15 ミルバ●リリー・マルレーン 〜二つの大戦の間の歌〜
1.紅いバラ  (E.A.マリオ作曲)
2.a) 愛の王子様 (ビクシオ・ケルビーニ作曲)
  b) タバリン (ローベルト・シュトルツ作曲)
3.私の彼氏 (ジョージ&アイラ・ガーシュウィン作曲)
4.キオーヴェ (エヴェレーモ・ナルデッラ作曲)
5.ジョニー (フリートリヒ・ホレンダー作曲)
6.ママの涙 (E.A.マリオ作曲)
7.シモーネ (M.フィリップ・ジェラール作曲)
8.ニューヨーク (コール・ポーター作曲)
9.情熱の歌 (E.A.マリオ作曲)
10.聞かせてよ愛の言葉を (ジャン・ルノワール作曲)
11.a) 恋する兵士 (エンリーコ・カンニオ作曲)
   b) リリー・マルレーン (ノルベルト・シュルツェ作曲)

演奏:ミルバ MILVA

 [CD]  KING RECORD  KICP-205           \2800(税込 1992年当時)               
ミルバ(Milva)は1939年生まれ。私は1960年代後半にカンツォーネ歌手としてその名を知りました。それが1970年代後半になって「ピッコロ劇場のミルバ」というLPのアルバムを制作したのです。その収録曲は、第一次大戦が終わって第二次大戦が始まるまでの戦間期に歌われた歌をあつめたものでした。たぶん、それが発売された頃にFM放送あたりで収録曲を聴く機会があったのか、私はそのLPを買って聴いたものでした。数年後、CDに切り替えた私は事実上LPを聴かなくなり、このレコードはお蔵入りとなったのですが1992年にCD化され、アルバム・タイトルも「ミルバ●リリー・マルレーン 〜二つの大戦の間の歌〜」と改められました。でも内容はいっしょです。さらにミルバは同年、本CDと同一コンセプトのプログラムをひっさげて来日したのでした! (東京芸術劇場中ホールとオーチャードホールで行われたコンサートのうち、私はより安価なチケットが用意されていた後者を選んで聴きに行きました)。

こうしたCDの存在からも想像出来るかもしれませんが、この歌手はカンツォーネにとどまらずレパートリーをぐんぐん広げていった人です。1992年当時にはブレヒト、ピアソラ、ヴァンゲリスらの作品をとりあげたCDが何枚も出ていましたし、クルト・ヴァイル、ミキス・テオドラキス、谷村新司も音源になっていた筈です。それからCD化されたかどうかは知らないのですが、たしかルチアーノ・ベリオの作品を歌ったのを聴いたことがあります。ちなみに、現在日本国内で入手できるミルバの音源はきわめて限られているようで、あまり熱心なポッポスの聴き手ではない私でさえずいぶん寂しく感じます。ちなみに現在カタログに生きている「リリー・マルレーン」というCDは、収録曲の内容が本CDとはほとんど違っていますので、お間違いないように。

収録曲に目をやるとイタリアの曲が多いのですが、3.や8.はアメリカ、5.はベルリンの代表的なキャバレー・ソングだといいますし、10.はフランス。2−b)のローベルト・シュトルツはオペレッタの作曲家として、またウィンナ・ワルツなどの指揮者としてしか知らなかったものですから、当時はちょっとびっくりしたものでした。恋人を戦争にとられた女性の歌があるかと思えば、自分の化粧品を買うことに夢中で娘のおもちゃひとつ買ってやらずにその子を死なせてしまう母親の歌、戦争を思い起こさせる紅いバラはきらいだと切々と歌い上げる歌など、聴き応えのある曲がこの1枚に詰まっています。本CDの収録時間は約45分。実際のコンサートはもっと長くなるのは当然で、1992年の日本公演のときも然りでした。でもまあ、ここに収められた曲が中核になったことはおそらく間違いのないところで、ミルバのみごとな歌唱とあいまって聴き応えのあるディスクとなっています。CDも所持する枚数が多くなってくると、繰り返し聴くCDというのは意外に少なくなってくるものだろうと思うのですが、私はこれを時おり取り出しては聴いています。

興味深く思うのは、なぜミルバがこうしたコンサートを開きCDを残したのかということです。解説書によれば「戦争の谷間に生きた人々を、私は表現したかった。どんな状況のもとでも人々は音楽とともに歩んできた。そのことを知ってほしかっただけ」と言っています。ちょっと優等生的な答えに過ぎるような気もするのですが、その思いがこうした充実したCDを産んだことは喜ばしいことです。

【2006年3月30日】


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