「自分で言うのもなんだけど、今まで付き合う相手に苦労したことねーんだよな、俺。けど、誰とも長く続いたことなくてさ。半年以上続いたの、亨が初めてなんだ」
「そう、なのか?」
「そ、いつも俺がフラれるんだ。だいたい理由は同じで『お前には付き合ってられない』って言われるんだ」
「それって……」
「自分のことしか考えてねー奴に合わせてらんねぇって言われてさ。自分でもわかってるけど、俺自己中だから――自分のしたいことばっかり優先させてっから、そう言われるのも当然なんだよな。
亨が言いたかったことも、そういうことだろ?」
「――ああ」
別れ話のときは『俺はお前の家政婦になるつもりはない』と言っただけだった気がするが、俺が龍太に愛想を尽かした理由は龍太の歴代の恋人と大差ないといえる。あれからこいつなりに考えて、そのことに気づいてくれたのか。
「そうやって言われるたびに気をつけようと思うけど、簡単に性格が変わるわけないだろ? だから同じことの繰り返しでさ。亨は何も言わなかったし……自分がまた嫌な思いさせてるなんて全然気づかなかったんだ」
「…………」
「ダメなんだよなー俺。相手に甘えちまうっつーか、自分のことばっか考えてて、いつも自分の都合優先しちまって。愛想尽かされて当然だってわかってんのによ」
そう言って龍太は笑ったけど、その表情はどこか悔しげにも見えた。龍太のこんな顔は初めて見る気がする。
(……けど、龍太にだけ問題があるわけじゃないんだよな)
今回改めて話してわかったこと。それは至極基本的なことで、言いたいこと、聞きたいことがあったらしっかり話し合うべきだということだ。誰かと一緒に住むってことは──誰かと共に生きるってことは、相手に対する感情を溜め込んでもどちらのためにもならないんだから。
「――これからは俺が言ってやる」
「え?」
「不満があったら溜めずにすぐ言うから直すように努力しろ。直せないにしても、自分のことだけじゃなく他人のことも考えるようにしろ」
「……わかった」
まるでペットに躾をしてるみたいだ。そんなことを思いつつ厳しい表情を作りながら言うと、龍太も真剣な顔つきで頷いた。本当に努力するかはわからないが、とりあえず今は信じてみよう。
(相手を信じるのはなかなか難しいことだけど、それも大切なことだもんな)
そんなことをしみじみ考えていると、あっけらかんとした声が気の抜けるようなことを言った。
「じゃあもう一回するか!」
「はっ!? なんだよ急にっ」
「亨、全然満足してないって顔してるから。違うか?」
「なっ……!!」
「ほら、ここもまだこんなだし──」
「おいこら、そんなふうに……ぁ!」
話をしている間も俺の中に埋まったままだった龍太のモノが、身体を動かし始めたことで少しずつ張り詰めていく。その変化に応じてようやく熱が引き始めた身体が再び火照り出す。──くそ、真面目な話からエロへの切り替えが早すぎるだろっ。
こういうときだけは言わなくてもわかるんだから、本当に動物みたいな奴だ。……その動物並みの嗅覚のおかげで、俺から誘わなくてもいいのはありがたいことだったりするんだが。
「な? もう一回しようぜ?」
「〜〜〜〜満足させろよっ」
「りょーかい」
龍太が言う通り、続きをするのはやぶさかではなかったが、渋々付き合ってやるようなポーズを取ってしまう。俺のことをよくわかっている龍太にはバレバレだろうけどな……。
これから俺たちの本当の生活が始まる。
一緒に過ごす時間が長くなれば、互いに気を遣っていても些細なことで衝突したり、意地を張って口を利かない日が続くこともあるだろう。だけど、その状況を打破するための手段を今の俺たちは知っている。その方法さえ忘れなければきっと円満な生活が送れるはずだ。
結婚適齢期に差し掛かった男二人が一緒に暮らす状況を『同居』と言い続けることは難しいし、いつか何らかのタイミングで自分たちの関係を話さなければならない日が来るだろう。
その問題を乗り越えられるだけの信頼関係を築けるかどうかは――これからの俺たちの生活にかかってるのかもしれない。
先のことを考えればキリがない。とりあえず今は、再スタートしたばかりの同棲生活を解消したいと思う日が来ないことを祈ろう。
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