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2010/12「サンタだって良い子」

「サンタだって良い子」

チリーン……

 

地上の星々を見下ろすことの出来る、建物の屋根の上に、この時期恒例の明るい赤の衣装を纏ったエックスが、鈴の音と共に降り立った。

その背にはプレゼントの沢山詰まった白い袋を抱え、眼下に広がる、色とりどりの星々を見渡し、この配達先を確認する。

服と同じ色の三角帽子から覗いた、肩まで伸びた黒い髪が、冬の強い風に靡いて視界が狭まるが気に留めることはない。

地上の星を見渡し、場所を確認しようと頭を振る度に、服の首元に取り付けられた鐘が心地よい音をはじき出す。

幾度かチリン、チリン、と鳴らした後、彼女は宵闇の中輝く星々の海へと飛び出した。

 

彼女が 今の主に仕え始めてから毎年行う事になった、一年に一度、この日に良い子達にプレゼントを配る仕事。

主にとって何の利益をもたらさない様にも見えるものだったが、この仕事できる赤い服を着る時、不思議と気分が高揚するようになっていた。

 

異なる世界での生を終え、たゆたっていた魂が、この世界での生を受けて以降、世情もあったが、彼女はその特殊能力と身体能力の高さから常に生と死の関わる場所に身を置く事が多かった。

自ら選ぶことの出来ない主に仕え、時には暗殺者として、時には殺戮者としてその能力を振るう日々。

生まれた時からそうであったのかも知れない。しかし、その生き様は彼女から自らの心を持つことを許すものではなかった。

彼女はただ、氷のように無表情で、感情を表に出すことはなくなっていた。

 

だが、そんな生き方が嘘であったかのように今、彼女は平穏の中にある。

未だ、表情に出ることはないが、「誰かに必要とされる」事に以前ならば感じることのなかった高揚感があった。

 

数十人の主と、数百数千、数万の命を看取った先に出逢った、今代の主は、誰かに「喜び」を与える仕事を命じた。

ある時はメイドとして、ある時はアイドルとして。

彼女の着た服に応じた能力を得る能力と、高い身体能力を、終始「喜びを与える」事に使わせた。

 

いつからだったか、荒んでいた心に火が灯った。

命じられてやっていただけに過ぎないはずの仕事が、彼女の中に、温かなものを思い出させた。

異なる世界で、本当に彼女を生み出した主と過ごしていた一時、感じられた安らかな気持ち。

 

「ありがとう」と言われる度に、プレゼントを開けて喜ぶ子ども達の姿を見る度に、主であった少女との思い出が蘇り、彼女の心を取り戻していった。

 

毎年、この季節が近付くと新調されるこの服を見る度に、気持ちが高鳴るようになった。

元々無表情であった彼女が表情を崩す事は無かったが、それでも主には彼女の心が伝わっている。

そう感じられることが心地よかった。

 

そんな今年のクリスマス。 主は珍しく「最後にプレゼントを配る相手」を指定した。

 

「ここにこの時刻にやってくる子に残ったプレゼントを渡してくれ」

 

いつもならば、配る順序は効率等を考慮して、エックスまかせだったのだが……。

しかも場所は、空と町の光が交錯する屋外。そして本来寝ている子どもにプレゼントを配るはず。

 

違和感を覚えたエックスだったが、命令に対して絶対に従わなければならない彼女は、きっちりと仕事を終え、予定通りの時刻にその場に立った。

 

「エッ……クス?」

 

風は相変わらず強かった。それ故に満天の星空だった。

しかし、声は聞き取りづらく、人物の判別など、出来ようはずもなかった。

だが、

 

「旋璃……亜様……? 旋璃亜様!!」

 

エックスは迷うことなく、その人物を言い当てた。

勢いよく振り返ると同時に、帽子がずれる。

慌てて荷物を持たない左手で帽子を直すと、よく知る少女がそこに立っていた。

 

唖然と、目の前の、自分が最も敬愛し、最も焦がれた相手を見つめる。幻ではない。

 

「お前がそんな顔をするのは初めて見たな」

 

驚きの表情も隠さず、再び声をかけるエックスの本来の主である少女、旋璃亜。

 

幻聴でもない。 声にならない声を上げ、旋璃亜の胸へと飛び込み、崩れ落ちるエックス。

旋璃亜はただ優しくエックスの頭をなで、抱き寄せた。

 

1人孤独に耐え、生き続けてきた子どもを抱きしめ寄り添う母親のように。

 

それは、人々の喜びのために頑張り続けた「良い子」への、ささやかなプレゼント。

 

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