨が降らなければ土が次第に乾燥していきます、水溶液中で尿素から変化したアンモニアはどんどん空中に逃げていきます。

このため、雨の前か後のどちらに施肥した方が良いかということなれば、雨が降る前に施用することが良いと思われます。尿素を施肥してから雨が降れば、地表に撒かれた尿素は雨水に溶けて地面の中に浸み込んでいきます。数日雨が続くならば、土の中の尿素は翌日の雨で更に深いところに押し込まれ、そこでアンモニアになっていきます。土壌の中のある程度深いところでアンモニアになれば、上を土壌が覆っているために空気中にすぐ逃げていくことはできなくなります。また土壌を構成する粘土はアンモニア等のアルカリ成分を吸着する性質があります。ますますアンモニアは空中に逃げて行きにくくなります。

最も良いのは尿素を施用した後で雨が降り、しかも数日続けてあまり強くない雨が降るということです。あまり強い雨が良くないというのは、尿素を施用した後にあまり強い雨が降る場合は地表を流れる水により流されてしまうためです。また土壌中に入った尿素も強い雨が降ると更に深いところ、即ち牧草の根が届かない深さにまで行ってしまうためです。

連日雨が降るような状況では、雨の後に尿素を撒布しても、翌日の雨で地表の尿素は土の中に浸み込んでいきますから、ロスは少ないでしょう。

実際にはパナマでは確実な天気予報は難しいため、今日これから雨が降るかどうか、また明日雨が降るかどうかは確実にはわかりません。しかし、実際に農業を営んでいる人であれば、これまでの経験から、「今日は雨がふりそうだ」、あるいは「雨は数日間は続きそうだ」といった予測はできると思います。経験に基づき天候を予測し、できるだけ効果的な施肥を行っていただきたいと思います。


→ 4.若くて柔らかい牧草を牛に食べさせる