いつまでもこんなふうにあの人の存在に脅えていたくない。
そう思って、朝一で父さんの秘書に電話した。
あの人は父さんが興信所に調べさせた結果を知ってるみたいで、
「花岡先生をなんとかしてください」
と言っただけでだいたいの事情を把握してくれたみたいだった。
それでも「具体的にはどうすればよろしいですか」と聞かれたから、
『僕の家には二度と来ない・今後肉体的交渉は一切しない・職権乱用せず、一教師として僕に接する』
ってことを約束させてほしいと頼んだ。
もちろん簡単なことじゃないだろうし、あの人が逆上するだろうことは予想がつくけど……でも、もう限界なんだ。
これ以上あの人との関係を続けたって、僕にはプラスにならないってはっきりわかったから。
電話を切ると、途中から僕の電話を聞いていたらしい橋本に当り障りのない範囲で電話の内容を教えた。
橋本は橋本でいろいろ心配してくれてるみたいで、「本当に大丈夫なのか?」って聞いてきたけど……大丈夫だとしか答えられるはずがなくて。
これからどうなるのかなんて、自分のことだけど僕にも全然予想がつかないから……。
それから2人で朝食を作って食べたんだけど、僕の頭の中にはあの人のことしか浮かんでこなくて……せっかく橋本が僕に気を遣っていろいろ話してくれていたのに、ちっとも聞いていなかった。
でも僕が、
「転校……したほうがいいのかもしれない」
頭の中で考えていた本音を思わず声に出して洩らしたら、橋本は
「そうなったら俺の高校に来いよ!」
ってすぐに言ってくれて。
橋本はその場のノリでそう言ってくれたんだろうけど、もし本当にそうなったらって考えたら少しワクワクした。
橋本と同じ学校に通えたら、きっとどんなに楽しいだろう。
…………本気で考えてみようか。 |