Haruna's Diary 6月後半

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7月1日(月)
 今月中にOasisから近い場所で部屋を見つけて、そこに移り住もうって話になった。篤志さんと一緒に。
 俺はこの部屋を引き払って、篤志さんも今の部屋を引き払って……つまり、同棲ってやつをすることになったんだ(照)。

 お母さんに篤志さんを紹介しに行ったり、Oasisの仕事を覚えたり……計画だけはどんどん進んでる。
 いろいろなことが急激に動き始めて、慌ただしくて混乱してしまいそう。だけど、すごく幸せな気分。
 これからどんな生活が待ってるんだろう。篤志さんと、どんな毎日が過ごせるんだろう。
 好きな人とずっと一緒にいられるのって、飽きちゃうって人もいるけど……俺は全然そんな気がしない。
 むしろ、今まで知らなかった篤志さんの一面を見たら、もっと好きになっちゃうかも(笑)。

 いつか、本当にいつか、近い未来じゃなくていいから……篤志さんと、1つになれたら、いいな。
 初めてだし、すっごく痛がっちゃうかもしれないけど、それでも篤志さんを全身で感じられたら、すごく幸せだろうなって思うから。
 ──なんて、ちょー恥ずかしいこと書いちゃった!!(恥ずかしい!!)

 でもいいや。この日記も今日で封印しちゃうし。
 このノートに日記を書くのは、今日で最後にする。これからの生活と区切りをつけるっていうか……そんな感じかな。
 何年後かに見たら笑っちゃうようなことがたくさん書いてあるんだろうな。けど、それも1つの思い出ってことにしておこう。
 篤志さんと出会えて、たくさん守ってもらって……人を本気で好きになるってことも知って。日記を書いていたこの8、9ヶ月間は俺の人生の中で一番充実した時間だったかもしれない(なんて、これから先どうなるかわからないけど)。
 悩みとか篤志さんへの想いがたくさん詰まったこの日記は大事に取っておこう。

 これからの俺の生活が、ずっとずっと篤志さんと共にありますように。

6月30日(日)
 今日は「D-Guys」で働く最後の日だった。
 電話番号を知っていた常連さんには電話で店を辞めることを言ってたんだけど、俺をよく指名してくれていた人たちが花束とかを持って店に来てくれて。
「はるな君がいなくなったら寂しくなるな」
 ってみんな口をそろえて言ってくれるから、本当に嬉しかった。少なくともこの人たちは、俺と過ごした時間を有意義なものだと思ってくれてたんだってわかったから。
「どこかのお店に移るの?」
 みんなそう聞いてきたから、
「『Oasis City』っていうカクテルバーのバイトをすることになりました」
 とだけ言っておいた。常連さんたちの人柄はわかってるからOasisへ出入りされても問題はないだろうし、お客さんが増えるのはいいことだもんね(笑)。
 春日さんは、
「え、もしかして、俺と一緒に行ったあの店?」
 って驚いてたみたいだった。だから俺も正直に、
「実は、春日さんが連れて行ってくれる前から俺もあの店に行ってたんです」
 って行ったんだ。そしたら春日さんは、
「そっか、それは全然気づかなかったな。でもあの店に行けばまたはるな君に会えるんだね」
 と不愉快な顔をしないで笑ってくれたからよかった。俺がOasisを知ってたこと、怒られるかと思ったのに……大人の余裕ってやつなのかな、あれも。
 石田さんも矢部さんも、清水さんも……みんな「これからも頑張ってね」って言ってくれて、心残りなく店を辞められた。

 ありがとう、「D-Guys」。ありがとう、みんな。
 いろいろなことがあったけど、本当に楽しい8ヶ月間だった。

 店が終わってから、みんなで俺の『退職祝い』をしてくれた。
 こうしてみんなと騒げるのも今日が最後なんだと思うとちょっと切なかったけど、最後まで楽しい気持ちのまま過ごせてよかった。
 これからはOasisのために頑張って働こう。

6月29日(土)
 Oasisへ遊びに行って、篤志さんと話してたら、ちょっと気になる男の人が入って来た。
 雰囲気はなんとなくミツルさんに似てて、顔も綺麗でほっそりした身体もスタイルいいなーって感じだったんだけど、 なんかやつれてるっていうか……疲れたような顔をしていて。
 俺の座ってたところから3つくらい空けてカウンター席に座って、マスターにウォッカのストレートなんて頼んでた(アルコールすごい強いやつ)。
 他のお客さんたちもその人がすごく気になったみたいでみんなちらちら様子見てたけど、その人は視線なんか全然気にしないで黙ってお酒を飲んでた。
 でもしばらくするとその人の携帯が鳴り出して。ディスプレイを見てすごく嫌そうな顔をしたけど、それでもちゃんと電話には出た。
 最初から口論ぽい感じで話をしてたみたいなんだけど、
「今週は仕事入れないって約束だったろ? なんで客取るんだよ」
 声をひそめてたけど俺にはそうはっきり聞こえちゃって、その人が誰かに好きでもない仕事をさせられてるんだって気づいてしまった。
 電話が終わるとその人は小さく舌打ちをして、だけどすぐに席を立ってテーブルにお金を置いて
「……ごっそさん」
 と呟いて店を出て行ってしまって。
 なんだかすごく気になっちゃって、その人が出て行ったドアをずっと見ていたら、
「……彼が気になる?」
 って篤志さんが俺に聞いてきた。
「うん。なんかワケありっぽかったから……」
 素直に俺が答えたら、篤志さんは小さく息をついて
「ああいったお客さんは少なくないんだ。ただ、こういった街では他人のしていることに口出ししないというのが鉄則のようになってしまっているから……気にはなっても声をかけることはほとんどないよ」
 そんなふうに、今の人にも声をかけなかった理由を話してくれた。
 確かに歓楽街っていうのは素性を隠して来てる人間がたくさんいるし、それを詮索するようなマネはしないのが暗黙の了解って感じだ。興味本位で、どんなトラブルに巻き込まれるかわからないし。
 だけど本気でその人のことが好きになったら、きっと知らずにはいられなくなっちゃうんだろうけど。

 あの人が、早く幸せな毎日を過ごせるようになるといいな(これって大きなお世話かな)。

6月28日(金)
 仕事前に篤志さんと会って一緒にご飯を食べた。最近Oasis以外の場所で会ってなかったからちょっと新鮮だったかな(笑)。
 俺が「D-Guys」のオーナーとの関係を聞いたら、やっぱりオーナーが言っていたように「仕事仲間でもあり、友人でもある」って言っていた。
「昔はちょくちょくうちの店にも飲みに来てたけど、あの店が軌道に乗り始めたら忙しくなっちゃったらしくてね、最近は全然来てくれないんだよ」
 笑いながら、ちょっと軽口を叩くような感じでそう言って、篤志さんは笑っていた。
 篤志さんのほうがちょっと年上だろうけど、2人はきっと気が合うんだろうな。面倒見のいいところとか似てたりするから。
 いつかオーナーがOasisへ遊びに来たら、篤志さんの昔の話なんてのも聞いてみたい。本人に聞くより聞きやすそうだから(笑)。

 そうそう。
 最近ちょっとずつだけど、篤志さんが敬語を使わなくなってきてくれて嬉しい。
 ホントの篤志さんは自分のことを「俺」って言うみたいだし(昨日オーナーの話で確か『俺の店』って言ってたみたいだから)、もっともっとホントの篤志さんを見たい。

6月27日(木)
 決心したら早く言わなくちゃいけないなって思って、篤志さんに電話して「仕事辞めてOasisで働かせてください」って言った。
 篤志さんは俺の言葉を聞いて「ありがとう」って言ってくれて、(ああ、俺の出した答えは間違ってなかった)って思えたらちょっと嬉しくなった。
 Oasisで働くには「D-Guys」を辞めなきゃいけないわけだから、仕事が始まる前にオーナーのところへ行って、今月で辞めさせてくださいと話した(ホントは辞める1ヶ月前に言わなきゃいけないんだけど、みんなけっこう急に辞めてくことが多いんだ)。
 そしたらオーナーは大げさな溜め息をついて、
「はるなが篤志とそういう関係になるとはな……」
 って言ったんだ!
 オーナーが篤志さんのことを知ってるのに驚いたし、俺たちの関係を知られてることにも驚いた。
「だ、誰に聞いたんですかっ?」
 まさかミツルさんやいつきくんが言うはずないよな、とは思いつつも、どこからバレちゃったのかすごく気になって聞いたら、
「篤志がさっき電話かけてきたんだ」
 って言って。
 オーナーの話だと、オーナーと篤志さんは仕事の関係でときどき会ったりすることがあるらしい。気があって仲良くしてて、お互いのプライベートのことも話したりしてるんだって。
「篤志が『お前の店で働いてるはるなを俺の店にくれ』って言うから、こりゃまたどういうことかとは思ったんだが……問いつめたら白状しやがったんだよ。『実は付き合うことになった』ってさ」
 いったいあのオヤジのどこがよかったんだ? って聞かれて、どこがって全部好きなんだけど、そんなこと言ったらオーナーに笑われちゃうかな、なんていろいろ考えてたら顔が赤くなっちゃって、オーナーに「やっぱ聞きたくない」なんて言われちゃったよ。
「ま、あいつは恋人ができれば一途だろうし、そこらへんをフラフラしてる男にだまされるよりはマシかもな」
 オーナーはそんなことを言って、だけど
「実際お前はよくやってくれたよ。今までこの店のために頑張ってくれて本当にありがとな」
 突然辞めるって言い出した俺を怒りもせずに笑って言ってくれた。
 オーナーにも本当にお世話になってしまった。俺が年をごまかしてるって知っていながら働かせてくれて(たぶん最初から気づいてたんじゃないかな)、ストーカー騒ぎのときとかも俺のことを本気で心配してくれて。
 きっと俺は、これからもオーナーのことを尊敬し続けると思う。ああいう大人に俺もなりたい(なれるかどうかはわからないけど)。

 オーナーは開店前のミーティングで、俺が今月いっぱいで辞めることになったとみんなに話してくれて。
 みんなすごくびっくりしてたみたいだけど、オーナーが冗談まじりに
「はるなは好きな奴と一緒に働けることになったみたいだから、お前らも祝福してやれよ」
 なんて言ってくれたから、みんな笑いながら頑張れよって言ってくれた。
 あと数日でここで働くこともなくなってしまうのかと思うとなんだか寂しくなったけど、でも自分で決めたことだから後悔はしない。
「D-Guys」で働ける残された時間をせいいっぱい店のために頑張りたい。お世話になった場所に、俺ができるせめてもの恩返しをしたい。

6月26日(水)
 昨日篤志さんに言われたことを、思いきっていつきくんに相談してみた。
 仕事以外の話をしたことのある相手ってよく考えたらそうはいないし、俺が篤志さんのことを好きだって知ってるいつきくんになら、すんなり話せると思って。
 仕事が終わってから近くのファミレスに誘ったら、ちょっと不思議そうな顔をされた。俺がいつきくんを誘ったのがそんなに珍しかったのかな(ストーカー騒ぎのときに映画見に行ったのにな/笑)。
 お腹が空いてたからお互いにご飯を食べて、その途中で何気ないふりで思いきって話したら、いつきくんてば俺の話を聞いて食べてたご飯吹き出したんだ(俺の顔にもご飯粒が飛んできた)。
「なに、はるな……いつのまにあの人と付き合ってたんだよ!?」
 って、そこにまず驚かれて、そういえば付き合いはじめたことは言ってなかったんだって気づいて。改めて話すのは照れくさかったけど、実は……って打ち明けた。
 いつきくんは俺の話を聞くと、イスにそっくりかえって脱力してた。「なんだよ〜、そうだったのかぁ」って何度も何度も言うから、思わず「言わなくてごめん」って謝ってた。なんで謝ったんだろ、俺(笑)。
 店をやめるかどうかってことには、
「はるなが自分で考えて、どうしたらいいか決めるべきじゃん? 俺たちが『辞めないでくれ』って言ったから店に残るとか、はるなの彼氏に『辞めてくれ』って言われたから辞めるとか、そういうのだと後で後悔するかもしれないぜ」
 って言われて……本当にその通りだろうなって思って、
「もう一度自分でよく考えてみる」
 って言ったんだけど。
 家に帰ってきて考えたら、悩むことは何もなかったじゃないかって気がしてきた。……つまり、俺の中では答えが決まってたんじゃないかって。ただ、その答えで本当にいいのか自信がなくて……誰かに相談したくなっていたのかもしれない。

 いつきくんの言葉で、なんかふっきれた。
 俺……あの店を辞めて、篤志さんの店の手伝いをしたい。
 お母さんの店も大変な時期は脱したっていうし……俺がやっきになって稼ぐ必要もなくなったんじゃないかなって思ったし。「ギャバクラで仕事してる」ってことを言えないでいるより、「恋人のお店の手伝いをしてる」ってほうが、お母さんたちも安心するだろうし。
 それに、やっぱり……大好きな人とは、長い時間一緒にいたいもん(照)。

 よし。明日、篤志さんにこの決意を話そう。

6月25日(火)
 篤志さんに電話して、お母さんから電話がきたことを話した (ホントは篤志さんがOasisに着いたくらいの時間に店に電話しようと思ってたんだけど、どうにも待ちきれなくなって昼間に携帯に電話しちゃった)。
 篤志さんは予想通り寝てたみたいでちょっとこもったような声で電話に出たんけど(すっごく悪いことしちゃったな……)、俺の話を聞くとちょっと声が高くなったみたいだった。
「よかったね。私もほっとしたよ」
 って言ってもらえて、嬉しい気持ちが倍になった気がした。
 それからちょっとだけ話をして、せっかくの篤志さんの睡眠時間をこれ以上短くするのはよくないなって思ったから俺から電話を切ろうとしたら(篤志さんは俺から電話を切らないといつまででも話に付き合ってくれるんだ)、篤志さんに今夜Oasisに来れるかって聞かれて。
 もちろん俺も篤志さんに会いたかったから、仕事が終わってから即行でOasisへ行った。
 閉店の時間までいつもみたいに話をしてたんだけど、お客さんがいなくなってから急に篤志さんが黙ってしまって。
 何があるんだろうって思ってたら、
「はるな」
 とちょっとマジメな声で名前を呼ばれて、心臓がどきんっと跳ね上がっちゃった。
「な、なに?」
 妙にドキドキしてどもっちゃったら、篤志さんは小さく笑いながら
「うん。……はるな、仕事やめる気ないか?」
 って言って。
 それが考えたこともないようなことだったから心の底から驚いて、
「えええっ!?」
 なんて大声上げちゃった(笑)。
「そ、それってどういうこと?」
 俺の聞き間違いかと思って聞き直すと、篤志さんは続けてこんなことを言った。
「あの店をやめて、この店を手伝ってくれたら嬉しいんだけど。タイキ君がね、学校の方が忙しくなってきたらしくてバイトの日数を減らしたいって言ってきてるんだ。だから彼の代わりに働いてくれる人を探そうと思ってたから、どうかなって思って」
 突然の話にすごくびっくりして、開いた口がふさがらなかった。まさかそんなことを言われるなんて思ってなかったから。
 でも、ホントはすごく嬉しかったのに、俺ってば
「ちょっとだけ……考えさせて」
 なんて言ってたんだ。

 本当は考えることなんてないのかもしれない。店をやめて、篤志さんと一緒にOasisで働けるならそれが一番いいとも思うし。
 だけど、あの店をやめるとなると……それはそれでさみしい気がする。
 だって、せっかくできた仕事仲間ともほとんど会えなくなっちゃうだろうし、仲良くなった常連さんとはそれ以上に会う機会がなくなっちゃうだろうから。
 この街に来てからいろいろとお世話になった人たちと離れるのは、なんだかすごくさみしく思えちゃって……。

 どうしよう。悩んじゃうよ……。

6月24日(月)
 とうとうお母さんから電話が来た!!
「春那が勇気を出して話してくれたのに、ずっと電話しなくてごめんね」っていつものように言ってくれて、それだけでなんだか気が緩んで泣きそうだった。
 それから何を言われるのかなってどきどきしてたら、お母さんが突然電話ごしに泣きはじめて(嗚咽っぽいのが聞こえてきたからわかった)。
「ごめんね。お母さん、春那がいろいろ悩んでたこと気づいてあげられなくて……打ち明けてくれて本当にありがとね」
 と言ってもらえただけで、それまでずっと胸の中にたまっていたものが半分以下になった気がしたけど、それからのお母さん言葉を聞いて全部なくなった。
「春那の話聞いてからいろいろと考えたりしたけど……お母さん、春那が好きになった人なら男の人でも女の人でも認めてあげたいって思った。だって春那は私の子だもの。好きになった人が悪い人なわけないし、春那のことを好きだって言ってくれて、本当に幸せにしてくれる人なら、同性だってかまわないわ」
 って得意げに言われて、おかしくて笑っちゃった。そんなふうに言ってもらえるなんて思ってなかったし、なんかお母さんらしいなって思って。
 きっとホントはそういうふうに考えられるようになるまでにはすごく悩んでくれたんだと思うけど、それを俺に感じさせないように明るく話してくれるところがお母さんのすごいところだと思う。本当に、お母さんが俺のお母さんでよかった。
 それからちょっとだけ話をして、お母さんが仕事に行く時間になっちゃったから電話を切らなくちゃいけなくなっちゃって(もっと話したかったな……)。
 電話を切る直前に
「今度連れてらっしゃい、春那の彼氏」
 とひやかすように言われて、恥ずかしかったけどすごく嬉しかった。
 篤志さんとのことを認めてもらえて、俺が好きになった人を否定されないで、本当にほっとした。
 いつか篤志さんをお母さんに紹介したい。篤志さんのこと、気に入ってくれるといいんだけど。
 篤志さんに報告をしに行こうかと思ったんだけど、ほっとして気が抜けちゃったのかちょっと寝るつもりがOasisの閉店時間まで寝てて、篤志さんも一日が終わって疲れてるかなと思ったから電話するのはやめた。明日の昼間にしてみよう。

 ああ、胸がいっぱいだ。嬉しいって気持ちがあふれて止まらないよ〜〜〜!!!!

6月23日(日)
 気づいたら、もう何日も篤志さんに電話してなかった(恋人失格だ……)。
 自分の悪いところだ。一つのことを考え出すとそればっかりに気をとられて他のことがどうでもよくなっちゃう。
 今日は仕事帰りにOasisへ寄って、篤志さんに会ってきた。
 篤志さんは俺を見ると、
「まだお母さんから連絡ないんだね」
 って言って。俺が落ち込んだような顔してたからすぐにわかっちゃったみたいだ(ホント篤志さんにはかなわないっていうか……そういうところが頼もしかったりするんだけどさ)。
 だから俺、毎日ずっともんもんと悩んでたことを全部篤志さんにぶちまけちゃって。
 篤志さんは俺のグチみたいな話を全部聞いてから、ちょっと考えるような顔をして、それから
「あと2、3日待って連絡がなかったら……私と一緒にお母さんに会いに行きますか?」
 と言ってきて、びっくりして思わずカクテルをこぼしちゃった。
 でもそういってもらえたのは嬉しかったから、
「じゃあ、あと2日待っても連絡がなかったら……お願い」
 って頼んじゃった。
 篤志さんが一緒に行ってくれるなら俺はすごく心強いけど、いきなり篤志さんを連れて行ってお母さんがどんなことを言うか……心配だったりする。

 早くお母さんから電話が来たらいいな。

6月21日(金)
 なんだかたくさん考えていると、自分ってすごく優柔不断で自分じゃ何もできないんだなって思い知らされた。
 今回のことも、もっと早くお母さんに言っておけばよかった。……早く言ったからって受け入れてもらえたかどうかはわからないけど、でも『恋人がいる』って告白するよりはショックは小さかったんじゃないかって思うんだ。
 人の顔色をうかがってばっかりで、いつも人の言うことに従ってばっかりで……自分ってものをちゃんと持っていなかったんだと思う。だからこんなにお母さんも苦しめてる。
 どうして俺ってこんななんだろ。もっと意志の強い人間になりたいのに。
 篤志さんに嫌われたら悲しいし、もっと自分のことを好きになりたいから……芯から強い人間になりたい。
 ……そんなにすぐには強くなれないだろうけどさ。

6月18日(火)
 お母さんに電話して話がしたかったけど、篤志さんにもああ言われたし、少し時間をおいてみようと思う。
 けど、どれくらい時間をおいたらいいのかわからない。
 明日とかあさってじゃ早すぎるのかなぁ。一週間とか経たないとだめとか?
 でも、そんなに長いことこのままの状態を続けるのは俺が辛い。

 今こうしてる時間も、お母さんもいろいろ考えてくれてるのかな。

6月17日(月)
 今日は仕事が休みだったから、昼間から実家に帰った。
 けど、結局お母さんには会わなかった。……なんでかって、家まで行くことができなかったから。
『俺の顔を見たらお母さんはどんな顔するんだろう』とか『ひどいこと言われたらどうしよう』とか、いろいろ考えちゃったら気持ち悪くなってきちゃって、しばらく電車の駅のトイレから動くことができなくなっちゃって、仕方なくそのまま戻ってきてしまった。
 今まで一度だって家に帰りづらいって思ったことはなかったのに……お母さんとはほとんどケンカしないし、したってすぐに仲直りできたし……だからこんなに気まずいのは初めてで、どうしたらいいのかわからない。

 家に帰るのが嫌で、まだ開店前だったけどOasisへ寄ってみた。そしたら篤志さんが開店準備をしてて、仕事のジャマはしたくなかったけどどうしても話したくて店に寄ってしまった。
 篤志さんはご飯を作ってくれて(自分も食べるからって、トマトとアボガドの冷たいスパゲティを作ってくれた。すっごいおいしかった)、それを食べながら一緒に考えてくれた。
「こういうことは焦って結論を出そうとしては駄目なんだよ。じっくり時間をかけて、少しずつでも理解してもらえたらいいんじゃないかな」
 って言われて、それまで胃が痛かったのが直った気がした。心配が解消したって感じかな。
 言葉で言ってもらえるのって、すごく安心する。特に、篤志さんの声って落ち着いてるから、聞いていて気持ちいいっていうか……。
 俺のことをいろいろと心配して一緒に考えてくれる篤志さんがいるからこそ、そう思えるのかもしれないけど。

 お母さんの話は一段落したから、俺は前から気になってたことを聞いてみた。「篤志さんは、ホモなの?」って。
 そしたら篤志さん、「私は……男の人も女の人も、どちらも好きだよ」なんて言われちゃって。
(うぐぐ〜〜、それってライバルが2倍ってことじゃないかぁ!)
 って俺が内心もだえてたら、「大丈夫だよ。今は、はるなのことしか見えてないよ」だって!!!
 まさか篤志さんがそんなことを言ってくれるとは思わなくて、嬉しくって思わずぎゅって抱きついちゃった。
 篤志さん、俺の突然の行動にびっくりしたみたいだったけど、それでも俺の背中に手を回してくれて、優しく抱きしめてくれたんだ。
 そのままお互いに口をきかないでいい雰囲気だったのに、(もしかしたら、このまま!?)って考えちゃったら急にば照れくさくなっちゃって……すぐに篤志さんから離れて「じゃあ、おやすみなさい」なんて帰ってきちゃったんだ。
 もったいないことした……あのままだったらキスできたかもしれないのに……!!

 こんなこと考えちゃう俺って、篤志さんいやかなぁ。

6月15日(土)
 篤志さんに会いたくって、仕事が終わってからOasisへ行った。
 篤志さんは俺を見ると、「誕生日おめでとう」ってすぐに言ってくれて。店にいた常連さんたちも俺が誕生日だったって知って「おめでとう!」って言ってくれて、乾杯とかしてくれた。嬉しかった。
 けど、俺の心の中は『どうしよう』って気持ちでいっぱいで、みんなが話しかけてくれても上の空って感じになってしまった。
 お店の閉店の時間になって、やっと篤志さんと2人きりになれて。篤志さんは俺の様子がおかしかったって気づいてくれてたみたいで、すぐにどうしたのかと聞いてくれた。
 俺は篤志さんに、自分がホモだってことをお母さんに話してしまったことを話した。それから、今付き合ってる人がいるってことも。
 お母さんに慌てて電話をきられちゃったってめちゃくちゃショックだったって言ったら、篤志さんも「そうか……」ってちょっと悲しそうな顔になった。
「機会をみて、もう一度話をしたほうがいいかもしれないね。電話で話すより直接会って話さないと堂々回りだろうから……気まずいかもしれないけれど、会いに行った方がいい」
 って言って、それから、
「私も一緒に行きたいけれど、突然男の恋人を連れていったらはるなのお母さんがショックを受けるだろうから……時期をおいて、会わせてほしい」
 って言ってくれた。
 確かに篤志さんの言う通り、電話でばっかり話をしてもらちがあかないかもしれない。お母さんの顔を直接見ながらじゃないと、俺の本当の気持ちとか、全部わかってもらえないかもしれないし。
 それでもやっぱりお母さんに会うのが怖い。家に行って、門前払いとかされたらどうしよう。

 いつかは篤志さんのこと、お母さんに紹介できたらいいな。



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