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| P88 | 「奴らはいつも同じ格好をしていたよ―黒いコートとかさ」−コロンバイン高校生徒 | 語彙 stuff: 物 |
| 1 | 大量の死体を生み出す殺戮そして深い悲しみ,この要素を含む二つの事件現場が代わる代わるテレビに映し出されている。画面―10代の少女が,首筋を血でまだらに染めて担架に横たわっている。画面―コソヴォの母親が,死んだ子供を嘆き悲しんでいる。画面―コロンバイン高校から逃げ惑う子供達。画面―山道を引きずるようにして登る避難民達。画面―セルビアの大量殺人者達。画面―「トレンチコートマフィア」の大量殺人者達。私達の目の前で異なる憎しみの二つの線が点となり交じり合う。だが依然として,評価の領域を超え,判断を不能にさせる,現実の世界とはかけ離れたものである。それはあの死人の山を考えてみれば良くわかることだ。 | 語彙 carnage: 大虐殺 grief: 深い悲しみ Flip: ここでは放送業界でいうフリップオーバー (=flip wipe),つまりページがめくられるように別の画面に転換する方法のこと gurney: 車輪つきの担架 freckle: しみがつく bloodstain: 血痕 keen: (死者に対して)泣き叫ぶ body: 死体 refugee: 避難者 drag: 引きずる mass murderer: 大量殺人を行う人 categorical: 分類別の hatred: 憎しみ imponderable: (重要性が)計り知れない,評価という価値基準を持ち得ない out of the question: 全く不可能で |
| 2 | この高校での殺人事件を理解しようとする者は,コソヴォにおける民族浄化が同じ情況を理解する糸口となり得るであろう。セルビアで憎しみを抱くに至った者達とコロラドで突然憎しみを抱くに至った者達は,ある種闇の部分でつながりを持つといえる。両者は共に敵を憎むことで自らの存在意義を持ち得るのだ。両者は共に「他者」との対比として,自らを定義づけている。両者は共に長い間温厚と捉えられ,その後煮え繰り返り,殺人的な怒りで爆発するのだ。 | 語彙 high school killing: 高校での殺人事件 ethnic cleansing: 民族浄化 tribe: (共通の特徴・思想などを持つ)仲間,集団 hater: 憎む[嫌う]人 ad hoc: 特別の,その場限りの kinship: 類似,密接な関連 selfworth: 自分に価値があるという思い,自己信頼,自尊心 define: 定義する benign: 温和な seethe: 煮え繰り返る explode: 爆発する murderous: 殺人的な fury: 激しい怒り |
| 3 | 奇妙な考え方であると思われるかも知れないが,トレンチコートが多くのことを解明する鍵を握ると私が考えるのは,トレンチコートが長く黒であることや少年達がゴシックと呼ぶものであるからではなく,彼らが似たもの同士,つまり違いを殺していることからなのだ。党派や新興宗教に心を奪われるものは個を殺し,集団の中に活力と誇りを見出そうとしている。個人としては殺戮者エリック・ハリスとディラン・クレボウルドは傷つきやすく,学内で他の連中―徒党を組むヤツラやスポーツマンタイプの連中―から,いけ好かないヤロウとかグズと嘲られていた。「彼,私の頭に銃を突き付けて」と少女は語った。「笑ってこう言い始めたの。こうなったのはみんな,去年,彼に不愉快な思いをさせたからだって」 | 語彙 odd: 奇妙な Gothic: (怪奇・超自然などを特徴とする)ゴシック派の;無教養の,野蛮な, alike: 互いによく似た conceal: 隠す,秘密にする attract: 引き付ける clan: 仲間,党,派 cult: 異教,にせ宗教,新興宗教 seek to〜: 〜しようと努める individuality: 個性 vulnerable: 傷つきやすい,弱い taunt: 嘲る tribe: 連中 clique: 徒党,派閥 athlete: 運動選手,強壮な[活発な,精力的な]人 geek: いけ好かないヤツ nerd: バカ,グズ,遅れているやつ mean: 意地の悪い,卑劣な |
| 4 | だが,すぐさま仲間を集めてなりきれば,その世界の構成員だ。白くメーキャップを施しアイラインを引く。トレンチコートを着こなす。個を殺し同じ趣きを呈する仲間の中に埋もれる。あなた方全員,このようなことができるようになるのだ。 | 語彙 ad hoc: 場当たりの put on: (化粧を)する eyeliner: アイライン annihilate: 全滅させる in plain sight: 平々凡々たる趣きを呈して(4disguise their individual personalities and become part of anonymous group) |
| 5 | 民族浄化を狙うセルビア人は,長きに渡る肥大化した民族間憎悪の記憶をうまく利用することができる。今日まで,彼らの抱く憎しみは,他の民族的特徴と同様,遺伝子に組みこまれ受け継がれているかように思われていることは十分に考えられるのだ。辺境に追いやられた民族はその場所で敵意を研ぎ澄まさなければならない。それ故に彼らにはすぐに行動へと駆り立ててくれる動機が必要となるのだ。殺戮者達は組織の擁護と正義を追求する前に,自ら,弱く道理のいかない立場へ追いやられたものとして捉えられているに相違ない。かくしてその組織の大きな存在意義は復讐となるのだ。 | 語彙 ethnic cleanser: 民族浄化をするもの draw on: 利用する evolutionary: 進化の,発展の hatred: 憎しみ feature: 特徴 gene: 遺伝子 suburban: 辺境の(=outlying parts;OED) hone: 磨く enmity: 敵意,不和 on the spot: 即座に require: 必要とする immediate: 即時の inducement: 動機,誘導するもの perceive: 理解する ridiculous: ばかげた revenge: 復讐 |
| 6 | 画面―少年は殺戮を行った二人について語った。「ヤツラ,みんなのことを憎んでいたんだ」 | 語彙 killing: 殺すこと |
| 7 | 儀式,聖なる宗教儀式,偽りの力の象徴―鉤十字,トレンチコートは,劣等感から生まれる。少年の一人,エリック・ハリスはインターネット上にホームページ「トレンチコートの世界へようこそ」を開いている。それらは彼らの象徴となっているのだ。変装をし,安全を確保することで,彼らはW.B.イェーツが「知的憎悪」と非難するものを思いのままに育む。民族浄化を実行する人間と同様,トレンチコートマフィアのメンバーにとって,憎しみは更なる研究対象,専攻,信条となるのだ。そこには喜びがある,そう社会と敵対することには。少年達はナチファンクラブを作り上げる。彼らはIch bin ein Auslander―私は部外者である―と誇るに足るドイツ語を修得する。彼らは社会からはずれることで社会との関わりを持つこととなり,今や残されるものは外部の人間が内部の人間と入れ替わるため,内部の人間を根絶することなのだ。 | 語彙 inferiority: 劣等 ceremony: 儀式 sacred: 神聖な ritual: 儀式 counterfeit: 見せかけの swastikas: 鉤十字 disguise: 変装させる secure: 安全な cultivate: 修める condemn: 非難する intellectual: 知性の no less than: 同様 intense: 真剣な creed: 信条,教義 eradicate: 根絶する |
| 8 | まだいい。トレンチコートの中で安全を確保し人の目に触れないでいるうちは。ところがついにこの少年達は「自らを表現する」機会を得てしまうのだ。ガラスのドアに拳をぶち込む若者,その破壊的かつ激情的な様相を褒め称える映画やテレビの世界が,突然彼らの世界となる。彼らは死ぬことにも気をとめない。他人を恐れることが、その死の恐怖さえ越えさせてしまうのだ。「ヤツラ生きている限り,人に知られて有名になることはない(から死を選ぶことで人に知られるようになる)と考えていたと僕は思うよ」と思いをめぐらすのは彼らの友人。自殺の原因を解き明かそうとしている。死という最終消滅は,彼らに人格を取り戻し命を与えることとなるのだ。 | 語彙 invisible: 見えない applaud: ほめそやす passionate: 激しやすい display: (感情などの)発揮,表現 fist: 握りこぶし fear: 恐れ speculate: 考える suicide: 自殺 disappearance: 消滅 |
| 9 | 彼らの笑いは驚きに値しない。屈辱から這い上がり彼らは,自分達を笑いコケにしたヤツラに仕返しをしたのだ。彼らの笑いはこの世で最後の陰気な笑いであり,笑いという行為そのものを笑っているのだ。彼らは自分達が人間とは考えていない周りの連中以外,一体誰を殺していたと言えるであろうか。 | 語彙 humiliation: 屈辱 turn the tables: 仕返しをする mirthless: 楽しくない dehumanize: 人間性を失わさせる |
| 10 | ここにまさに徹底した同族意識がある。彼らが意図的に殺した人々は人とは考えられていなかった―つまり人以外を表す総称的人称のthem (物や動物)として捉えられていたのだ。普通の人間なら,敵として見なければならないもの―つまり標的として見ることを,感情が阻むであろう。ハリスとクレボウルドはアフリカ系アメリカ人の少年,アイセイア・ショールズの顔面目掛けてもろに銃を発し,はじける顔面を「すげえええ」と言ったのである。 | 語彙 tribalism: 同族意識 pure and〜: 徹底的に (=nice and〜,fine and〜,solely; OED) deadly: 過度の (=very great,excessive) systematically: 意図的に generic: 共通の,総称的な get in the way: 邪魔になる remark: 言う splattered: (肉片などが)飛び散った remain: : 残り,遺体 awesome: 恐ろしい,すごい |
| 11 | 画面―アイサイアの父マイケルと白人の少年,クレイグはニュースショー・トゥディの中で肩を並べて座っている。クレイグの妹レイチェルも同様に校内で射殺されたのだ。クレイグはアイサイアの友人であった。クレイグがいかにアイサイアのことを大切に思っていたかを話すとき,マイケル・ショールズの手が彼の手を取る。クレイグがレイチェルのことを語るとき,彼はもう一方の手をショールズの上に重ねる。今や,誰一人チャンネルを変えるものはいない。 | |
| 12 | トレンチコートの世界へようこそ。民族主義者達の織り成す憎悪の世界へようこそ。多くの失われたへ。耐えがたい痛みへ。喪失へ。涙へ。眠れぬ夜へ。思い出へ。二度と返らぬ人々へ。…ようこそ。 | 語彙 handiwork: 手工芸品,でかしたこと decimate: 多数を殺す unbearable: 耐えられない absence: 喪失 |
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