ロンドン近郊の庭

Hatfield House





 
イギリスに旅立つ前、私はしばしば、赤坂にある英国政府観光庁へと赴く。そこでは、フリーで、いろいろなパンフレットを入手することができるし、何か知りたいことを係りの人に尋ねることもできるからだ。
 ある年、ここで、「Gardens in Britain & Historic Houses〜英国の庭園と貴族の館」なるパンフレットを入手した。パラパラとページをめくっていたら、ロンドンの近郊、Kings Crossから電車でたった23分のところにある、ハットフィールド・ハウスという館が紹介されていた。
 へぇー。行ってみようかなー。
 何かが私のインスピレーションを刺激した。

駅を降り立つと、ハットフィールド・ハウスの門がすぐ見える。右は、館までの道。

 ろくに紹介記事を読みもせずに、ぷらっとでかけていったら、その日は月曜日。East Gardenしか見られないという。
 「え? じゃぁ、明日、来たら全部見られるの?」「館とWest Gardenは見られるけど、今日、公開されているEast Gardenは見られないよ。で、どうする? 見ていく、それとも出直すかい?」と、聞かれ、せっかく来たのだから、と、East Gardenだけでも見ていくことにした。
 館が見られない日に来ちゃって、ちょっと失敗したかなー、と、最初はちらと思ったが、East Gardenに足を踏み入れた途端、その美しさにうっとり・・。いつの間にか2時間も、時を過ごしてしまった私であった。
 ふぅー。
 こりゃいいやぁー。明日も、館とWest Gardenを見に行こうかなぁ・・。

 翌日は、数日前からひき始めた風邪のせいで、体調がすこぶる悪かった。地下鉄に乗っていても咳がとまらないし、ともすると吐きそうな感じがする。もう、ハットフィールド・ハウスに行くのはあきらめて、ホテルで寝ていようか・・、と何度か思ったが、せっかくの旅、寝て過ごすのはどう考えてももったいない! なんとかなるさー、と、気分を奮い起こして、なんとか、再び、ハットフィールド・ハウスの門をくぐった。
 私を見た門番さんが、「やぁ、また来たねー」とうれしそうに一言。こちらも、なにやらとってもうれしくなって、体調が悪くて憂うつだった気分が一挙に吹き飛んで、すっかり元気になってしまった。
 まずは館内の見学。ガイド付きのツアーで説明を聞きながら回っていたら、この館はセシル家ゆかりの家だと言う。きゃーっ!! ウイリアム・セシル、ロバート・セシルと言えば、私が曲がりなりにも卒業論文で扱った人々じゃなぁい? すっかり大学時代にタイムスリップした気分に襲われながら、はるか昔の日々に想いを馳せてしまったのは言うまでもない。

ハットフィールド・ハウスのベストショット(?)3点は、ロンドン近郊の庭 TOPで紹介しています。そちらも見てくださいねー。

 ハットフィールド・ハウスの歴史は、ヘンリーZ世の時代、Cardinal MortonがOld Palaceを建てたことから始まっているらしい。その後、ヘンリー[世の時代に、彼が引き継ぎ、子供であるエドワードY世やエリザベスT世らはここで育ち教育を受けた。
 映画「エリザベス」の1シーンにもあるように、エリザベスが即位の知らせを聞いたのは、この屋敷の樫の木の下で本を読んでいたときだったという。
 エリザベスは、1558年の11月に、最初の会議(Council of State)をここで開き、ウイリアム・セシルを枢密院の一員とした。このころから、彼は、レスター伯やエセックスなどのエリザベスの寵臣と並んで、エリザベスの仕事のうえでのお気に入りになっていったようだ。
 ともあれ、子供時代をここで過ごし、即位の知らせを聞いたハットフィールド・ハウスは、エリザベスT世にとって、思い出のいっぱい詰まった場所であったことと思う。
 ところが、エリザベスの王位を継承したジェームズT世は、この屋敷より、家来であるロバート・セシル(ウイリアムの息子)の持ち家、Theobaldsを好んだ。そこで、このハットフィールド・ハウスとTheobaldsの交換が成立。以来、この館は、セシル家のものとなった。
 建築が趣味であったロバート・セシルは、38,000ポンドもを費やして、ここをモダンスタイルに改築したらしい。
 そして、「Gardens in Britain & Historic Houses」によれば、1972年にこの館を引き継いだソールズベリー伯爵夫人が、15〜16世紀の植物を植えたり、ハーブを植えたりと手入れをし、庭を現在の姿に甦らせたのだという。
 本当に、この館と庭は格別。ロンドンからたったの23分、しかも、駅を降り立つとそこはもう館の入り口、というすこぶる交通の便がよい場所にこんな秘境があったとは、と、きっと誰もが感嘆するに違いない。
 というわけで、何を隠そう、このハットフィールド・ハウスは、ロンドン近郊で、私がイチオシするスポット。3月の終わりから10月の中旬まで一般に公開されているようなので、この時期にロンドンを訪れたなら、ぜひぜひお試しあれ。

(2002.10.9)
English

ロンドン近郊の庭 TOPへ


TOPへ

イギリスへ行こう!

やはりロンドンが好き!