Last UpDate (09/09/07)
「ん〜、踊りや花火もええけど、祭りと言ったらやっぱり屋台モノやわぁ♪」
鼻歌交じりに、多くの人々が行き交う石畳の上を歩く浴衣姿の美女、アルファ。
右手には金魚の入った袋を持ちつつ、左手のあんず飴をほおばると言う、小さな子供の様な「お祭り臨戦態勢」は、整った顔立ちとモデルのようなスタイルにまるで似つかわしくない。
仲間内でも1,2を争うお祭り好きの彼女は、出先、地元を問わず、祭りがあれば顔を出す。
どこで知ったのか、東方のある地域で着られるという祭りの正装『浴衣』を着込み歩く姿がすっかりと板に付いている。
「おいしぃなぁ。祭り屋台の食べ物のおいしさは3割増しや。祭りのメインはやっぱりこれやね」
上機嫌で口へ運んだあんず飴の水飴が口から糸を引く。
その様子をまるで飴を欲しがる子供の様に、袋の中から金魚が見ているように見えた。
「ああ、あんさんらも忘れたらあかんね。祭りはやっぱり屋台やわぁ」
金魚の袋をのぞき込み、様子を見ると、金魚すくいの屋台での事を思い出しほくそ笑む。
自信満々で「ポイ」を差し出した店主の顔が、次々と金魚を掬うアルファを見て青ざめていく様はなかなか見られるものではない。
「さ、堪能したし、そろそろ帰ろか」
そう言って、アルファが踵を返したときだった。
ひゅるるるる〜〜〜……
ネズミ花火が天に昇っていくような間抜けな音。
ドーーーン!
空に、地に、腹の底に響く、圧倒的な爆発音。同時に夜空に開く大輪の花。
あまり急激な事にビックリしたアルファと共に、金魚もはねた。
振り返ると開ききった花が漆黒の夜空に消えて行く所だった。
驚きと、消えゆく花の美しさに胸の鼓動が高鳴る。
次から次へと上がり、空に咲く花をみて、
「これや、これこそ忘れたらあかん。最強のメインイベントやわぁ……!」
無意識に掴んだはねた金魚を袋に戻し、顔を見合わせた。
忘れていただけに、サプライズにも似たこの驚きが心地よい。
夏から秋へと変わるこの夜、普段とは違った感覚で迎えた花火に心躍った嬉しい夜となった。