第壱使徒 アダムー言わずと知れた、神が最初に創造した人類の名である。命名の由来は不明。しかし、人類補完計画との連関は可能性大。また、アダムの妻であるエヴァはアダムの肋骨を一本抜いて作られた。そして、「エヴァ」初号機は第一使徒アダムのコピーである(第拾六話の葛城三佐、赤木博士の台詞参照)。この合一も偶然とは言えず、何らかの事実を示唆していると考えるのが妥当だろう。

第弐使徒 名称不明ー形態等詳細は一切不明。しかしながら、第拾弐話で垣間見えた遠景と、オープニングでのエヴァ壱号機の羽の生えた姿とが酷似しており、何らかの連関があるものと考えられる。

第参使徒 サキエルー命名の由来は、木曜日の守護天使からである。彼は水を司る天使であり、我々人間に生命の源たる水を与える役目を負っている。この天使と、使徒との直接的な関係は一見認められない。しかし、サキエルは生命の樹(セフィロートの木)と密接な関係を持っており、この生命の樹とはオープニングの前半、碇シンジ君の横顔の直後に出てくる樹木状の図のことである。詳細はここでは割愛するが、この生命の樹を初めとして、この作品にはカバラ思想(ユダヤ神秘思想の中心的存在)からの引用が多数見られる。「死海文書」あるいは使徒の命名の由来もそうである。作品の底に流れる精神を読み取る鍵であろう。

第四使徒 シャムシエルー命名の由来は、昼を司り、楽園を守護する天使である。楽園とはこの場合、アダムとエヴァが追放された「エデンの園」を指す。碇君はこの使徒との戦闘の後、精神的に追い詰められた後にネルフを「追われる」こととなった。彼にとってネルフが「楽園」と呼べるものかは知る由もないが、因縁と言わざるを得ない関係があるのは確かである。

第伍使徒 ラミエルー命名の由来は、雷を司る天使である。七大天使候補※であるところの彼の役割は、神が選ばれた人間に見せる「幻影(ヴィジョン)」を司ることである。幻影とは即ち深い信仰と真実への求道心によってのみ成就される神からのメッセージ、つまり「黙示」の具体的な内容である。この使徒の最大の武器である加粒子砲は、一閃の稲妻を思わせる。命名理由は以上のことであろうが、一つ付記しておくと、彼には堕天使の疑いがある。

※「ヨハネの黙示録」にも登場するが、神のもっとも近くに7人の強大な力を持った大天使がいるとされているが、その7人がどの天使を指しているのかについての定説はない。ミカエル・ガブリエル・ラファエル・ウリエルあたりは争いがないようだが、あとの3人については諸説がある。

第六使徒 ガギエルー命名の由来は、魚を司る天使である。この使徒が海中から出現し、エヴァに初めての水中戦闘を強いた故であろう。洒落が利いている、と言えよう。

第七使徒 イスラフェルー音楽を司る天使が、命名の由来となっている。彼はユダヤ教やキリスト教に由来するのではなく、イスラム教の天使である。ムハンマドを誰よりも早く教育した天使として知られている。この使徒の場合は、使徒自体の特徴とは特に関係なく、使徒の撃退方法に関係している。ネルフ作戦部長である葛城一尉(当時)は、エヴァ初号機、弐号機のパイロットである碇君と惣流さんの完璧なユニゾンを目指すために、一曲の音楽を使った。これは皮肉であろうか。なお、余談だが、多くの宗教において音楽、つまりバイブレーションは信仰心を高める興奮剤の役割を果たしている。

第八使徒 サンダルフォンーこの天使は胎児を司っている。天界は7つの層に別れている。その5番目、第五天「マテイ」の支配者であり、七大天使の最有力候補メタトロンの双子の兄弟であるのが彼である。マテイは神に背いて人間の女と姦通し、その結果獰猛な巨人を生み出し世界を大混乱に陥れ、大洪水を招いた下級天使「グリゴリ」を未来永劫罰するための監獄とされている。マテイは燃えさかる炎が巨大な火柱となっており、まるで地獄のような大変怖ろしい場所である。この使徒に関しては説明の余地はないだろう。ガギエル同様、その特徴が命名の由来を物語っている。

第九使徒 マトリエルー命名の由来は雨を司る天使である。この使徒は強力な溶解力を持つ液体をしたたらせてネルフ本部を攻撃した。あの毒々しい粘液が天からの恵みを象徴しているとはぞっとしない話だが、以上が真相である。

第拾使徒 サハクィエルー空を司る天使が命名の由来となっている。大空からその支配者であるかのごとく悠然と飛来し、人々に希望を奪い去った使徒には相応しい名前かもしれない。

第拾壱使徒 イロウルー命名の由来は恐怖を司る天使である。人類存続の希望であるネルフの奥深くに侵入し、その頭脳であるスーパーコンピューター・マギをハッキングする。まさに恐怖と言えよう。

第拾弐使徒 レリエルー夜を司る天使が命名の由来となっている。その本体は虚数空間、すなわち現実世界の裏の世界であり、裏の世界を象徴するものは夜である。エヴァ初号機はその夜を引き裂いた。それは日の出を暗示するものなのだろうか。

第拾参使徒 名称不明ー一応不明ということになっているが、怖らく真相は命名不能なのだろう。正体はエヴァ参号機なのだから。これは私の職務から離れることだが、この使徒に最も相応しい名前が一つある。これまでの路線からは外れるが、ユダである。理由は、いわずもがなであろう。

第拾四使徒 ゼルエルー命名の由来は力を司る天使である。事実、この使徒はこれまでの使徒の中で最強であった。ATフィールドのみに頼らず、自己の防御力も大変高く、攻撃力もずば抜けていた。まさに力を司るに相応しい者であった。
(拾九話現在)

 以上、手持ちの資料で入手できる使徒に関する情報をできる限り詳細にまとめ、ここに報告する。ネルフ、人類補完委員会、そしてゼーレが描くシナリオにはあまりにも謎が多い。確かに使徒に関する秘密などこれらの秘密の氷山のほんの一角であり、瑣末事に属することではあるが、瑣末事ゆえに謎の出題者の側からの回答の提示の可能性は薄く、これがこの報告書を書くに至った動機である。不十分な点も多いかと思うが、特殊な分野の話であるので、これが精一杯であった。不備に関してはご容赦願いたい。                                        

参考文献・「天使の世界」マルコム・ゴドウィン 大瀧啓裕 訳 青土社

       「月刊ニュータイプ’963月号」 角川書店
       「天使」 真野隆也 新紀元社

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