土曜日。

 八十八学園は他の多くの学校同様に隔週週休2日制を採っている。しかし隔週と言
うことは、当然学校がある週もあると言うことだ。
 今日は第3土曜日。つまり学校がある日だった。

「ったく、休みなら全週ばーっと休みにしろよなぁ」
 文句を垂れながら、件の学校の門を出てきたのは龍之介。
 既に時間は1時過ぎ。彼の回りに、他の下校生徒はいない。バツ当番の校長室掃除
でこんな時間になってしまったのだ。
「まあ、これで校長室内部の配置がわかったから良しとするか」
 何をやらかしたのかはわからないが、一応バツを受ける謂われはあると思っている
のか、対価価値(?)に見合う罰は受ける事にしているらしい。

 で、土曜日である。当然弁当など持ってきていないし、購買のパンは部活動をして
いる生徒に荒らされた後で行く気にもならない。
 家に帰っても、喫茶店に忙しい美佐子の手を煩わせることになる。唯が帰っていれ
ば、何らかの手を打ってくれるだろうが、帰っていなければ悲惨極まりない。 
「…って事は、やっぱあそこだな」
 一人納得した龍之介は、その足を公園の方へ向けた。正確にはその先にある飲食店
にだが……

〜10years Episode24〜

構想・打鍵 Zeke

 この作品はフィクションです。登場する人物、名称、土地、出来事等は実在するものではありません。
 本作は(株)ELFの作品「同級生2」の作品世界を設定として使用しております。 

「なにやってんだ?」
 目的地である『Mute』の前までやってきた龍之介は、そこにクラスメートの姿
を見止めた。サラサラのショートカットを風に揺らしながら、何をするでなく、ボケッ
と突っ立っている少女。篠原いずみだ。
「そっちこそ何をやってるんだよ。お前の家とは全然方向が違うじゃないか」
 こうして聞いていると、どちらがどちらのセリフだかわからなくなってくる。
「聞いて驚け。俺はこの店の常連だ」
 と、これは龍之介のセリフ。もちろん龍之介が『Mute』の前にいるのは何ら不
思議の無い事だったが、問題はいずみの方だ。
「驚くほどの事か? ……私は友美と待ち合わせているんだよ」
 なるほど、疑問のひとつは氷解した。が、今度は新たな疑問が湧き出る。

「薄情な奴だな。友美を置いてひとりで来るとわ」
 言い方に多少の問題はあるが、もっともな疑問だ。クラスこそ違うが、同じ学校な
ら校内に待ち合わせる場所は山とある。何もこんな吹きっ晒しの道端で待つことも無
かろう。

「お前、もうちょっと頭を働かせろよ。私が友美を置き去りにして、何かメリットが
 あるのか?」
「友美のツケで飲み食いし放題 ……あ、いいなそれ。俺も一口乗った」
「決めつけるなっ! ……まったく、綾瀬の方がよっぽど薄情じゃないか。幼なじみ
 だって言うのにさ…」
「いや、そうでも無いぞ。これは極秘だが、昔、あいつは俺のツケで散々飲み食いし
 たんだ。そしてツケが払えなくなった俺は、泣く泣く此処でタダ働きを……」

 ほぼ一年前の事だが、嘘と事実がチャンポンになっている。そもそも散々飲み食い
されたのは、龍之介が友美の着替えを覗いたからで、ある意味当然の酬いだった。
 タダ働きにしてもツケが払えなくなった訳じゃ無く、酔った勢いで愛衣を押し倒し
た事に起因していた。こちらも当然の酬いだ。

「どうせお前が何かやらかしたんだろ」
 わずか2週間ばかりの付き合いだというのにこれだ。
 というより、龍之介の行動が読まれやすいのだろうか。
「な、何を根拠にっ!?」
 龍之介の方も憤って見せるが、
「顔に書いてあるよ」
 いずみも慣れたものだった。 

「……やめ。くだらん言い合いでエネルギーを消費してしまった」
 分が悪いと悟ったのか、それとも単に空腹に耐えきれなくなったのか、そそくさと
ドアに手を掛け、店内へ。その後をいずみが追う。
「なんだよ。友美を待つんじゃなかったのか?」
「店の中で待っててくれって言われてたんだよ」
「じゃ、なんで外で待ってたんだ?」
「だって…… 初めてのお店って、なんか1人じゃ入り難くて……」
 妙な遠慮をしている。この辺がお嬢様的と言えばお嬢様的なのかもしれない。
「変な奴」
 その言葉通りの表情を一瞬だけいずみに見せ、店内を見回す。1時を過ぎてはいた
が、土曜日と言うこともあってか8割方の席が埋まっていた。龍之介がいつも座るカ
ウンター席に至っては、一席を除いて全てが塞がっている。

 それでも迷わずその空いている一席に向かおうとする龍之介を、
「こら、私を無視して席に着くな。テーブルの方が空いているじゃないか」
 いずみが止めた。
「なんだよ。1人でメシも食えんのか?」
「女の子がひとり寂しく食事をしているのを心苦しいとか思わないのか? それ以前
 に妙な男にナンパでもされたらどうしてくれる」
「安心しろ。99%無いと断言してやる」
「……残りの1%は?」
「もの好き」
 一刀両断。
「……さっさと席に着けっ!」
 蹴り飛ばしかねない勢いで、無理矢理席に着かせ、その正面にいずみが腰掛ける。

 そしてそれを待っていたかのように、
「いらっしゃいませ」
 無味乾燥な声。で、冷やだけ置いてさっさと下がってしまう。
 龍之介が声掛けようとしたのに……
 それほどまでに忙しいのだろう、きっと……

「へぇ、結構メニューが豊富なんだ。どれがお勧めなんだ?」
 そんなやり取りはどこ吹く風で、いずみはメニューに顔を埋めていた。
「水だよ」
「………真面目に答えろよ」
 面白く無さそうに答える龍之介に、殺気を帯びた視線が突き刺さった。
「落ち着け篠原。そう一々怒っていたら胃に良く無いぞ」
 他人事のように窘める龍之介。胃よりも先に、脳の血管に来そうだった。握りしめ
た拳とこめかみが震えている。
「……まあ、まだランチタイムだからな。ランチメニューから選ぶのが無難だろう」
 身の危険を感じたのか、真面目に答え直すことにした。値段も8インチピザにドリ
ンク付きで620円とリーズナブルだ。 

「で?」
 尚も疑問を呈するいずみ。
「『で?』とは?」
「どのピザがお勧めなんだ?」
 メニューには『お好きなピザと組み合わせて』とかなんとか書いてあるのだ。肝心
のピザを決めなければならなかった。
「無難なところで『マスターのお薦めピザ』でどうだ?」
 改めてメニューに目を落とすと、如何にも『オススメ!』てな感じの一回り大きな
文字で書いてある。
「……ふーん、綾瀬もそれにするのか?」
「いや、おれはミックスだ」

(間)

「……ひとつ聞いて良いか?」
 低い声。
「なんなりと」
「このピザ、頼んだ事あるのか?」 
「無い」
 あっさりと否定。
「前に『タダでもいいから食べてみてくれ』って言われたけど断った。お前に勧めた
 のは、ま、恐いモノ見たさってヤツかな」
 千鶴さんの『茸リゾット』か、秋子さんの『正体不明ジャム』か……

「……私もミックスでいいや」
 溜息を吐いてメニューを閉じ、
「すみませーんっ!」
 店内全ての注目を集めそうな声で愛衣を呼び寄せる。

「お決まりでしょうか?」
 その顔にこぼれんばかりの営業スマイルを浮かべ、テーブルの傍らに立つ愛衣。
 考えてみれば、龍之介が中学の友人以外を『Mute』に入れたのは初めてだった。
 愛衣なりに気を使っているのかもしれない。

「2人ともミックスのセット。まだ時間大丈夫だよな?」
 一応ランチタイムであることを確認するが、
「大丈夫ですよ。お飲物は?」
 あくまで営業ライクを崩さない。
「……コーヒー」
「あ、私も同じで」
 つまらなさそうにオーダーする龍之介と、慌ててそれに追随するいずみ。

※
「しっかし、きれいな女性(ひと)だなぁ」
 一礼して去って行く愛衣を見送りながら、いずみが溜息混じりに呟く。
「……まあな」
 ぶっきらぼうに答える龍之介。結局一言も口を聞いて貰えなかったので、ふてくさ
れ気味だ。

「ははーん……」
 ニンマリと笑い、いずみがそのふてくされた顔を正面から覗き込む。
「なんだよ」
 面倒くさそうに目線を返す龍之介に、
「あの人目当てで通っている訳だ。無茶を通り越して無謀だな」
「うるせ。 ……で? なんだって友美と待ち合わせなんかしてたんだ?」
 話が妙な方向へ行きそうだったので、話題を逸らす。
「……いや、まぁ、その…… はは、いいじゃないか、そんな事。まあ、強いて言え
 ば、お昼を一緒に食べようってトコだな」
 今度はいずみが誤魔化そうとする。実は土曜日は華道の稽古事がある日なのだ。つ
まり、サボリの口実。
 スネに傷を持つ者同士と言うわけだ。龍之介の方はちょっと違うが。

「で、俺と一緒に食っちまっていいのかよ」
「もう30分待ったよ。友美も許してくれるさ」
 つまり30分も店の外でボケッとしてた事になる訳だ。
「根性あるな。俺なんか待ってもせいぜい10分だ」
 ちょっと小声。暗に10分ぐらいの遅刻は勘弁して欲しいと言っているようだ。尤
も、聞こえなければ意味はない…… 聞こえていたら、それはそれで問題なのだが。

「どっちかというと、綾瀬は待たせる方だろう?」
 また不利な方向へ行きそうだ。
「しかし、友美が約束をすっぽかすなんて珍しいな」
「すっぽかされた訳じゃないよ。……捕まった連中が悪かったんだ」
 龍之介の表情を伺うように……
「捕まった? どういうことだよ?」
 瞬時にしてその目が険しいモノになった。それを見て満足したのか、いずみは悪戯っ
ぽく微笑み、
「いっつもそれだけ真剣な顔してりゃ見られるんだけどな。ご心配なく、風紀だよ。
 ……スカウトだろ」

 最近ではあまり聞かなくなった風紀委員。だが、八十八学園は学園の良心として存
続していた。学園内の不届き者及び学園に害を成す部外者は、僅かな例外を除いて彼
らにより『説得』され、改心若しくは排除されるそうだ。

「風紀? ……友美なんかスカウトしてどうすんだ?」
「さあ? 噂によると、友美の幼なじみが、今の風紀の手に負えないほどの問題児だ
 からって事だけど?」
 惚け気味に答えるいずみ。ちなみに該当する人物は1人だけである。
「へぇ、そんな奴が友美の知り合いにいたのか……」
 本気なのか、シラを切っているのか、イマイチ判断が難しい。
「はぁ…、風紀の連中も哀れだよな。せっかく威信を回復出来るチャンスだったのに、
 お前みたいのが入学して来て…」
 溜息混じりで、風紀の面々に想いを馳せる。
「なんだよ、威信回復って」
 ちょっとプライドに触れたらしい。なんのプライドだかわからないが……
「いや、これも噂なんだけど、去年の卒業生の中にもお前に負けず劣らずの問題児が
 いたらしいんだ。結局、最後まで風紀はその人を『説得』出来なかったらしいぞ」
 該当する人物に1人だけ心当たりがある。
「へぇ。どんなヤツだったんだ?」
「えっと、たしか名前は『かのう めい』って聞いたけど……。名前からして女生徒
 だろうな。身の丈6尺(180cm)を優に超え、風紀の強者が束になっても適わ
 なかったらしい」
 噂は時間が経つにつれ、尾鰭やしっぽ等、様々なオプションを付け伝説となるもの
だ。
「すげぇ女だな。まるで中国の歴史に出て来る南蛮女傑武将じゃないか」
 龍之介にしても、その正体がわかっているだけに、面白半分に受け答える。
「おまけにナナハン(750ccの単車)を軽々と乗り回し、関東の大手レディース
 5グループを傘下に治めてもいたらしい」
 もうちょっとすれば関東制覇だ。
「それじゃぁ、一般生徒には手が出せなかっただろうな」
 うむうむと腕組みをして頷く龍之介。背後から近づく気配にも気付かんと

「お待たせしました」
 また計ったようなタイミングである。
 愛衣は無言でトレイに乗せた『コーヒー』2つを2人の前に置き、軽く会釈をする
と、くるりときびすを返す。その先のドリンクバーの中では、愛美がトレイで口元を
隠し、必死に笑いを噛み殺していた。
 バイトというわけではなく、単に手伝いを買って出ているというだけらしい。

「確か… コーヒー2つだったよな?」
 いずみが怪訝な顔で、目の前に置かれた自分のカップと、龍之介の前に置かれたグ
ラスを交互に見比べる。
 4月半ばとは言え、今日は寒が戻ったかのようで、気温は平年の3月初旬頃まで落
ち込んでいた。アイスコーヒーを戴くには時期尚早であろう。
「立派なコーヒーではないか」
 強がってみせるも、龍之介の胸の中には若干の後悔が沸き起こっていた。
「(やはりフォローしておくべきだったかな?)」
 程度の後悔であるが…
 なにしろ、真に天罰を食らうべき人物は目の前にいるのだ。

 その天罰対象人物はというと、何故か物欲しそうに龍之介の前に置かれたグラスを
見つめ、
「なんだ。だったら私もアイスコーヒーにすれば良かったな」
 漏らす。
「(この寒いのに酔狂なヤツめ)」
 と思ったが、口には出さないでおいた。自分が突っ込まれたとき返答に困る。

「3回まわって『ワン』と言ったら代えてやろう」
「………」
「冗談だ。代えてやるからそう怒るな」
 凍てつく波動を発散させたいずみに屈したわけでは無いが、厄介払いが出来ると思
えば一石二鳥だ。

「そうか? 悪いな」
 龍之介の返答を聞くや否や、サッとグラスに手を伸ばすいずみ。気が変わる前にと
思ったのかも知れないが、その動作の素早さには、優雅さの欠片もなかった。
「……お前を見ていると、『深窓の令嬢』って言葉が空しくなってくるな」
 呆れ気味に呟く龍之介を
「誉め言葉ととして受け取って置くよ」
 と軽くいなして、ガムシロップとミルクをグラスに落とす。

「喋りすぎたせいか、ノド渇いちゃったよ」
「よし、なら豪快にストロー無しで一気に行け」
「やなこった」
 ちょっと舌を出して、拒否の仕草。
 その舌の赤さに、龍之介の鼓動がちょっと早くなった気がするが、彼がそれを自覚
する前に、

「叶くーん、ミックス・ツー上がったよ」
 そんな厨房から響いた男性の声に、いずみの動きが止まった。次いで、
「愛衣ちゃん、お後ジンジャーとオレンジジュースね」
 ドリンクバーの方で手伝いに精を出す愛美の声……

 その二つの声に、
「かのう……?」
 いずみはゆっくりとストローから顔を上げ、一度、愛衣の方を見やり、
「……めい?」
 今度は龍之介に向かって確認するため、目を正面に向ける。
 その龍之介はというと、
「ああ。そんな名前だったな、確か…」
 気が無さそうに言葉を返し、窓の外へ目を向ける。実は笑いを堪えるのに必至だっ
た。
 が、いずみはそれに気付くどころでは無い。
「な、何で教えてくれないんだよっ!」
 正面に座る傲岸不遜なクラスメートに食ってかかる。しかし龍之介は落ち着いた風
で、
「何がだよ」
 役者になれるんじゃないか? と言うくらいのポーカーフェイスをいずみに向ける。
「なにがって……」
 尚も食い下がろうとしたいずみだが、そこで慌てて言葉を切るハメになった。なん
となれば、件の人物がトレイを掲げ、こちらに来たからだ。

「御注文は以上でよろしいでしょうか?」
 ミックスピザ二皿をテーブルに置くと、未だもって営業姿勢を崩さない愛衣が2人
に向かって確認する。
「は、はひ…」
 答えるいずみの声は、緊張の余り裏返っていた。
「では、ごゆっくりどうぞ」
 にっこりと微笑んで一礼する。しかしその笑顔も、いずみにとって安心できる物で
はない。

「き、聞こえて無かったのかな?」
 同意を求めるように、龍之介を伺う。
「どうかな? 雑踏の中でも自分の事は良く聞こえるって言うし…」
 焼きたてのピザにタバスコを振りながら、答える龍之介に、
「お前、冷たいヤツだなー」
 泣きそうな瞳で訴えるいずみ。それがちょっと哀れを誘ったのか、
「あのな、自分がさっき言ったことを思いだしてみろよ。あれが身の丈6尺を優に超
 える女傑武将に見えるか?」
 一転、いずみを宥める側に回る。本心はどうかわかったものじゃないが……
  それでもいずみはその一言にすがるように、
「そ、そう言えばそうだよな。ど、同姓同名って良くあるオチだし……」
 現在進行形で『オチ』も何も無いのだが、そこまで追い込まれていると言うことだ
ろう。
「ま、ちょっと珍しい名前だけどな」
 すかさず茶々を入れる龍之介。
「……お、大人っぽく見えるけど、いくつぐらいなんだろうね…… 年齢(とし)」
 恐る恐る…
「去年ウチの学校を卒業したって話を聞いたな」
「……で、でも、とてもナナハンなんか乗っているようには……」
「400ccのバイクには乗っているけどな」

(間)

「やっぱり本人じゃないかぁっ…」
  いずみ半べそ。
「わはは。まあ、気を付けろ。奴の事だからお前の食い物の中に何か入れたかもしれ
 んぞ」
 そう言って交換したコーヒーを啜(すす)る彼は馬鹿だろうか?

「うっ……」
 すぐさま効果が現れる即効性。
 龍之介にとって不幸だったのは、此処がピザハウスという事だった。
 劇物(タバスコ)には事欠かない。
「……んぐっ」
 それでも吐き出さずに飲み込んだのは称賛に値する。
 いずみに向かって吐き出すのはマズイと思ったのか、ここで吐き出すことによって
『Mute』の評判を落とすのはマズイと思ったのかは定かでは無いが……

「お、おい、大丈夫か?」
 龍之介の変化に気付いたいずみが、本気で心配する表情を見せる。一歩間違えば自
分に降りかかる災厄だったのだから当然だろう。
 それに答える龍之介は既に涙目で、首を左右に振る事しか出来ない。あまりの刺激
に声も出ない様子だ。
「すまん、綾瀬。私のために……」
 いずみの龍之介に対するポイントが1上がった ……かどうかは定かではない。


※
「ひょっとして…… 取り替えることを予想して?」
 コップの水を呷って冷却作業に没頭する龍之介を見つめ、信じられないといったよ
うに呟く愛美。
「まさか。……他人(ひと)の事を悪く言ったんで天罰が降ったんじゃない?」
 抑揚無く応える愛衣だが、彼女なら自分で天罰を下しかねない。
 やはりああ言った場合、ステディとしてはフォローを入れなければならないのだろ
う。
「ホントよねぇ…」
 愛美も同意の印に頷く。……が、
「愛衣ちゃんの前に、他の女の子を連れてくるなんて…… そういったコトへの配慮
 が足りないわよねー、龍之介くんは」
 やはり彼女からはそんな風に見えたらしい。もっとも、それは危険なモノの見方で
あったが……
「……愛美、あんたも飲む? コーヒー」
 穏やかな笑顔でもって、問う愛衣に、
「ううん、遠慮しておく」
 それに負けぬ程の全開笑顔で愛美が答えたのは言うまでもない。

 


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