『ガクらん』   <PRE  NEXT>



 2・私立昭葉学園生徒会



 私立昭葉学園。
 今年で設立四十周年を迎えた同校は、十数年ほど前に、女子校から共学制の高校になった。
 現在、生徒中の男女比率はほぼ4:6。共学化した当時には、男子生徒はかなり肩身の狭い思いをしていたらしい。しかし、男子の生徒数が増え、学園そのものが共学制に馴染んできた今では、そのような状況も少なくなったようだ。
 しかし、その名残は、部分的にではあるが、まだ残っている。

 昭葉学園生徒会。
 その役員――生徒会長らは、カリスマ的存在として、多くの昭葉生徒たちに信奉され続けてきた。
 そう、カリスマである。それは、単なる学校機関の一役職という、一般的な生徒会のイメージを大きく超えていた。
 女子校や男子校といった、偏った群集団によって構成される世界には、その内部に、一種独特な空気が生まれることがしばしある。同姓に抱く、恋愛感情にも似た、憧憬の念。かつて女子校であった昭葉学園の生徒会は、昭葉の女子生徒たちのそんな想いを、身近に存在する偶像として、一身に引き受けていたのだった。
 昭葉生徒会とは、学園の誰からも信頼され、愛される、麗しの存在であるべし――という固定概念がいつしか生じていた。その傾向は、年を経るにつれ、より強固なものとなった。昭葉学園生徒会のイメージは、女子校という言葉が持つ神秘的な印象も手伝い、校外にまで広く知れ渡るようになった。生徒会への憧れで、昭葉学園へ進学することを希望する女子生徒すら多数存在していたほどである。
 とはいえ、昭葉学園自体は、決して由緒のある、格式高い学校というわけではなかった。生徒会にこそ、神聖さすら漂うイメージがあるが、学校法人としての昭葉学園は、それほどには伝統を重んじるとともなかったようである。生徒数の確保のため、男子生徒の入学を受け付けるようになったのだ。当然、反発もあったが、学校側の巧みな政策と、何よりも、いざ実際に男子生徒が入ってくれば、現場も自然と順応せざるを得ないという現実から、次第に昭葉学園は、名実ともに共学の高校と変化していった。

 そんな中で、生徒会のイメージだけは、女子校当時のままで保たれた。
 女子校時代に築かれた「昭葉学園生徒会」の崇高なイメージは、そう簡単には崩れなかった。在校生徒や、昭葉に憧れる中学生、無関係の他校生徒までもが、いまだ女子校時代のままの憧れを抱き続けている。
 ひいては、昭葉に進学してきた男子生徒も、女子の園の象徴ともいうべき、生徒会の神聖さを尊重したがる傾向を持っていた。むしろ、従来は女子生徒の間だけでの憧れだったものが、男子生徒にまでその信仰が伝染してきたふしさえある。
 ゆえに、共学化から十年以上を経た今でもなお、昭葉学園生徒会は、男女問わず、生徒たちの憧れの存在であり続けてるのだった。

 ただし、「昭葉学園生徒会は、見目麗しく優秀な、人望ある女子生徒にて構成されるべし」というイメージは、当然ではあるが不文律であり、校則で規定されているものではない。
 学園の共学化が行われて7年。その間には、数名ほど、男子生徒の生徒会入りが実現している。
 昭葉学園生徒会の人員選出は、基本的に、現行会員による指名制である。三役を務める前の二年生会員が、入学して間もない一年生の中から候補を選び出す、という形で行われる。その男子生徒らも、他の役員と同じく、指名によって、生徒会入りを果たすこととなった。
 共学化が行われた昭葉学園。そんな中で、いつまでも過去の慣習に捕らわれているのは、学園の将来を見据えて考えると、必ずしも良いことではないのではなかろうか――。男子生徒が指名されたのは、そのような意向が、生徒会内部でも生じたためだとも言われている。
 しかし、それでもやはり、昭葉学園生徒会のイメージは、依然として旧来のままといえるだろう。

 今なお、昭葉学園生徒会は、乙女たちの憧れの園であり続けている。


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