|
| |
| P35 | 日本における幼児虐待は密かに急上昇している。しかし漸く活動家が耳を傾 け始めた | child abuse : 小児虐待、 skyrocket : 急に上昇する |
| 1 | 元幼稚園教諭堀内美由紀は、我が子をしつけるのに暴力に訴えるなどとは夢 見たこともなかった。だが2歳になると、雄二はかんしゃくを起こし、どこで でもワッと泣き出した。かんしゃくを起こすのは、スーパーのときもあれば デパートのときもあり、公園で起こすときもあった。どうやってもこの子を 鎮める方法はなかった──お尻を叩くしかなかった。1回叩いても効果がな いと、2回、3回と増えていった。やがて頭を叩くのが日課となる。一度な どは雄二の脚を蹴ったこともある。罪悪感にかられはするが、彼女は自分で 自分を抑えることができなかった。「叩けば叩くほどこの子は泣くのです」 と堀内。「そして泣くからますます腹が立つのです」 | nursery school : 保育園,幼稚園、 resort to violence : 暴力に訴える,腕力を用いる、 lose one's temper : カッとなる,腹を立てる、 burst into tears : ワッと泣き出す、 tantrum : かんしゃく,不機嫌、 slap :をピシャリと打つ、 cuff : 〜に平手打ちを食らわす、 daily routine : 日課、 wrack :ひどく悩ます、 control oneself : 自制する,自分を抑える |
| 2 | 子供をひどく傷付けるかもしれないと心配し、堀内は助けを求めた。彼女の 例は、専門家が警告を発しているところの、日本で驚くほど急増している幼 児虐待の一例だ。児童対象の国営カウンセリングセンターは、98年度には 5,352例を扱ったが、これは厚生省によると1990年の5倍になるという。政府 はセンターに報告されたものだけを数えているので、実数はこの4倍になるだ ろう、と幼児の権利を主張する活動家は言っている。民間の調査ではショッ キングな数字が出ている。東京にある幼児虐待防止センターの世論調査による と、東京に住む母親のほぼ10人に1人が就学前の我が子をぶったり無視したり しているという。ひどく傷ついたり死亡したりする児童の数が増加しています、 というのは、民間が運営するセンターの職員である、小児科医の坂井清二。 「一人また一人と、子供が目の前で死んでいくのです。それに対して何もさ れてないのです。誰も責任をとりません」と坂井。 | child abuse : 小児虐待、 state-run : 国営の、 caseload : 取扱件数、 real number : 実数、 activist : 運動家,活動家、 survey : 調査、 turn up :見つけ出す,(調査して)〜をあばき出す、 shocking : 衝撃的な,不快な、 preschool children : 就学前の児童、 poll :世論調査、 on the rise : 増大して、 pediatrician : 小児科医、 take responsibility : 責任をとる |
| 3 | 幼児の権利という概念が日が浅く、親は家庭内では絶対の権威を持っている と考えられている国では、幼児虐待といっても国民の関心を引かないのだ。 しかし、市民グループは国にもっと関与するよう求めている。厚生省が幼児 虐待の記録を取り始めたのはわずかに9年前、この問題に関して広範囲に渡る 調査をしたことはない。警察は、親によって虐待されて死亡した子供の数が どれほどかといった統計すらとっていないのだ。政府は今年、虐待される子 供の援助にすずめの涙ほどの120万ドルを割り当てたものの、これは公営のカ ウンセリングセンターを適切に運営するだけにも十分とは言えない。公営の カウンセリングセンターというのは、虐待を受けている幼児を保護監督でき る権限を持つ唯一の機関。また、センターには嘆かわしいほどに専門家が不 足している:最新の数字によれば、ケースワーカーが危険信号に気づかずに 親の手で殺された子供が少なくとも15人いる、と厚生省は認めている。「日 本には虐待を感知する制度がないのです」と嘆くのは椎名温子。虐待をしつ つ助けを求めている母親を支援するグループを運営しているフリーランスの ジャーナリストだ。 | concept : 概念、 citizens' group : 市民団体,市民グループ、 prod :駆り立てる,励ます、 comprehensive survey : 広範囲に渡る調査、 earmark : 割り当てる、 paltry : 取るに足りない,微々たる、 batter : 乱打する,叩きつぶす,打ちのめす、 protective custody : 保護拘置,保護検束、 custody : 保護監督、 woefully : ひどく,嘆かわしいほどに、 short of : 〜が不足している、 figures : 数字,統計,データ、 case worker : ケース・ワーカー,民生委員、 fail to : 〜できない、 warning sign : 危険信号,要注意の兆し、 concede : 真実と認める、 detect : 感知する,見つける、 lament : 嘆く |
| 4 | これまで、子供がおかしな扱いを受ければ隣人や他の家族がまず気づき── そして干渉する──といった近しい共同体に日本人は住んでいた。しかし、 都会化や大家族の消失、それにサラリーマンの過酷な勤労時間がその代価を 要求しているのである。多くの若い母親が、自分の子供以外にほとんど誰と も接触せずに狭いアパートに一人住んでいる;こうした閉所恐怖症を引き起 こすような環境のもとで、子供を叩く母親がいるのだ。堀内の例はその典型。 ジャーナリストである彼女の夫が帰宅するのはほとんど毎日夜の10時であり、 朝食前には仕事にでかける。「大人とおしゃべりをしたいの、特に夕食のと きはね」と彼女は語る。「愛してはいてもね、1日24時間一緒にいると、うん ざりするの」 | step in :介入する,干渉する、 mistreat : 酷使する、 urbanization : 都会化、 disappearance : 消失、 extended family : 拡大家族,大家族、 punishing : ヘトヘトに疲れさせる、 office hours : 就業時間,労働時間、 salaried worker : サラリーマン,月給取り、 toll : 代価,犠牲、 cramped apartment : 狭苦しいアパート、 claustrophobic : 閉所恐怖症の、 chat : おしゃべりをする、 get sick of : 〜にうんざりする |
| 5 | 今の多くの母親は、自分達の親の時代よりも小家族の中で育って来た。日本 における出生率の減少を反映した結果である。自分の母親とは違い、弟や妹、 あるいは近所の子供たちの面倒をみる機会もなかったのかもしれない。教え てくれる母親や、義母も近くにいない状態で、彼女たちはびっくりするほど 間違った判断を下すことがある。5月、5歳になる女の赤ちゃんが川崎の鉄道 の駅のコインロッカーで泣いているのが見つかった。この子の両親はいずれ も20歳前半なのだが、夕食に近くの麺類を食べに行っている間子供をそこに 置いておいたのである。子供を取りに戻ってきたら、ロッカーの周りに人が 群がっており、警察もいるのでこの親達は驚いた。ロッカーは暖かく子供を 置いておくには安全だと思った、とこの父親は警察で述べている。「こうし た極端な事例には、昔は、頭の弱い親とか、変人が絡んでいたものです。 最近では普通の人なのですよ」と田崎美佐子、東京にある児童カウンセリン グセンターの心理学者。こうした事件のお陰で、政府の安全対策の穴を埋め ようと草の根運動が芽生えた。ジャーナリストの椎名は自分のグループを1995 年に設立したのだが、それは幼児虐待のコミックを出版した後のことである。 コミックに対して、虐待する母親から助けを求める手紙が殺到したのだ。200 通の手紙を受け取ると、小児科医、精神科医、それに他の専門家のリストを 作り、彼らと母親とをつないだ。 | reflection : 反映、 birthrate : 出生率、 sibling : 兄弟,姉妹、 mother-in-law :義母、 alarmingly : 憂慮すべきほど、 poor judgment : 誤った判断、 baby girl : 女の子,女の赤ちゃん、 coin locker : コインロッカー、 stash : を隠す,置く、 retrieve : 回収する,取り戻す、 mental : 精神の,知力の、 weirdo : 奇人,変人、 extreme case : 極端な例、 psychologist : 心理学者、 spawn : 産む、 grassroots : 大衆の,民衆の、 safety net : セーフティネット政策,安全策、 comic strip : 続き漫画,こま割りマンガ,劇画、 flood of letters : 殺到する手紙、 put together : ひとまとめにする,寄せ集める、 pediatrician : 小児科医、 psychiatrist : 精神科医、 hook up :中継する,つなぐ |
| 6 | まだ治療中ですと堀内は言う。最近は、情報交換のために、他の母親達と週 に3回会っています。育児2ヶ月間コース、というのも役に立っていますと彼 女は言う。もっと大きなアパートに引っ越し、息子との関係を立て直すつも り、と息子をギュッと抱きしめキスをしながら言っている。まだ時々雄二に かんしゃくを起こす──最近では彼におもちゃを投げつけた──が、事態は 好転している。堀内はこう言う:「始めて息子を可愛いと感じてます」 | be on the mend :(病気が)快方に向かっている、 tip : 情報、 lose one's temper : カッとなる,かんしゃくを起こす、 hurl : 投げつける |
感想などがありましたら、メールを下さいね!!