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| P24 | 敵の領地に深く入りこんだパキスタン兵士の存在は,イスラマバードが 主張する無実の反証となるのだ。 | |
| 1 | タバコを深く吸い,ナディーム・アメッド少佐は地図をじっと見つめて いる。その地図は,12を超えるインドの砲床を示しており,17平方キログリッ ド線上にある。それぞれの陣地は青く印が付けられ,憎しみが込められた名前 が付いている。デビルガン[悪魔基地],カフィール(非信仰者)ガン[非信仰者基地], ヒンズーガン[ヒンズー教基地],ガンジーガン[ガンジー基地]などである。パキ スタンの士官と彼の部下は,停戦ラインを横切り数キロの地点にあるインド軍 の陣地へ,一つしかない大砲から10発の砲弾を撃ちこんだところである。午後 10時,アメッドは,インド人からの応答がないのに驚いている。たいてい,彼 らはすぐに撃ち返してくるのだが。 | 語彙 drag: (タバコを)深く吸う major: 少佐 contemplate: じっと見つめる gun position: 砲床 target grid: グリッド線 position: 陣地 lace: 〜を飾る hatred: 憎しみ gun: = artillery position Pakistani: パキスタンの officer: 士官 fire: 発射する shell: 砲弾 artillery: 大砲 piece: 銃,砲 the Line of Control: 管理ライン,停戦ライン immediately: ただちに |
| 2 | 少佐はカセットデッキのスイッチを入れ,薄汚い掩蔽濠での緊張を解き ほぐそうと,西洋のポップミュージックをかける。「今夜,インド軍が攻撃して 来ることはないと思う(が)」と彼は言う。「朝5時半くらいに攻撃を仕掛けてく るかもしれない。さらに空軍戦闘機の短期出撃の可能性もある」アメッドは陸 軍当番兵にライフルを求め,それを自分の簡易ベッドの横に置く。彼は,イン ド軍が夜中に彼の陣地めがけて奇襲部隊攻撃を仕掛けてくるかもしれないと司 令部に警告されている。彼は外へ行き,暗闇の中で部下へ遠まわしな表現をす る。「目と耳はユキヒョウのように働かせろ。石が転がるほんのわずかな音でも 見逃すな」と。 | 語彙 major: 少佐 tension: (精神的な)緊張状態 dingy: 薄汚い bunker: 掩蔽 濠 sortie: 戦闘機の短期出撃 batman: 陸軍当番兵 cot: 簡易ベッド warn: 警告する headquarters: 司令部 commando: 奇襲部隊 assault: 襲撃 position: 陣地 quiet: 遠まわしな snow leopard: (中央アジア山岳地帯産)ユキヒョウ ignore: 無視する slight: わずかな roll: 転がる |
| 3 | 男達は泥と藁で作られた屋根の掩蔽濠で眠る。ネズミは中を何かを探し 自由に駈け回る。朝早く,爆発一つが闇夜を揺るがす。一人の兵士が駈け込ん で来る。「急げ,インド人が攻撃を始めたぞ」と彼は言う。夜中の1時である。 誰もが,砲弾に耐え得る掩蔽濠へ移動する。15分後,弾幕射撃が止む。更に15 分後,幾人かの男達が自分達の簡易ベッドへ戻る。朝4時,少佐が朝の祈りを 始めると,インド人は新たな弾幕射撃を始める。少佐は,激怒している。彼は 自分の部下にインド軍陣地へ目標を定めるように命ずる。「あらゆる陣地に砲 弾を送り込め。特にガンジー基地は入念にな。ヤツラに思い知らせてやるんだ」 これは,過去10年間,停戦ラインに沿って日常繰り返される見せかけの戦闘で ある。最近まで,インド人とパキスタン人が山を越えて高く弧を描くように砲 弾を撃ったのは,主にお互いの存在をアピールするためであった。ところが今 や更に危ういことが起きている。これは,名ばかりの戦争ではない。兵士達は 世界で最も荒れ果てた地形のひとつで,戦い,死んでいるのだ。 | 語彙 bunker: 掩蔽濠 mud-and-thatch: 泥と藁の rat: ネズミ rummage: かき まわして探す wee: ほんのわずかな explosion: 爆発 shell-proof: 砲弾に耐え 得る barrage: 弾幕(射撃) cot: 簡易ベッド major: 少佐 morning prayer: 朝の 祈り furious: 激怒した target: 目標にする on the grid: スコープのグリッド 線に lesson: 見せしめ routine: 日課 mock war: 見せかけの戦争 lob: 高く 弧を描くように撃つ shell: 砲弾 remind: 思い出させる presence: 存在 at stake: 危うくなって shadow war: 名ばかりの戦争 inhospitable: 荒れ果てた terrain: 地形 |
| 4 | 去年の11月まで戻るとしよう。北部軽歩兵連隊から派遣されたパキスタ ン軍第一団―山岳地帯の戦争を経験した部隊―は,停戦ラインに沿った標高 3,500メートルの高さにある山道をゆっくり進んだ。それは,インド軍がその年の夏, 占領した上方の尾根を占拠するためであった。高まる疑惑を避けるため,地元 のパキスタン人の間でも,武器を持たずに外出した。彼らの仕事は,尾根に新 たな掩蔽濠を作ることでしかもそれは,安全面で問題のある人影のないインド 軍陣地から可能な限り遠くに作ることなのだ。というのも,インド軍の地図に 印が付いているからである。パキスタン人は,インドの戦略上重要なカシミー ル谷から遠く離れたラダクまでの道を意のままに封鎖できるよう,停戦ライン を有利に「広げよう」としている。ラダクは,インド・パキスタン戦争の,別 の原因とされているところで,軍基地が置かれる標高6,600メートルのシアチェン氷 河だ。 | 語彙 batch: 一団 Pakistani troop: パキスタン軍 Northern Light Infancy Regiment: 北部軽歩兵連隊 unit: 部隊 warfare: 戦争,戦争行為 creep: はう, ゆっくり進む pass: 山道 occupy: 占領する ridge: 尾根 avoid: 避ける raise: 生じさせる suspicion: 疑い local: 地元の Pakistani: パキスタン人 weapon: 武器 task: 仕事 bunker: 掩蔽濠 position: 陣地 stretch: 広げる LOC: 管理ライン,停戦ライン to one's advantage: 有利に block: 封鎖する at will: 意のままに strategic: 戦略上重要な military base: 軍基地 source of conflict: 衝突の源 glacier: 氷河 |
| 5 | インディアン領カシミールのカルギルという町の近くで,パキスタン兵 士達は中国製の57ミリ高射砲を鋼鉄の梁とコンクリートで守られた人工洞窟の中 で組み立てている。それは,500メートルにも及ぶカルギルの山道を見下ろす3,000 メートルの高さがある尾根の頂上に位置している。見張りは乗り物を見つけると, 「アラフー,アクバー(神は偉大である)」と叫び,砲兵隊員は引き金を引く。兵 士達はそれぞれの命中弾に喝采する。兵器は護衛隊をバラバラにし,インド軍 の進展をきわどいものとした。インド人によって撃ち出された爆弾や大砲の弾 はその洞窟内を突き抜けることは今までないからだ。 | 語彙 Indian-held: インディアン保有の Pakistani: パキスタン人の assemble: (機械などの部品を)組み立てる anti-aircraft gun: 高射砲 cave: 洞窟 steel girder: 鋼鉄の梁 ridge: 尾根 overlook: 見下ろす stretch: 広がり,伸び lookout: 見張り spot: 見つける vehicle: 乗り物 gunner: 砲兵隊員 trigger: 引き金 cheer: 歓声を上げる weapon: 兵器 scatter: 追い散らす convoy: 護 衛隊 development: 進展 hazardous: 危険な artillery shell: 砲弾 penetrate: 貫 通する |
| 6 | インドの尾根にいる兵士はイスラム戦士(ムジャヘディン),またの名を聖 なる戦士と呼ばれるもの達で,カシミールの平和のために戦っているとイスラ マバードは力説する。それは,パキスタンが進軍用に使う言い訳だ。高度地帯 の経験とその地の出身ということで,北部軽歩兵連隊,後にカイバー・ライフ ル部隊出身の男達が使われた。彼らは,ムジャハディン(イスラム戦士)のように 見えるとその気にさせられ,制服を脱ぎ捨て,伝統的なシャルワル・カミーズ ―いわゆるトラックスーツ―を着て,あごひげを伸ばし,伝統的な白の宗教的 ふちなし帽をかぶった。2月に高地へたどり着いたとき,幾人かの真のムジャハ ディーン(イスラム戦士)が,無人のインド陣地にいた,とその兵士達は言う。し かし,これらの男達は高地では生き残れないと,数日後その地を去った。彼ら は今日,荷物運搬人として,偵察に使われている。 | 語彙 ridge: 尾根 Islamic: イスラムの mujahedi: (特に アフガニスタンおよ びイランのイスラム教徒ゲリラ)イスラム戦士,ムジャヘディン holy warrior: 聖なる戦士 alibi: 言い訳 military advance: 進軍 Northern Light Infancy Regiment: 北部軽歩兵連隊 rifles: ライフル部隊 high-altitude experience: 高度 地帯の経験 region: 地域 encourage: 助長する,その気にさせる discard: 棄て る traditional: 伝統の tracksuit: (運動選手の保温着)トラックスーツ grow beard: (あご)ひげを生やす religious skullcap: 宗教的ふちなし帽 height: 高地 genuine: 純粋の abandon: 放棄する survive: 生き長らえる reconnaissance: 偵察 |
| 7 | 砲手の間の士気は高い。ところが,パキスタン兵士に何故彼らが,砲弾, 爆弾そして銃弾をかわしながら停戦ラインのインド側にいるのかを聞いていも, はっきりとした答えは得られそうにない。士官の中には,政府自体が関わりを 持っていないという戦争の無駄や危険といったものを口にするものもいる。最 前線の人間と政府の間には微かな食い違いのようなものも存在するようだ。 「我々は誰一人インドとの戦争を望んではいないのです」とある仕官は言う。 「これはパキスタン経済にはとても大きな負担となっており,支えるのは容易 ではないと我々は感じているのです」ある兵士は加えて言う。「これらの山脈を 手に入れることは,我々に一時的な強みを与えてくれましたが,インド人がこ れを水に流してくれるかどうか(インド人がいつまでこの状態を許しておくかど うか),疑わしいと思うのです」と。 | 語彙 morale: 士気,意気 gunner: 砲手 Pakistani: パキスタンの the Line of the Control: 管理ライン,停戦ライン duck: 身をかわす shell: 砲弾 bullet: 銃 弾 futility: 無駄 deny: 否定する take part in: 関わる hint: かすかな兆候,気 配 divide: 境界線 at the front: 最前線の damaging: 有害な,損害を与える economy: 経済 sustain: 支える add: 加えて言う capture: 獲得 extra advantage: 一時的な強み |
| 8 | 生きて山から下りると思う男達は多くない。最前線から150キロ離れたス カードゥの軍基地で,電話交換手ヤワー・シャーは,男達は家族への電話で別 れの言葉を告げるとき,涙を流して泣くのだと言う。「その小さな小屋(ブース) で男達が泣くのを目にすることができます」と彼は言う。「それは大いに悲しみ を誘うものです」 | 語彙 expect to: 〜すると思う alive: 生きて frontline: 最前線 phone-booth: 電話がかけられる場所 attendant: 係員 weep: (涙を流して)泣く bid: 述べる cubicle: 小さい部屋 |
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