Last UpDate (10/09/03)
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どこまでも澄み渡る空の下、人のごった返す広大な砂浜の一角にそびえ立つ二つの柱。
柱にはその半分程の高さまでかかるネットが張られており、誰もがそれがビーチボールの為のものだと見て取れた。
それを境界とし、白いラインによって四角く囲われたコートの中には、水着姿の男女。
ネットを隔てて性別も区別されているかの様に、今行われている試合は日焼けした小麦色の肌を晒した海パン姿の男達のチームと、まださほど日焼けしていないビキニ姿の美女達。
「ねえ、アルファちゃん。こんな大会なんてやめてサ。これから俺たちとデートしない?」
相手コートからのサーブに備えて中腰に構えて軽口を叩く小麦肌。
すらっとした長身で、容姿も整っており、こんな大会に参加してまでナンパするほど女性に困っている様子でもない。
しかし、それでも彼が声をかけてしまったのは、ネットを隔てた目の前に居る女性、アルファがあまりにも魅力的だったからである。
「せやな〜。けどうち、スイカ持って帰らんとあかんからぁ」
柔らかい物腰と口調そのままに微笑んだ顔は、美人であると同時に愛嬌もあり、とても可愛らしい。
レシーヴの為に中腰で構えた体勢は、ただでさえ豊満な胸が寄せられ、正面で見せられれば、男ならば思わず鼻の下が伸びてしまう。
対戦相手でも公衆の面前でも無ければ、いつまでも見ていたいところだ。
実際、ギャラリーの男性陣の殆どの視線がこの胸元に集中している。
「そろそろ行くぞ」
そんな彼女の相方、ゼータが声をかけた。
手にはバレーボールを持ち、相手コートを見据える目は鋭く切れ長で、その容姿は整っていて美しい。
アルファには劣るものの、彼女の胸も人並み以上の大きさの為、男達の視線を集めている。
しかし、すらっとした凛々しい立ち姿は同性をも魅了し、彼女に対して黄色い声援を送る女性達も少なくない。
「オッケーやで〜」
愛嬌一つ振りまく気のないゼータに対し、依然変わらない口調でにこやかに応えるアルファ。
ゼータは短く息を吐くと、スッ……と流れる様な動作で、左手に持ったボールを構えた。
その姿からはまるで、刀でも抜刀するかのような張り詰めた空気が伝わってくる。
彼女が見据えたコートの先で、尋常でない空気を肌で感じたのか、アルファを口説こうとしていた男も真剣な眼差しを返す。
「これでも俺はバレーやってたんだ。この試合、俺たちが勝ったら……」
それでも口だけは余裕を見せ、アルファに声をかけた瞬間。
パシッザンッ
それは奇妙な音だった。
対戦相手である男達も会場の観客達も一瞬何が起きたのか理解出来ない。
ただわかるのは、
「ええけど、うちらはそう簡単に負けへんよ?」
ニコニコと男の言いかけた言葉に返事をするアルファの後ろで、サーブを打ち終えたゼータの姿。
先程の間抜けで正体不明の音は、ゼータのサーブのインパクト音と、ボールが砂浜に埋まる音が殆ど同時に聞こえたものだったのだ。
僅かの間、多くの人がいる会場すら静寂に包まれる。
しかし、その静寂を裂くように会場を突如、強い風が吹き抜けた。
砂煙こそ上がらなかったものの、帽子が飛んだり、点数表示の掲示板が倒れたりと、会場はしばし騒然となる。
「ゼータはん、あかんよ。今のじゃ毎回会場が大騒ぎや」
アルファがゼータに注意を促す。
「む、そうか。つい力が入りすぎてしまったな」
それに頬をかきながら応えるゼータ。
2人の会話は、喧噪の中、観客には聞こえなかったが、ネットを隔てた同じコートの2人組男達には聞こえていた。
観客達は、まさかこの突風が先程のサーブによるものだと思っている者はいない。
現実、サーブ一つで風を巻き起こせるなど到底不可能だ。
しかし、その速さと、砂に埋まったボールを間近で見てしまった2人にとっては、半ば冗談では無く聞こえた。
落ち着きを取り戻し、試合が再開される。
会場を巻き込む程の風を起こさないものの、ゼータのサーブは相変わらず速く、正確に得点圏に落ちた。
彼女がサーブを撃つ度に、アルファとゼータのビキニの紐が周囲の空気に反して激しく揺れていたが、それで鼻の下を伸ばして見続けられるほど、男達に余裕は無い。
会場に突風を巻き起こすほどのサーブを受けた時、自分達は無事でいられるのか、その場にいるだけで気が気ではなかった。
ゼータがサーブを撃つ度に、彼女から放たれる殺気めいた勝利への執念に脚がすくんで動くことが出来なかった。
後は消化試合のような試合となった。
動けない2人を相手に、一手も手を抜くことなく放たれ続けたサーブ。
試合終了が告げられ、全く盛り上がらなかった試合内容に会場からブーイングが浴び去られた。
折角のイケメンの2人も、意気消沈した姿は、哀れと言うより他ない。
「ほなな〜。またあったらデートに誘ってや〜」
コートを後にする負け犬2人の背に、ボール片手に手を振るアルファ。自分はボールにさわれなかったからと、審判に借りたらしい。
社交辞令と想っては居ても、アルファほどの美人に声をかけられれば、気に留めないわけにはいかない。
2人はなんとか気力で笑顔を作り、振り返り手を振る。
「何をしている。次の試合の邪魔になる前にいくぞ」
すでにコートから出たゼータが、アルファを呼ぶ。
「あぁん。ゼータはん、いけずやなぁ……」
無愛想なパートナーに嘆息をつきつつも、走って追いかける。
途中、「ごめんなぁ?」と、振り返った、その時、事件は起きた。
スルリ
小さな布ズレの音……否、音こそしなかったが、そう聞こえたと思えるほど自然に、アルファのビキニの腰紐がほどけた。
体感、まるでコマ送りのようなスローモーション。先程の試合では使われなかった集中力が、この一点に集中したと、後に男達は語ったという。
こぼれそうになるお尻。
水着を戻そうとするが、突然の出来事に、ボールを掴んだ両手の対応が遅れる。
さらに見える面積が広がっていくお尻。
右手がボールを離し、水着に伸びる。
もう少しで……!!
寸での所で抑えられ、お尻ポロリを回避したアルファ。
ポロリを見ることこそ出来なかったが、アルファの魅惑のお尻に釘付けになる視線。
「い、やぁぁぁぁぁぁ!!」
叫び声と共に、アルファの左手から放たれるバレーボール。
そこで2人の意識は無くなった。
その後医務室で目覚めた2人は、にやけた顔で、「試合には負けたが勝負には勝ったかも知れない」と語ったという。
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