夏が来た!

構想・打鍵:Zeke

 この作品はフィクションであり(株)ELFの作品「同級生2」の作品世界を使用しております。
 尚、ここに登場する、人物、名称、土地、出来事、名称等は実際に存在するものではありません。



 しょわしょわしょわしょわ…
 じーじじじじ……
 み〜んみんみんみんみんみんみん……

 抜けるような青空、さんさんと降り注ぐ陽の光、そしてその季節の到来に歓喜の鳴
き声を上げるセミ達。それら全てが夏という季節の到来を告げていた。
 だが、見方を変えれば……、
 抜けるような青空は良いとして、カンカン照りの陽射し、肌にまとわりつく湿気を
帯びた空気、おまけに7月初旬と言えば、期末テストの真っ直中。
 いくらテストが終われば夏休みを待つばかり、とは言っても現実にテスト期間の最
中にある学生にとっては、先の楽しみより目前の苦行の方が精神的な負担になるとい
うモノだ。
 結果、元気の良いセミの声も、
 むぃ〜んむぃんむぃんむぃんむぃんむぃん………
 というような、暑さを助長する鳴き声に聞こえてしまう。実際、午前中だというの
に気温は既に30度を軽く超え、今朝の最低気温も28度という今年3度目の熱帯夜。
 7月初旬なのに……

 そんな炎天下の中、とある道を歩く3つの影。
「あぢぃ〜〜〜」
 その中の1人、ソーダアイスを斜に喰わえたいずみが呻いた。セリフにしても仕草
にしても、とても東証1部上場企業の社長令嬢には見えない。もっともだらけた格好
をしているのは彼女だけではない。彼女より頭ひとつ分高い龍之介にしても、彼女よ
り更にだらけた格好で、
「あちぃあちぃ言うな。益々暑くなる」
 同じくソーダアイスをかじりながら文句を垂れていた。

 テストは初日の2教科が終わったばかり。残り4日の長丁場である。と言うことで、
2人がだらけている理由は暑さばかりが理由では無いのかもしれない。
 だが、2人の背後にいる人物はその暑さが身に堪えないのか、
「わっはっは。2人とも修行が足りないぞ。心頭滅却すれば火もまた涼しという諺を
 知らんのか」
 龍之介よりも更に頭2/3高い位置から声を張り上げる。どうでもいいが、このく
そ暑いのに学生服まできっちり着込んでいた。おまけに詰め襟までもしっかりと……
 心頭滅却というより、心身滅却という出で立ちだ。
「やかましい、この特異体質っ! 寄るだけで暑いわっ!」
 振り向きざま、あきらに向かって龍之介が吠えた。ガタイが良いだけあって体熱の
放射面積が広いせいだろうか? それ以前に精神的に暑苦しいのかも知れない。
「人を地球外生命体みたく言うな。これでも一応各所にメッシュが入っている清涼スー
ツならぬ清涼ガクランなんだぞ」
 およそ自慢になりそうに無いことを胸張って説明するあきら。そんなことを自慢し
なくても彼には大いに自慢できる事があるのだが。
「言ってろボケ」
 相手をするのに疲れたのか、そんな言葉をあきらに投げつけ、龍之介は『Mute』
のドアを押した。

 カランという音と共に、冷房の効いた店内の空気が3人の頬を撫でる……筈だった
のだが、何故か出迎えてくれたのは外気とさして変わらぬ熱風だった。
「なんだこりゃ?」
 とは言ってみたものの、店内には変わった所はない。空調を効かせている季節にし
ては珍しく、窓(実際には排煙窓)が全開で開いている程度だ。もっとも、それだけ
で何がどうなっているのか容易に想像がつく。
「なんだよー、冷房点けようぜ」
 風の通りが良いのか、カウンターではなくテーブル席に腰掛けている愛衣に龍之介
が訴えた。確かに直射日光を受けない店内は外に比べれば若干涼しく感じられないこ
ともない。だが、此処は飲食店である。火を使えばそれらは全てチャラになってしま
うのだ。
 もちろん愛衣にしてもマスターにしても、そんな事は言われなくてもわかっていた。
要は点けたくても点けられない事情があったのだ。
 その事情とは……
「これ、お店の入り口に貼って置いて」
 そう言って、愛衣が龍之介の目の前にヒラッと一枚の紙を掲げる。その紙にはこう
書かれていた。
『冷房故障中』
 ……と。
 瞬間、3人の顔がそれとわかるほど強張った。そして一糸乱れぬタイミングで回れ
右をし、入ってきたばかりのドアへ向かい掛ける…… のだが、
「こほん…」
 愛衣ではない誰かの咳払いによりそれは中断された。と同時にまたも3人表情が強
張る。
「10分くらい前から待ってるみたいだけど」
 今度は愛衣の声。その声に恐る恐る振り返る3人の視線の先には、自分らを呆れた
ように睨み付ける水野友美の姿があった。

※
「私は別に良いんだけど?」
 恐らくこの暑さで『あっ』と言う間に溶けてしまったのだろう、小指の先ほどになっ
てしまったグラスの中の氷をストローでつつきながら友美が言葉を継ぐ。
「夏休みに補習を受けたいって言うなら……」

 何処の学校でもそうだろうが、成績が芳しくない者はそれを補うよう夏休み中に補
習を受けるよう学校から下命される。とは言ってもそれは一種の罰みたいなもので、
大概は夏休みが始まってから1週間、それも午前中だけのカリキュラムが組まれる程
度だ。
 しかし八十八学園は違った。それこそ成績を矯正させるが如く、8月始めまでの2
週間、午後4時までという学習塾の強化合宿(とまではいかないが)のようなカリキュ
ラムが組まれているのだ。
 中には自ら進んでその補習に出てくる者もいるというが、龍之介などはその対極に
位置する人種である。
 ちなみに補習の対象者は4月の学力考査、中間試験、6月の学力考査、期末試験と
ほぼ1ヶ月毎にある試験の内、1回でも基準点を下回った者。だが、龍之介は過去3
度の試験に於いて、いずれもこの基準を楽々クリアしていた。
 問題なのは4月の学力考査を基準に、折れ線グラフが右肩下がりに下がっている事
と、今回の期末テストでその落差が大きいと、基準点を下回ってしまうことだろう。
 あきらはと言うと、補習ボーダーの少し上をフラフラと飛んでいるような折れ線グ
ラフが描けるような成績になる。
 面白いのはいずみで、まるで龍之介と示し合わせたかのように同じ軌跡を辿って下
降していた。勝敗こそ彼女の2勝1敗だが、総得点数の差はいずれも5点以内という、
勝ってもあまり自慢にならない得点差に収まっている。
 そんなわけで彼女の場合、補習云々よりも(もちろんそれもあるが)龍之介が自分
より上に行くのが許せない――更に言うなら、それを理由にしてコケにされるのが我
慢ならない――というのが理由になるだろう。
 理由については3人3様だが、補習にリーチが掛かっているという点については共
通している。そこで登場願ったのが友美だ。
 過去3度の試験に於いて、総合得点で3連続トップを成し得た才女。その知識の高
さは言うに及ばず、試験問題を予想する能力にも長けている。当然彼ら3人に必要な
のは後者であるのだが、せっかくの予想問題も解けなければ話にならない。
 という事で、それらをひっくるめてテスト直前短期集中講座が催される事になった。
 もちろんこれは友美の厚意があってこそなのだが、当の3人は冷房が壊れていると
いう理由だけで、友美の厚意を無下にするつもりだったのだ。
 これでは友美が呆れるのも無理はない。

「しかしだなぁ、この暑さじゃ何をやっても頭に入らないぞ」
 ぶつくさと不平を漏らす龍之介。だが、友美聞く耳を持たず、
「心頭滅却すれば火もまた涼しって言うでしょ?」
 といった具合でまともに取り合おうとはしない。
「友美までこの柔道バカと同じ事を言うのかよ」
 何か裏切られた様な気分だ。それに追い打ちを掛けるかのように、
「わっはっは。俺の勝ちだな、龍之介」
「えーい、寄るな。暑苦しい」
 それ以前に、男2人が絡んでいる状況の方が遙かに暑苦しい。それに耐えかねたの
だろう、
「やる気のない人は放って置いて、始めましょ、いずみちゃん」
 先へ進もうとする友美。そのセリフに対抗心を燃やしたのか、
「待て待て、俺もやるぞ。コイツにだけは負けられん」
 急に張り切る龍之介。
「誰がコイツだって?」
「お前だ。で? 何から始めりゃいいんだ?」
「もう少し待ってて。今、都築君がコピーを取りに行ってくれているから」
 何しろこの面子である。いかな友美とは言え、1人で面倒を見きれるものでは無い。
それを哀れに思ってくれたのか、手伝いをかって出てくれたのだ。
 しかし、
「なんだ、あいつも補習にリーチなのか。しょうがねぇな」
「あれ? でもこの前の試験ではベスト50に入ってたぞ」
「(剣道)部に入って以来、竹刀で叩かれてばっかいるから、不安になったんじゃな
 いか?」
 自分達を基準にして考えるとこうなるらしい。フォローする気にもなれないのか、
友美は黙ったままだ。実際にはその必要が無かったからなのかも知れない。

「言いたいこと言われてるなぁ」
 噂をすれば…という訳でもないだろうが、樹登場。言いたい事を言われているにし
ては、さして怒っている様子はない。事実(友美1人じゃ手に負えない云々)を述べ
て波乱を起こす事も無いと考えているのか、「どさり」とテーブルの上にB4のコピー
用紙の束を乗せ、
「一応、5枚ずつ取って来たけど、どうする?」
 友美に聞く。
「そうね…… 一通りやって貰って、理解してない処があったらチェックしましょ。
 1時間くらいかしら?」
 7枚を1綴りにしながら、備え付けの時計を見上げる。恐らく所要時間の話だろう。
「厳しいね。90分ぐらいじゃないかな」
 友美も自分を基準にするきらいがあるらしい。もっとも、彼女の場合は他人の話に
も耳を傾ける事が出来る。
「うーん…、じゃあ90分」
 と言って、3人にプリントの束を手渡す。手渡された3人はそのプリントをパラパ
ラと捲り、
『うっ…』
 全員が一様に息を呑んだ。まあ、7枚中6枚のプリントにびっしりと英文が書き込
まれていたら、誰でもそういう反応を示すだろう。
「なんだよ、これは」
 確かに明日の試験に英語はあるが、日本語と英語の比率が1:9ぐらいしか無いの
では龍之介でなくても文句を言いたくなるだろう。
「何って、長文読解よ。習ってない単語がちょっと出てるけど、前後の流れから読み
とれる筈だから」
 あっさりと言ってくれる。
「前後の流れったって、その前後がわからないぞ」
 途方に暮れるあきらの声。わかる話だ。
「大丈夫よ、有名な小説を英訳しただけだから。但し、問題になっている箇所はそれ
なりに捻ってあるけど。そこが明日の試験に出ると思われる所よ」
 小説を英訳してしまう辺りに、次元の違いを感じてしまう3人だったが、このまま
無為に時間を潰すわけには行かない。
「まあ、そういう事ならやってみるか」
 渋々と言った感じでいずみが取りかかると、それに追随する形で残りの2人もよう
やくプリントに取りかかった。

※
 それから5時間余り……
「はい、お疲れさま」
 午後4時半。この一言で、途中昼食時間を30分取っただけで続けられた集中講座
の幕が下りた。
「一応ツボは押さえてあるから、明日に関してはこれで大丈夫だと思うわ」
 そう、試験は明日で終わるわけではないのだ。解っていたことだが、改めて言われ
ると精神的重圧が増す。しかし友美には3人の心情が伝わらなかったのか、
「あ、でも家に帰ったら、一応復習してね」
 きっちり追い打ちをかけてくれる。もっとも、他の4人の反応は無く、
 ぐったり……
 疲れ切っていた。樹の場合は、説明疲れだろう。説明する相手が龍之介とあきらな
のだから無理もない。
 そんな訳で、いつもなら友美の鬼のような発言に難癖を付ける龍之介も、今日ばか
りは精も根も尽き果て、声も出ない様子。

 からん…
「うっわ、何これ?」
 このセリフが、空調が効いていない店内の環境に対する言葉なのか、築地市場の近
海マグロ(冷房が効いていないこの状況では冷凍マグロとは言えない)よろしくテー
ブルの上に突っ伏している4人に向けられたものなのかは定かではない。
「なんだ。哀れなモンだな」
 綾子の後から入ってきた洋子が、今度は紛れもなくマグロ状態の4人に向けて言葉
を発した。そして最後に入ってきた唯が、
「そっかな? 洋子ちゃんもテスト期間中はこんなもんだったと思うけど」
 その洋子に向かって茶々を入れる。他人事然として言っていられるのは如月一女の
期末試験は先週末に終わっているからだ。
「まあ、何にしてもご苦労様ってトコだな。そっちは今週いっぱいだっけ?」
 唯一生気を宿している友美に洋子が訪ねる。
「うん、あと4日。保つかしら?」
 他人事のようにマグロ状態の4人に目を向ける。
「ま、ダメなら大人しく補習を受けりゃいいんだろ? 自業自得さ」
 こちらは本当に他人事なので容赦が無い。
「夏休みを1/3も削り取られて大人しく我慢できるかっ!」
 マグロ一体が叫ぶが、
「じゃ、せいぜいガンバんな。私らは夏休み中の予定を立てるからさ」
 ひらひらと手を振り、ひとつ隣のテーブル席に着く3人。と同時に龍之介の目に生
気が戻った。
「なんだ? どっか行く予定なのか?」
 遊びの話になると疲れも忘れられるらしい。
「うん。海に行こうかって…」
「芋洗い海岸にか?」
 八十八町にも海岸はあるのだが、狭い上に海水浴日和になると近郊からドッと人が
押し寄せるので、のんびり海水浴を楽しむという訳にはいかないのだ。当たり前だが
『芋洗い海岸』という名称の海岸があるわけでは無い。念のため。
「ううん。ちょっと遠出して一泊二日くらいで行こうかって」
「なんだ、たかだか一泊か。こっちは凄いぞ、南国パプアの篠原プライベートビーチ
でリッチな一週間だ」
 何にでも対抗心を燃やす龍之介。具体的なことは何一つ言わず、リッチの一言で済
ますあたりが嘘くさい。
「何処だよ、パプアって」
 その底が浅い嘘に呆れていずみが言い返す。
「いや、別にパプアじゃなくてもいいぞ。どっか無いか? きれいなねーちゃんがわ
んさといるプライベートビーチ」
 プライベートビーチかどうかは知らないが、篠原直轄のビーチホテルがあるのはい
ずみも知っている。だからと言って、自分がどうこう出来る立場では無いのだが。
「ないよ」
 あっさりと言い切られ、龍之介の野望は露と消えた。……が、
「きれいなおねーさんはいないけど、可愛い女の子が泳ぎに行く場所なら教えて上げ
るわよ」
 失意の底にあった彼に救いの手を差し伸べる声。
「マジ? 何処?」
「私たちが泳ぎに行く場所」
 ちょっと“しな”を作って自信たっぷりに言い切る綾子。
「だから、それは何処さ」
 その“しな”の意味が分からないのか龍之介が質問をかぶせる。
「何で分かんないかなぁ…… いーい? 私たちが行く所なら私たちが居るじゃない」
 それはつまり……
「……さて、帰って明日の試験勉強をしなきゃ」
 ガタガタと身の回りを片付け始める八十八学園の面々。
「ちょっ… 何よそれ」
 憤然と鼻を鳴らす綾子だが、最早当然… いや、お約束通りのリアクションだ。彼
らも決して綾子が可愛くないから席を立とうとした訳ではない… だろう。

「でも女の子同士の旅行なんて良く許してくれるなぁ」
 外見上、とてもそうは見えないが(問題発言)、一応箱入り娘のいずみが羨ましげ
に溜息を吐いた。男の子と一緒だともっと厳しく咎められるとは思うが。
「それがさぁ、そうでもないのよ。ウチの親なんか『女の子だけで泊まり掛けの旅行
 なんて物騒だからいけません』とか言っちゃって」
「あ、やっぱりどこの家でもそうなんだ」
 密かに安堵するいずみ。だが、ふと疑問が頭をもたげた。
「じゃ、なんで予定立ててんだ?」
「物騒−(マイナス)物騒で相殺されるからじゃないのか?」
 いずみの疑問に龍之介が洋子を見ながら答える。言い得て妙だ。それをボディガー
ドには事欠かないという意味に取ったのだろう、
「私もそう思ったんだけどさ、納得しないらしいんだ。女って損だよなぁ」
 ぼやいてみせる。
「そんなワケで… お願いっ、綾瀬君」
 龍之介に向かって両手を会わせ、ウィンクを飛ばす綾子。ちょっと小首を傾げたり
して、可愛くおねだり。
「綾ちゃんと2人だけってなら喜んで… てっ」
 言い切る前に、消しゴムが頭部に命中した。
「正気か? こいつが一緒に行く事自体物騒じゃないか」
 遠距離攻撃が得意な弓使いの面目躍如だ。
「大丈夫。唯と友美が一緒なんだから。ウチの両親も『それなら安心だ』って言って
 るし」
 何か激しく間違っている気がしないでもないが、
「なるほど。俺って結構信頼されてるんだな」
 きりりと顔を引き締め、うむうむと頷く龍之介。
「友美と唯のオプション装備品としてなら、って事だけどね」
 極めて限定的な信頼だった。
「……俺の立場は?」
 唇を尖らせて不満を口にするが、今度は唯が
「唯もお母さんから『駄目よ』って言われたけど、お兄ちゃんと一緒ならいいよって…」
 既に水面下で色々あったらしい。つまり綾子の両親が何と言おうと、龍之介が駆り
出されるのは決定事項だったと言うわけだ。
「ちょっと待て。俺はまだ行くとは言ってないぞ」
 自分の知らない処でコソコソやられ、それをあっさり受け入れるほど龍之介は素直
な性格ではない。だが、もちろん彼女達がそんな事を知らないワケが無く、
「ほら見ろ。こいつが自分から私らに付き合う訳無いだろ」
 中でも一番口が悪い洋子が代表してその事実を述べる。
「だって、やっぱり自主的に気持ち良く付き合って貰いたいじゃない」
 さっきから「自分から」とか「自主的に」とかまるで最初から龍之介が一緒に行く
事が決まっているかのような会話だ。
「甘い甘い。やっぱり正攻法で行かないとな。……と言うことで綾瀬、補習が嫌なら
大人しく付き合って貰おうか」
 明らかな脅しである。これを正攻法と言い張るあたりが洋子らしい。
「お前らと一緒に海へ行く事と補習の間になんの因果関係があるんだよ」
 会話の内容がわかっていない龍之介に、
「友美ちゃん無しじゃ補習は濃厚だよね」
 唯がわかり易く言い換える。
 つまりはそう言う事だった。100%の厚意で試験勉強を見てくれていた訳では無
いようだ。その事に気付いた龍之介が、友美の方を顧みると、
「私だってごみごみした海より、ゆっくり泳げる海の方が良いもの」
 平然と言ってくれた。この一言でトドメを刺された感じだ。幼馴染みとは斯くも脆
い絆だったらしい。

 


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