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<<ここまでのお話
「きゃっほー! おかーさーん!」
砂浜から少し離れた海の上を、黄色いバナナとそれを引く船が走る。
バナナから乗り出すように手を振りながら、大きな声で楽しそうな声を上げる娘に手を振り替えす、白いビキニの母。
海風に揺れる髪の毛は白いビキニと肌も相まって一層黒く見え、映した日差しは天使の輪の様に煌めく。
母と言うには若く、みずみずしく張りのある豊満な肢体は、グラビアモデルと言っても通用するだろう。
「ルミアちゃん、元気になったみたいだね。マリエスタさん」
娘を愛おしく見る彼女に声をかけたのは、現役アイドル、櫟澤凪。
顔つきにはまだ幼さの残るものの、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだを体現したスタイル。
そのハツラツとした性格と笑顔を絶やさない持ち前の明るさでファンを魅了してやまない。
威風堂々と張った胸を覆うトップと際どいアンダーのビキニは残念ながらファンの目に止まることはない。
歌って踊って戦える、熱血が信条の彼女は、ファンの前では常にアクション可能な服をチョイスするからだ。
「ええ、でもやっぱりマルーさんの事が気にかかっているみたいです」
そう言って少し表情を曇らせるマリエスタ。
「そう?」といって、凪は遠くを見るように右手をおでこに当て、海上を右往左往するバナナをしげしげと見る。
「もう全開に見えるけど……」
「少しだけれど、いつもよりも思い切りが足りない感じね」
呟くように放った言葉に応えたのは、丁度現れた叔母、櫟澤千鶴。
「あの子も日々成長しているから、よく見なければ気がつけないかも知れないけれど」
と、微笑んで付け加える。
叔母……とは言ってもその綺麗な肢体は微塵も年齢を感じさせない。
少ない布地から主張される肌は、夏の日差しの炎天下だというのに、透き通るように白い。
ビキニという言ってしまえば挑発的な水着でありながら、腰に巻いたパレオが上品さを演出している。
凪ほど活発ではなく、あまり運動していないにも関わらず、維持され続ける見事なプロポーションは反則的だ。
唯一の弱点は、穏やかな口調と柔らかな物腰の所為か実際の歳よりも少し上に見られる事である。
千鶴の説明に「そっかぁ」と少し残念そうに頬を掻く凪。
姉貴分としては少し面白くない様子だ。
「マルーさんも、折角来たのですから、楽しんで頂ければ良いのですけれど……」
と、苦笑いするマリエスタ。
「あの子、ずーっとむくれてるっていうか、全然笑おうとしないけど、どうしたんだろうね」
ボートを勧めたものの、マルーの態度が余りにも頑なで立場がない。
「そうですね。私達に近い存在……と言うほかにも何かあるのでしょうか」
さらりとマルーの秘密の一つを言ってのけるマリエスタ。
「そ、そうなんだ」 事前にルミアに聞いていた話から一般人だと思っていた凪は驚きを隠せない。
常に一緒にいるルミアが気がつかないのに、一度会っただけのマリエスタが見抜いた事に、「さすがだなぁ」と感嘆すると、
「そうでもありませんよ」
と、苦笑いを浮かべながら、送られた讃辞を辞退する。
曰く、ルミアには人と魔の別が無く、何が出来ても「○○が凄い人」という程度で認識しているため、そう言った事を意識していないのだと言う。
更に彼女はマリエスタやルミアのような「半魔」や「魔」と呼ばれるモノではなく、魔術師だと教えてくれた。
実用レベルまで高められた魔術や体術の使い手は呼吸法などが独特で解りやすいのだと、マリエスタは付け加える。
とは言っても、元はその業界で名を馳せた人の話である。それは決して易しい事ではない。
「私にはそれが解っても、どうすれば良いのか解りません」
ルミアには見えないように背を向けて、
「見守る事しか出来ず、不安で彼女の秘密をお話ししてしまったのですから」
いつもは娘を信じ、微笑み続ける彼女が、今は弱々しく顔を曇らせていた。
今は、誰が見ても疑いようもない絆で結ばれた母子とは言っても、「魔」呼ばれる存在である事や過去が変えられたわけではなく、不安に思う気持ちからは逃れようもない。
娘を愛することで、信じることで、血の繋がらない不安から目を背けようとしていただけなのかも知れない。
少し俯き加減のマリエスタに、凪は頬を掻いて苦笑。
「……凪さんの様にアドバイス出来る方が、とても凄いです」
絞り出すように呟くマリエスタ。
凪は小さくため息をつき、俯く彼女の肩に手をかけると、「おりゃー!」と、俯く彼女をくすぐり始めた。
「きゃぁっ……はぁっぁん!」
突然の奇行に驚き、思わず艶っぽい声を上げる。
海水浴客の多いビーチであれば、2人の美女、しかもスタイル抜群の彼女たちが絡み合う姿は、さぞ男性達の目を引いたであろう。
しかし残念ながらここは櫟澤千鶴のプライベートビーチ。
少し沖にあるボートが急ハンドルを切った程度ですんだ。……海の男の視力恐るべし。
今まで以上に激しいターンがバナナの上の2人を振り落とそうとしたが、事なきを得たようだ。
「良いんだよ、見守るだけで。全部お母さんがやってしまったら、ご近所さんも、友達も、さらには他の家族だっていらなくなっちゃうじゃん」
くすぐる手を止めて、パッと離す凪。
何もかも突然の事に砂浜に倒れ伏すマリエスタ。
「そうですよ。私達にも、見守らせて下さい」
2人を見ていた千鶴が、倒れた彼女に手をさしのべ、微笑みかけた。
その手を取り立ち上がろうとすると、
「うん。どうやら見守るだけじゃなくって、お母さんも楽しんだ方が良い結果が出るみたいだよ?」
沖のバナナを眺めて凪が意味ありげな言葉を紡ぐ。
背を向けていた娘の方を振り返ると、それまで以上の笑顔のルミアがマリエスタには見えた。
後ろの少女も、心の底から笑っている。
牽引するボートが急ハンドルを切ったために生じた幾重もの波とうねりが、遂にマルーの心の壁を打ち破ったのだ。
「子どもは親が俯けば不安になります。逆に、顔を上げ、笑っていれば多少の障害ぐらい簡単に乗り越えてしまうものですよ」
千鶴は貸したまま握られている手を握り返すようにもう片方の手で包み、
「あの子達も、もちろん私達も貴女に愛されて、貴女と一緒に居られて幸せですよ」
と、優しく微笑む。
「千鶴さん……」と、マリエスタもまたその手を握り返す。
「静かに見守るのも良いけど、たまには一緒になって思いっきり笑うといいって事だよ!」
手を腰に当て、胸を張って声を上げる凪。
「そうですね。それでは、私も……!」
「え?」と、声にする暇もなかった……と思う。
魔狩りの戦士として鍛えられた動きで、マリエスタは凪と千鶴の横腹へと手を伸ばした。
「ちょまっ」
それまでコンマ何秒だったか。2人の笑い声が砂浜に響き渡る。
「ちょちょ、ちょーっとマリエスタさん。タンマタンマっ」
「そ、そこはいけませっ」
「いいえ。思いっきりです!」
先程凪に笑わされた以上の、いたずらっぽい笑顔で2人をくすぐり始めた。
「きゃははっ。ちょあっ、そこは(///」
「ふぅっあっぁっ ンっ」
思い切り笑う凪と、笑いを堪えようとするあまり色っぽい声を漏らしてしまう千鶴。
「2人とも、逃がしませんよぉっ」
満面の笑顔のマリエスタ。 沖で激しい動きを続けるバナナボート。
この夏一番の大笑が、海と空に響き渡った。
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