China's Wild Ride

China's Wild Ride
(9.27.P32.1999)

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今回は ASIA から
  Jayさんのサマリーです。長い記事ですが、比較的読みやすいですね。お楽しみ下さい。

中国・その波瀾の道のり


語彙は主に『英辞郎』Ver.17から抜粋

By YING RUOCHENG
 

大意

語彙

P32 毛沢東主導の新共和国は初期,我々の心を躍らせる一方,大きな災いをもたらす ものであった。ケ小平が,この国を死の淵から引き戻してくれたのだ。  
1 名門清華大学へ入学時,私は20歳で,若き夢に溢れていた。その1年前の1946 年,日本帝国軍は連合国へ屈しており,中国は勝利国のひとつとしてその姿を現し ていたのだ。しかしほっとする間もなく,内戦と激しいインフレやこの国にはよく ある汚職に再び巻き込まれたことがわかり,私のような学生はすぐさま,政府とは 全く違う立場を取り出したのだ。 語彙 prestigious: 世評の高い surrender: 降伏する allies: 連合国 emerge: 現れる  victorious: 勝利を得た embroil: 巻きこむ accompany: 伴う rampant: 激しい  endemic: 特有の;ここではcorruption which has no solutionの意味も含む corruption: 汚 職 articulate: はっきりと区別された
2 (父親がある大学の教授であったため)私は裕福な家庭に育ったが,急騰する 物価上昇によって,事実上私達は貧困へとひきずりおろされることとなった。毛沢 東と人民解放軍が国民党(KMT)を大敗に追い込むまで,誰もが皆,政権交代へ心 の準備はできあがっていた。この事態の変化を惜しむものはほとんど誰もいなかっ たのである。 語彙 well-to-do: 裕福な soaring: 急騰する virtual: 実質上の Mao Zedong: 毛沢東  People's Liberation Army: 人民解放軍 rout: 大敗北させる Kuomintang: 国民党;1911 年孫文が結成した中国の政党; 現在は台湾にある regret: 惜しむ
3 政治紛争や混迷は私にとって,全く無縁のものであった。清華大学入学前, 私は天津という街のミッションスクールへ通っていており,政治と一切関わりのな い世界に住んでいたのだ。初めの頃,私はクラスや図書館の決められたことだけを し,政治というものすべてを避けて通ろうとしていたのだ。しかし,内戦が激しさ を増し家計が悪化するにつれ,好戦的な同じ学生を避けることが難くなった。そこ でわたしは,常々演劇には興味を持っていたこともあり,反対運動を支援するため に大学の演劇部に所属した。主に,人々へ訴えかける「生きた新聞」としての公演 を行ったが,それはタイムリーな反政府をテーマとしたものであった。一旦関わり を持つと,もう後戻りはできなかった。まもなく学生運動に関わりを持つこととな り,内戦では毛沢東と人民解放軍の側に立った。 語彙 strife: 紛争 turmoil: 混迷 missionary: 伝道の shield: さえぎる politics: 政治  steer clear of: 避ける routine: 日課 intensify: 強まる finance: 財政 dwindle: 次第に 減少する belligerent: 好戦的な primarily: 主として propaganda: 宣伝 topical: 今日 的話題の turn back: 尻ごみする identify: 結びつける P.L.A.: People's Liberation Army;人民解放軍
4 1949年の夏まで,決定的な勝利は訪れることはないのは私のような政治に疎 い人間でも予見できた。(とはいえ)本土の大半はもうすでに共和党軍隊によって 「解放されて」おり,革命政府は中央当局を旗揚げする準備ができていた。北京が 新しい首都として選ばれたという知らせが届き,私は大喜びした。というのも私は その街で生まれ,その街を愛し,国民党が南京に首都を置き,私が生まれた場所を 勝手に北平(文字通り,北の平和や平和な北の意味)という名に変えた事実に怒りを 覚えていたからである。 語彙 outcome: 結果 standoff: 行き詰まり foretell: 予言する naive: 素人 central authority: 中央当局 overjoyed: 大喜びの resent: 腹を立てる arbitrarily: 勝手に
5 北京を人民共和国の将来的な首都とする毛沢東の決定は,私やその他多くの 人が戦いの目標においたあらゆるものの頂点に達するものに思われた。偉大なる式 典が催される日,私達は朝4時に起きた。バスもほとんどなく,学校から天安門広 場まで歩いて行ったのだ。満州政府の滅亡から数えて38年の年月が過ぎ去っており, 広場はみすぼらしい姿をさらけ出していた。それはまた今よりもずっと規模が小さ かった。広場に着き,式典を告げる今までにない目印があるのに気が付いた。旗ざ おが立てられており,国旗を掲げる準備ができていることであったのだ。 語彙 culmination: 最高点 trek: (徒歩で)行く Munchu court: 満州政府 landmark: 陸 標 flagpole: 旗ざお erect: たてる hoist: 引き上げる national banner: 国旗
6 式典は午後4時まで始まらなかったが,それは主催者がいまだ南部地域を抑 えている国民党軍隊の空襲を恐れていたからである。内戦には勝利をおさめたもの の,終わりを告げてはいなかったのだ。そのような状況ゆえに,私達は,埃の立つ 北京の風に身を任せ何時間も立たされることとなったが,誰も気にはしていないよ うであった。そしてついに雲のあるかすみがかった空の下でパレードが始まった。 それは,後に記念ポスターに描かれたような,日差しが強く明るい空とは似ても似 つかぬものであった。 語彙 air raid: 空襲 hazy sky: かすんだ空 firmament: 天空 depict: 描く  commemorative: 記念の
7 私達が最も印象を受けたのは,展示された軍用品であった。大半はアメリカ 製で,日本やソビエトのものではなかった。見渡す限り,アメリカ製の戦車,武装 ヘリ,重砲,ゼネラルモーターズのトラックやあらゆる種類の乗り物の列が次々と 列をなして続いた。この装備品は以前アメリカが衰退する国民党政府を支援するた めに供給したものであった。政治キャンペーンとして,(この機会を)うまく利用し ようと考える者が,軍用品すべてを表に出したのだ。それは,共和党が中国をソビ エトに売り渡したという国民党の主張に異議を唱えるためである。軍隊パレードは 何十万の参列者の大いなる拍手喝采によって迎えられた。P-51やB-25の軍用機―す べてがアメリカ製―による戦闘隊形が,隊形を組んで天安門広場上空を飛行すると き,最高点に達した。操縦していたのは(後で分かったことだが)前・国民党党員 であり「人民共和国」側へ離脱した者達であった。 語彙 impress: 印象を与える military hardware: 軍用品 gunship: 武装ヘリコプター  heavy artillery: 重砲 General Motors: ゼネラルモーターズ(社);世界最大の米国の自動 車メーカー; 略 GM; 1908 年 William Crapo Durantにより設立, 1916 年現社名とな る; 本社 Detroit; Chevrolet, Buick, Cadillac, Oldsmobile, Pontiac の乗用車のほか, トラッ クの Chevrolet と GMC を製造, さらに機関車・航空機・エンジン・農業機械も生 産している vehicle: 乗り物 equipment: 備品 bolster: 支える,支援する moribund: 滅びかけている regime: 政権 propaganda: 政治宣伝 genius: (他人・場所・事物・行 動・運命などに,よいまたは悪い)影響[感化]を及ぼす人 refute: 異議を唱える  applause: 拍手喝采 spectator: 観客 aircraft: 航空機 pilot: 操縦する personnel: 人 員 defect: 離脱する
8 毛沢東や他の指導者が立つ演壇を通りすぎる頃までに,辺りは暗くなってい た。私は生まれて初めて「毛沢東主席,万歳!」と叫ぶのに加わり,礼をつくした 毛沢東の返答は「清華大学の学生,万歳!」であった。私は感銘を受けた。そのと き,私は「これが新たな王朝時代の始まりだよ」と級友へ伝えたことを覚えている。 語彙 file past: 通りすぎる rostrum: 演壇 Chairman: (中国の)主席 gracious: 丁重な  rejoinder: 返答 impress: 感銘を与える dynasty: 王朝
9 今日,50年経過し,私はその時の発言を擁護している。振り返ると,中国は 今日まで何度も浮き沈みを経験し,人民の悲劇や苦難に事欠くことはなかった。し かし,1949年10月1日,敗退と屈辱の1世紀を経て,中国はようやく自立の道し, 世界各国の仲間入りをしたのである。中国は過ちを犯し,それを自らの力で正す権 利を得たのだ。 語彙 retrospect: 回顧 defeat: 敗北 humiliation: 屈辱 stand on one's feet: 独り立ちす る commit: (罪や過失を)犯す correct: 正す
10 人民共和国初期,心躍らされるものがあった。汚職という古代中国の呪いは, 毛沢東による1951年の提言「3悪(汚職・浪費・官僚制度)に対する「大衆運動」によ って,突然姿を消したようであったのだ。他にも同様の大衆運動が存在し,それは 人民共和国が受け継いできた社会的不公正を終わらせるために必要な武器と私達 の多くが感じるものであった。そのような運動は,ケ小平が終結宣言を告げるまで, 20年以上続けられたのである。 語彙 corruption: 汚職 ancient: 古代の curse: のろい mass movement: 大衆運動;多 数の人々,特に社会的エリート層でない人々が,現存の体制を変革しようとする半組 織的運動で,しばしば英雄的指導者を生む bureaucracy: 官僚制度 initially: 初めに  injustice: 不正行為 inherit: 受け継ぐ terminate: 終わらせる Deng Xiaoping: ケ小平
11 1950年代,中国の偉大な功績が過酷な規制を正統化するように思われていた。 この国初のトラクター,トラック,リムジンでさえ,流れ作業の中で進められたの だ。収穫はよく,鉄鋼生産は上がり,新たな工作機械を作る工場ができた。中国は 近代化への道を歩み始めたように思われたのだ。それは,私達よりも前の数世代で 暖められてきた夢であった。 語彙 harsh: 厳しい assembly line: 流れ作業の列 harvest: 収穫 nurture: 養成する
12 私の祖父,ヴィンセンシャス・イング卿は,その夢を追い続けたひとりであ った。1898年の改革運動に加わったあと,彼は清の支配者達によって目を付けられ, 更なる迫害を避けるために北京を離れざるを得なくなった。しかし彼はあきらめな かった。彼は1902年にタ・クン・パオという北中国で初の現代的な新聞を創設し, さらに清王朝が滅亡し中国が共和国になった1924年にはFuren大学を北京に共同で 創設した。彼の友人ヤン・フー氏(アダム・スミス,ムンテスキュー系統の作品を 初めて中国語に翻訳した人物)は,私の祖父へ捧げる詩を書き,その終わりに同じ 時代に生きた多くの人々が分かち合った苦々しさを持って次のように締めくくっ ている。「言葉を用いて何冊もまとめたものの,何一つ成し遂げることはなかった。 かつて若さに満ちた学者は今や白髪頭となり,すべては徒労に帰した」と。私達は 人民共和国を作り上げることでついには歴史の呪縛から解き放たれたのであろう か。私達ははたして自らの権利を手に入れることができたのであろうか。 語彙 hound: 追いまわす Qing: 清 flee: 逃げる persecution: 迫害 Qing dynasty: 清王朝 republic: 共和国 like: 似たもの dedicate: ささげる bitterness: 辛い  contemporary: 同時代のひと naught: ゼロ hoary-headed: 白髪頭の all in vain: すべ て無駄に curse: のろい pay one's dues: (勤勉・犠牲・経験・苦労などによって)尊敬 [地位,権利など]を得る
13 これからも,いかに大きな代償を払わねばならないかを認識するのに長い時 間がかかった。中国はすでに天然資源開発に制限を設けており,(それを理解した 上で)寛大な心を持って国家投資の必要性を満たしてくれるようなものは,国外に ほとんどない状態であった。中国は植民地を持っておらず,通商航路やその他,富 みの蓄積となる手段を持たなかった。中国が持ち得るものといえば膨大な数の人民 であり,地方は特にそうであった。この強大な人間の力は,国民党のすばらしい近 代兵器に打ち勝つに充分であった。この平和な時代に,私達はその経験を生かすこ とができるのであろうか。地方に潜在する人間の力を利用するのに,共和党員は農 地改革を通し農民を取り込んで行くように努め,その当初,成功を収めていた。し かし,それが現実のものとなったために,地方に住む中国人にとっての苦難の時代 が始まり出したのである。 語彙 benefactor: 恩恵を施すもの contribute: 貢献する accumulation: 蓄積 defeat: くじく tap: 開発する,求める dormant: 潜在する peasantry: 小作農民
14 清華大学を卒業したあと,私はプロの俳優として新たに設立された北京・人 民芸術劇に入った。シェイクスピアやチェーホフそして自由化以前の中国の劇作家 による古典を含む作品をレパートリー上演することは決定済みであると教えられ た。最新の設備を整えた新しい劇場をオープンし,在中の芸術指導者としてロシア の専門家を招いたのだ。彼は私達がマキシム・ゴーキーの「イーゴリ・ブリチェフ とその他の人間」をプロデュースする手助けをしてくれたのだ。 語彙 repertory: レパートリー上演 playwright: 劇作家 liberation: 解放運動 facility: 施設 resident: 在住の Maxim Gorky: マキシム・ゴーキー(1868-1936);ロシアの小 説家・劇作家; 本名 Aleksey Maksimovich Peshkov 
15 しかし,始めの頃のめまぐるしい日々を過ぎ,中国の知識人は恐怖のジェッ トコースターに乗りこもうとしていた。1956年,当初,指導者達は,自分達の思い を伝えるよう強く勧めた。それは官僚批判も含めてである。その後,いきなりと呼 べるほど豹変し,指導者達は反撃に出たのだ。最も痛烈な批評をした人間が選び出 され,「右翼」のレッテルが貼られた。この全国規模の動きの中で,少なくとも, 30万人がこの不名誉を受ける羽目になった。私の兄弟のイン・ルオコンもその一人 である。科学者,技術者,教師,芸術家やその他,当局に目を付けられた人間は, 地位を下げられ,仕事ができなくなり,たいていは肉体労働を目的とする地方送還 が行われた。彼らの多くは,私の兄弟のように,20年以上経ってから社会復帰させ られた。彼らは,「誤ったレッテルが貼られた」ことに対する謝罪を受けたのであ る。 語彙 heady days: めまぐるしい日々 intellectual: インテリ embark: 乗りこむ  terrifying: 恐ろしい exhort: 強く勧める officialdom: 官僚 counterattack: 反撃  scathing: 痛烈な single out: 選抜する rightist: 右翼の人間 disgrace: 不名誉 demote: 地位を下げる forbid: 禁じる manual labor: 肉体労働 rehabilitate: 社会復帰させる  mislabel: 間違ったレッテルをはる
16 これらすべてが,中国の知識人達に衝撃を与え,反抗的な人間の口を封じさ せた。それはまた,次なる大きな動きに必要な政治環境を作り出したのだ。いわゆ る,「大躍進」である。この運動は1958年に農夫に始まり,生産割り当てを100%, 200%と上げるように指示された。その理屈は次のようなものである。ある種観念 的な障害が取り去られれば,勤労大衆は奇跡を起こせるようになるというものであ った。割り当ては異常なものだと指導者達も気付いていたが,大衆は決して疑いの 気持ちを持ったり,思いとどまるべきではないという信条であった。すぐに,報道 機関はこの流れに追いつき,当然の成り行きとして,終わりなき奇跡の収穫といっ た記事が出た。都市部の工場はこの社会の一時的な熱狂状態に飛びついた。鉄鋼の 生産割り当ては倍となり,軽工業目標数値は急上昇した。地方はすべて集産化され た−生産協力団は昇格して団体となり,団体は人民公社という共同体が仕事や利権 を分かち合う場所となり,家族の台所はなくなった。というのも,誰もが共同食堂 でただで食事を取るようになったのだ。突然,中国の問題は解決の方向へ向かうよ うであった。 語彙 muzzle: 言論を封じる malcontent: 反抗的な Great Leap Forward: 大躍進;毛 沢東による 1958-61 年の中国の経済工業化政策 peasant: 農夫 quota: 割り当て  ideological: 観念的な breach: 破る article of faith: 信条 discourage: 思いとどまらせ る strategy: 戦略 in due course: ことが順当に運んで miraculous: 奇跡的な pick up on: 採用する soar: 急騰する collectivize: 集産化する upgrade: 昇格させる  brigade: 団体 commune: 共同体  collective: 共同体 spoil: 利権 abolish: 廃止する communal: 公共の canteen: 食堂  free of charge: 無料で 
17 それは実現にはいたらなかった。「大躍進」成功の輝かしい報告がなされる 間,劇団に所属する私達は,本当は地方で何が起きているか何も気付いていなかっ た。私達は毎晩,楽しく演技を続け,昼間の間は新しい劇のリハーサルを行ってい た。その後,突然,北京の街角に農民が溢れているのに気付いた。ドアからドアへ と食べ物を乞うものもおり,最初ある限られた地域で起きた天災のせいだと思って いた。しかし,日が経とうとも,新聞が「住所不定の人間」と呼ぶ者達の数は,少 なくなる気配がなく,私達は何かがおかしくなっていると思った。食べられるもの は食料雑貨の店のカウンターから消え始め,引換券で穀物を買うルールが次第に厳 しくなって行った。いわゆる「苦節の3年」が始まったのである。 語彙 amid: 〜の間 glowing: 熱烈な Great Leap Forward: 大躍進(政策):毛沢東によ る1958-61年の中国の経済工業化政策 unaware: 世事に疎い blithely: 楽しそうに  surge: 殺到 peasant: 農夫 beg: 乞う,乞食をする isolated: 孤立した vagrant: 住所 不定者 abate: 減ずる,和らげる edible: 食べられる grain: 穀物 coupon: 引換券  enforced: 強制的な set in: 始まる
18 今や,食料不足を説明するのは公報機関の責任であったが,簡単ではなかっ た。数多くの説明がなされ,それぞれ回を増す毎に奇妙なものだった―天災から外 国との通商禁止にまで及んだのである(ソビエトは1番の罪人として選び出されてい た)。あえて真実を語ろうとするものは誰もいなかった―指導者の考えは間違ってい たこと,割当目標は完全に非現実的であるということ,農夫は非現実的な割り当て 目標に服従を装い,達成のために何もしないことで報復してきたことについてであ る。マルクス主義の言葉を借りれば,それは昔からある「極左」の例であり,指導 者が現実から乖離し,それと希望的観測が混同されるときに起きるものである。そ れはまさに,毛沢東が1930年代延安改正運動を行っていたとき積極的に反対してい たものと同様のものと呼べるものなのだ。 語彙 propaganda machine: 宣伝機関 bizarre: 奇妙な embargo: 通商禁止,制限  single out: 選び出す culprit: 罪人 retaliate: 報復する feign: 装う compliance: 服従, 承諾 Marxist: マルクス主義の jargon: 専門用語 ultra-lefttism: 極左 divorce: 分離 する confuse: 混同する vigorously: 積極的に rectification: 改正,修正 Yan'an: 延 安,イエンアン:中国陝西(せんせい)省北部の都市;かつての中国共産党中央委員会所 在地(1937-47); 毛沢東(Mao Zedong)はこの地で抗日戦争を指導し,中国革命の聖地と 呼ばれる
19 しかし今回,毛沢東が「極左」となり,彼の主張の結末は日を見るより明ら かであった。「苦節の3年」の間,妻は2番目の子供を産んだ。彼は3,6キロの健康体で あったが,どうやって彼を食べさせていったらよいのかわからなかった。食べ物は 誰もの最も差し迫った関心事であった。私達は他の同僚に比べればまだ良い方であ った。というのも,私が英語翻訳のアルバイトで稼いだお金が少しだけ余計にあっ たからだ。そのお金で,闇市で密かに食べ物を買った。その3年という長い期間, なんとかかつかつの生活でやってきたのだ。これも大半は妻のお陰で,出来る限り 長い間食事が持つよう,少ない食べ物を一定の間隔を開けて用意してくれたのだ。 すべての家族が恵まれていたわけではなかった―品不足による苦境の中で,数多く の夫婦が離婚していったのである。 語彙 insistence: 主張,強要 pressing: 差し迫った concern: 関心 moonlighting: 夜の 副業 surreptitiously: 内密に scrape: かつかつの生活をする space out: 一定の間隔 を空ける fortunate: 運の良い split up: 離婚する amid: 〜の真中に
20 その間,私達は中国の最も貧しい地域での飢餓報告を耳にし始めていた。そ の話は事実であることがわかったのだ。しかし,「大躍進」が失策の方向へ傾き始 めると,毛沢東は政策に待ったをかけ,損害額を査定しようとはしなかった。彼は, 自ら掲げた大きな計画を党内の目に見えぬ敵によって阻止されたこと確信してい るようであった。彼らの正体を暴くことを決め,1年も経たずに,また別の大衆運 動を起こした。「4つの浄化運動」と呼ばれるもので,「資本主義に走る」党内指 導者達を暴き,追い出すことを目的としたものだ。これは彼が考えているような結 果を導き出すことはできず,毛沢東は1966年に,大文化革命を起こすこととなるの である。 語彙 meanwhile: その間に,その一方で starvation: 餓死 veer: 向きを変える  disaster: 災害 assess: 評価する,判断する convinced: 確信した grandiloquent: 大げ さな thwart: 阻止する unmask: 正体を暴く weed: (好ましくないものを)取り除く  capitalist road: 資本主義の道を走る Great Proletarian Cultural Revolution: 文化大革命
21 なぜ,このような混沌とした10年に及ぶ「革命」が起きたのであろうか。ア ナリストはその原因を政治組織の中にある不備な点や毛沢東の精神的な問題,さら には彼を取り巻く個人崇拝に見出そうとしてきた。これらの説明はそれぞれ正しい といえるかもしれないが,そのどちらもなぜ中国における最高知性が,政治的には 革新派で哲学的には独裁主義的な理論に屈したか説明していない。おそらく,根本 の原因は中国の革命そのものに存在したのであろう。それは,この国の変革に異議 を唱える野蛮な権力に対し,取らねばならぬ曲がりくねった道であった―それは, 多大な犠牲を強いる中国が自らを近代化する権利に対し犠牲を強いられたことを 意味している。 語彙 chaotic: 混沌とした attribute: 〜のせいにする flaw: 不備な点 psychological problem: 心的な問題;ここではmegalomaniac (誇大妄想)の意味 personality cult: 個人崇 拝 surround: 囲む elucidate: 明らかにする succumb: 屈する philosophically absolutist: 哲学的な独裁主義者 root cause: 根本原因 tortuous: 曲がりくねった
22 文化革命は現代中国が耐えてきたおそらく最も有害な,社会の大変動であっ た。妻と私は,新たに編成された治安部隊によって逮捕され,あちらこちらの外国 政府のスパイとしての嫌疑をかけられ投獄され,家庭はバラバラになった。私の16 歳の娘はモンゴル奥地の草原地帯へ送くりこまれ,一方で息子は,まだ8歳という 年齢で,わずかな給付金で生活している母親と2人きりの生活へと追い込まれたの だ。家の中は3度に渡り紅衛兵よって荒らされたが,それぞれ異なる部署に属する ものであると語った。しかし,一つだけありがたいことがあった。刑務所で過ごし た時間は,中国の真の姿を私に教えてくれた。それは,刑務所以外の人生で私が学 んでいることよりも多くのことをである。 語彙 upheaval: 大変動 endure: 耐える security forces: 治安部隊 grassland: 草原地 帯 meager: わずかな pension: 給付金 ransack: くまなく探す Red Guard: 紅衛兵  claim: 主張する
23 妻と私はどちらも,3年と少し経過した1971年に釈放された。それは,有罪 とする証拠に欠けるであるか,内部に通じている人間が後に語ってくれたところに よれば党のトップが替わったなどの理由によるという。結局その理由はわからなか った。北京は随分物悲しい雰囲気を呈し,人も少なくなったようであった。1960年 代,中国にとって兄のような立場から,1番の敵国となっていたソビエトの空襲を 恐れ,多くの人々はその都市を離れたのだ。15歳を超える学生(うちの娘も当てはま る)は,「貧しい生活を営む農夫や中産階級の農夫による再教育」を受けるため,地 方へと送られていた。私達がいない間,小さな中庭のある家から雨漏りのする随分 小さな家に移されていた。1976年,100km離れた大きな唐山地震が北京を襲い,私 達の今にも壊れそうな家は倒れ,別の場所へ移ることを余儀なくされた。 語彙 incriminate: 有罪とする bleak: 物悲しい shrink: 減少する leak: もれる  ramshackle: 今にも壊れそうな collapse: 潰れる
24 1976年,文化革命が正式な形で終わりを告げると,中国文化は皮肉にも,災 害をもたらす場所となっていた。江青(毛沢東の妻であることを常に思い出させる 人物)の理性なき弾圧下にあり,創造的な芸術は禁止された。娯楽芸術という考え そのものが,タブーであったのだ。その後10年間,この国では,江青によって認め られ,後押しされたたった8つの劇と2つのバレーしか見ることができなかった。地 方に追いやられることのなかったごく少数の作家も,新たな「革命」作品を創り出 すよう命じられたのであるがうまくはやって行けなかった。かすかな反革の気運や 隠れた社会主義体制批判を嗅ぎつけようとする検察官のもとで,彼らの仕事は最も 厳しい監視下に置かれたのだ。 語彙 hysterical: 理性を失った suppression: 鎮圧,抑制 Jiang Qing: 江青;毛沢東夫 人, 「四人組」 の中心人物 ban: 禁止する ballet: バレエ fare: やって行く assign: 任務に就かせる scrutiny: 監視 censor: 検閲官 sniff: 嗅ぎつける trace: 跡  counter: 逆らう sentiment: 意見 sentiment: 気運 disguise: 隠す
25 多くの紅衛兵にとって,これは興味深い機会を作り出した。隠れた敵を見つ け出し暴き出すことはしばしば利益をもたらしたのだ。それは暴く規模が大きけれ ば大きいほど,報酬も大きくなることを意味している。報酬は通常,政治的昇進の 形を取り(誰もお金を求めるような卑しい人間とは見られたくなかったのだ),通例 それに伴う役得(臨時収入)はよくあることであった。結果―中国は,虚偽の上に身 を立てる貪欲かつ偽善的な世代を作り上げたのだ。中国の社会主義的な基盤を壊 そうとしていると非難されつつ,芸術家,作家,俳優,アートディレクター, 舞台装置家,さらには案内人や舞台係までもが肉体労働従事を目的として地方 へと送られた。この状態は毛沢東が死ぬ1976年まで続いたのである。 語彙 spot: 見つける expose: 暴露 vulgar: 粗野な perk: 役得 greedy: 貪欲な  hypocrite: 偽善者 wreck: くじく set designer: 舞台装置家 usher: 案内係  stagehand: 舞台係 persist: いつまでも続く
26 毛沢東崩御の知らせが飛び込むと,誰もが皆絶望のどん底に落とされたよう であった。その頃,私はすでに劇団を離れ外国語出版のジャーナリストとして雇わ れていた。私はできるだけ憂鬱で落ち込んだふりをしていたものの,荒れ狂い, ちまたで見かける,嘆き悲しむ人の輪に加わる気にはなれなかった。私にとっ て,毛沢東は偉大な人物で,新しい中国に拭い去ることのできない足跡を残した政 治的な巨人であった。彼は,並外れた考えで,同じ時代の誰よりも多くのことを成 し遂げたといえるのかもしれない。しかし,彼は神ではなかった。彼は弱点や妄想 を有し,作り出した害悪もまたとてつもないものであったのだ。 語彙 demise: 崩御 plunge: 飛び込む abyss: 底無しの深い穴 somber: (表情が)憂 いを帯びた stun: 衝撃を与えらる go berserk: 怒り狂う the wailing: 嘆き叫ぶもの 達 commonplace: ありきたりの indelible: 忘れられない imprint: 印象  larger-than-life: 並外れた obsession: 妄想 harm: 害 wrought: workの過去形  immense: すばらしい
27 私達の多くが,天安門広場で開催された毛沢東の追悼会に参列した。私達が 決められた場所へ案内されたとき,27年前,人民共和国が成立したときにいた場所 とほぼ同じ場所に立っているのに気付いた。再び私は新しい時代の証人となるのだ と(心の中で)思ったのを覚えている。(というのも,27年間で分別のある行動を取 る術を身に付けたからだ)。私は壇上に目をやると,がっかりしてしまった。新たな 指導者達がそこにおり,一際目立って江青の姿が見えたからだ。ケ小平はどこにも 見当たらなかった。それよりも3年前,毛沢東は彼の追放を取りやめ,呼び戻して 政府や軍隊を管理する立場に置いていたのだ。彼は紅衛兵によって損なわれた部分 を元の状態へ戻すのに時間を費やしていた。しかし,毛沢東の死によって,ケ小平 は再び解雇され,忘却の彼方へと追いやられてしまった。毛沢東が心変わりをし たのか,それとも江青によって作り上げられた陰謀なのか,今後においても全 く,私達の知るところではないであろう。 語彙 appointed: 指定された occupy: 存在する intervening: その間の discreet: 分 別のある witness: 証人 platform stage: 演壇 in prominence: 目だって recall: 呼び 戻す exile: 追放 undo: 取り消す house: ここでは国家全体の意味 sack: 解雇す る banish: 追放する oblivion: 忘却 conspiracy: 陰謀 concoct: 作り上げる
28 しかし,まもなく江青やその他,「四人組」のメンバーが姿を消し,ケ小平 が再び姿を現した。彼は中国最高峰に立つものとして今までにない力強さを持って 現れたのである。ケ小平が指導者の立場に就くことで,物事は好転し始めた。彼は 10年間に及ぶ不名誉の期間で,長期に渡り熟考し,ある結論に達したのだ。彼はす ぐさま自分の政策を成し遂げようと考えているようには思えなかった。彼は科学技 術の領域における専門的技術の名誉・名声を復活することから始めたのだ。彼は中 国が国をあげての政治運動を再燃することはありえないことを明らかにした。彼は 文化革命の間,反逆で不当にも訴えられた数多くの有能な職員を社会復帰させた。 彼らを責任のある立場へ戻したのだ。 語彙 Gang of Four: 四人組:中国文化大革命のリーダーであった江青,王洪文,姚文元, 張春橋の四人 re-emerge: 再び現れる ebullient: あふれんばかりの disgrace: 不名 誉 frenzy: ひどく興奮した implement: 実行する restore: 復活させる prestige: 名 声 expertise: 専門知識 wage: 行う rehabilitate: 社会復帰させる treason: 反逆
29 ケ小平によって大改造された。彼の改革は,毎日夜遅くあるいは夜明けまで 中央の指導者が働くことを止めさせたのだ。彼は中南海ではなく,昔ながらの家並 みの続く北京の路地に住居を構えた。お気に入りの気晴らしの時間に,ブリッジを する時間を見つけることすらあった。長く冗漫で舌が絡まるような中国のスローガ ンを,簡潔で力強い−「自由な気持ちで,団結し,前向きに物事を捉えよ」−へと 置き換えたのだ。彼は「改革」と外の世界へ「門戸を開く」ことを最優先課題とし ておいたのである。 語彙 shake things up: 再編成する,大改造する reside: 住む Zhongnanhai: 中南海(チ ヨンナンハイ);北京市の中央部, 故宮の西側の地区; 党および政府の最高機関の所 在地で, 党・政府の要人の居住地alleyway: 路地 pastime: 気晴らし tongue-twisting: 舌が絡まるような pithy: 力強い liberate: 解放する unite: 一致団結する priority: 優先するもの
30 芸術家も,まず恩恵を受けた。1980年,全中国演劇協会は英国文化協会から イギリスへ招待を受けた。私は代表団へ加わるこの機会へ飛びついたのだ。私は英 文学を専攻し数多く演劇の翻訳作品を出版していたが,一度も海外へ出たことがな かった。事実,私は海外を旅行するという考えを長い間あきらめていた。というの も,かつて父は台湾大学で教鞭を取っており,彼の経歴によって私は不適格にされ ると確信していたからである。ケ小平が指導者の地位に戻り,その旅行は認められ た。その後私は,ウェストエンドの作品を鑑賞し,ストラットフォード-オン-エー ヴォンを訪れ,ハイドパークの演説に耳を傾け,アン・ハサウェーの小さな家にあ る狭い階段を上がっていた―すべてはまるで夢の中のようであった。 語彙 British Council: 英国文化協会:特に海外での英国文化普及のための自治機 関;1934年設立 delegation: 代表団 disqualify: 不適格とする helm: 支配的な地位  West End: ウェストエンド:London の the City 西側,Hyde Park までの高級住宅・商業 地区;特に Piccadilly を中心として劇場,レストラン,大商店などで名高い  Stratford-Upon-Avon: ストラットフォード-オン-エーヴォン;イングランド中部 Warwickshire の町, 2 万; Shakespeare の生地・埋葬地で, 毎年 Shakespeare festival が 行なわれる Ann Hathaway: (c. 1556-1623);William Shakespeare の妻; 1582 年 8 歳年下の Shakespeare と結婚, すでに妊娠していたと いわれる; Susanna と双生児の Hamnet, Judith の 3 人の子をもうけた cottage: 小さ な家
31 さらにまた別の機会が訪れた。1980年,私達はアメリカへ招待されたのだ。 私は,著名な劇作家アーサー・ミラーへ紹介され,その後彼とは生涯の友と呼べる にまでとなった。この訪れた機会に,私達は北京でアーサーの作品をひとつ,中国 語でプロデュースすることを決めた。「セールスマンの死」に意見がまとまり,私 が翻訳担当で,アーサーが北京に来てその演出指導を行うといった。私は,ウィリ ー・ローマンの役を演じ,長年の夢をかなえたのだ。私が初めてその脚本を目にし たのは1948年のことで,まだ清華大学に席を置いていた。その頃の中国では,西洋 劇の写実作品にしか馴染みがなかったので,私はアーサーが自由に描き出す時間と 場所の描写がイメージできなかった。 語彙 renowned: 有名な playwright: 劇作家 Arthur Miller: 米国の劇作家; Death of a Salesman (1949) fulfill: かなえる script: 台本 naturalistic: 写実的な envisage: 思い 描く
32 その劇の北京公演が1983年に行われたが,観客が構成や内容に違和感を持つ ことはなかった。これにより,私は,表現手法は古典的な中国劇とそれほどかけ離 れたものではないことがわかった。(中国の観客に)暖かく迎え入れられることは, アーサーにとって全く予期せぬものであったことは,初演の夜,彼の神経が高ぶっ ていることから私にはわかっていた。最後のシーンが終わると,ステージは暗くな り,数秒間何一つ音がしなくなった―これは,舞台裏にいる女優一人がすすり泣く には充分な時間であった。そしてそれがやってきた。大きなうねりとなる拍手であ り,止むことのないカーテンコールが沸き起こった。私はお辞儀をしながら,演劇 仲間に初めて脚本を読んで聞かせた瞬間を思い出していた。最後のシーンをウィリ ーの鎮魂歌にする考えに反対したものは一人ではなかった。「これはアメリカでは うまく行くかもしれませんが,北京の観客は興味をそがれるかもしれませんよ」話 は続いた。「ウィリーが死んだら,サスペンス的な要素はなくなってしまいますよ ね。そうなれば観客は家路へ向うバスに乗り帰り始めますよ。どうやって出口へ殺 到する人の波を食い止めるというのですか」私は今日まで100回を超える上演を重 ねているが,一度たりともそのような「殺到」に出会っていないことを述べられる のが幸せである。 語彙 exceed: 越える offstage: 舞台裏の tidal wave: 津波 requiem: 鎮魂曲 spoil: 興味をそぐ stampede: 殺到
33 それから数年間,私はある劇とテレビの合弁事業に携わることとなる。さら に,大学連盟を講演してまわることになった。1986年には,文化次官となった。私 は単なるお役所的なやり方を超えた文化交流を促した―アメリカで中国劇を3本, そして中国でイギリスとアメリカの作品5本,プロデュースと演出をしたのである。 語彙 joint venture: 合弁事業 lecture circuit: 講義連盟 enhance: 高める bureaucratic: 官僚的な
34 ケ小平時代,大きな不協和音が生じたのは,1989年の天安門事件の際である。 それは悲劇的な出来事であったが,私はある意味,避けられないものであったと考 えている。これは2つの強力な価値観の衝突であった。一方に,ヘブライ文化,ヘ レニズム文化,ローマや西ヨーロッパの伝統があり,それは西洋の影響下にある多 くの文明が取り入れたものであった。他方で,儒教や東洋文明の自己啓発の哲学が あり,黄金の中庸に根付いたものだった。2つの強力な文明が互いにぶつかり合う とき,衝突は避けられないものであった。現代中国の歴史はそのような出来事で満 たされおり,激しいものもあれば,激しいとまではいえないものもあるのだ。 語彙 dissonant: 不協和の unavoidable: 避けられない Hebraic: ヘブライ文化の  embrace: 取り入れる Confucian: 儒教の Oriental: 東洋の self-cultivating: 自己啓発 の philosophy: 哲学,主義,人生観 Golden Mean: 黄金の中庸
35 過去50年の進展を見ると,なぜ中国が天安門事件以降,無秩序や非合法に陥 らなかったのかは誰にでも理解できる。ケ小平は再び,時の人となったのだ。騒動 がおさまるとすぐに彼は声を上げて「改革」と「解放」の基本政策は何としてでも 守らなければならないと強調していた。敵視する派閥へのいかなる報復も抑制され なければならない。彼は,愛国心を示し,社会的な安定を確保するように,すべて の中国人に訴え続けた。その後しばらく,急進グループは,ありふれた一般原理と してこの計画をあざけ笑ったが,ケ小平は彼らの想像を超えて賢明であった。彼は 通りにいる人々の気持ちが理解できたのである。潜在する中国人の愛国心は,政治 危機に利用できうるものなのだ。たいていの人(特に,はっきりと物がいえる人) は,中国における諸外国の操作を,(それが現実のものであれ,架空のものであれ) 常に拒み続ける政治勢力側へ付いているのだ。 語彙 disturbance: 騒動 subside: 静まる get even with: 〜に仕返しをする rival faction: 派閥争い curb: 抑制する fall through: 計画を続行する patriotism: 愛国心  secure: 確保する stability: 安定 for a time: しばらくは radical: 過激な element: (共 通の主義・境遇などを持つ集団の)構成分子,小集団scoff: あざける run-of-the-mill: あ りふれた generality: 一般原理 psyche: 精神 harness: 利用する articulate: 思想を 表現できる rally: 集結する defy: 拒みとおす
36 幾年にもわたる政治的大変動や不安を経ても,大衆運動復活はないというケ 小平の公約は,安心感を抱かせるものであった。時が経つにつれ,天安門事件の記 憶は徐々に消え去り,徐々に問題にならなくなった。もちろん,いまだに主義を棄 てないで生き続ける人達もたくさんおり,正義はなされるべきだと強く要求してい る。しかし,彼らは地盤を失いつつあり,民衆の支持も得られなくなってきている。 中には最初の決意を考え直すものもおり,少数派ではあるが,身も心も国を離 れた今の生活から生まれ育った国へと戻り始めているものもいる。いまやその 少数派が増えそうな気配なのである。 語彙 upheaval: 大変動 unrest: 不安 revive: 復活する reassure: 安心させる  stalwart: 忠実な党員 popular support: 民衆の支持 second thought: 再考 trickle: 少数 のもの exile: 追放
37 話は変わるが,ケ小平は自らの公約を守り,改革計画をやり続けた。1992年, 80代になって視察旅行へ出かけ,共産党員に自由主義化を強く勧めた。それは,理 論上のタブーをものともせずに行ったのだ。ケ小平は,公の場で,自らの改革を「苦 労しながら川をすすむ…一歩一歩足に障害物を感じながら…」とし,自らがマスタ ープランを有していることを常に否定していた。事実,彼は最後まで最も重要な改 革に関わることはなかった。つまり,国家計画の拒絶や市場経済の採用を,国家の 指針とすることなかったということだ。 語彙 persist: 固執する blueprint: 計画 exhort: 強く勧める liberalization: 自由主義 化 wade: 骨を折って進む
38 いまやケ小平は去り,私達には彼が残したものを真剣に受け止める必要ある。 彼の3度に渡る失脚と社会復帰は,現代歴史という記録の中で彼を伝説の人物にし てきたのだ。さらに重要なことは,彼が古く中国に伝わる聖なる教えを破棄するの に必要な真の勇気を持っていたことであり,その教えは中国の発展を阻んでいたの である。 語彙 treasure: 大切にする heritage: 遺産 disgrace: 失脚させられる rehabilitate: 社会復帰させる annals: 記録 contemporary: 現代の overturn: 引っくり返す  sacred: 神聖な ideological: 観念的な,イデオロギー的な precept: 戒律,教え
39 かつてケ小平はこの新しい政策で少なくとも100年は続けるべきであると語 ったことがある。人生の終焉を迎えながら,ヤン・フ(私の父の詩人である友人)は, 西洋の書物から真実を見出そうとする空しさを嘆き悲しんでいた。アダム・スミス は18世紀に市場経済を提唱したが,中国の支配階級や学者達はその選択を無視した。 改革は,ケ小平のような精神的かつ道徳的な偉大さや問題を解決するための―問題 点を容易に理解できる解決策を提供する―決断力を有する人間を必要としたのだ。 「市場経済は資本主義のみに限られるものではなく,それは計画経済が社会主義に 限られるものではないのと同様である」 そのような英知はプロメテウス(ギリシャ神話の神で人間に火を伝えたとされる)に 匹敵するものだ。ケ小平の英知は中国を動かしており,私達はそれを敬いと同等の 感謝の気持ちを持って扱うべきなのだ。「若き学識者達」は夢の実現を目にするの に「白髪頭になる」まで待つ必要はないのだ。この50年は,毛沢東で始まり,ケ小 平で終わりを告げたのである。 語彙 bewail: 嘆き悲しむ futility: 空虚 advocate: 提唱する ignore: 無視する  stature:精神的・道徳的な偉大さ determination: 決断力 cut through the knot: 問題を解 決する fathom: 理解する formula: 解決策 Prometheus: プロメテウス:Titan 族の一 人;Deucalion の父で,Atlas, Epimetheus と兄弟;Zeus の命令に背き Olympus から火を 盗み人間に与えた;岩に縛りつけられ大鷲(わし)に毎日肝臓を食い破られるが,つい に Hercules に救助された mythology: 神話 gratitude: 感謝 hoary-headed: 白髪頭


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