|
| |
| P24 | 日本の放射能事故は、この国における原子力発電依存の懸念を誘発──さらに 危機管理への無能さに対しても | radioactive : 放射性の、 inability : 無力, 無能(力) |
| 1 | 青白い閃光は、何かがおかしい、それもとてつもなくおかしなことが起きて いるという最初の兆候であった。先週木曜日の朝10:35分、日本の原子力産業 の中心地である東海村のウラン転換工場で、3人の作業員が、ウラニウム溶液 を入れていた大型ステンレススティール容器内から光が放射するのを見た。 残念ながら、周辺地域に住む31万人の誰一人としてその閃光に気がつかず、 何時間にも渡っていつもどおりの生活をおくっていた──放射線に身をさら す危険をおかして──その後事故について知らされる。130Km南西にある東京 の首相官邸で見ることができなかったのも残念である。もし見ることができ たなら、救助活動はもっと素早くなされていただろうに。数キロメーター離 れた東海村の村役場からも消防署からも見ることができなかったのも残念で ある。その消防署では3人の消防署員がウラニウムプラントに防護服もなしに 派遣された。発作が起きた人の手当てに行くと思っていたのだ。 | blue light : 青花火、 conversion plant : 転換工場、 epicenter : 中心点、 nuclear power industry : 原子力産業、 glow : 輝き,白熱、 emanate from : 〜から発する、 stainless steel : ステンレス・スティール、 solution :溶液、 town hall :町役場、 fire station : 消防署、 firefighter : 消防士、 dispatch : 派遣する、 protective gear : 保護装置,防具、 seizure : 発作 |
| 2 | それどころか、日本最悪の核事故が起きたというニュースは、スティール製 の容器から有害な煙が流れでるよりもゆっくりと広がっていった。東海村の 村長が知ったのは少なくとも事故後1時間経ってからのことであり、小渕恵 三首相が事の重大さを認識したのは午後になってからである。東海村の人々 もどれほど事態が深刻なものか分かったのは、当局者がプラントに最も近い (200mも離れていない家もある)住民に避難勧告をし始めてからのことだ。 もう少し離れたところの住民は、翌日は窓もドアもしっかり閉めて、恐怖に 脅えながら自宅にこもっていた。自分たちが既に被爆しているかどうかも 分からなかった。「すぐに私たちに知らせるべきだったんだ」と16歳になる Hideyoshi Hirohara。放射能漏れによって近隣が汚染されているときも、 彼は高校の体育の授業で屋外にいたのである。村がそれに対して公表した ときには、テレビで既にこれを見た人が大勢いた。 | trickle : 滴る,ちょろちょろ流れる、 poisonous : 有毒な,有害な、 fume : 煙,煙霧、 evacuate :避難する、 bunker : 隠れ家、 seal : 〜に封をする、 townsfolk : 町の住民,市民、 right away : 直ちに、 gym : 体育、 leak : 漏れ |
| 3 | 翌朝事態が収拾されたときには、少なくとも49人が放射線被爆の治療を受けて いた。3人の作業員──彼らは、1986年のチェルノブイリの事故当時の周辺地域 と同程度の高い放射能レベルに被爆していた──と、救急連絡に応じて派遣さ れた3人の消防士は、いずれも入院。一時期東海村の放射能レベルは通常の 15,000倍あったという報告もある。似たような事故は数少ないが他でも起きて おり、そのときはたいてい核連鎖反応は事故後数秒で中断していた。通常は そのとき、その反応を停止させるべく自動安全装置が作動するからだ。しかし 先週の東海村では、20時間もの間延々と反応が続いていた。時間が経つに つれ、腰の重い東京や茨城の官僚はおろおろし、深刻な危機に対処するに 際し、その無能さを露呈した。「あの人たちは、本当のところ、原発に依存 するとどうなるか、ということをとことん考えてはいないのです」と語るの は、原子力災害の専門家で、カリフォルニアのRand Corpの政策分析上級 職員、グレゴリー・ジョーンズ。「事故というのは時々起こるものですが、 嘆かわしいほどにそれに対する用意はなされておりません」 | mess : 混乱,失敗、 clean up : 整理する,後片付けをする、 radiation exposure : 放射線の被ばく、 radiation levels : 放射能レベル、 Chernobyl : チェルノブイリ,1986年原発事故発生、 distress call : 遭難呼び出し,救難連絡、 hospitalize : 入院させる、 chain reaction : 連鎖反応,連鎖的に続発する事件、 halt : 停止する、 safety system : 安全系,安全装置、 kick in : 作動する、 unabated : 衰えない、 plod :重い足取り,とぼとぼ歩く、 dither : 迷う,うろたえる、 inability : 無力,無能、 come to grips : 真剣に取り組む,真剣に処理する、 think through :とくと考える,考え抜く、 nuclear hazard : 原子力災害、 woefully : 嘆かわしいほどに |
| 4 | 幸運なことに、先週の事故はチェルノブイリに匹敵するほどのものではなかっ た。1979年、アメリカ、ペンシルバニア州のスリーマイル島のメルトダウ ンほどでもなかった。だが、それでも恐ろしいものであった。いつ爆発するか 分からず、死と隣り合わせという状況が、人口密集地においてはっきりと手に おえないものとなっていたからだ。その日はほとんど丸一日、施設内の核連鎖 反応が続き抑えることはできなかった。その設備も作業員もそれを停止させる 能力がなかったのだ。この東海村の施設は、近くにある実験的高速増殖炉への 燃料供給ラインの一部である。この転換工場では、ウラニウムが硝酸と混合さ れて二酸化ウランになる;これが別の施設に移され、そこでプルトニウムと合 わされて、発電所の燃料となるウラニウムの濃度が濃いペレットになる。ジェ ー・シー・オーというのは住友金属鉱業の子会社なのだが、その話によると、 木曜日に起こったことはこういうことだ。作業員が硝酸にウラニウム──最大 許容量が2.4Kgのところを16Kg──を加えすぎたらしい。彼らは、液化ウラニウ ム溶液を大型容器に注ぎ入れるのにステンレス・スティールのバケツを使用した。 そうすることによって、適切な量を測って容器に配分する装置を使ってウラニ ウム溶液を注入するという通常の手順を省略した。どうやら高濃度のウラン化 合物の生産を受注したことがあったからこうしたようだ。日本での報道による と、作業員は各自少なくとも10年の経験があったのだが、この異例の方法によ るウラニウム溶液の混合には慣れていなかったという。 | meltdown : メルトダウン,炉心溶融、 lethal : 死を招く、 out of hand : 手に負えない、 heavily populated : 人口の多い、 better part of : の大半、 unchecked : 抑えられない、 personnel : 人員,作業者、 fuel supply : 燃料供給、 supply line : 供給ライン,供給管路,補給線、 fast-breeder reactor : 高速増殖炉、 conversion plant : 転換工場、 nitric acid : 硝酸、 uranium dioxide : 二酸化ウラン、 enrich : 〜の質を高める、 pellet : 小球,小弾丸、 subsidiary : 子会社、 stainless steel : ステンレス・スティール、 bypass : 迂回する,回避する、 usual procedure : 通例の方法、 receive an order : 受注する、 uranium compound : ウラン化合物 |
| 5 | その結果が強力な放射性カクテルとなった。ウラニウムの濃度が通常よりも 著しく濃かったので、作業員が容器にバケツに7杯目の混合物を注入したとき には、それは核分裂を引き起こした。核分裂は中性子がウラニウム原子の原子 核に吸収されたとき起きる。そしてその結果、原子核が崩壊し、エネルギーや、 放射性ヨードとか放射性セシウムなどの有害物質が放出される。中性子はウラニ ウム原子に衝突し続け、連鎖反応が続く。反応を調節する装置のある原子炉で は、核分裂が起こるのは普通のことである。しかし、燃料転換プラントで起こ るとは予想されていない。さらにそのプラントの作業員は先週、こうした結果 に対する対処の仕方は知らなかったと認めた。 | potent : 強力な、 concentration : 濃度、 concoction : 調合物、 nuclear fission : 核分裂、 neutron : 中性子、 nucleus : 原子核、 break open : 壊して開く、 toxic substance : 有害物質、 substance : 物質、 radioactive iodine : 放射性ヨード,放射性ヨウ素、 cesium : セシウム、 bombard : 爆撃する、 nuclear reactor : 原子炉、 modulate : 調節する、 concede : 認める |
| 6 | 地獄の状況がプラント内で広がっているとき、東海村の住民はおかしなこと が起きているとは思ってもいなかった。河野家の人々はもっとひどく、自宅 の井戸の水を使用──その地域の人々は閉じこもっているように警告されて いた──その水で野菜を洗ったり、味噌汁を作ったり歯を磨いたりしていた。 10代の南原吉武はその近辺をぶらぶらと歩き友人の家に行ったのだが、そこ はプラントの裏手の塀からほんの数メートルのところだった。しかも事故後 わずか2時間しか経ってないときだ。2人はその後1時間バイオハザードで遊ん でいた。これはソニーのプレイステーションで遊ぶ細菌戦争のゲームである。 外の電柱に取り付けられているスピーカーからは何の警告もなかった。 | break loose : 解き放たれる、 amiss : 間違って、 miso soup : 味噌汁、 wander : ぶらつく、 biological warfare : 細菌戦争,生物戦、 loudspeaker : 拡声器、 mount :を備え付ける、 telephone pole : 電柱 |
| 7 | 東海村は不規則に広がる海岸近くの村であり、核事故への対処はなされてい るべきであった。そこの33,900人の住人は15の核関連施設に近接して住んで いるのだから。村には核エネルギー科学博物館があり、アルバート・アイン シュタインをマンガにした道路標識とか、原子力研究所通りといった名の大通 りもある。日本初の原子力発電施設のひとつである研究所がここにできたの は1956年。この村では、今回を除いて過去4年間で3回の事故が起きている: 1995年には他のプラントで放射能漏れが起き、1997年3月には核廃棄物処理プ ラントで火災と爆発が、1997年8月には放射能廃棄物が漏れ出しているドラム 缶が2,000個発見された。しかし、先週の危機処理のまずさをみると、東海村 はこれまでの経験から何も学んでいないようだ。政府の対応は「子供だましだ」 と言うのは、反核活動家の広瀬隆。 | sprawl : 不規則に広がる、 coastal town : 海岸近くの町、 in the vicinity : 近くに、 facilities : 施設、 Science Museum : 、 road sign : 沿道看板,道路標識、 research institute : 研究所,研究施設、 radiation leak : 放射能漏れ、 treatment plant : 廃棄物処理場、 drum : ドラム缶、 radioactive waste : 放射性廃棄物、 fumble : 不器用に手で捜す,しくじる |
| 8 | 小渕首相も反応は鈍かった:政府は、死者を出す危険のある事故について何 時間も連絡を受けなかった。「この事故の処理に遅れをとったことは認めな くてはなりません」と、内閣官房長官野中広務。報告を受けたときですら、始 めのうちは深刻に受け止めなかったと、政府首脳は認める。その結果、午後 ──事故が起きて5時間以上経って──になって漸く、その施設周辺の住民 160人は公民館に避難するよう勧告を受けた。グレーのつなぎの服を着た技術 者が、ガイガー・カウンタで住民の放射線量を測定する。その日遅く、半径 10Km以内の周辺地域のスピーカーから、310,000人以上の人々に屋内に留まり、 ドアや窓を閉めるよう警告が流された。「屋外に出ないように」という警告 である。「更なる情報が入れば、お知らせします」 | mishap : 災難,事故、 chief secretary : 官房長官、 even after : なおかつ、 evacuate : 避難する、 community center : コミュニティ・センター,公民館、 jumpsuit : ジャンプスーツ,つなぎ、 Geiger counter : ガイガー・カウンタ、 radius : 半径、 blare : 鳴り響く |
| 9 | 続く12時間、何が起きているのか分からなかった。木曜日の夜には雨が降り 始め、放射能が拡散しないかと誰もが心配した。金曜日の朝、このプラント 近く一帯はまるでゴーストタウンのよう。列車は運休。白い服とマスクをし た警官が、汚染地域に入ってくる車を停車させている。コンビにもレストラ ンも学校もすべて閉められたり休みになっている。そのときもまだ、誰にも 分からなかった:これがちょっとしたミスなのか、それとも本格的な大災害 だったのか?小渕はNHKに出演したが、語ったのは次のことだけ。一体何がお かしくなったのか、またプラント内の反応をどうやって止めることができるか、 関係者にも分かってませんと。時間は経つものの、救急隊が現場に派遣される でもない。ただ明らかになったのは、日本がまたもや危機への対応が効果的 にできなかったということ。1995年の神戸地震のあと、救急隊が来るのがあ まりにも遅かったと、被災者は不満を述べていた。今回もまた、当局の反応 はスローモーションのごとき対応だ。 | ghost town : ゴーストタウン,廃墟の町、 in white : 白装束で、 face mask : (フェース)マスク,面,顔面を保護する覆い、 contaminated area : 汚染地区、 convenience : コンビーニエンス、 screw-up : 間違い,失敗、 full-blown : 本格的な、 catastrophe : 大災害、 what exactly : 一体、 emergency crew : 救急隊、 dispatch : 派遣する、 rescue crew : 救護隊,救急隊、 distressingly : 痛ましく,悲惨に、 play out : 繰り出す、 in slow motion : のろのろとした動き方で |
| 10 | 東海村プラントで輝いた青白い光は他のことを思い出させた、:日本の原子 力産業における、安全とはとても呼べない過去の出来事のことを。52の核施 設を持ち、エネルギーの3分の1を原子力から得ているこの国では、いいかげ んなことをしているゆとりなどないはずなのだが、この業界、事故、発電所 の操業停止、放射能漏れ、繰り返される隠蔽工作が続発。これまでの事故に よって、日本の核監督官庁の行政が大幅に刷新されはしたものの、まだ適切 な監査をすり抜けて事故は起こりそうだ。事故が深刻でない場合は、それは 滑稽ですらある。7月、ちょうど福井県の原子炉から放射能漏れがあったとき のことであるが、そこの技師は90人の訪問者にプラント周辺のツアーを許可 した。その段階では、放射能漏れの場所も被害の度合いもまだ分かっていな かったにも関わらず許可したのだ。(あとで、被害は軽微なものであり、誰 も被爆はしてないことが判明)別のプラントの事故では証拠ビデオが、1995 年にそのプラントの技師により改ざんされていた。1997年に東海村の別のプ ラントで爆発が起きたとき、そこの所長は事故を隠蔽しようとした。そのと き、時の首相、橋本竜太郎は怒ってこういった、「あんまり腹が立って声も 出ないよ」 | bright blue : 明るい青色、 nuclear power industry : 原子力産業、 nuclear plant : 原子炉設備,原子力発電所、 one-third : 《名》3分の1、 lax : 緩んだ,緩慢な、 major shakeup : 大幅な組織改革、 administration : 行政当局,政府、 regulatory agency :監督官庁,管理機関、 adequate : ふさわしい、 scrutiny : 監視,精密な調査、 foul-up : 故障,混乱,騒ぎ、 nuclear reactor : 原子炉、 benign : 良性の、 documentation : 資料、 tamper with : 〜を改竄する,〜に手を加える、 steam :カーッと怒る |
| 11 | 木曜日に何が起きたかについてあきれた説明を聞いた後では言うべき言葉 もない。濃縮ウラニウムをバケツで運ぶ?それをいつもより7倍も多く使用 する?「これをやってのけた奴は、手引書を持ってなかったか、それを理解 してなかったか、単に知らなかったのか、それともただ規則に従わなかった ようだね」と、ラスベガス近くの放射性貯蔵事業の核技術者、ディック・ス ネル。当惑した様子で、ジェー・シー・オー社長木谷浩二(?)は平身低頭し、 高レベルの放射線を浴びた可能性のある住民に謝罪した。「責任を免れる ことはできません」と、この会社のスポークスマンは言う。 | concentrate : 濃縮する、 comply : (要求・命令・規則・仕様・規格などに)従う、 Snell : 《人名》スネル、 nuclear engineer : 核を扱う技術者、 repository : 貯蔵所、 prostrate oneself : 平身低頭する、 escape one's responsibility : 責任を逃れる |
| 12 | 金曜日、東海村及び周辺の人々は、戸外に出ても安全だと告げられた。だが、 危険は去ったと保証されても、再び青白い光が放射されるのではないかと心 配する人もいる。阿久津里美は妊娠6ヶ月であり、専門家が彼女の放射線被爆 をチェックするまで公民館に留まった。金属製のスキャナが彼女の体をなぞっ ていくが音はしない。ビーという音はしなかった。今のところ彼女は安全だ。 「この手の工場がここにもあったなんて知らなかったわ」と彼女は言う。「み んな大丈夫でホッとしました。だけど、この場所からは引っ越したいです」 しかし、日本の原子力産業にとっては、この核の悪夢に対して責任を逃れる場 所はない。 | assurance : 保証、 hazard : 災害,事故、 radiation exposure : 放射線の被ばく、 wand : 杖,ペン型スキャナ、 brush against : こするようにして〜に軽く触れる |
感想などがありましたら、メールを下さいね!!