福島県自然保護協会が県知事宛に風力発電事業見直し要望書を提出

福島県自然保護協会は、2009年5月12日、福島県知事宛に「大型風力発電事業に伴う健康被害、自然破壊の対策について」という要望書を提出しました。
以下はその要望書に添えた、県民有志52名署名による「大型風車建設に関して、建設候補地周辺で暮らす住民より県知事へのお願い」と題する要望書全文です。

大型風車建設に関して、建設候補地周辺で暮らす住民より県知事へのお願い

福島県知事 佐藤雄平様

私たちは、福島県に暮らしている住民です。
生活圏内に巨大な風力発電施設が建設中であること(滝根小白井、檜山高原)、あるいは建設計画があること(大津辺・黒佛木、楢葉)に対して、大変心配しております。
当初は、これが自分たちの生活基盤を取り返しのつかないまでに破壊しうる可能性を持った事業であることには思い及びませんでした。しかし、日本全国、あるいは風力発電先進国とされる欧米諸国で、大型風車が様々な問題を起こしていることを知るに及び、このまま看過していることはできないと、思いを新たにしています。このたび、福島県自然保護協会がこの問題についての要望書を提出することを知りました。私たちはこの要望書の内容を全面的に支持し、県に真摯に受け止めていただけるよう、心からお願いするものです。以下、福島県自然保護協会が提出する要望書を補足する資料として、鐸木能光(川内村在住)が調査・編集したものを添付いたします。ぜひ併せてお読みいただけるよう、お願い申し上げます。

●大型風車と健康被害の因果関係について

我が国では、大型風車が発生させる低周波が人間やペット動物、家畜、野生生物に対してどの程度の健康被害を与えるかという研究はまだほとんどされていません。その結果、法的な規制やガイドラインも存在しません。そのことをもってして、事業者は「被害が起きることの証明ができない」として事業を進めていますが、その結果、建設された各地で、住民が健康被害を抱え、悲惨な生活に追い込まれています。住民には、風車と健康被害の因果関係を証明する術も責任もありません。事業を進める側に「風車によって健康被害が起きえないことを証明する義務」があるはずです。なお、世界に目を向けると、数はまだ多くないものの、低周波が及ぼす健康被害についての研究報告が出ています。以下、いくつかの事例と簡単な内容を列挙します。

(1) エルマー・ワイラー博士による『脳波計を使ったサブリミナル法での4Hz、8Hz、31.5Hzの周波数をあてた実験』(ニューロネットCo.、ザントウェンデル2005.10.25 http://igzab.de/media/download_gallery/EEG_Schwingung_Baehlkow.pdf)
……結論として、超低周波空気振動を与えたことで、1.集中力低下2.精神的ストレス3.無気力4.記憶力低下5.パニック/恐怖感の増幅6.イライラ感7.めまい8.不眠9.精神不安定10.実行力がなくなるといった症状が出た。低周波空気振動が人間の精神と肉体に大きな影響を与えるということを証明できた、としている。

(2) コロンビア大学のニーナ・ピエールポン(Nina Pierpont)物理・医学博士による研究発表"WindTurbine Noise Syndrome" (Pierpont, 2006)
……「風車の継続的騒音は、不眠症、頭痛、めまい、極度の疲労、怒りっぽさ、集中力の欠如、ストレス、吐き気、種々の胃障害、耳鳴りを生じさせ、結果として慢性的な立腹症状を呈する」として、これらの症状を“Wind Turbine Syndrome”「風車発電症候群」と命名。

(3) フランス国立医学アカデミー(Chouard 2006)による研究発表
……慢性的な騒音への暴露からの高血圧症と心臓血管の病気を含む潜在的な神経生物学上の反応を“chronic sound trauma”「慢性騒音精神的外傷」と命名。

(4) カンザス立法府研究部門の風力発電所被害に関するリポート(2007)
……風力発電施設からの潜在的な健康被害について、「風力発電地帯から発生する低周波騒音(LowFrequency Noise = LFN)は、てんかんと癌をもたらす可能性がある」と警告。

(5) マリアナ・アルベス・ペレイラ教授(ポルトガルルソフォナ大学)の研究発表(2004年、2007年)
……VAD(Vibro-acoustic Disease「振動音響病」)と関連した徴候は、心臓血管の構造と細胞の構造の突然変異誘発性の変化をもたらすと報告。
(以上の(2)~(5)は、National Wind Watch の資料を参照http://www.wind-watch.org/ )

(6) アマンダ・ハリー(Amanda Harry)医師(イギリス)による“Wind Turbins, Noise and Health「風力発電、騒音と健康」(2007.2)”
……風車が原因のVAD(振動音響病)を論じている。

その他、カルガリー大学(カナダ)の研究班による、風車周辺でのコウモリの大量死に関する研究報告(回収した188体のうち87体は外部損傷がなく、ブレードによる気圧の急激な変化による内臓破裂が死因と推定された=左はそれを報じるCBCニュース)もあります。日本では汐見文隆医師が低周波健康被害に研究については第一人者で、1990年代前半から数多くの研究発表を行い、低周波音症候群について警告を発しています。

●既設大型風車付近住民の健康被害について

汐見医師の研究発表などを除けば、日本ではまだ大型風車が発する低周波音による健康被害についての研究がほとんど進んでいません。従って、参照できるデータなどもないため、被害の内容を知る方法としては、現在、実際に風車のそばに住み、健康被害を訴えている人たちの生の声に耳を傾けるしかありません。
以下は、2008年11月26日~29日、南伊豆に住む村尾まゆみさんと千葉ゆみこさんが渥美半島の風力発電施設付近の住民に対して行った聞き取り調査から抜粋したものです。

「3kmも離れているから大丈夫だと思っていた。まさか自分が……と思ったよ。風車からの騒音は聴こえるが、夜中かすかに聴こえる程度なので、最初はなぜ起こされるのかわからなかった。低周波の被害は2km位までと聞いていたのに……。しかし、現に私は3km 離れていても苦しんでいる。今でも眠れない日々は続いている。風車稼動後すぐに症状が出た。今までとは違う体の感覚で、夜眠れなくなった。寝ついても、夜中2時~3時頃起こされてしまう。そのような時間に起こされるものだから、毎日寝覚めが非常に悪い」
(愛知県豊橋市細谷風力発電所1500kw1基から3kmの場所に住んでいるOさん男性)

「音はしないのに、夜眠れない。毎晩2時、3時になると、妙な感覚で目が覚める。音ではなく、耳の奥でグワー、グワーと渦まくような感じ。風車稼働後、半年経ってから不眠症状が出始め、最初はなぜなのか分らなかったが、だんだんとその響きのリズムが風車の回転と一致している事に気がついた。今も睡眠不足の状態がずっと続いている。先日、ついに仕事中に睡魔に襲われて車をぶつけた。妻は眠れない苦しさから実家に帰ってしまい、やむなく別居生活になった。たった1基の風車が建ったおかげで被害は甚大、生活はめちゃくちゃだ。今でも月一で事業者と話を続けている。土地を売ろうにも、こんな状況になった土地を買う人などいないだろう」(細谷風力発電所から1km以上離れた場所に住むMさん男性)

「風車が来てから病院通いばかりになった。稼働後半年くらいで体調が悪化して入院。検査したら心臓の回りに水がたまっていた。検査しても原因が分からない。風車が少しでも回ると耳の奥が痛くなる。風車から離れると症状は和らいで楽になる」(同・700m Nさん女性)

「胸を前後からグーッと圧迫されている感覚で、常に苦しい。医者に行っても異常がなく、更年期障害ではないかと片づけられてしまう。苦しさは風車が稼働してから始まり、風車から遠ざかれば和らぐ。でも、誰も理解してくれず、低周波による被害とも認めてくれない」(同・700m Mさん女性)

静岡県東伊豆町天目山にあるCEFウィンドファームでは、試験運転中にブレードがちぎれて飛ぶという事故を起こした後、しばらく運転を見合わせていましたが、試験運転再開後、やはり付近の住民からは同様の訴えが起きています。以下は、風力発電問題研究会(代表者・覚張進)が、建設地周辺住民に対して行った聞き取り調査をまとめたものです。

「とにかく気力がなくなった。イライラする(複数)。怒りっぽくなった」
「眠れないので睡眠薬を飲む(複数)」
「歩いていて風車から風下にむかうと、腰がだるく、痛い。風上に向かう場合は何でもない」
「関節が痛い」「せみが鳴いたような音が耳もとでたえずする」「鼻血が出た(複数)」
「夜、我慢できなくて車に乗って移動し、(風車から離れている)役場駐車場で夜を過ごした」
「少し離れた別の分譲地に行き、毛布を持って車の中で過ごした」
「家で寝られないので、キャンピングカーで寝るようになった」
「家に住んでいられない。引っ越し先の物件を探している」
「我慢できず夜の避難所としてアパートを自費で借りた」
「飼っている犬が落ち着かなくなり、嘔吐を繰り返す」
「朝起きると肩が張り時には吐き気がする。頭が痛いので脳外科でレントゲンを撮ったが異常なし。耳鼻科に行くように言われた」


こうした声がメディアに取り上げられることはほとんどありません。その理由のひとつには、
「この町は(風力発電に出資している)大企業T社に食わせてもらっている。苦しんでいる人はいっぱいいるが、言えない。耐えきれなくなった人たちは、家を捨てて遠くへ出て行った」(田原市・田原臨海風力発電所付近の住民前出の渥美半島での聞き取り調査より抜粋)といった事情もあるからでしょう。
風力発電建設地は、人口減や財政赤字に苦しむ地方の過疎地が多いため、少しでも地域にお金が落ちるなら……と、口をつぐむ人たちが多いのも事実です。弱者の声を封じ込めることで推進・維持されているという風力発電事業の負の一面を知ってください。

●風力発電事業者による非紳士的、あるいは違法性の高い行為について

保坂展人衆院議員が平成二十年九月二十五日に政府に提出した質問書(質問第一九号「風力発電施設に関する質問主意書」)および、平成二十一年三月三十日提出の質問書(質問第二五六号「風車による健康被害と補助金交付認定に関する質問主意書」)において、風力発電事業者の事業の進め方に対する疑義が具体的に記されています。
これは私たちも、福井県美浜町新庄地区や静岡県の東伊豆、南伊豆の建設地・計画地付近に住む人たちからの報告や資料を得て、事実に間違いないであろうと認識するに至っています。
福井県美浜町新庄地区では、住民208人が共同で保有する入会林約6千ヘクタールの森林に、株式会社クリーンエナジーファクトリー(本社北海道根室市。鎌田宏之社長。以下CEF社)が大型風車群を建設しようとしています。
ここでは、入会林の権利者全員の同意を得ないまま、区長や入会林管理責任者に協力礼金などの話をし、協力を要請しました。その結果、住民が事業の問題点や全貌を知る前に、事業者側の説明だけが一人歩きし、地区の住民全員を巻き込む論争・混乱に発展しました。
補助金申請などの手法にも大きな疑問があります。本来、地元住民全員、建設予定地の地権者全員の同意が必要なはずの補助金申請ですが、そうしたものがないにも関わらず、「貴社の求める用地貸借契約に関する協議を継続します」という文面の「意見書」を「同意書」として経済産業省への新エネ事業補助金申請や保安林解除申請が行われたと疑われる事例も報告されています。
静岡県の東伊豆、南伊豆でも、まったく同様の手法が使われました。
私たちはこうした現場からの直接、かつ具体的な事例報告を受け、風力発電事業者の事業の進め方に問題があることを認識しています。
衆議院での保坂議員の質問書も、まさにこうした現状を指摘していますが、政府は一括して「そうした事実はない」と回答しただけでした。

福島県内の事例として、CEF社が川内村で行おうとしている「CEF福島黒佛木ウインドファーム事業」を取り上げてみます。
CEF社が事業内容を説明するために村役場を初めて訪れたのは本年(平成21年)4月2日です。
それ以前に村が関知しているのは、平成19年9月28日に出された現地調査のための入山申請が最初で、翌平成20年1月10日に調査のための村有林地貸付申請と雑木などの払い下げ申請と続きますが、すべて風況調査目的のものであり、具体的事業計画について村は一切説明を受けていません。
しかし、すでに昨年12月の段階で、CEF社は村内の複数の集落区長宅を直接訪ね、区民を集めて説明会を開いています。
その事実を村は今年3月中旬まで知りませんでした。
昨年12月といえば、環境影響評価方法書縦覧も始まっていません。関係自治体へ何の説明もない、正規の手続きもまったくない段階で、先に近隣住民を説得するという手法が許されるものでしょうか。
強引な手法が各地で次々と問題になり、住民から違法性を指摘されているにもかかわらず、風力発電事業者はなんの反省もなく、福島県内でも同じことを繰り返しているのです。
(以上は当事者、当該者からの直接聞き取りによるものです。また、ここに公表できない内部資料や具体的な事例も把握しています。)

●風車の破損事故について

風車の耐用年数は17年とされていますが、実際には稼働直後に破損、倒壊などを起こしている例が多数あります。
以下、いくつか事例を挙げてみます。

・2003年9月、宮古島の風力発電用風車が支柱の根本から倒壊。風速60メートルまで耐えられる設計だったはずが、台風の強風に耐えられなかった。
・2005年2月、釜石広域ウインドファーム(岩手県)で風車3基のブレードが破損。ここは2004年12月の開業前の11月にも2基のブレードが折れたばかりで、開業前後3か月あまりの間に5基のブレードが次々に破損。
・2005年11月、南あわじで風力発電用風車のブレード(長さ37m。2000kw級)が根元から裂けて破損。
・2007年1月、岩屋ウインドファーム発電所(青森県東通村)で風車が根こそぎ倒壊。高さ68メートルの鉄塔が基礎の鉄筋コンクリート部分から破損して根本から倒壊した。
・2008年1月、北海道室蘭市所有の風力発電所でブレード1枚(長さ27m、重量4t)がちぎれて落下。
・2008年4月、CEF伊豆熱川ウインドファーム(静岡県東伊豆町)で、1500kw風車2基の羽根2本(長さ38m、重さ6.5t)が根本から折れて落下。飛散したブレードの一部が町道をふさいだ。同年1月に試験運転を始めた直後の事故。
(以上、各新聞等の記事、風力発電事業者の報告より)

風車事故調査の報告書(NEDO作成。平成20年2月=右参照)を見ると、事故の原因のうち「自然現象」が34.5%、「原因不明・その他」が34.7%で、実に全体の7割が「自然現象か原因不明」という、おおらかな報告となっています。これを見ても、風力発電設備とその維持技術がまだまだ未成熟であることが分かります。

●風車耐用年数経過後の撤去について

大型風車の耐用年数は17年とされています。
17年後に撤去する際、その費用がいくらかかり、誰が撤去を完了するのかという基本的な事項が確認されないまま工事が着工している事例が多数あります。
福井県の美浜町新庄地区の場合、地元の説明会(平成19年11月10日、均米地区集会。山口治太郎美浜町長、CEF鎌田宏之社長が同席)において、CEF社鎌田社長は17年後の撤去費用について「ほとんどが鉄だから、スクラップ代で費用は賄える」と発言しましたが、CEF社で責任を持って撤去するとは約束しませんでした。
町長も、「(風車建設で入る)固定資産税を新庄だけのためには使用できない」と答え、結局、事業者も自治体も最終的な後始末に責任を持たないと表明しています。
大型風車を完全に撤去するのにかかる費用がどれくらいになるのかは、まだ実際に耐用年数を終えた風車がないため信頼すべきデータがありません。
東伊豆町の町営風車(三菱製600Kw×3基)では、撤去・廃棄のために5000万円の基金を積んでいますが、町議会では「1億円位にしておかないと不安がある」という意見も出ています。
600kw×3基でこの金額ですから、「CEF福島黒佛木ウインドファーム事業」の2500kw×26基という規模のものとなれば、撤去費用が莫大な金額になるのは目に見えています。将来、こうした巨額の費用が発生することが明らかなのに、それを誰が負担するかも決めないまま事業を進めるというのはあまりにも無責任です。
17年というのは決して遠い将来の話ではありません。また、これから先の経済状況の変化、政権交代による国策の変更などにより、事情がどう変化するかは分かりません。
現時点でも補助金や強制的な売電優遇なしでは成立しえない風力発電事業が、今後いつまで続けられるのか、大いに疑問です。風力発電事業者が次々に倒産していった場合、最終的な後始末をすることになるのは、もともと体力のない地方自治体しかありません。県には、そこまでしっかり見越した上での適切な判断、政治的決断を心から望みます。

●風力発電の根本的問題点と世界的に見た風力発電ビジネスの今後

風力発電が国策として推進されていることの背景にはいくつかの理由があります。
表向きは二酸化炭素排出量を抑えて地球温暖化を防止する有力な方策であることが理由にされていますが、二酸化炭素が温室効果ガスのひとつであることは確かだとしても、それがどれだけの温暖化現象を引き起こしているかについては多くの異論が存在します。
地球温暖化と二酸化炭素増大の関連にしても、二酸化炭素濃度の上昇と気温上昇を重ねてみると、気温上昇が先行していることを示しており、「気温が上がったから、海中に溶けていた二酸化炭素が大気中に放出され、濃度が上がった」とする見方が妥当であるとしている学者も多数存在します。
左のグラフはErnst-Georg Beck教授(ドイツの生物学者Merian-Schule)が2007年に発表した論文『180YEARS OF ATMOSPHERIC CO2GAS ANALYSISBY CHEMICALMETHODS』にある1812年~1961年の大気中二酸化炭素と気温の変化についてのグラフですが、1920年からの気温上昇は二酸化炭素濃度上昇に先行していますし、それ以前1820年代の二酸化炭素濃度は現在よりも高かったことを示しています。
そもそも、真に危惧すべきは、温暖化よりも寒冷化ですし、将来枯渇することが分かっている石油資源をいかに節約するかということこそが重要です。
風力発電施設は風が吹かなければ発電しません。いつ発電できるかは予知できず、人間は一切コントロールできません。バックアップとして用意される火力発電所では、発電を抑えたとしても炉を頻繁に完全停止することは難しく、効率のよい燃焼が阻害されます。
不安定な風力からの電力に備えて燃費の悪い運転を余儀なくされるのでは、まったく本末転倒です。
風力発電の実績にしても、発電総量(電力が余剰していて発電が不必要なときにも法律で強制的に買い取らせている無意味な発電量も含めた単純な売電量合計)を示して「これだけ貢献している」と主張するのは欺瞞です。
風力発電によってどれだけ石油資源が節約できたか(火力発電施設での発電量の減少ではなく、相対的な石油消費量の減少)が示されなければなりませんが、そうしたデータは発表されません。風力発電が石油資源消費を減らせないのであれば、なんのために建設するのでしょうか。

二酸化炭素による地球温暖化脅威説について論じ始めると膨大な紙面が必要となるため控えます。ここでは、世界が「環境外交」という新たな覇権戦略、経済戦略を展開しているという視点を紹介するにとどめます。
NEDOは風力発電をはじめとする新エネルギー事業を推進するための組織として存在していますが、そのNEDOが作成した資料の中にも、いくつか注目すべきことがあります。
風車先進国と言われるドイツとスペインは、1996年以降、毎年風力発電実績を増やしてきましたが、2002年から2003 年にかけて、初めて前年度より減少するという状況になりました(下の表参照)。

原因は、

(1) 環境公害の顕在化(騒音、低周波健康被害、景観・自然破壊など)
(2) 機器トラブルの頻発
(3) 不安定な出力を増大させることによる送電系統への悪影響
(4) 無理な補助金投入などを進めた結果の電力料金の高騰の恐れ
(5) 好風況の風車適地の蕩尽

などです。
頭打ち傾向を打開するため、欧米諸国では、今後は風力発電を有力な「輸出ビジネス」としてとらえ、主にアジアへの輸出により経済効果を上げようと施策転換しています。
思えば、今や世界を代表する風車メーカーであるVestas(デンマーク)は、かつては農機具や、一時期は台所用品なども作っていた中小企業でした。世界的複合企業GE は日本では原発メーカーとしても有名ですが、近年は経営不振にあえいでおり、風力発電部門に大きな期待をかけています。
風車ビジネスを展開する欧米の企業にとって、日本は格好のターゲットになっています。(参考:グリーンインダストリー風力発電「米・中を舞台に競争激化」日本経済新聞2009 年4 月21 日朝刊の記事など)

山岳地が多く、風も一定していない日本はもともと風力発電にはまったく不向きな土地柄です。それでも日本政府が後押しし、無理を重ねてここまで大型風車建設が進められてきた背景には、巨額の金が動く世界的なパワーゲームが存在しています。
本来、ローカルな小規模発電手段として出発した風力発電が、いつしか発電目的よりも経済戦争の道具に変質してきたというグローバルな認識、視点を持たないと、この問題の本質は見えてきません。
「地方の時代」ということが言われてすでに久しいですが、地方が生き延びていくために本当に必要なものは何なのか。巨大な経済ゲームに翻弄されることなく、足下を固めた等身大の経済活動を確立していくことではないでしょうか。
……風力発電問題は、こうした根源的な問いを投げかけているように思われます。

かなり大きな話にまで言及することになりましたが、これ以上大型風車建設を受け入れることは、このように、様々な点から大きな負の遺産を作ることになるでしょう。県にとって、そして何より県民のためにならないことを、どうぞご高察ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



提出した書類・資料は、以下のPDFで閲覧可能です。

右クリックで保存してください2009年5月12日福島県自然保護協会が福島県知事に提出した「大型風力発電事業に伴う健康被害、自然破壊の対策についての要望書」(PDF 15.3KB)
右クリックで保存してください2009年5月12日福島県知事に提出。「大型風力発電事業に伴う健康被害、自然破壊の対策についての要望書」の補足資料1(PDF 17.4KB)
右クリックで保存してください2009年5月12日福島県知事に提出。「大型風車建設に関して、建設候補地周辺で暮らす住民より県知事へのお願い」(PDF 712KB)
右クリックで保存してください2009年5月12日福島県知事に提出。「地図資料」(PDF 1.16MB)

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