ザ・オヤジ受7-2
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……どうやらその日、彼は最初から『その気』だったらしい。 二人分の布団を敷こうと押入れから二組の布団を出していると、 「今日は一組でいいんじゃねぇか?」 と言われ。 「あ……あ、そう……」 その言葉の含む意味に気づいた私は、動揺しながらも出したばかりの二枚目の敷布団を押入れに戻したのだった。 布団が一組でいいということは、つまり……そういった行為をして、そのまま一緒に同じ布団で眠るということで── 「っし。ほら、早く来いよ」 布団を敷くのを手伝ってくれた彼は、敷いたばかりの布団に入るやいなややる気漲る声で私を呼んだ。 「…………」 一度その気になった彼を止めることは難しい。半年の付き合いでそのことを重々思い知らされた私は、大人しく彼の言葉に従うことにした。……今夜は彼の優しい気遣いを反芻しながら、穏やかな気持ちで眠れると思っていたのに……。 半纏を脱ぎながら彼が掛け布団を捲り上げて待ち構えていた布団に入ると、すぐに太い腕が伸びてくる。 「ん……っ」 強い力で抱き締められ、そのままの勢いで身体を布団の上に横たえられながら唇を塞がれる。 ──が、深く貪ってくるかと思われたその唇はすぐに離れていってしまって。 「つめて……」 「え……?」 「身体冷えてるだろ。鼻と口が冷てぇぞ」 「う、うそ……っ」 自分ではまったくそんな気がしないのに思いがけないことを言われ、慌てて顔面に手を伸ばす。……けれど、 「そ、そうかな……?」 指先で触れた鼻と唇の体温が低いようには感じられず、思わず首を傾げてしまった。 彼はほんの少し離した私の顔の上で溜息をつくと、 「ほら」 と大きな掌を私の顔に乗せてきて。 「──あっ」 その手が驚くほど熱く感じられて、自分の身体が冷え始めているのだとようやく認められたのだった。 「ホントすぐ冷えちまうんだな」 「ご、ごめん……」 「謝るようなことじゃねぇけど」 彼はそのままもう片方の手も私の顔に伸ばしてくると、両手で顔全体を包む込むようにして、 「自分で感覚がなくなるほど身体が冷えるってのはどういうことなんだよ」 苦笑交じりにそう言いながら再び顔を近づけてくる。 「ん」 『ちゅっ、くちゅっ・くちゅぅっ』 「ん、ん……んぅ、」 『ちゅるっくちゅっ・くぢゅっ・くじゅっ』 与えられる掌からの熱と深いキスに、私は夢見心地な気分になっていった。なぜ人は温かいものに触れると安心するのだろう……。 やがて彼は私の顔から掌を離すとその手を下に下ろしていき、私の寝間着のボタンを外し始めた。 「んふ──っ、ん、ん、」 引き続き続けられる濃厚な口づけに、抗議の声も発することができない。……本気で抗議をする気があったかどうか、私自身にもわからなかったが。 器用に動く彼の手がボタンをすべて外し、その下に着ていた肌着に気づいて、先に寝間着を脱ぐよう身体の脇に広げていた腕を動かされる。それに素直に従いながら寝間着を脱ぎ、たくし上げられた肌着もすんなり脱げるよう協力すると、軽く音を立てながら唇が離れて肌着を首から抜かれた。 それからすぐに彼の手が私の胸に触れてきたのだが、その手はいつものような動きを見せずに胸に触れたまま固まって。 「……?」 その反応にどうしたのかと目を開いてみれば、彼は私を見下ろして目を丸くしていた。 そしてゆっくり唇を歪ませると、 「蓑虫みてぇ」 と呟いたのだ。 「え……?」 長く仕掛けられたキスにうまく思考が働かず、彼の言葉の意味がわからなくて思わず聞き返して。 けれど彼の視線が私の身体をずっと見ているのが気になり、その視線を追うように自分の身体を見て──一気に体温が上がった気がした。 寝間着と肌着を脱がされた私は、いつもならば裸身となっているはずだった。しかしその日の私は……長袖の肌着の下に、半袖の肌着を重ねて着ていたのだ!! 「こ、これは、だって──っ」 (今日は特別冷えてるから、もう1枚着れば少しは寒さが和らぐかと思って……っ!) それに、まさか今日誘われるなんて思ってもいなかったから────と、頭の中にいくつも浮かぶ言い訳はどれもこれも口に出せず、わなわなと唇を震わせたまま自分の肌着を見つめることしかできない。 念には念を入れた防寒対策で、まさかこんな恥ずかしい思いをすることになるとは……誰が予想できようか! 「す、すぐ脱ぐからっ」 彼の視線から逃れようと身体を起こそうとしたものの、私の上に上体を倒している彼を退けることはできず、それどころか肌着を着たままの胸元を強く押しつけられる。 「いいって。俺が脱がしてやるよ」 口元が歪んだままの彼が言い、すぐに肌着を掴まれて、これ以上恥を晒したくないと思った私は彼に促される前に腕を動かしていた(断じて積極的になったわけではない!)。 ようやく(というのもおかしいだろうが)素肌が現れた私の胸に、改めて彼の手が乗せられる。 「あ……っ」 その手の熱さに肌が粟立ち、胸の中心の突起がぐぐっと立ち上がるのを自覚した。触れられたわけでもないのにこんなことになるなんて……これはきっと寒さのせいだ! しかし彼もその変化に気づいたようで、掌を素早くその部分へと動かすと指先で軽く突いてきて。 「立ってる」 「ん、あ……」 「寒いから、だけじゃねぇよな。どんどん固くなってくもんな」 「ん、んんっ」 「ほら、わかるか? こんな小せぇのにビンビンになってるぜ」 「やだ……っ」 自分の身体の恥ずかしい変化をわざわざ口に出して言われて急激に熱くなってくる。外気に晒された肌にじんわりと汗が浮かんでいくのがわかる。 そしてそれは私の肌に触れている彼にもしっかり気づかれていて……。 「熱くなってきたみたいだな。汗かいてる」 そう言いながら掌が腋の下に忍び込んできて、思わぬ動きに身体が強張った。 「あ、そ、そんなところ……っ」 『ザリッ』 「んっ!」 触るな、と続けたかった言葉も、腋の下を探るように手を動かされて喉元で止まって出てこなくなってしまう。そんなところをいつまでも撫でられたら──あ、汗の臭いがっっ!! 『ザリッ・ザリッ』 「ぁっ、あっ」 「──どんどん湿ってく。おもしれぇ」 「〜〜〜〜!!」 彼はまるで楽しむように私の腋の下を撫で続ける。焦れば焦るほど汗が出てくるような気がするものの、無意識下の現象だけに自分ではどうしようもない。 「やめてくれ……た、頼むからっ」 瞼の淵までもが熱いもので湿っていき、そんな情けない姿を見せたくなくて両腕を顔の前で交差させた。 すると腋の下に潜り込んでいた彼の両手の動きが緩み、その手は再び胸部へと移動してきて。 「ちょっと苛めすぎたか」 (ちょっと!?) 充分だろうが! と罵倒したかったが、そんなことをすれば彼の意地悪はますます過激になるだけだ。 私は敢えて何も言わず、それでも彼の手が腋から移動したことにひどく安堵していた。あんな場所をあんなふうに触られるなんて……彼は本当におかしなことを考える人だ。 『くちゅっ』 そのちょっとおかしな彼は、私が顔の上に置いていた両手を恐る恐る外すとようやくいつものようにする気になってくれたらしい。ゆっくりと揉みしだくように手を動かしていた私の胸部に顔を近づけてくると、小さく開けた口から舌を伸ばして──胸の突起へと触れてきた。 「あっ」 『ぴちゅっ・ぷちゅっ・くちゅ』 濡れた音を立てながら執拗に舐め上げられ、知らず背筋が浮いて彼の顔に胸を突きつけるような体勢になってしまう。すると彼の片手が私の背と布団の間にできた隙間に滑り込んできて、背骨の窪みに沿って下に下っていく。 「はぁ……っ」 温かい指先の動きに誘発されてしまったのか、息を吐き出した喉まで仰け反ってしまう。 『ぢゅっ』 そのとき剥き出しになった喉に突然何かが吸いついてきて、驚きのあまり変な声が出てしまった。 「んぅぐぁっ!」 「……なんだよそれ」 私の声を咎めるように、からかうように言った彼の声が思わぬ近さで聞こえてきて、首に吸いついてきたのは顔の位置をずらした彼の唇だったのだと認識した。本当に、あまり驚かさないで欲しい……。 「い、今のは、その……っ」 自分でも聞いたことがないような奇声を発してしまったことを言い訳しようとすると、 「驚いたんだろ。悪かったな」 素直すぎる言葉と共に頬に軽いキスをされ、そしてすぐにその顔が下に下りていくのを呆然と見つめたのだった。 彼がこんな気遣いを見せてくれるなんて……いや、日常生活ではそれも普通だったけれど、寝室に入ってからのこういうのはほとんどなかったから驚いてしまう……。 『ちゅっ・ちゅっ・ちゅっ』 軽い音を響かせながら肌を移動していく彼の唇。ときどき強く吸い上げられて、その瞬間走った電流のような痛みに身体を引き攣らせながらも彼の行為を甘んじて受け入れた。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」 やがて口から洩れる息が荒いものに変わっていき、彼の手が下半身の衣服にかかるとそれはさらに早くなった。 『スルッ』 いつものように、私の肌への愛撫を続けながら衣服を下げようとした彼の手がふと止まり、 「……もしかして下も厚着してるのか?」 一人ごちるように言ったかと思うと、再び伏せていた顔を上げて私を見上げてくる。 「いやっ、そのっ……はっ、はっ、」 突然我に返らされたような気分で、私は肩で息をつきながら自分の下腹部へ目を向けた。 彼の手が掴んでいるのは1番上に来ていた寝間着で……確かその下には股引(他に洒落たネーミングがあるのかもしれないが、私はこれしか知らない)を履いて、いつものブリーフを履いたはずだ。 股引は、すでに以前から着用していたから彼にも見られているものだし……。 「いつもと、変わらないよ……」 答えるのも恥ずかしい問いに短く返すと、彼は片眉を上げて「それは残念」と言った。 「可愛い柄の毛糸のパンツとか履いてたら興奮したのに」 (す、するなっ!!) 彼の怖気の走るような言動に悪態を吐きながら、私は心から自分の行動を褒めていた。 ……実は寛人にもらった誕生日プレゼントは半纏の他に、マフラー、手袋、帽子、そしてなぜか毛糸のパンツまでもが入っていたのだ。それも成人男性用とは到底思えないような、愛らしいキャラクターの描かれたものが(サイズを見たら間違いなく男性用のものだったが……)。 暖かいようなら使ってみてもいいかもしれないと、いつか試着しようと考えていたんだが──やはりあれは使わないほうがよさそうだ。 『ずるっ』 「足、軽く上げろ」 いつもと変わらないと言った途端に寝間着を引き摺り下ろした彼は、器用な動作で寝間着だけを剥ぎ取ると股引も手早く脱がせてくる。 『きゅっきゅっ』 「あっ」 そして軽く膨張していた私の分身を下着の上からニ、三度揉み込むと、私が身を竦めている間に下着も一気に下ろしてしまった。 |