Takara's Diary…8月前半

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8月1日(金)
昨日の日記の続き。

このノートを取りに家に戻って、すぐに今井の家に来た。出迎えてくれた今井は朝より顔色が良くなっていてほっとした。
居間もきれいに片付けられてて、デリバリーのピザを取ったらしくてテーブルには飯の準備がされていた。俺も今井も昼がまだだったから、それを食べながらまた少し話をした。
今井を暴行した教師というのは、今井の高校の美術の先生なんだって。今井は美術部員でその先生とは1年のときからずっと関係があったらしい。
今井が言ってたけど、俺も前に1度会ったことがあるって。
「橋本、前に参考書のコピーをくれたことあっただろ? あのとき、夕飯を食べて店から出たらあの人の車が信号で止まってたんだ。橋本はわからなかったかもしれないけど……」
そう言われて、確かにそんなことがあったと思い出した。けど、あのときは暗くて顔がしっかり見えなかったんだよな(すげー残念だ!)。

あんまり聞きたいとは思わなかったんだけど(ホントのことを知るのが嫌だったから)、でもやっぱり気になっちゃって。
「その人と付き合ってるのか?」
って聞いてみたら。
「……そういうのとは、ちょっと違うんだ」
今井は困ったような顔をしてそう言ったんだ。
だから俺、ますます気になっちゃって、
「まさか、あいつに弱みを握られてるとか!?」
って追求して聞いてみたんだけど、これも違ってたみたいだ。
だけど今井はそれ以上詳しく話そうとしなかったから、言いたくないんだろうと思って聞くのを我慢した(本当はすっげー聞きたかったけどさ)。

昨日と一昨日は、俺が部活に行っている間はちゃんと鍵をかけていたから、誰かに侵入されることはなかったみたいだ。
俺が今井の家にいる間(夕方から朝まで)は誰も来なかったし、そのセクハラ教師の来襲はもうないんだろうか。
だけど、「もう絶対来ない」って保証がないから、俺も今井のことが心配で家になんて帰れない。
今井も、今日も部活が終って当然のようにこの家に来ちまった俺を追い帰そうとしないってことは、それを心配しているのかもしれない。
明日は部活が休みだし、塾なんて行かなくてもどうでもいいから、1日今井と一緒にいてやりたい。
夜中に小さな物音がするだけでびくっと身体を揺らせてるってことは、きっと安心して寝れてないってことだろうからさ(ちなみに俺達は居間で一緒に寝てる。……もちろん別々の布団でな)。





8月2日(土)
今日は朝からいい天気で、本当だったら今井を外に誘ってどこかに行きたかったんだけど……セクハラ教師がいつどこで今井を待ち伏せしてるかわからなかったから、部屋から一歩も出られなかった。くそ。
今井の傷はなかなか良くならない。もともと色が白いから、アザとか目立ちやすいんだろう。顔や全身につけられた青アザが見ていて痛々しい。

今日、傷口の消毒をしてやっているときに、
「ごめんね、妙なことに巻き込んじゃって……」
って今井に言われた。
けど俺は、
「いいって、そんなこと。俺の方こそ、今井に頼ってもらえて嬉しかったよ」
って言った。
だって本当だったんだ。あんな状態の部屋に俺を入れてくれて、それで何があったのかを話してくれて……それって、少なからず俺に気を許してくれてるんじゃないかって思ったから。

そう言った俺に今井がすっげー嬉しそうな顔(俺にはそう見えた)で「ありがとう」って言ってくれてさ。
そのとき俺、思わず今井の唇にキスしたくなっちゃったなんて……死んでも言えないけどよ!!






8月3日(日)
今日も部活は休み。うまいことスケジュールを組んだ自分をほめてやりたい。
今井の家の冷蔵庫の食料がもう残り少なくなってきてたから、俺が近くのスーパーまで買出しに行くことにした。
部屋を出るときにも、それからマンションを出るときにも周りの様子をうかがって、ダッシュで店まで行って大急ぎで買い物をしてダッシュで帰ってきたのに……なんと、今井の部屋の前にはスーツを着た男がいたんだ!
今井の家はエントランスで連絡してドアのロックを開けてもらわないと中に入れない。だから俺も部活から帰ってきたときには今井に連絡して鍵を開けてもらったんだけど、スーパーから帰ってきて今井の部屋の番号を押しても全然反応がなくて。
(まさか、何かあって倒れてるのか!?)
って心配になって、ちょうどそのマンションに住んでいる人が中に入るところだったから一緒に入れてもらって、急いで今井の部屋に行ったんだ。
そしたら今井の部屋のドアの前に、ダークグレーのスーツを着た若そうな男がいて。チャイムを何度も何度も連打して、ドアをこぶしで叩いたりしてたんだ。
「おい、中にいるんだろ、今井。出て来いよ。ちっとも部活に顔を出さないから、部員も心配してるぞ」
って、大きな声で叫んでたのは、生徒を心配している先生って感じの台詞で。でも、俺にはすぐにわかった。こいつが例のセクハラ教師だって。
俺、頭に血が上っちゃって、何も考えないままそいつのところまで走って行っちまった。

……ちなみに、そのときの俺は実はすっごい緊張してたみたいで、そいつに何を言ったのか全然思い出せなかったりする。
けど、そいつは俺のことを殴ったりしないで(すっげー憎たらしそうな顔はしてたけど)、けっこうすんなり帰って行った。
今井はドアの向こうに立ってたみたいで、そいつがエレベーターに乗ったぐらいにドアを開けてくれた。
そのときに青ざめて泣きそうな顔をしてたけど、大きな揉め事にならなかったことにほっとしたのか、すぐに顔色もよくなった。

でも、あのセクハラ教師…………また絶対今井のところに来るよな。どうやって追い払ったらいいんだろう…………。






8月4日(月)
俺が起きると今井が誰かに電話していた。
「本当にすみません。よろしくお願いします」
敬語を使ってるってことは相手は大人なんだろうなーと思ったものの、その電話の相手が誰なのかは全然わからなくて。今井の電話が終わるまで黙ったままその様子を見守ってた。
今井は俺が起きてきたことに気づいて小さく笑いかけてくれて。その顔で今井が落ち着いてるんだってことがわかって俺もほっとした。
それからすぐに電話は終わって、俺は別にその電話の内容を聞きたいと思ってたわけじゃないんだけど(気にはなってたけどさ)、今井のほうから教えてくれた。
「先生のこと……父さんの秘書をしてくれてる人に、なんとかしてもらうことにしたんだ。昨日みたいにまた家に来られても困るし、今の状態のままじゃ学校にも行けないし……」
って言う今井の言葉に、確かにそうだろうなって思った。あんな奴が学校にいれば、いつまでたっても今井の心が落ち着くことはないだろうし……いつどんなことになるかわからないだろうし。
けど、今井のその話を聞いて俺は、
「……大丈夫なのか?」
なんて言ってた。
だって、お父さんの秘書って人にあの先生とのことを詳しく話すなんて……今井だって嫌だろうって思ったからさ。
そしたら今井は、
「うん……きっと大丈夫」
大丈夫だとは思いづらい声でそう言って。
でも『心配しないでくれ』って感じの笑顔を向けられたらそれ以上は何も言えなくなっちまった。

それから2人で朝ごはんの準備をして、他愛もないことを話しながら食べていると突然今井が言った。
「転校……したほうがいいのかもしれない」
「…………」
俺と話してる間もあの変態教師のことを考えていたのかって思うと内心すっげー複雑だったけど、そう思うほど今井があいつを嫌ってるんだとわかってちょっとほっとした。
…………だってさ、1年のときからずっと身体の関係を続けてたってことは、それなりにあいつのことが好きだったからじゃないかって思ってたし──逆に二度と顔を合わせたくないと思うってことは、その気持ちがなくなったからなんじゃないかと思って(全部俺の想像だけど)。
だから俺、本当にそうなったらいいなとか思って、
「もしそうなったら俺の高校に来いよ!」
なんて、深いことはなにも考えないで言ってた(俺って単純だよな)。
今井は俺の発言にびっくりしたみたいだけど、
「それもありかもしれない」
笑いながらそう答えてくれたから、俺も(言ってよかった)って思ったんだった。……今井がお愛想でそう答えてくれたんだとしても、さ。






8月5日(火)
久しぶりに塾に行った。
ホントは今日も休むつもりだったんだけど、今井に
「橋本……塾はどうしたの?」
って言われちゃって。サボってるって言えば今井が気にするかと思って、仕方なく行くことにしたんだ。
午前中から部活があったし、勉強道具は家に放置したままだったから、いつもより早く今井の家を出ることにして(……貴重な時間が短くなって残念だったけど、仕方ないよな)。
で、今井の家を出るときはいつも今井が玄関まで送ってくれるんだけど(俺が出たあと鍵をかけるためだけど)、そのとき俺、
「行ってきまーす」
って普通に言ってて! いつもはそんなこと言わないのに!!
すぐに気づいて
「あっ!!」
って言ったら、今井も俺がおかしなこと言ったって思ったらしくて、びっくりしたような顔してた。そりゃそうだよな、自分の家でもないのにそんなこと言うなんてさ!
でも今井、笑いながら
「行ってらっしゃい」
って言ってくれたんだ。しかもすっげえ可愛い笑顔で!(思い出しただけでヤバいことに……っ!)

そんなわけで、今日は部活も塾も身が入らなくて散々だった。仕方ないよな、だってあんな顔されちゃさー!!!!






8月6日(水)
夢のような日々が終わってしまった。
なんか突然の夢の終わりって感じで、今でもなんか信じられないんだけど……今井の家で過ごした日々は間違いなく本当にあったことなんだよな。

今日も午前中から部活があったから、朝からその準備をして今井の家を出ようとしたら、
「橋本、もう家に帰っていいよ」
玄関まで見送りに来てくれた今井が突然そう言って。
最初は何を言われたのか全然わからなくて、靴を片方履いた状態で今井の顔を見つめることしかできなかったんだけど、
「父さんの秘書が動いてくれたから先生がここに来ることはもうないだろうし……せっかくの夏休みなのに、僕の問題にずっとつき合わせちゃってごめん」
今井がそんなふうに言ってきたから、それでようやく(俺、ここに来なくていいって言われてるんだ)って気づいて……一瞬目の前が真っ暗になった気がした。
でも冷静に考えてみれば、ずっと今井の家にいるなんてのもムリな話で。一週間近く居座ったんだし、これ以上は今井にも迷惑かもと思って、
「わかった、じゃあ……もう帰るな」
潔くそう言ったんだった(ぼそぼそって呟くみたいな声になっちまったけど)。
だけどそのまま「じゃあな」って帰る気にはなれなくて……どうしても次の約束を取り付けたくて、
「また遊びに来ていいか?」
って聞いてた(……俺、全然潔くないか?)。
今井は変な声でそう言った俺に笑いながら、
「うん、いつでも来て」
とすぐに言ってくれて。
だから俺も、後ろ髪は引かれたけど今日は家に帰ってきたんだ。

でも、家に帰ってきたって考えるのは今井のことばっかりで……あ〜、電話してえなぁ!(しつこい奴だって思われたら嫌だからできないけどさ)






8月7日(木)
今井からメールが来た!

『長い間家に泊まってくれて本当にありがとう。橋本がいない家は妙に静かで変な感じがするよ(笑) 時間ができたらまた遊びに来てください』

今井がどんな顔でこれを打ったのか、想像するだけでニヤニヤしちまう!(メールを見たのが塾の帰りだったんだけど、周りの奴らの視線が痛かった……ってことは「変な奴」だって思われたんだろう)
嬉しくてさっそく俺も返事を出した。

『俺のほうこそ楽しかったよ! また絶対遊びに行くから待ってろよ!!』

「待ってろよ」なんてエラそうだったかな? でももう送っちまったもんな……。






8月8日(金)
今井のことが気になって気になって仕方ない。
「今何してるのかなー」とか「電話しちゃおうかなー」とか、「メ、メールならいいか!?」とか……そんなことばっかり考えてて部活も塾も身が入らない。
明日は他校と練習試合だってのに……キャプテンのくせにこんなんじゃ他の奴らに迷惑かけるだけだよな。ちょっと気を引き締めないと。
でも、今井のことが気になるのは仕方ないよな。好きな奴のことを常に心配するのって、きっと誰にでもある気持ちだろうし。

とりあえず明日だけは部活のことを第一に考えて……明後日からは、また今井のことを優先的に考えよう(なんてことを他の奴らに言ったらシメられる気がするけどさ)。






8月10日(日)
昨日は部活に専念した。結果、うちが圧勝した。
俺一人が頑張ったってわけじゃなくて、他の奴らが前よりずっとやる気になって頑張って練習してたからだろうってわかる結果だったからなんか嬉しかった。うちのバスケ部はもっと強くなれるぞ!

で! 今日は部活も塾も休みだったから、落ち着いて今井に電話をしてみたんだけど……遊びに行かないかって誘ったものの、速攻で断られた。
『用事があるから』って言われたけど、それが本当かどうかも信じられない。ただの口実っぽい感じもしたし……。
でも、
「また誘ってくれよ」
って言ってくれたから……100%迷惑ってことじゃないんだって思えて、少しだけ気持ちが浮上した。

…………でも、それでもすげぇショックだ…………。






8月13日(水)
今日の部活には引退した3年生が来てくれて、OB戦をやった。毎日練習してるわけでもないだろうに、先輩達は現役の頃と変わりないプレイをしてくれて、俺たちもかなり苦戦した(ちょっとの差で勝てたけどさ)。たぶん他の奴らももっと練習しなきゃって思っただろう。いい刺激を与えてもらって先輩達には感謝だ。
それが終わってから3年生も含めて皆で昼飯を食いに行ったんだけど、そのときに佐野先輩が俺のところに来て、
「よ、橋本。例の彼とは仲良くやってるか?」
って明るく冗談っぽく聞かれて(他の奴らには聞こえない程度に声を抑えてくれてたけど)。
本当は笑って受け流そうかと思ったんだけど、この半月の間にあったいろいろを思い出したらなんかそれができなくて、
「ちょっと、いろいろあって……」
なんて、俺にしては珍しい深刻な声で答えちまってて。
でも、そのいろいろを先輩に話すわけにはいかなくて(今井の知らないところで、今井の話をベラベラするなんてできないだろ)、そう言ったきり黙りこんでたら、佐野先輩が突然俺の頭をぽんぽんって叩いてきた。
「そんな顔してんなよ。お前のとりえはいつも元気なとこなんだから、何があっても笑ってろよ」
さとされるようにそう言われて、なんかちょっとジーンとしてしまった。たった1歳しか違わないのに、先輩のこの落ち着きは俺にはマネできないよ。
「ま、話したいって思ったらいくらでも話してみろよ。俺と結城で聞いてやるからさ」
最後にはそう言って笑ってくれたから、俺の気持ちもかなり軽くなった。もしかしたら俺、今井のことを誰かに相談したかったのかもしれない。……でも今は話せる状態じゃないけどさ……。
先輩達ならきっと俺の心配とかも真剣に受け止めて聞いてくれるよな。どうしても話したくなったら、そのときは2人に相談してみよう。






8月15日(金)
今、今井のお父さんの秘書って人から電話が来た。
今すぐ今井の家に行ってくれって言われたんだけど……今井に何かあったんだろうか?

とにかく、これから急いで今井の家に行ってくる!





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