Smart Genes?

Smart Genes?
(9.13.P44.1999)

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今回は カバーストーリー から
  Jayさんのサマリーです。長くて大変だったと思います。ご苦労様でした。
記憶の衰えはいかんともし難いのですが、これがどうにかなれば、とみんな思っている でしょうね。ついでながら、記憶を植え付けることができれば、英語の勉強も楽に なる?

賢い遺伝子?


語彙は主に『英辞郎』Ver.17から抜粋

By MICHAEL D. LEMONICK
 

大意

語彙

P44 新たな研究が,記憶のメカニズムに光を当て,我々は人を賢くするために 遺伝学を用いるべきかどうかという問題を引き起こす shed light on:〜に解決の光を与える
1 プリンストン大学・分子生物学部のかごにいる小さく茶色で柔らかい毛 の生き物は,普通のねずみと全く変わりがない。それはにおいを嗅ぎまわり, 棒をよじ登り,床にある木のかんなくずの中に隠れ,物を食べ,排泄をし,睡 眠をとるのだ。 語彙 furry: 柔らかい毛の creature: 生き物 cage: かご molecular-biology: 分子生物学 department: 学部,学科 for all the world: まさに(=exactly)   ordinary: 普通の sniff: においを嗅ぐ burrow: 隠れる shaving: かんなくず  eliminate: 排泄する
2 しかし,その動物を実験室で持てる能力を試してみる。するとすぐにこ のねずみはとても普通のねずみとは言えないことが明らかになる。齧歯類の知 的理解力を調べる様々な課題を次々にこなして行くのだ。それは,ほぼ毎回の ように,ふつうのねずみよりも速い理解度を示し,学習内容を長く記憶し,環 境の変化へ柔軟に対応するのである。 語彙 put…through its pace: 能力,技量を試す testing lab: 実験室 evident: 明 白な anything but: 決して〜ではない knock off: 手早く仕上げる task: 課題  design: 意図する rodent: 齧歯(げっし)類 mental capacity: 知的理解力  invariably: いつも変わらずに adapt: 適合させる environment: 環境 flexibly: 柔軟に normal: 普通の
3 これがスーパーマウスであり,このことは否定し得ない事実である。と はいうものの,別世界からその優れた頭脳を手に入れたわけではない。それは, プリンストン大学,マサチューセッツ工科大学,ワシントン大学の科学者によ って創り出されたもので,彼らはDNAを巧みに操作したのである―もっと詳し く述べるならば,遺伝的に親となるマウスのDNAを操作したのであり,小さな 頭蓋の内部組織の奥深い部分のニューロンとニューロンの間で起きる反応を操 作する方法が取られたのだ。その結果得られたものは,創り出した科学者達に よれば,ねずみというカテゴリーに分類されるものであるという(彼らによって 「ドギー」というあだなが付けられたが,それは昔のテレビ番組「内科医ドギ ー・ハウザー」の早熟な主役に由来する)。そのねずみはぼやぼやした自分のい とこ達よりも賢いのだ。それだけではない。科学者達は,先週,科学雑誌「ネ イチャー」で「我々の実験結果は,哺乳動物の知性や記憶といった知的特性や 認識特性といったものが遺伝子操作によって高められることが,実現可能なレ ベルにあることを示している」と書き記したのだ。 語彙 engineer: 巧みに作り上げる alter: 変える precisely: 正確に genetic: 遺伝学の forebear: 先祖 reaction: 反応,影響 neuron: 神経単位,ニューロン  tiny: ごく小さい cranium: 頭蓋 strain: 種族 precocious: 早熟な lead character: 主役 dim-witted: ぼーっとした Nature: ネイチャー 《英国の科学専 門誌; 月刊; 1869 年創刊; 全世界のホットな科学ニュースと科学・技術の画期的 な研究成果や新理論・新発見などの最新重要論文を掲載; 研究者自身が自分の考 えを述べる場も提供している; 話題のトピックは第一線の研究者がわかりやす く解説しているが, 内容は高度で専門外の人にはむずかしい; 発行元 Macmillan Magazines》 enhancement: 増大 cognitive: 認識の attribute: 属性,特徴  intelligence: 知性 mammal: 哺乳動物 feasible: ありそうな
4 Iを用いたことば(Intelligence;知性)を大胆にも用いることは,同じ分野 の研究者達から山のような批判を生む結果となった。彼らは発表された結果が 公認されたものでもないし,実現可能なものでもないとみなしたのだ。そのよ うな批判の生まれる理由は簡単である。遺伝子内部に知性の起源を求めるとい う考えは,その昔から色々と論議を呼び起こしてきているものだからだ。リチ ャード・ハーンスタインやチャールズ・ムーレイ(IQと人種の関係を表した物議 をかもす研究論文「釣鐘曲線」の筆者達)へ向けられた人種差別という批判を考 えてみるとよい。そのような点を除いても,知性という考え方そのものがつか みどころのないものだ。創造性のように捉えどころのない能力もあれば,問題 を解くなどよりはっきりとわかるものあるといった様々な特質を含むものなの だ。「これはとても重要な研究なのです」というのはコロンビア大学ハワード・ ヒューズ医療研究所のエリック・キャンデルである。続けて彼は穏やかな警告 をも発している。「知性は多くの遺伝子や特性を含むものなのです」彼は更に続 ける。「知性を構成するものはたくさんあるのです」 語彙 audacious: 大胆な trigger: 引き起こす avalanche: 殺到 criticism: 批判  colleague: 同業者 conclusion: 結論 unwarranted: 公認されていない  farfetched: 無理な intelligence: 知性 root: 起源に持つ inflammatory: 人を怒 らせる notion: 考え witness: (主張の裏付けとして)…(の例)を見よ charge: 非難 racism: 人種差別 bell curve: 《正規分布の》鐘形曲線 controversial: 論 議を呼ぶ concept: 概念 slippery: つかみどころのない involve: 含む  elusive: 定義しにくい,捉えにくい creativity: 想像性 clear-cut: はっきりした
5 しかし,一部の見出しに書かれているように,ドギーが齧歯目のアイン シュタインでないとしても,ほとんどの心理学者や神経生物学者は,ねずみの 記憶や学習に関する能力というものは実際に高められると確信している。それ は大切な意味を持っている。それはいかにねずみとヒトの間に横たわる溝がと てつもなく大きなものであれ,この手の研究は結果的に,人類に役立つ医療成 果につながるものであるかもしれないことを示唆しているからだ。その例とし て,学習や記憶に関する機能障害を扱う治療が挙げられる。アルツハイマーの ような,高齢化が加速する人々の中でますます人々を苦しめる可能性のある病 気である。実際,プリンストン大学の科学者達は自分達の研究を製薬会社と商 業化する話し合いを始めているのだ。 語彙 order: 【生物】目(もく):動植物分類上の綱(class)と科(family)の間の段階  Rodentia: 齧歯目:哺乳綱の一目 portray: 描写する psychologist: 心理学者  neurobiologist: 神経生物学者 convince: 確信させる enhance: 高める  implication: 含み gulf: 大きな隔たり continent-wide: 非常に大きい practical: 実際に役立つ therapy: 治療 disorder: 機能障害,疾患 Alzheimer's disease: 【病理】アルツハイマー病:初老期に発生する原因不明の痴呆(ちほう)のタイプ  afflict: 苦しめる increasingly: ますます aging: 老化 population: (特定の階 層・集団に属する)人々 commercialize: 商業化する
6 しかも,この手の研究により,必然的に引き起こされ得るものは,健康 な人が遂行能力を高めようとすることである。更には子供の遂行能力に関して であろう。これら一連のことは,生命倫理について深く考える人々の台頭をも 促すのだ。(関連記事参照) 語彙 inevitably: 必然的に boost: 押し上げる performance: 遂行能力  prospect: 可能性,期待 : bioethicist: bioethics(生命倫理,バイオエシックス:遺伝子 操作研究や先進医療技術の進歩に伴って起こってくる倫理的な問題を扱う分野) を考える人 ruminate: 熟考する feverishly: 熱狂的に
7 治療にも使えるだろうというのは,この新しい研究の可能性のほんの一 部にすぎない。もっと間近なことで,今現在もっと大切なことは,その研究が 神経生物学者に記憶がどのようなものであり,またいかに機能するのかという 更なる情報を提示しているのだ。このことは,今日まで何十年にも渡り,少し ずつ秘密のベールが取り去られてきた神秘であったのだ。 語彙 therapeutic: 治療の immediate: すぐ間近の unfold: 明らかにする
8 一つのことが科学者達にとって明らかになった。それは記憶が我々の意 識というものにとってきわめて重要なものであるということである。そう語る のはジャネレン・フッテンロッシャでシカゴ大学心理学教授である。「知覚から 思考に至るまであなたが行うことで,常に記憶に頼ることのないものは,ほと んど何もないのである」 語彙 crucial: 極めて重要な consciousness: 意識,精神 perception: 知覚  draw: 頼る
9 それ以外は考えられない。というのも,現在などというものはこの世に は実際に存在し得ないからである。この文章を読んで行くにつれて,過ぎ去っ た文章はすでに過去における1〜2秒前のものである。つまりこの話の最初の 部分は数分前に過ぎ去っているということだ。しかし,語られたことを記憶し ていなければ,今読んでいることはどれひとつとして,なんら意味を持たない。 同じことが全体として,我々の生活にも当てはまる。記憶は個々人の生活状況 や自己意識,人々や環境に対する慣れ親しみの感覚,過去・現在そして未来へ の構図を提供するのだ。 語彙 otherwise: もしそうでなければ context: 前後関係,文脈 sense of self: 自己意識 familiarity: 親密さ surrounding: 環境 frame: ここではreference pointの意味
10 しかし,心理学者や脳の研究者は記憶の中心的な役割を我々の知性を伴 う日々の生活の中に認識し始めながらも,記憶が単一の現象ではないとことに 気付き始めた。「我々は脳の中に記憶のメカニズムを持ってはいないのです」と いうのは,ジェームズ・マックゴーフで,アービンにあるカルフォルニア大学 の学習と記憶の神経生物学センター所長である。「我々は記憶のメカニズムを 有していますが,それぞれが異なる働きを担っているのです」 語彙 psychologist: 心理学者 appreciate: 認識する phenomenon: 現象 
11 すべてがうまく行くとき,これらの異なるシステムが一体化して機能す るようになる。例えば,あなたが自転車に乗るときどのように自転車を運転す べきかという記憶は1組のニューロンから発する。ここから街の反対側にどの ように行けばよいかの記憶が,また別のニューロンから発せられる。そして, 前回,ひどい落ち方をして神経質になっていることはさらにまた別のニューロ ンから発せられるものなのだ。とはいえ,少しずつ知的経験が結集し始めてい ることに決して気が付くことはない。それは脳内の目に見えないある種の組織 のように活動しているのだ。 語彙 seamlessly: 継ぎ目なしに neuron: 神経単位 nervous: 神経質な leave over: 残す spill: 落ちること assemble: 集める bit by bit: 少しずつ  invisible: 見えない edifice: 組織
12 病気やケガによって記憶に損傷を受けた人々の研究をなくして,脳の研 究者達は,記憶のメカニズムを断片的にでも理解することはなかったであろう。 (この点に関して)最も重要な人物は,H.M.といえる。1953年,彼が27歳のとき, ひどい癲癇を治療するために,思いきった脳外科手術を受けた。手術によって 癲癇はなくなったが,脳内の側頭葉を部分的に取り除く―海馬と呼ばれる部分 をも含む―ことは,新たな記憶を構築する力を破壊してしまう結果となった。 H.M. は今も健在で,短期記憶に関してはかなり良いものを持っているといえる。 訪問客へ紹介されると,会話が終わるまでその人の名前やそのほかの情報を記 憶している。しかし,訪問客がその場を離れて戻ると,H.M.はその人間に会っ た記憶を何一つ持ち合わせていないのだ。事実,H.M.は,外科手術を受けてか ら長期記憶に何も持ち得ていない。彼に関しては,未だに1953年であり,鏡の 中から彼を見つめる老人は,自分を若者であると考える彼とはほんの少しの共 通点しか感じられないのだ。 語彙 pick up on: 目を付ける fragmentary: 断片の injury: 損傷 celebrated: 有名な drastic: 思いきった surgery: 外科手術 cure: 治療する severe: ひど い epilepsy: 癲癇(てんかん) temporal lobe: (大脳の)側頭葉 hippocampus: 海馬  reasonably: かなり short-term memory: 短期記憶 whatsoever: 少しの〜も  permanent memory: 長期記憶 concerned: 関係する bear: 与える passing: 一 時的な resemblance: 似ているもの
13 その手の損傷は内側頭葉と海馬は短期記憶を長期記憶へと変化させる際 に重要なもので,その長期記憶はどこか別の場所へ蓄えられることを確信させ た。もしそうでないとするならば,H.M.はおそらくそれらすべてをも失ったか もしれないからである。 語彙 impairment: 損なうこと convince: 確信させる temporal lobe: 側頭葉  store: 蓄える
14 1962年にカナダの心理学者ブレンダ・ミルナーによって注目すべき実験 が行われたが,それはH.M.がある意味,特殊な新たな記憶を産み出すことがで きることを証明したのだ。連続して何日間ものの間,彼女は彼に鏡を見ている 間,簡単な絵を描くように頼んだ。H.M.が知り得る限り,その課題は毎回直面 する新たなものであった。しかし,何日も続いて行われるにしたがって,彼の でき映えは次第に改善されていったのだ。脳の一部が先の実験内容を記憶し始 めたのである。それは―明確な形つまり意識的にとどめられた記憶というより はむしろ―いわゆるいつの間にやら刷り込まれた記憶と呼べるものだ。アルツ ハイマーに苦しむ人々に同じような振る舞いが見られる。つまり,この壊滅的 な病気によって最初に影響を受けるのは内側頭葉であるということを示してい るのだ。 語彙 remarkable: 注目すべき running: 連続の trace: 書き写す brand-new: 新しい confront: 直面する wear on: ゆっくり経過する improve: 改善する  retain: 保つ session: 特に2人以上の人が集まって一定の活動をすること  implicit: 暗に含まれた explicit: 明示的な consciously: 意識的に exhibit: 示 す behavior: 反応,態度 temporal lobe: 側頭葉 affect: 影響する devastating: 破壊的な,荒廃させる
15 ハンチントン病患者の中で,破壊される部分は,脳底神経節と呼ばれる 脳の一部分である。この病気に悩む人々は完璧な形で具現化できる記憶システ ムを持ち得るが,新たな運動技能を学ぶことはできない。アルツハイマーの患 者は鏡の中の自分を描くことはできるが,それを行ったことを忘れてしまうの である。それに対し、ハンチントン病患者は鏡を引き寄せることはできないが 学ぼうとしたことは覚えている。しかし,脳内におけるまた別の領域―小脳扁 桃として知られるアーモンドの大きさの神経組織―は,強い感情(特に恐怖)に結 びつく特別な下位分類の記憶の想起を形成したり,呼び起こしたりする際に重 要な役割を担うように思われている。海馬は我々が何を恐れていたのかを思い 出させるが,小脳扁桃はそのような記憶一つ一つに付随する鳥肌を明らかに呼 び起こすのだ。 語彙 patient: 患者 Huntington disease: ハンチントン舞踏病:中枢神経の遺伝性 疾患;Huntington choreaとも言う basal ganglion: 脳底[基底]神経節,基底核:各大 脳半球の灰白質にある4つの神経節;gangliaは複数形 victim: 犠牲者 intact: 完 全な explicit: 明示的な motor skill: 運動技能 region: 領域 almond-size: ア ーモンドの大きさの knot: (器官・組織などの)結節,節 neural: 神経の tissue: 組織 amygdala: 小脳扁桃 crucial: 極めて重要な trigger: 引き起こす recall: 記憶 subclass: 下位区分分類 goosebump: 鳥肌
16 とはいえ,これらは単に主要部分の一部にすぎない。例として挙げるな らば,潜在的な(別名,断定的でない)記憶の範疇内には,連想記憶(パブロフの イヌをベルの音でよだれを流させたことで有名な現象であり,食べ物と関連付 けるように学ばされたもの)と習慣化の下位範疇が存在するのだ。そこに我々は, 環境に関するある一定の特徴を無意識にしまいこんでしまうのである。それは 新たな経験に遭遇するとすぐに,新しく異なるものへ更なる注意を向けること ができるようにである。 語彙 implicit: 潜在的な a.k.a: also known as 別称は,別名は nondeclarative: 断 定的でない subcategory: 下位範疇 associate: 連想の,関連付ける  phenomenon: 現象 salivate: よだれをだす habituation: 習慣化,慣れ  unconsciously: 無意識に file away: 閉じこむ encounter: 遭遇する
17 他方では,明示的または断定的記憶内において,形,表面の感じ,音, 顔,名前を扱うある特別な下位範疇と更には,名詞と動詞の関連を記憶する明 瞭な体系も存在する。これら異なるタイプの記憶は最終的にはすべて大脳皮質 ―その深いしわのある外側の層の中―に蓄えられる。そこは,下位分類される 動物の匹敵する部分と比べた場合,圧倒的に複雑であると言える脳の構成部で ある。脳内活動の研究を行っている専門家達は,何がどこへ行き,どのように して断片的なものが集まって統一のとれた全体となり得るのかを理解し始めた にすぎないのだ。 語彙 explicit: 明示的な declarative: 断定的な subsystem: 下位組織 texture: (視覚的,特に触覚的な)表面の感じ distinct: 別個の ultimately: 最終的に  cortex: 大脳皮質 furrowed: 深いしわのある layer: 層 component: 構成要素  dauntingly: 圧倒させるように comparable: 匹敵する lesser: 小形の species: 種 brain imaging: 脳内活動の研究 reassemble: 再び集める coherent: まとま った,統一のとれた
18 単一の記憶と思われているものでも,実際には複雑な構成形態を有して いる。かなづちを例に考えてみる。脳はすぐに,その道具の名前,外観,機能, 重さ,ガチャンという音を連想する。それぞれは,脳の異なる領域から引き出 されているのだ。顔と名前が一致しないとき,連想する過程が機能しないとい う経験するのだが,多くが20代で体験し始めるものである。そして,それは50 代に届こうとする頃,深刻な問題となるのだ。 語彙 construction: 構成 hurriedly: 大慌てで retrieve: (情報を)検索する,引き 出す appearance: 外観 heft: 重さ clang: ガランという音 extract: 引き出す  region: 領域 breakdown: 故障 assembly: 組み立て downright: 全くの  worrisome: 気にかかる
19 プリンストン大学の分子生物学者ジョー・ツェンを先週報告された実験 へ導いたのはまさにこの,記憶の弱体化とそれに並行して起きる新しいことを 容易に学ぶ能力の喪失である。「この年齢に関係する機能の喪失は」彼は言う。 「多くの動物に見出されるものであります。またそれは性的成熟と同時に始ま るものでもあるのです」 語彙 weakening: 弱体化すること parallel: 同傾向をもつ molecular biologist: 分子生物学者 age-dependent: 年齢に依存する sexual maturity: 性的成熟
20 脳が記憶を形成するときに何が起きているのか―そして,加齢,障害, 疾病によって何ができなくなるか―は,「柔軟性」として知られる現象を含んで いる。我々が新しいことを学び,記憶する際に,脳内の中で何かが変化するの は明らかであるが,器官が全体の構造を変化させることはないということや, 大規模に新たな神経細胞を作り上げることはないこともまた明らかなのである。 むしろ,経験によって変えられるものは,新しい細胞と細胞の連結であり―特 にこれらの連結の力である。一つの単語を何度も繰り返して聞くと,ある細胞 が矢継ぎ早にある順番で情報を伝えるようになり,それが後にパターンを繰り 返すことを容易にするのだ。 語彙 aging: 年をとること plasticity: 柔軟性 equally: 同じにまた nerve cell: 神経細胞 wholesale: 大規模に alter: 変える fire: 発射する
21 この補強がいかにして行われるかは,今世紀の大半,1949年に,カナダ の心理学者ドナルド・ヘブがこの問題に関連することを思いつくまで謎とされ てきた。多くの記憶は,本質的に異なる要素が組み合わさることからなるから 成るのだから(かなづちをもう一度思い浮かべてみるとよい),別の脳細胞への反 応を引き起こす単に一脳細胞の電気信号以上のことが起きているに違いない。2 つの神経細胞が同時に信号を送りだし2つの異なる情報を調和させるものは, 間違いなく脳内の何かなのである。それは生化学反応に注意を払いつつ「同時 発生探知装置」として働いているのだ。 語彙 reinforcement: 補強 disparate: 本質的に異なる coincidence: 同時発生  detector: 探知装置 biochemical: 生化学の simultaneously: 同時に coordinate: 調和して働かせる 
22 過去10年ほど,神経生理学者達は,少なくともヘブの「同時発生探査装 置」の一例としてうまく機能すると考えられる特定分子に焦点を当ててきた。N ―メチルD―アスパラギン酸塩もしくはNMDAと呼ばれているこの物質は,樹 枝状突起(神経細胞や脳細胞から突き出た枝状の突起部)の端に位置しており,入 ってくる信号に反応するのを待っている。他の受容体分子と同様,NMDAは隣 接する細胞から出ている神経突起によって発せられる化学的な信号―学習と記 憶の形成の場合,グルタミン酸塩―に反応するのだ。 語彙 neurophysiologist: 神経生理学者 molecule: 分子 methyl: メチル基  asparttate: アスパラギン酸塩[エステル] substance: 物質 dendrite: (神経細胞の) 樹枝状突起 projection: 突起部 protrude: 突き出る receptor: 受容体  molecule: 分子 chemical: 化学の cue: 合図 glutamate: グルタミン酸塩  emit: 発する axon: 神経突起,軸索
23 しかし,他の受容体とは異なり,NMDAはこの信号を十分なものとしな い。それは,自らが発する電子放出をも受けなければならないのだ。両方の細 胞が情報交換をしているときだけ,NMDA受容体のスイッチがすぐに入る。す ると,それはカルシウムイオンが受容細胞に入ることを許す。そしてそれは(ま だ誰も詳しいことは分かっていないが)どうにかして,その細胞が次回スイッチ が入り易くなるようにするのである。この現象は長期相乗作用として知られて いるものであるが,ある種の記憶形成の本質と信じられている。 語彙 discharge: 放出 calcium: カルシウム ion: イオン host cell: 受容細 胞;形質転換において DNA を受ける側の細胞 potentiation: 相乗作用
24 学習と記憶におけるNMDAの役割は単に理論上のものではない。何年も の間信じられてきたことがある。薬物を用いてNMDA受容体を遮断すること, もしくはその受容体を遺伝子段階で完全に不能にすることは,動物を学ぶこと に関して障害を負わせることになり,記憶喪失にまでしかねないのだ。受容体 を刺激する薬物を投与することは逆に,記憶を改善する方向へと向うのだ。 語彙 theoretical: 理論の genetic: 遺伝子の amnesiac: 記憶喪失 administer: 施す stimulate: 刺激する conversely: 逆にいえば
25 ツェンと彼の研究チームは次なる必然の工程をたどった。「10年前であ れば」と語るのはスタンフォード大学の神経精神病学者であるロバート・マレ ンカ博士である。「『単一分子を変えることで,学習と記憶という,より高次段 階の認知機能を巧みに操作することが可能となるか』とたずねたならば,たい ていの科学者はあなたのことを気が狂っているかのように見つめたことでしょ う」 語彙 manipulate: 巧みに扱う cognitive: 認識の molecule: 分子
26 しかし,それはまさにツェン&カンパニーが行ったことである―NMDA 受容体にだけ焦点を当てるのではなく,NMDAが有するある特定の構成要素に も焦点を当てたのだ。NR2Bと呼ばれているものは,(たまたま学習能力の高い) 若い動物の中ではとても活動的であり,それは(学習能力の高くない)大人の中で は活動力が弱まる。また,多くは前脳や海馬で見つけられている(その場所で明 示的な長期記憶が形成されている)。研究者達は,彼らがドギーと呼ぶ品種を作 りだすために,NR2Bを作り出す遺伝子を普通のねずみの胎児が持つDNAへ組 み込んだ。その後,研究者達は,そのねずみを一連の標準化されたテストの中 で動かさせた。いわゆる齧歯類のSATと呼ばれているものである。その一つで, ねずみは箱の中に入っている間,前足に電気ショックを与えられた。何回か重 ねるうちに,彼らは箱の中に入れるだけで恐怖を示すようになったのだ。それ はショックが続く可能性があることを学んだためである。同じような方法で, ベルが鳴ると彼らは恐れることを学ぶ。それはパブロフのイヌに関する変形と 考えられるものだ。それぞれの場合で,ドギー達は普通のねずみよりも学ぶの が速かった。同様のことが新たな目的を持って行われたテストでも起きた。2つ のプラスチックのおもちゃに親しんだあと,ドギー達は別の一つが置かれると 特別な興味を示すようになった。普通のねずみは慣れ親しんだものと新しいも のの両者にたいして同様に興味を示す傾向にあったにも関わらずである。 語彙 forebrain: 前脳 hippocampus: 海馬 splice:〈変形させた新遺伝子などを〉 挿入する gene: 遺伝子 embryo: 胎児 strain: 種 rodent: 齧歯類 sat: Scholastic Aptitude Test;SAT-I は読解・数学判断力,SAT-II は外国語・化学・歴史な ど専門分野のテスト paw: 足 novel-object: 新しい目的を持った
27 ツェンによれば,遺伝子組替えされたねずみは,発作や痙攣の兆候を示 すこともなく,ふつうのねずみのような様相を呈し,行動も変わらずといった かたちで育つ。その点が重要なのだ。NMDA受容体は脳全体を通して現れる。 そして,カルシウムが学習や記憶にとって重要なものであるとしても,あまり 多すぎるのは,細胞の死につながる可能性があるのだ。それは,時に発作の段 階で起きるのである。脳細胞が酸素を奪われるとき,多量のグルタミン酸塩を 放つのだが,近くのNMDA受容体を刺激しすぎ,受容細胞を殺してしまう。自 然はNR2Bを基礎に置く受容体がある理由によって大人の脳の中では消えてな くなるように意図していたのかもしれない。科学者の中には,変化を加えられ たねずみは発作を起こし易いかもしれないと懸念している。「この動物達が年 を取る段階で,何が起きるかを心配することになるでしょう」と述べるのは, カルフォルニア大学サンディエゴ校,神経化学者ラリー・スクワイアーである。 語彙 alter: 変える seizure: 発作 convulsion: 痙攣(けいれん) critical: 重大な, 決定的な stroke: 発作 deprive: 〜奪う oxygen: 酸素 glutamate: グルタミ ン酸塩 overstimulate: 刺激の働きをしすぎる taper off: 次第に衰える prone: 傾向がある
28 早すぎる細胞の死は考え得る障害となるだけではない。スタンフォード 大学のマレンカはNMDA受容体が,コカインやヘロイン,更にはアンフェタミ ンのような薬物に対し,脳を敏感にすることに関連があることを示した。また 他の科学者は慢性的な苦痛を引き起こすそれの働きを詳しく調べている。ここ で挙げられた更に2つの兆候は,母なる自然を愚弄するのは得策ではないこと を示しているのかもしれない。 語彙 premature: 早すぎる complication: 障害 sensitize: 敏感にする  amphetamine: アンフェタミン investigate: 探査する trigger: 引き起こす  chronic: 慢性の Mother Nature: 母なる自然
29 そのような危険が起きるまでにはしばらくかかるであろうが,ねずみで 起きることが人間に起きるかどうかはよくわかっていない。これはガンの研究 者があまりに頻繁に出会う結論である。ツェンとその同僚の科学者達はそのこ とが起きると考えるのは理屈に合わないことはないと信じている。「人間の体 にあるNMDA受容体は,ハツカネズミやクマネズミ,ネコや別の動物にある受 容体とかなり近いものがあるのです」と彼は言う。「我々は人間の体内でも NMDA受容体が同じ働きを担う可能性はかなり高いと信じています」 語彙 while: 期間 arise: 起こる colleague: 同僚 unreasonable: 不適当な  identical: 等しい
30 仮にそうだとしても,ツェンは人間の遺伝子をいじりまわすつもりはな い―しかも現状の生命倫理に関するガイドラインの下では何もできないのだ。 しかし,NR2B分子の活動を高める薬物は倫理に関して問題がないだけでなく, もうすでに考えられているものでもある。「プリンストン大学はこの遺伝子の 使用に関する特許申請を行っています」と言うのはツェンで,医薬品メーカー と接触を取っていることを認めている。「その遺伝子そのものの特許を申請し ないとしてもです」 語彙 tinker: 下手にいじりまわす current: 現在の ethical: 倫理の  contemplate: じっくり考える apply: 申し込む acknowledge: 認める
31 ツェン&カンパニーが賢いねずみを創り出したというのは正確には何を 意味しているのかという絶えず問われる質問がある。「ここではどのような知 性が試されたのであろうか」と質問を投げかけるのはジェラルド・フィスクバ ックで,神経学上の疾患と発作の国立研究所・所長である。「それはねずみが行 う行動の問題なのです。齧歯類の学習と人間に関する学習について話す場合, 同じことについて話しているかはわからないのです」 語彙 nag: 絶えず責め立てる
32 ツェンは,紙面で感情を逆なでするような「知性」という言葉を使った ことは論議が呼ぶことは分かっていたことを認めている。「我々は本当に意図 してはいないのです」と彼は説明する。「人間の知性が動物の知性と同じである ということをです。しかし,問題を解決するのは明らかに知性の一部を成すも ので,学習と記憶は問題解決に重要なものであるということを論じたいのです。 このねずみは,他のねずみと比べると良い記憶力を持ち学習面での資質が高い のです」 語彙 concede: 認める emotive: 感情的な generate: もたらす controversy: 論争
33 しかし,ツェンは彼と仲間達が知性,更には記憶に関する遺伝学上重要 と呼べるものを発見したとは言っていない。「脳の柔軟性は多くの分子を巻き こむ可能性があるのです」と彼は言う。「これはその1つにすぎないのです」ま た彼は,次のように主張するが,これに関しては批判的な人間達も異議を唱え ていない―「知性は生物学の分野から発生するものなのです。少なくとも部分 的にはそう言えると思うのです」どれくらいの部分が,その大きな問題として 残るであろうか。その答えが何であれ,我々の遺伝子が記憶だけでなく人間の 頭の中で展開されるものの特性に関していかなる役割を担うかを解明する大切 な1歩を小さいドギーが明らかに示してくれたといえるのである。そして,誰 もが分かることではあるが,彼が最後ではないのだ。 語彙 plasticity: 柔軟性 assert: 断言する critic: 批評家 biology: 生物学  unravel: 解決する attribute: 属性,特性


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