Top  Secret

構想・打鍵:Zeke

 この作品はフィクションであり(株)ELFの作品「同級生2」の作品世界を使用しております。
 尚、ここに登場する、人物、名称、土地、出来事、名称等は実際に存在するものではありません。

 その前に此処をクリック
 某月某日 綾瀬ラボ

「誕生日? 9月7日だけど?」
 教え子から受けた問いに、その部屋の主である助教授殿は明快に答えた。そして、
「いやー、何が嬉しいって、教え子から誕生日プレゼントを頂けるほど嬉しいことは無
いね」
 嬉しそうに続ける。何故なら普通、「誕生日って、いつなんですか?」と聞かれたら、
当然聞かれた当人の誕生日を聞いている筈だし、プレゼントを期待してもバチは当たる
まい。
 …だが、聞いた人間が普通じゃなかった。

「…誰が先生の誕生日を聞いているんですか?」
 なにしろ聞いた本人、彼の不肖の愛弟子(思いっ切り誇張有り)は、顰(しか)めっ
面でそう言い返して来たのだから。
「誰がって… 君が聞いたんでわないか。……悪かった、それは復元するのに丸1ヶ月
掛かったシロモノなんだ。それなりの扱いをしてくれ」
 愛衣が右手で不安定気味に持ち上げたブツを見て、助教授殿は早々に白旗を揚げた。
とは言え、前述の通り「誕生日って、いつなんですか?」とだけしか聞かれていないの
は事実なので、彼に落ち度は無いはずだ。表面的には… 
「しかし、君ら付き合ってるんだろう? 誕生日ぐらい本人に聞けばいいじゃないか」
 取り敢えず「1ヶ月の成果」の安全を確認した助教授殿は、遠回しに聞かれた愛衣の
問いに対し、逆に疑問を投げかけた。
 もちろんその疑問に対する答え期待したわけではない。要は、

『からかうネタが向こうから飛び込んで来たのに、そう簡単に教えちゃ勿体ない』

 という大人げない考え故だったりする。
「聞きました。適当にはぐらかされましたけど」
 それを知ってか知らずか、愛衣は至極簡単に答えた。相手が相手なだけに一筋縄では
行かない事は承知の上だ。余計な情報は与えないに越した事は無い。
 その上で『適当にはぐらかされた』理由まで知りたいところだったのだが……
「…ふぅん。なんだ、その程度(誕生日も教えて貰えない程度)の仲なのか」
 勝ち誇ったような助教授殿に、愛衣は自分の考えが甘かった事を認識した。斯くなる
上は、被害が拡大しない内に引き上げるのが最上の選択だろう。ここで弱みを見せると
取引材料を与えてしまう事になる。これまでの対戦成績が2戦2敗では慎重にならざる
を得なかった。
「わかりました。今の話は聞かなかった事にして下さい」
 そう言って、愛衣は手に持った復元物を積み上げられた書籍の上に無造作に置くと、
助教授殿にくるり背を向けた。
「あれぇ いいの? そんなに警戒しなくても無償で教えてあげるのに」
 『無償で』と言う辺りが既に胡散臭い。無論その言葉を真に受けるほどお目出度くは
なかった。
「ええ。先生、お忙しくなりそうなので」
 部屋を出た辺りで回れ右をし、軽く一礼。
「いや、今はさほど忙しくは…」
 無いんだけどね、と言い掛けて綾瀬は目を見張った。彼の目に映ったのは、ユラユラ
と揺れる積み上げられた書籍、更にその上から彼の“血と汗と涙の一ヶ月の産物”が今
にも落ちそうに…、て言うか落ちた。
「うわっ、ちょっと待ったぁっ!」
 地球の引力に引かれ落ちていく復元物に向かってダッシュ&ジャンプ。その我が身を
顧みない行為が実を結んだ。ヘッドスライディングよろしく滑り込んだ彼の手に、予め
仕組まれたように復元されたブツがすっぽりと収まる。
「ふ、ふふふふ…… やりました、ヒーロー・アヤセ!」
 顔面を強かに打ちつつも、不敵な笑いを漏らす中年男。ちなみに彼、その手腕や人望、
その他諸々の評価(彼の身の回りの評価はさして高くないようだが)とファーストネー
ムのヒロフミから、国外では『ヒーロー』の2つ名を頂いている。

「ふー、やれやれ… しかしこの程度の事で拗ねるなんて、なかなか可愛いところもあ
るじゃないか」
 などと余裕の発言をこいたその瞬間(とき)、叶愛衣の仕掛けた罠が完全に口を開け
た。最上部にあった重量物を失いつつも、何とかバランスを保っていた書籍の山が、彼
に向かって…、
 ドドドドド……
「おおっ……!?」
 避ける間もなく大量の書籍に埋もれる助教授殿。連鎖反応により両隣の(書籍の)タ
ワーまで崩れたのだからたまらない。
「くっ… あ、悪魔か…」
 崩れ落ちた書籍の山の中からそんな声が聞こえたが、奇跡的にというか復元物はその
難を逃れていた。取り敢えず一番大事な物を守り通したのは流石と言って良いだろう。
 これで対戦成績は彼の3戦3勝となったわけだが、毎度毎度このように甚大な被害を
被っているので総合的な評価は難しいところだった。


 そんな事があった数日後… 場所は移って八十八駅前の和風喫茶『甘粕屋』

「獅子座。前半はごく平凡。中盤から週末に掛けては下落傾向にあり。待ち人来たらず、
想い実らず。金銭運はやや悪し。ラッキーカラーは青」
「ぐわ…」
 淡々と雑誌の占い欄を読み上げる綾子に、いずみは踏みつけられたカエルのような悲
鳴を上げた。

 宮城綾子の占いは不思議と当たる。そりゃもう十中5、6くらいは当たる。
 と言っても、彼女自身がタロットカードや水晶玉で占うわけではなく、良く当たる占
い雑誌を探し当てて来ると言うのが正しい。もっとも、毎週3冊ほどの雑誌を買い込み、
人によって見る雑誌を使い分けるので、やはりそれなりの能力はあるのかもしれない。
 まあ、雑誌に書いてある程度の事なので、あっと驚くような占い結果など出る筈もな
く、せいぜいが日々の注意喚起程度のものだ。
 だがしかし、良く当たる占いで「良くない結果」が出るのはあまり嬉しくなかろう。

「ま、所詮占いだから。当たるも八卦当たらずも八卦って言うでしょ」
 ぱたん、と広げていた雑誌を閉じてにやりと笑う綾子の表情はそうは言っていなかっ
た。その隣から更に追い打ちを掛けるような声が上がる。
「でも、これだけ良くない結果が出るって事は、どれか一個くらいは当たりそうだよね」
 唯だ。屈託無さそうに笑っているが、いずみにしてみれば面白くないことこの上ない。
「ちぇ、人ごとだと思って」
「だって人ごとだもん」
 血も涙も無い言い様に聞こえるが、以前唯の(悪い)占いが的中したとき、いずみは
お腹抱えて笑っていたのだからお互い様だ。ちなみにどんな占いかは、唯の名誉のため
に伏せておきたい。

「そう言えばいずみちゃんの誕生日って聞いた事なかったね。獅子座って言うと7月?
 8月?」
「8月。12日だよ。夏休み真っ最中だけど、プレゼントは受け付けてるからよろし…
…どうしたんだ?」
 それまでニコニコと話していた唯の表情が途端に雲ってしまった事に対しての疑問。
まさかとは思うが、あからさまにプレゼントを要求したのがいけなかったのか。
 などと考えているいずみをちょんちょんと横から綾子が小突く。ん? と首をそちら
に向けると、今度は綾子の視線が下に向いていた。手元の雑誌を見ろ、と言うことらし
い。
『唯のパパの命日』
 雑誌の空白部分には、殴り書きに近い走り書きでそう書いてあった。実際にはその翌
日だったという話もあるのだが、事故の日付『8.12』は関係者にとっては重い意味
を持っていた。
 瞬間、自分の迂闊さに気付いたのだろう。いずみは呆けたように「あ」と口を開けた
後、
「ご、ごめん。その…、気が回らなくて」
 唯に向かって謝罪するも、その隣では綾子が溜息と共にがっくりと項垂れていた。こ
れでは何のために直筆メッセージにしたのか判らない。
「ううん。こっちの方こそ暗くなってごめんね」
 にっこりと微笑む唯だが、場の空気が重くなってしまったのは拭いようのない事実だ
った。

「そ、そう言えばさ、あいつの誕生日っていつなんだ? 前に聞いたとき、適当にはぐ
らかされたんだけど…」
 いずみの言う『あいつ』が誰を指すのかは書くまでもない。ほとんど無理矢理に近い
形で話題をそらしたいずみに綾子がそれに追随してくれた。
「んー、私も結構長い付き合いなんだけど、教えてくれないのよ……ねぇ?」
 最後の「ねぇ?」は、同意を求めるように唯へ向けられたものだった。
「へ? だって当然唯は知っているんだろ?」
 その問いに対し、唯はぶんぶんと首を横に振った。
「前からずっと聞いてるんだけど、教えてくれないんだよ」
 むーっと頬を膨らます。
「いや、そんな顔を私にされても困る。‥‥あ、そーだ! 友美に聞けば分かるぞ、き
っと」
 名案が閃いたとばかりにポンと手を叩くが友人達の反応は冷たかった。
「私ら、そこに気が回らないほど馬鹿じゃないんですが?」
「友美ちゃんも教えてくれないんだよ」
 益々もってふくれる唯。
「へぇ、そりゃちょっと意外だな。そもそも黙ってても、『祝え〜。俺を祝え〜』とか
言って来そうな奴なのに…ていうか、不気味だな。何か秘密があるのかもしれない」
 顎に手をあて考え込むいずみ。
「例えば、橋の下で拾われた捨て子で明確な誕生日が判らないとか…」
 まだ彼の父親に会った事が無いいずみだからこその意見だった。
「赤ちゃんの時に橋の下に置き忘れられて、近所の人に届けて貰ったって話は聞いたけ
ど……」
 あの息子にして、あの父あり。さすがに唯も、『お兄ちゃんがおじさんの子じゃない、
って言われた方がびっくりだよ』とは続けられなかった。
「じゃあアレだ。恥ずかしい誕生日とか?」
 また物議を醸し出すような話題を綾子が振る。
「恥ずかしい誕生日? そんな日があるのか?」
「ズバリ、11月10日近辺」
「?」
「ほら、赤ちゃんがお腹にいる期間って十月十日(とつきとおか)でしょ? つまり1
1月10日近辺に生まれた人っていうのは親が大晦日から元旦にかけてアレしてたって
事に……」
 何か激しく11月10日近辺生まれの方々を敵に回した気がしないでもないが、綾子
は自説に自信がありそうだった。
「綾ちゃん…」
 しかしその自信に、唯が言い難そうに口を挟む。
「その十月十日って普通の1ヶ月じゃなくて、女の子の1ヶ月だよ」
 女の子の1ヶ月=28日。則ち月の暦、月齢。ちなみにコンクリート圧縮強度の目安
になる養生日数も28日、4週圧縮強度という(まめ知識)。
「だから、その… 綾ちゃんの言う恥ずかしい誕生日って言うのは……」
 更に言い難そうに唯が告げる。
「…つまり、私のパパとママは元旦にすることが無くて、一日中そう言う事をしてたっ
て言いたいワケね?」
「そ、そこまでは言ってないけど…」
 怯えたように後じさる唯。つまり綾子の誕生日はその近辺という事だ。

 ちなみにこれは昔の話。現在は妊娠初期の赤ちゃんの大きさを測定して予定日を決め
ているらしい。加えて、十月十日(とつきとおか)の正しい意味は、昔は最終月経の第
1日目から起算して280日目を予定日としていたので、かなり曖昧だった。
 故に「予定日を10日ぐらい過ぎても焦る必要はありませんよ」という意味がある。

「でも仮に11月10日近辺だとしても、友美が隠す程の理由になるか? 大体、唯が
アイツに聞いたのだってつい最近ってわけじゃ無いんだろ?」
「うーん‥‥ 一緒に暮らすようになってすぐだと思ったよ。私の誕生日を教えたら、
『じゃあやっぱり俺の方がお兄ちゃんだ』って言ってたから」
 懐かしそうに邂逅する唯。
「で、その時当然聞いたわけでしょ?」
「うん、そしたら『俺のは内緒だ』って」
「なんだそりゃ? 昔っから自己中心だったんだな、あいつは。‥‥でもそんな子供だ
ったら十月十日は考えないな。綾は?」
「私? 私はこれ」
 と占いが載っている雑誌を指さす。
「占ってあげようと思って聞いたら、占い如きで俺の未来は縛れない、って意味不明な
事言われたわ」
 全くと言っていいほど誕生日に結びつかない情報だった。
「あ、でも私よりは早いみたい。いつだったか忘れたけど、偉そうに『俺の方が目上だ
な』とか言ってたから。教えた覚えはないけど、どうせ唯が教えたんでしょ?」
「あ、うん。‥‥教えちゃいけなかった?」
「全然無問題。ただ、プレゼントくれるとかは全然無かったわね」
「それはそうだよ。私だって貰って無いんだから」
 当然、とばかりに唯が主張する。
「お前等‥‥」
 そんな2人の会話に、呆れたいずみが割ってはいる。
「プレゼントしてないのに貰おうってのもどうかと思うぞ。ていうか綾、お前より早い
んなら、十月十日はあり得ないじゃないか」
 蚊帳の外に居る所為か、理性的な意見だった。
「あ、そう言われればそうか。まあ、それはそれとして、やっぱり誕生日にプレゼント
して貰うってのは、特別じゃない。産まれてきた事を祝って貰ってる!って感じで」
 悪びれもせずに話題をプレゼントに引き戻す。
「だよなぁ。あいつはそういうのが嬉しくないのかな?」
 多少の照れ臭さというのはあるだろうが、産まれて来た日を隠す程のことでは無いだ
ろう。
「友美ちゃんには上げてるんだよね‥‥」
 ポツリと言った唯にいずみが笑いながら、
「あ? ああ、プレゼントか。あれは傑作だった。綾瀬お手製のバースディケーキな」
 小遣いを使い果たした龍之介が取った苦肉の策だった。どの辺が苦肉かと言うと、唯
に頭を下げて金策を頼んだ結果、ケーキを作らされるという辺りが。
「まあ、友美は綾瀬君の誕生日を知ってるしね。貰っているからお返しに、って意味が
強いんじゃない?」
 それとなくフォローを入れておく。更に話題を変えた。
「いずみは?」
「へ?」
「聞いたんでしょ? 誕生日」
「ああ、私の場合は聞いたと言うより、行きがかり上というか‥‥」
 言い難い話題なのか、頬をぽりぽりと掻く仕草。それで察しがついたのか、
「ああ、またやり合ったわけ? 喧嘩するほどって言うけど‥‥」
「ゾッとするような事を言うな。あいつがあまりにガキっぽい事をするからこっちは少
し冷静な態度でだな、

『やれやれ、また程度の低い“おいた”をしたのか? 中学は卒業したようだけど、ガ
キは卒業していないようだな』
『なんだと? その身長で俺様をガキ呼ばわりするとわ。良い度胸だな篠原』
『身長は関係ないだろ、身長は!』」

 ここまで聞いて、何処が冷静なんだ?と聞き手の2人は思った。というか、どの辺が
誕生日?

「
『じゃあ、お前は私よりガキじゃ無いって言うんだな? ‥‥何月生まれだよ』
『ふっ、礼儀知らずな奴め。誕生日を訊ねる時は、まず己の誕生日を言うが礼儀』
『何時代の何処の国の人間だ、お前は。まあいいか、私は8月だよ』
 って言ったら、今日の所は勘弁してやろう、とか言って走り去って行ったんだ。あ、
だから9月以降で綾より早いんなら、大分絞れてきたじゃないか」
 
 龍之介が逃げ出したという事から、自分より遅い9月以降の生まれと判断したらしい。
いずみの判断が正しければ、綾子の誕生日は10月中頃なので、その間の1ヶ月半にま
で絞り込めた事になる。確かに有力な手掛かりではあったが、
「あのさ、いずみちゃん」
 唯にはそれよりも気になることがあった。
「もし、お兄ちゃんの方が早かったらどうやって切り返すつもりだったの?」
 龍之介のことだから、それこそ鬼の首を取ったように彼女をこき下ろしただろう。い
ずみがそこに考えが及ばないとは思えない。にも係わらず先にカードを切った(教えた)
事が唯の興味を引いたようだ。
「ふふん、抜かりはないさ。その時は思いっ切り『おぢさん』と呼んでやろうと思って
たんだ」
 僅かな差で『おぢさん』よばわりされるのては龍之介も堪らないだろう。というか、
そのぐらいの対抗策は龍之介にも思い浮かびそうな気がす‥‥
「あははは」
 そんな唯の思考は、不意に上がった綾子の笑い声に遮られた。
「な、なんだよ。そんなに可笑しいか?」
 いずみ自身も多少ガキっぽいやり取りだと思っていたのか、綾子の笑いが自分に向け
られたものだと思ったらしい。
「いやごめん。実に綾瀬君らしいなって思ってさ。ホント、可笑しくて涙が出てくるわ」
 本当に涙でも出たかのように目の端を拭う仕草。
「だろ? 本当にガキだよなぁ、あいつは」
「でもさ、お兄ちゃんと同じレベルだと思うよ? いずみちゃんも」
「ぐっ… わ、私は一応世間体ってものを考えて行動してるつもりだぞ」
「えー、そうかなぁ? 

 などという友人達のやり取りを耳の端に捉えながら、綾子は別の事を考えていた。考
えれば考えるほど自分が導き出した答えに確信が持てるようになっていた。
 いずみは8月生まれ、としか答えなかった。もし龍之介が8月より前、7月以前の生
まれならそれこそ鬼の首を取ったようにを茶化しただろうし、逆に9月以降の生まれで
も黙って引き下がるような人間ではない。
 ではもし8月生まれだったら? 当然今度は日にちの前後で争う事になるだろう。彼
の性格を考えれば例え同じ日の生まれでも秒数にまで拘りかねない。
 が、それをしなかった。そこまで追求しなかったという事は逆に8月生まれである確
率が跳ね上がる。
 8月で知られたくない誕生日。いや、恐らく知られたくない相手は唯1人だけだろう。
 つまりそういう日だ。
 だから誰にも教えない。そこから知られたくない人に知られてしまうのを恐れて。
 だから友美にも口止めをした…或いは友美自身がその意を汲んだか…。後者の確率の
方が高いだろう。その方が友美らしい。
「ほーんと…、バカだし、全然わかってない!」

「「すみません」」
 綾子が憤ったように呟いたとき、唯といずみのやり取りは白玉(白玉クリームあんみ
つ)と牛皮(フルーツあんみつ)の争奪戦までに発展していたが、それを咎められたの
だと思ったらしい。しかし綾子は止まらない。「誕生日よ誕生日!? みんなに祝って貰って、プレゼント貰って幸せな気持ちになっ
て何が悪いの!?」
 偏った持論を展開しているような気がしないでもないが、まあ間違ってはいないだろ
う。そんな興奮状態の綾子の目が、つ…といずみに向く、と同時にニッとその整った唇
を歪め、(どちらかと言えば邪悪に)微笑んだ。
「な、なんだよ…」
 警戒感を顕わにするいずみ。そんな彼女に向かって綾子は言った。

「誕生日のパーティー、やりましょう?」
「え? わ、私のか? …いいよぅ。まだ2ヶ月も先だし…」
 唯の父親の事もあるし、そもそも綾子の表情に裏があるような気が……
「あ、いいねー。やろやろ♪」
 そんないずみの警戒信に、無邪気な唯の声が被さる。
「…って、いいのかよ。お父さんの命日なんだろ?」
 先程の唯の表情が頭を掠めたのか、やや窘めるような口調。
「ちゃんとお墓参りには行くよ。その後だったら大丈夫。…あ、『憩』が休みだから場
所も提供できるよ」
「あ、いや… そういう事じゃなくて」
 喪に服さなければならない、とまでは思わないが祝い事行うことに躊躇いがいずみに
はあった。が、唯はそれを見越したように、
「気にしないで。…だっていずみちゃんは『此処』にいるんだもん」
 本当に、屈託のない笑顔でそう言った。

『此処』。『此の場所』。『現世』。自分の近くに居て、自分に話し掛けてくれて、な
により、自分を見ていてくれる場所に居る人だから。

 ああ… やっぱ唯、あんたいい娘だよ。私が思っていたより、ずっと…
「よしっ! 決まりっ! 派手にやろう!」
 パンッ、と手を打って綾子が腕まくりするように気合いを入れるが、いずみは何処か
訝しげだった。その感情を文に顕すと、“何をリキんでいるんだ?”というのが妥当な
ところか。
 そんないずみの感情が伝わったのだろう。綾子は手品のタネを明かす奇術師のような
態度でもって、大仰に言った。

「気合いが入るに決まってるでしょーが! なんたって2人分を祝わなきゃならないん
 だから!」
後書き(2005.08.12)

 本当は、このSSを8月月初旬に上げて、今日、8月12日という日にこれの続編である『ハピハピバースデイ』を上げる予定だったんですが
やっぱり叶わずorz
 つーか、その前に海から帰還させなければ…

 ま、それはさておき(置くなよ)、龍之介の誕生日がいつなのかって話です。Episode26『Ready Steady Go!』の謎(?)が解き明かされています。
 で、プロローグ(第1話)タイトル『未来へのプレゼント』で張った伏線を回収。本当は、続編である『ハピハピバースデイ』で回収したかったんだけどね…。
 龍之介にとって、唯と美佐子は母親から貰った(最後の)プレゼントなわけで。それ以上、ましてや唯からプレゼントを貰うなんてあり得なわけで。

 まあ、機会があったら岡本真夜さんの『ハピハピバースデイ』を聞いてみてください。多分1〜2度聞いただけだと、
「うわ、なにこの女。恐っ!」
 の感想でしょうが、何度か聞いていくと…

 因みにこの曲を作詞した前後に、岡本真夜さんはお子さんを産んでいます。

 本SSのタイトル『Top Secret』はZARDの「Oh My Love」より

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