Sou's Diary… 8月前半

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8月3日(日)
先生が来てる。どうやってマンションの中に入ってきたのかわからないけど、今玄関で騒いでいる声がする。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。こわいこわいこわいこわいこわい!
橋本……早く帰ってきて!!!!


あ……橋本の声がする。
「帰れよ!」って、「あんなことしたお前にあいつを会わせるわけないだろ!」って言ってくれてる……。
よかった……本当に助かった…………。


本当にありがとう、橋本。






8月4日(月)
いつまでもこんなふうにあの人の存在に脅えていたくない。
そう思って、朝一で父さんの秘書に電話した。
あの人は父さんが興信所に調べさせた結果を知ってるみたいで、
「花岡先生をなんとかしてください」
と言っただけでだいたいの事情を把握してくれたみたいだった。
それでも「具体的にはどうすればよろしいですか」と聞かれたから、
『僕の家には二度と来ない・今後肉体的交渉は一切しない・職権乱用せず、一教師として僕に接する』
ってことを約束させてほしいと頼んだ。
もちろん簡単なことじゃないだろうし、あの人が逆上するだろうことは予想がつくけど……でも、もう限界なんだ。
これ以上あの人との関係を続けたって、僕にはプラスにならないってはっきりわかったから。

電話を切ると、途中から僕の電話を聞いていたらしい橋本に当り障りのない範囲で電話の内容を教えた。
橋本は橋本でいろいろ心配してくれてるみたいで、「本当に大丈夫なのか?」って聞いてきたけど……大丈夫だとしか答えられるはずがなくて。
これからどうなるのかなんて、自分のことだけど僕にも全然予想がつかないから……。

それから2人で朝食を作って食べたんだけど、僕の頭の中にはあの人のことしか浮かんでこなくて……せっかく橋本が僕に気を遣っていろいろ話してくれていたのに、ちっとも聞いていなかった。
でも僕が、
「転校……したほうがいいのかもしれない」
頭の中で考えていた本音を思わず声に出して洩らしたら、橋本は
「そうなったら俺の高校に来いよ!」
ってすぐに言ってくれて。
橋本はその場のノリでそう言ってくれたんだろうけど、もし本当にそうなったらって考えたら少しワクワクした。
橋本と同じ学校に通えたら、きっとどんなに楽しいだろう。

…………本気で考えてみようか。






8月5日(火)
橋本がこの家に泊まるようになって、もうすぐ一週間経つ。
橋本の都合を気にする余裕がなかったからなんとも思ってなかったけど、ずっと家に帰らなくて橋本のご家族は心配しているんじゃないだろうか?
それに、部活には行ってるみたいだけど、塾の方には行ってないみたいだし……。
とりあえず気になったから聞いてみたら、やっぱり塾には行ってなかったみたいで、
「あ、ああ、今日は行くよ?」
ちょっと上擦ったような声で言い分するっぽく言って(そのときの顔、ちょっと可愛かったな)。でもそれで、自分が橋本に迷惑かけてるんだってことに気づいた。

橋本は優しいから、自分から『帰る』って言えなくなってるのかもしれない。それに、あの人がまた来るかもって思ってるのかもしれないし。
このままずっと引き止めておくのも悪いし……明日こそは「もう大丈夫だから帰っていいよ」って言おう。

……だけど今日は、まだ一緒にいてほしい。






8月6日(水)
橋本が家に帰ってしまった。
「帰ってしまった」というのはおかしいってわかってるけど……気分的には本当にそんな感じなんだ。

今朝橋本に、自分の家に帰っていいよと言った。
橋本はちょっとびっくりしたような顔をしたけど、「また遊びに来るよ」と言い残してこの家を出て行った。
ここのところ習慣のようになっていた見送りをするために、玄関に向かう橋本の後ろを歩いていたら、なんだか急に「帰っていいよ」と言うのが惜しくなってきたんだけど……でも、僕の我儘にいつまでも橋本をつき合わせてはいけないと思い、はっきり言った。
──本当のことをいうと、父さんの秘書からはまだなんの連絡もない。だからあの人がこの家に来ない保証はまだないんだ。
だからまるっきり不安が拭われたわけじゃないんだけど……それは僕の事情で橋本には関係ないことなんだから、考えるべきじゃないだろう。

ずっと家にいてもらって、きっと橋本のご両親にもご心配をかけただろう。本当ならちゃんとお礼をしたほうがいいんだろうけど……僕がそんなことをしてもきっと橋本のご両親も困惑するだけだろうと思って、とりあえず何もしないことにした。
でも、橋本には改めてメールしないとな。

今日からまた1人の生活が始まる。
橋本がいないこの家は、こんなにも静かだっただろうか。






8月7日(木)
橋本にお礼のメールを送った。
そうしたらすぐに「また遊びに行くよ」という返事が来て、本当に橋本にその気があるかどうかはわからないけど、嬉しかった。

……だけど、橋本がいなくなった翌日からあの人がまたこの家に来るようになったのは…………どういうことなんだろう。


玄関でそんなふうに騒ぐなよ!!!!






8月8日(金)
今日もあの人はこの家に来た。しかも朝から。
たぶん橋本がこの家からいなくなったってことを知ってるんだろう。ってことは、もしかしたら今まで毎日マンションの外で見張っていたのかもしれない。……陰険な人だ。

我慢できずに父さんの秘書に連絡してみたら、「彼のバックに目をつけられると面倒だから、少し様子を見るように」だって。
いつまで我慢すればいいんだ、こんなの……!






8月10日(日)
橋本から電話が来る。
「今日は塾も部活も休みだから、よかったらどっか行かないか?」
そう誘ってもらえて、すごく行きたかったけど断ってしまった。

あの人が外で待ち構えてると思うと、怖くて外に出られない。
かといって橋本に家まで来てもらうなんてできないし。あの人のことを橋本にするのはもう嫌だ(また心配かけたくないし)。
早くあの人の問題が解決すればいいのに。そうすれば橋本とも出かけられるのに……。






8月11日(月)
突然、父さんが家に来た。



……………………今は、何も考えられない。






8月14日(木)
ごめん ごめんね はしもと
もうやらないってきめたのに はしもとといたときは ぜったいやらないってけっしんできたのに

だって さみしいから   どうしたらいいのかわからなくてつらいから

たすけて  たすけにきて   は し も  と





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