Last UpDate (10/02/08)
原生生物の巨体が力なく崩れ落ち、地震でも起きたかの様に大地が揺れた。
そしてその前に立つ人物は、
「大丈夫ですか? 旋璃亜様」
その手によって守った少女に語りかけた。
片手に雷のフォトンのダガーを持ち、ゆっくりと振り返った彼女は、<少女>旋璃亜のよく知る人物だった。
暗闇から放り出され、突如現れた強力な原生生物に襲われて、絶体絶命の危機に陥っていた旋璃亜。
手持ちの武器も動作せず、為す術もなかった彼女の前に颯爽と現れ、タイヤの様に激しく回転する妙技で敵を打ち倒したのは、旋璃亜にとって見覚えのある人物だった。
「あ、ああ。助かった。有り難う、X」
立ち上がり、とまどいながらも礼を言う旋璃亜。
目の前の人物は本当に自分の知るエックスなのか。以前とは姿が、何より種族が違っている。
決戦の地、リュクロスに向かう時は、肩までのショートカット、メイド服に似たパーツのキャストだったはずだが……。
「三年ぶりですね。決戦の時、姿を見失い、またしてもお守りできなかったのかと」
目の前の人物は、地に着かんばかりに髪が伸び、メイド服とは似つかない深い赤の服と紺のスカートに身を包んだ
ヒューマンであった。
グラール太陽系で起きた「SEED事変」。
その決戦の時、旋璃亜はその時使用された様々な兵器の影響により開いた亜空間の入り口へと落ちてしまった。
そして暗闇を彷徨い、突如現れた一筋の光を頼りにようやく出たのがここだったのだ。
亜空間を彷徨ったのは短い時間だったが、共に戦っていたXにとっては……。
「しかし、貴女の生を信じ、今までお探ししていました。間に合って良かったです。旋璃亜様」
表情に出さないまでも、声でその喜びが伝わってきた。
胸にあてた手が、服を握り集めているのは、瞳に涙を溜めた涙を堪えるためだろうか。
自分が不在であった3年間への不安を与えない様に、彼女は堪えていつもの抑揚のない態度を保っているのだ。
「X……」
そんな彼女を見て、一瞬でも別人かと疑ってしまった自分が恥ずかしい。種族が変わったことなど些細な事だ。
亜空間からの帰還した安堵、忠義を尽くした自分の部下への想い。
今にもXを抱きしめたくなる様な切なさを感じた旋璃亜が、声をかけたその時だった。
ギュイギュイギュイィィィィン……!
遠くの方から音が響いた。
ものすごい勢いでこちらに近付いてくるのが解る。
新たな敵襲……!?
フォトンの輝きが消え、使えなくなった愛用の魔鎌を手に、音の方へと姿勢を正し後ろ手に構えをとる旋璃亜。
構えた方には土煙を上げて近づいてくるタイヤの……否、ダガーを片手に身体を縮め、高速前転で近付いてくる人間の異様な集団。
SEEDウィルスに侵された人々? いつぞかグラールに訪問してきたハリネズミ?
考えている暇はない。そしてそれ故彼女は気がつかなかった。
彼らの姿は先程、強力な原生生物をいとも容易く葬ったXの姿に酷似していることに。
旋璃亜の焦りなどお構いなしに、タイヤの集団は彼女達の後ろに倒れた巨体へと近づき、回転をやめた。
回転をやめ、普通に歩く彼らは右手にダガー系の武器を持った、ごく普通の人々だ。
男女入り乱れた集団にはダガー以外の共通点はない。
その内、1人の男が歩み寄り、
「流石はXの姉御。このモトゥブで最も凶悪な原生生物、ビル・デ・ビアも一撃でのしちまったんですね!」
歓喜の声と共にダガーをもってガッツポーズをとった。
コクリと無言で頷くX。
「うおぉぉぉ! さすがはシソクテンカイ団のヘッド! 俺たちも負けてらんねぇ!」
集団、シソクテンカイ団はダガーを強く握りしめ、天へ拳を振り上げる。
(あ、あねご……? ヘッド? シソクテンカイ団……?)
彼らの雄叫びに圧倒され、Xと彼らを見比べることしかできない旋璃亜。
「細かい話は後ほど。周辺の凶暴化した原生生物は殲滅済みですので、安心してシティへお戻り下さい」
挙動不審の主の心情を察したのか、相変わらず抑揚のない、落ち着いた口調で言うと、ビル・デ・ビアの亡骸があった方を指さす。
示す方向を視線で追うと、亡骸はいつの間にか消え、そこにはクリスタルが出現していた。
それは三年前のグラールにもあった、シティへの転送機。
「あ、ああ」と混乱を隠す事も出来ず転送機へと触れる。
それを見届けたXは、
「野郎ども! 今日はビル・デ・ゴラスを狩りに行くぞ!!」
先程までの口調とは打って変わって勇ましく叫び、ダガーを握った拳を天へと突き出す。
「おぉぉぉ! 俺たちはシソクテンカイ団!!」
応えて叫ぶ人々。
「最強の走り屋だ!!」
Xの声と共に全員が身体を丸め見る間に高速回転を始めた。
彼女らはまるで下り坂を転がるタイヤの様に走り出すと、ほんの数十秒で地平線の彼方へと消えていった。
そこに取り残されたのは、ぽかんと口を開け、彼らを見送るしかなかった旋璃亜のみ。
「え、X……私の居ない3年間。お前の身にいったい何があったのだ?」
彼女の言葉は、モトゥブの荒野を吹き抜ける風に消えて行くのだった。
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