〜10years Episode14〜
構想・打鍵:Zeke
 この作品はフィクションです。登場する人物、名称、土地、出来事等は実在するものではありません。 
 また本作は(株)ELFの作品「同級生2」の作品世界を設定として使用しております。 
 

 八十八町と、如月町は同じ市内にある。電車移動で20分も掛かるほど面積が広く、
人口50万を抱える中堅都市だ。ここ十数年で、爆発的な人口の増加があり、都市整
備も急速な伸びを見せている。この市の南部に位置するのが如月町で、市内にある商
業地区では、3番目に大きい。 
 その如月町の新たな施設として注目されているのが、商業ビル『ATARU』を中
心とする総合アミューズメント施設『如月アミューズメントパーク』で…… 
 長ったらしい偉いさんの話に堪える事、約30分。ようやく解放された招待客は各
々のアトラクションに散っていった。当然俺達ふたりも先を争う様にしてお目当ての
アトラクションに向かう。 

☆ナイトトレイン 
 真っ先に並んだのはコレ。なんと言ってもこの施設の売りである、屋内では世界最
大のジェットコースター。最高70マイルを越える速度で突っ走り、前評判では死ぬ
ほどのスリルが味わえるらしい。 
 本当に死んでしまったらシャレにならないが……。

 カンカンカンカンカン……ガクン 
 ゴ――――――――――ッ! 
「どわぁ〜」
「きゃぁぁぁ〜〜〜〜〜☆」 
 ガ――――――――――ッ! 
「きゃぁぁぁ〜〜〜〜〜☆」
「どしぇ〜」 
 ドドドドドドドドドド 
「きゃぁぁぁ〜〜〜〜〜☆」 
「どえぇぇぇぇっ。」
 ゴンゴンゴンゴンゴン フィフィフィフィフィ……(?) 
「きゃあきゃあきゃあ☆」
「………。」 
「……どしたの?」 
 愛衣の奴はケロッとして歩いているのだが、俺の方はヘロヘロだった。そう云えば
以前『旧如月遊園地』でコーヒーカップに乗ったときも、気分の悪くなった俺と違い、
平気で歩いていたっけ……女って、この手のアトラクションに強いのか? 
「よく平気だな……」
 極力平静を装って聞く 
「バイク乗ってるからね。あーゆーのは割と平気よ。」
 平然と答えてくれた。……割と? チャンスだ! 
「……ってーと、苦手なもんとかは?」
「そーねぇ……振り子系のは嫌ね。」 
 あのアラビアンナイトとか云うヤツの事だろうか? ……良い事を聞いた。今度は
それで行こう。上手くいけば愛衣の醜態を…… 
「あーゆー、同一線上を行ったり来たりするのは面白みに欠けるからね。」
 ……そーゆー意味かよ。 
 なんか思い切り疲れてしまった……。 
  
 取り敢えず一番人気は乗ってしまったので、あとは空いている順に楽しんで行く事
にする。 

☆ゴーカート 
「くそー、マシンの差だ!」 
「同じに決まってるでしょ。龍之介は走りが粗いのよ。」
「なにをー! これでも『ぐらんつ』でA級ライセンス保持者だぞ。 
 おまけに『グランツーリスモカップ』では何回も総合優勝してるんだ。」
「それこそマシンの差でしょ。」 

☆リンドラコイン 
「しっかり掴まった方が良いわよ。」
「ふん。何が起こるか知らんが、俺の足腰の粘りは凄いぞ。」 
 じりりりりっ!
 ぐるんぐるん 
「へっ!? どわっ!」 
 ぐるんぐるんぐるん 
 ガッ ゴッ…
「あででで……」 
「言わんこっちゃ無い……」 
 ぐるんぐるんぐるんぐるん
 ガン ゴン ガン…… 
「あ、頭がぁ〜」 
 じりりりりっ 
「ひ、ひどい目にあった。」
「だからしっかり掴まった方が良いって言ったでしょ。」 
「……ふーむ。」
「なにニヤニヤしてんのよ。……打ち所が悪かったのかしら?」 
(今度はスカート穿いた女の子と来よう。)

☆アラビアンナイト 
「乗るの?」 
「当たり前だ。」 
「まあいいけど……」
  
 じりりりりりっ 
 ゆ〜ら ゆ〜ら ゆ〜ら 
 ゆ〜〜ら ゆ〜〜ら ゆ〜〜ら
 ゆ〜〜〜ら ゆ〜〜〜ら ゆ〜〜〜ら 
 じりりりりり 

「面白くない。」
「だから言ったじゃない。同一線上を行ったり来たりするだけのモノなんて……」
「そーゆー意味じゃない。」 
(醜態が見れると思ったのに……) 
「何か言った?」
「いや、別に……ん?」 
 適当に追求を誤魔化した俺の目に、ちょっと意外な人物が飛び込んできた。
 あれは…… 

「郡司ちゃんではないか。」 
 郡司(ぐんじ)美樹(みき)。我が3年G組の担任教師。俺達が入学したときに新
任として入ってきたので、今年で3年の付き合いになるのだが……向こうの方はこっ
ちに気付かなかったのか、さっさと行ってしまった。 
「なに? 知り合い?」
「ああ、担任だよ。しかし男連れとは……」 
 学校では「彼が欲しい」とか言ってたくせに……あれはカムフラージュだったのか。
 幸せそうに腕なんか組んじゃって……よし、つけてやる。ふっふっふ、純朴な生徒
を欺いた罪は、劣化ウランの比重より重いのだ。 
 見ればふたりはホラーハウスに入って行くではないか。おあえつらだ。『きゃー』
とか言って彼氏に抱き付いた現場を押さえてやる。 

「行くぞ、愛衣」 
 振り向いて声を掛けるが、

「よしなさいよ、悪趣味ね。」 
 何も言ってないのに、俺の企みを見抜くとは流石だ。だが、引く訳にはいかん、
「こんなチャンスは滅多にないんだ。これをネタに内申書に手を加えて貰い、受験を
 有利に……」 
「本気でそんなこと思ってるわけ?」 
 燃え上がる俺とは対照的に、愛衣の奴は冷ややかだ。
「いいじゃないか、どうせ此処にも入るつもりだったんだから……」 
「やるなら1人でやれば? そんなバカな真似には付き合えないわ。」
「1人でホラーハウスに入るほど惨めなモノは無いぞ。それとも恐いのか?」

 およそお化けに弱いとは思えないのだが、これが効いた。 
「はいはい、行けばいいんでしょ。その代わり恐いからって抱き付いて来ないでね。」
「そうこなくっちゃ。」 
 俺達は意気揚々とホラーハウスに乗り込んだ。もっとも、意気揚々なのは俺だけだっ
たのだが……。 

                  ☆ 

 当たり前だが、辺りは闇だった。もちろん完全な闇というわけでは無い。通路がわ
かるように、青白い光が床下から俺達を照らしている。 
 俺と愛衣は先行している2人が何とか視認出来る距離でついて行く。
 案の定、郡司ちゃんは彼氏の腕にしがみ付きっ放しで、何かが起こる度に、ビクつ
いていた。 
 しかし、その起こった出来事が、そのまんま俺達にも起こるので興ざめする事この
上ない。やはりこの手のホラー系は、突発性が重要なんだなぁ……とか思ってしまっ
た。前の2人にしても派手な悲鳴を上げるでもなく、着々と進んでいく。 
(うーん、大して面白くないな。どうせなら先回りして脅かす方が面白かった。)
 などと余計な事を考えていたせいか、足が何かに取られた。 
(ありゃ、前の2人はこんな処で足を取られていなかったのに……)
 とか思いつつも、自慢の足腰の粘りで体勢を立て……その時、 

  ガ ッ タ ー ン !

 目の前に死体が降ってきた。もちろん作り物の死体なのだろうが……全身血だらけ
で、顔の一部が引き裂かれ筋肉の組織が見えている死体……その顔がグニャリと歪ん
だ……いや、笑ったのかも知れない。 
 しかし冷静だったのはそこまでで、次の瞬間本気でビビッた俺は思わず、

「きゃぁ――――――――――っ!」 
「どわぁっ!」 
 叫び声をあげて後ずさった。そして思いっ切り後悔した。
(だぁーっ、よりによって愛衣の前で醜態を曝しちまった。) 
 大方、ビビッた俺に、
『大口叩いてた割に、いい格好じゃない。』 
 とか言って来るに違いない。

 ううっ、身体が重い……精神的ダメージが身体にも悪影響を及ぼすってのは本当だっ
たんだな。 
 多分これをネタにまたバイト生活が続くだろう。もちろん無料奉仕のバイトだ。当
然断れば……考えたくもない! 
 考えたくないけど、それを考えると更に身体が重くなる。身体に錘(おもり)が付
いてるみたいだ。特に右腕が……… 
 ……っていうか、右腕だけが重いぞ?
 そういや、俺が叫び声をあげる前に、悲鳴みたいな声が聞こえたような……

 恐る恐る目を開けて、自分の右腕を見やる。何かがそこにしがみ付いて震えていた。
 ほのかに香るリンスの匂い。暗闇に溶け込みそうな漆黒の黒髪……。 

 俺は呆気にとられた。そりゃそうだろう、『お化けを怖がる』という女の子の可愛
さから一番かけ離れているような愛衣が、今、俺の腕にしがみ付いて震えているのだ。

                  ☆ 
  
 何分くらいそこで立ち止まっていたろう……いや、実際はほんの数秒だったろうが、

俺にとっては何分もの時間に感じた。 
 不意に黒髪がビクッと震え、愛衣が俺の腕からゆっくりと顔を上げた。当然と言う
べきか、俺と目が合う。……と同時に、 

 ばっ!  

 と、抱えていた腕を放し、
「こほん……」 
 背を向けて咳払いなんぞを始める。その仕草がなんとも可愛く見え、俺はカンペキ
に……その……やられてしまった。 
 気付かなかった俺も間抜けだが、すると愛衣の奴は俺の背後を震えながら付いて来
ていたんだろうか? 惜しいことをした。からかうとかそういうつもりではなく、純
粋にそんな愛衣を見逃したていた事に対してだ。 

 まだ俺に背を向けている愛衣の手を半ば強引に取り、
「……ったく、苦手なら先に言えよ。」 
 そう言う俺の顔は、多分真っ赤だったろう。暗闇で良かったと思う反面、多分それ
がこの暗闇の中でも相手に伝わっているだろうとも思った。なぜそれが分かるかとい
うと、多分愛衣の奴も今、顔が真っ赤だからだ。不思議とそれが分かった。 

 その後…… 
 愛衣の奴は遠慮無く悲鳴を上げ、遠慮会釈無く俺にしがみ付いてきた。多分愛衣の
こういう姿が見れるのは最初で最後だろう。この次からは断固拒否されるだろうから
……。 
 右腕に胸の柔らかさを感じつつ、俺はそんなことを考えていた。 

            ☆            ☆ 

 午後2時……施設内にある喫茶店で、少し遅めの昼食を採る。さすがに総合施設を
謳うだけあって、飲食店も充実している。今夏開園とは言っても、それはアトラクショ
ン系とそれに伴う施設だけで、商業系は既に営業を開始していた。 

「しかし、まさかあーゆーのが苦手だとは思わなかった。」
「なによ。いいじゃない、恐いモノは恐いんだから……。」 
 グラスの氷をストローでカラカラいわせ、俺をねめつけるくれる。
「でも、よくこんなチケットが手には入ったわね。抽選なんでしょ? これって。」
 話を逸らそうとしているのがバレバレだったが、俺もこれ以上からかって藪蛇にな
るのも嫌なので、敢えてそれに乗ってやった。 
「ああ、マスターに貰ったんだ。バイト代だってさ。誰かさんにこき使われている俺
 を見て、哀れに思ってくれたんだろうなぁ。」 
 まあ、この位の嫌味は言わせて貰おう。が、愛衣の奴はそんな言い回しを気にした
風もなく、 
「へぇー。それでもこき使った誰かさんを誘ってくれたんだ。」
 くすくすと嬉しそうに笑いやがる。だから俺は言ってやった。 

「最初は愛美さんを誘おうと思ったんだけどな。」
(断られるのわかってたけど……) 
 と、心の中で付け加える。愛美さんを誘って、断られてから仕方なくといった感じ
で愛衣を誘うつもりだった……思春期の少年の心は複雑なのだ。 
 すると愛衣は如何にも俺の心を見透かしたように、
「ふーん。私は愛美の次か。」 
 ジト目で俺を睨んでくれた。わかってるくせに……

「でも、まぁ今の愛美は誰が言い寄ってもダメだろうけどね。」 
 多分、マスターの事を言っているんだろう。わかってるよ、んなこたぁ。
 そういや…… 
「そういう愛衣はどうなんだよ。マスターが気にならんのか? 今頃見合いの真っ最
 中だろう。」 
 なるべく無関心を装う風にして聞いてみる。 
「まあ、気にならないと言ったら嘘になるわね。親戚が増えるかも知れないし……」
「だったら俺とこんな所で……親戚?」 
 初耳だぞ、おい。 
「あれ? 言ってなかったっけ? 母さんの一番下の弟。でも『叔父さん』って呼ぶ
 と怒るからマスターって呼んでるのよ。」 
「叔父……さん? はは……なんだ、良かった。」
 思わず安堵の溜息が出る。 
「何が良かったの?」 
 なんか知らないが、愛衣の奴は頬杖ついて小悪魔的な笑みを浮かべている。決まっ
てるじゃないか叔父と姪なら……ちがうっ! そーじゃなくてだな、 
「あ、愛美さんが余計な気を使わなくて済むな、と思ったんだよ。」
 多分、ダメだろう。その証拠に、愛衣は相変わらず笑みを浮かべたまま俺の方を見
てるから……。 

 しかしそうなるとわからないのが、見合いの話にどうして機嫌が悪くなったんだ?
加えてマスターのあの態度……どーも腑に落ちん。 
 俺にタダ働きさせる事が出来なくなって不機嫌なんだろうか? ……まさか、いく
ら何でもそんな事あるわけ……いや、こいつなら考え兼ねない……。 
 でもまあ、別にいいか。今のところ俺に実害があるわけで無し、深く考えるのはよ
そう。そう結論付けてグラスに手を伸ばす……っと、 

『メイ』 
 そんな文字が視界の片隅に飛び込んできた。
(は?) 
 意識しすぎだろうか? そう思いつつ、視界を横にスライドさせる。
 それは紙ナプキン立てに貼られたメニューだった。 

『メイフェア オリジナルメニュー』
 要は5月限定のオリジナルメニューの宣伝のようだ。『5月=May』という単純
な…… 

 『……愛しい衣(ころも)よ。』 
 『その字じゃ、ア・イじゃないのか? もしかして5月生まれ?』

 突如、そんな会話が頭に浮かんだ。去年……いや、一昨年か。初めて名前を聞いた
ときの会話だ。 
(5月生まれ? ……もしかして今日?) 
 そう考えれば少し納得が行く。誕生日にも係わらず、マスターは用事を入れてしま
い、舞台となる『Mute』は休み。機嫌も悪くなろう。 
(しかし誕生日か……俺、プレゼントになる様なモノ、何も持ってないな。)

「こら。」 
 考え込む俺に、怒ったような声が掛かる。 
「なにボーッとしてるのよ。」
 やばっ、 
「あ……悪い。この後どうしようか考えてたんだよ。『ATARU』のショッピング
 モールに行ってみないか? 結構な数の店舗が入ってるみたいだし……」 
 咄嗟の事だったが、結構いいセンいってる。そこでプレゼントのリクエストに応え
れば良いではないか。もっとも、予算の限度はあるが…… 

            ☆            ☆

 早速喫茶店を後にし、『ATARU』へ向かう。しかし俺にとってこれは失敗だっ
た。殆どの行動が唯や友美と同じなんである。 
 どういう事かというと、ブティック関連の店舗を練り歩き、何を買うでもなくただ
見るだけ。男の俺にとっては面白くも何ともない。 
 それでも唯の場合は友美と一緒になって、あーでも無い、こーでも無いと騒ぐので、
見ていてそれなりに面白いのだが、愛衣の場合、黙々と見てるだけ。まあ、らしいと
いえばらしいのだが……。 

 しかしこのままではラチがあかない。 
『何が欲しい?』とか聞くのもなんだしなぁ。どうせならいきなり手渡して驚かせた
いし……。 
「なにそわそわしてんの?」 
 やっぱり端から見ても落ち着きが無い様に見えるか……
「えーと、ちょっと見たいモノが……」 
「いいわよ。何?」 
 いや、まだそれは決めてないんだが……そだ!

「美佐子さんに喫茶店で使うカップを見てきてくれ、と言われてたんだ。」
 別にでまかせという訳ではない。良いのがあったら教えてくれと言われていたのを
思いだしたのだ。 
「ふーん。陶器は……6階か、なんだこの上じゃない。階段使って行きましょ。」
 へ? ちょっと待て、ついてくる気か……って当たり前か。今まで俺を付き合わせ
ていたんだもんな。愛衣の性格からして、 
(じゃ、私は適当に見てるから)
 とは絶対に言わないな。 
「どうしたの?」 
「いや、別に……」 
 ま、なんとかなるだろう。深く悩まないのが俺の長所なのだ。


次へ 戻る

このページとこのページにリンクしている小説の無断転載、及び無断のリンクを禁止します。