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| P40 | その偉大なる科学者が相対性原理を手がけ,その一方で自ら子の親となるとき,彼の 身に何が起きたのか,新たに出版される一冊の本が(事実関係を)推測する | |
| 1 | 愛息子アルバートが同じ物理学専攻の学生(年上で,宗教が異なり,バルカン の辺ぴな場所に生まれた人間)と交際していることがわかり,ポーライン・アインシ ュタインは愕然とした。「子供ができたら,大変なことになるんだからね」―母親は 彼に注意を促したものの,22歳のアルバートは,科学の世界と同様,個人の生活にお いても普通の人間とは異なるようで,母親の口うるさい言葉などものともせずに恋愛 を続けた。1902年1月27日,のどかなコモ湖での休日を過ごしてから9ヶ月後,未 来の妻となるミリバ・マリックはセルビアの親元で人目に付かぬように女の子を出産 した。ミリバもアルバートも彼女のことを口にすることはなく,それは親しい友人に 対してもであった。まるで短く燃え盛る流星のように,(エリザベスの愛称)リザラル と名づけられた赤ん坊は,まもなく,バルカンの闇へと消えてしまったのである。 | 語彙 beloved: 最愛の consort: (悪い仲間と)交際する physics: 物理学 backwater: 時代に取り残された場所 devastated: 打ちのめされた mess: 乱雑な状態 roguishly: いたずらっぽく brush off: 〜のいうことに耳を傾けない Mutti: (ドイツ 語)母親 agitated: 興奮した idyllic: 牧歌的な interlude: 合間 Lake Como: コモ 湖;イタリア北部 Lombardy 地方にある風光明媚な湖 fiery meteor: 激しい流星;こ こではThe baby was taken away as quickly as meteor in the sky. を表している diminutive: 愛称 vanish: 消えてなくなる |
| 2 | 彼の死後30年数年経った1987年,彼によって書かれた文書をまとめた最初の 本が発行されるまでアインシュタインの過去における庶子は明るみに出ることはな かった。とはいえいまだに良く分からない部分が存在している。リザラルは一体どう なってしまったのであろうか。結婚後,彼女をスイスへ連れ戻し,自分達の子供とし て認知しなかったのは何故であろうか。多くの研究者達が口を揃えて言うように,カ ルビニストバーンの特許庁審査官としての仕事がアインシュタインに新規で依頼さ れており,それが取り消されるのを恐れて彼女を養子にやったとしてあきらめたので あろうか。また彼女はセルビアのどこかでいまだに生きているのであろうか−相対主 義者の若気のいたりで生を受けた,年老いた忘れ形見として。 | 語彙 illegitimate: 庶子の volume: 本 legitimate: (庶子を)嫡出と認める adoption: 養子縁組 endanger: 危うくする patent-office: 特許庁 wizen: しなびた relic: 形 見 relativist: 相対主義者 indiscretion: 軽率 |
| 3 | アインシュタインに関する本がもう7冊出版された後ですら,リザラルの行く 末は答えの得られぬ方程式のようにアインシュタイン伝説に陰を落としている。そこ には彼個人の生活に関しさらに当惑させる数多くの内容を含んでいるのだ−浮気,ミ レバとの壮絶な離婚,再婚予定の相手の娘にひょっとしたら手を出したかもしれない ということ,2人の息子(うち1人は精神分裂症)との断絶である。 | 語彙 embarrassing: 当惑させるような flirtation: 恋愛遊戯 divorce: 離婚 dalliance: 戯れ,いちゃつき estrangement: 仲たがい schizophrenic: 精神分裂症の equation: 方程式 |
| 4 | 今日アマチュア研究者である彼女は,いくつの答え(驚くべきものであるだけ でなく,やっかいなアインシュタイン研究家の中でさらなる論争を呼び起こすに違い ないもの)を見出したと確信している「アインシュタインの娘(リザラルを探して)」(リ バーヘッドブックス出版;25ドル95セント)の中で,ミシェル・ザカイム(58歳)―グリー ンウィッチビレッジの画家,後に作家へ転向―は,幼児がひどく成長が妨げられた(知 恵遅れの)状態にあり,おそらくはダウン症であったと力説する。その当時の言葉で 言えばsimpleton(間抜け)な子供の彼女は,教育の対象外と思われていたのかもしれな い。ミレバは,その幼い少女を養子縁組することも,孤児院へ送りこむこともできな かったので,自分の親元(セルビアの肥沃なドナウ平原にある人里離れたボジュボデ ィナ地区)へと預けたことは間違いないとザカイムは言う。 | 語彙 sleuth: 追跡する controversy: 論争 fractious: 手におえない toddler: 幼児 retard: 成長を妨げる Down syndrome: ダウン(氏)症候群:低身長,広く平坦(へいたん) な顔などと知能障害を特徴とする先天性疾患;21番染色体のトリソミー(trisomy)が原 因とされる;Mongolism, trisomy 21ともいう.(また Down's syndrome) [1961.最初にこ れを記載した英国の医師 John L.H.Down(1828-96)の名より] simpleton: ばか,間抜け uneducable: 教育し得ない contend: 強く主張する (しかるべき人・機関に)…を委ね る[差し出す,渡す] orphanage: 孤児院 fertile: 肥沃な |
| 5 | そこでのリザラルの人生はとても短いものであった。ザカイムによると,その 幼い少女は,猩紅熱に感染し数日後には1年9ヶ月の生涯を終えたという。ザカイム はその子が死んだ日(1903年9月15日)まで伝えている。その日は日食でボジュボデ ィナが暗くなり,太陽と月の間で繰り広げられる天体バレーの日であった。後にアイ ンシュタインによって唱えられた時空間の斬新な考えの持つ正統性が,初めて世に認 められたのと同様の日食であった。 | 語彙 poignantly: 厳しく bout: 期間 scarlet fever: 猩紅熱 celestial: 天の ballet: バレー radical: 完全な |
| 6 | ザカイムによって明らかにされた真相は心の底から納得の行くものでないに せよ,興味をそそられるものではある。1960年代から70年代初期の女性運動の活動 家であった彼女がその本に関わることを決めたのは,カルフォルニア・カンプトンで 過ごした若かりし頃,大きな憧れを抱いていたアインシュタインに見捨てた子供がい るということがわかったときであった。「心理学的な見地から私を魅了したのです」 と彼女はいう。「彼の娘は文明にこれほど重要視される人物によって見捨てられたこ とをどう感じていたのでしょうか」 | 語彙 intrigue: 興味をそそる forsake: 見捨てる fascinate: 魅了する psychological: 心理学的な abandon: 見捨てる culture: 文明;cultureは精神面,civilizationは物質 面を強調 |
| 7 | ささやかな補助金や貸付に頼り,ザカイムはリザラルを追い求める5年間の旅 に出た。それはスイス,ドイツ,イギリス,ハンガリー,特にセルビアは何度も念入 りに行き来したのだ。爆撃の最中にあっても,彼女はミレバの先祖が代々住み続けて いる村を訪ね,彼女の家族や親しかった人物(セルビア正統教会の司祭や修道女を含 む)を探し出し,コーヒーテーブルを囲んで何時間にも及ぶ話を通して調査を行った。 重要文書を探す目的で洗礼記録や古記録をあさりまくったのはいうまでもない。とは いえ多くは止むことのないバルカン戦争で紛失してしまったことがわかった。他の幼 いリザラルに直接関連付けられる文書は,ミレバを守ろうとする父親が破棄したのか もしれない。 | 語彙 grant: 補助金 crisscross: 行ったり来たりする ancestral: 先祖の kin: 親族 orthodox: 正統な priest: 司祭 nun: 修道女 rummage: くまなく探す baptismal: 洗礼の archive: 古記録 protective: 守ろうとする |
| 8 | 調査結果で得られたものは,農村地帯の広がるセルビア文化の色彩に富んだ光 景−世襲社会における強い家長への忠誠,女性の従属的地位,のんびりとした話し方 −である。ザカイムはリザラルと思われる数多くの女性の取捨選択に努めてきたが, その中には無声舞台劇のベルリン女優で1930年代にアインシュタインの娘であると 主張していたものもいる。しかしながら,ザカイムの最終的な結論は,どうみても憶 測の域は超えていない。アインシュタインからミレバへ送られた,1903年の謎めいた の手紙(「リザラルに起きたことに関してはとても残念に思うよ。猩紅熱はしばしば 影響が出るからね」)や,セルビアの町カクに住む年老いたマリックの子孫が語るこ の家族には家系的に白痴が生まれる可能性があるという曖昧なコメントをベースに しているだけなのだ。 | 語彙 colorful: 色彩に富んだ glimpse: 光景 patrimonial: 世襲の subservience: 従 属 eliminate: 取り除く cryptic: 謎めいた vague: はっきりとしない idiocy: 白痴 であること conjectural: 憶測の |
| 9 | その本は,良くも悪くも,アカデミックな社会に大きな波紋を投ずることとな った。「ありえそうですがね」というのはルイジアナ大学のルイス・ピャンソン。「若 きアインシュタイン(1985年)」の筆者でザカイム説に触れている。「その説を支える のにどんな証拠が掘り出されたのかが見たいのです」しかしボストン大学の歴史学者 ロバート・シャルマン(アインシュタイン研究所・所長)は,彼よりもさらに冷めてい る。彼はザカイムのリザラルの運命に関する結論に関し,次のように認めている。「私 や他の人が考え付いたものと何ら変わりないが」彼は強調する。「憶測にすぎないの です」ハーバード大学物理学者でアインシュタイン歴史学者のジェラルド・ホルトニ スは非常に批判的な立場をとっている。「彼女はセルビア人墓地すべてを歩き周り随 分頑張っていましたが」−彼はザカイムの驚くべき調査努力を述べている。「何も見 つけ出したものはなかったのです」 | 語彙 dig up: かき集める impressed: 印象的な speculation: 憶測 physicist: 物理 学者 critical: 批判的な traipse: 当てもなく歩く cemetery: 墓地 prodigious: 驚く べき |
| 10 | しかしザカイムは,このところ話題のアインシュタイン再評価へ一役買うこと となろう。この再評価は学術的な新発見へ緩やかではあるが追いつきつつあるものだ。 リザラルの運命を知ることは当然ながら,アインシュタインの科学を話題にする場合, 特に重要ではない。しかし,ザカイムと同様,多くの人は,成長過程で関わってきた この世の聖人(太陽光を連想させる髪型の,靴下をはかぬ教授で,幼い女の子に幾何 を教え,民主革命戦線にドイツの原爆の危険性に警告を発し,その後広島と長崎の壊 滅に涙した人物)としてのアインシュタインではない彼に徐々に気付きつつあるのだ。 | 語彙 secular: 俗人の aureole: 光の輪 shun: 避ける geometry: 幾何学 alert: 警 告する F.D.R: (エルサルバドルの)民主解放戦線 peril: 危険 weep over: 涙を出し て嘆く |
| 11 | 彼の擁護者は最近のデコンストラクションを最小限に抑えようとしている。 「いわゆるアインシュタインという人間は下劣な男で女性を虐待していた」と語るの はシャルマンで,ザカイムの本のこの点に関して述べている。「ということは何も新 しいことではありません」しかし,それは地域文化の肖像という観点では重要なもの となる。アインシュタインは私達の宇宙に対する視点を再構築してくれた。彼が欠陥 のある人間であるということは,週刊誌レベルの興味を引き起こすだけでなく,同様 に安心させるものでもあるのだ。それは私達の英雄(その底知れぬ天才と呼べる人間 でさえ)も私達とそれほど変わらないように思わせるものなのである。 | 語彙 minimize: 過小評価する deconstruction: デコンストラクション,脱構築:主に文 学研究に関して1960年代に起こった哲学的批判運動;実在を表すとされる言語の力に 疑問を呈示し,言葉は本性的に他の言葉を指示するだけである以上,テキストには確固 とした指示対応物がないことを強調する cad: 下劣な男 mistreat: 虐待する iconography: 肖像研究 flawed: 欠点のある tabloid sort: タブロイド新聞系の reassuring: 安心させるような unfathomable: 底知れない |
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