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| P22 | アメリカをコソボへ急き立てるのに,彼女は一役買った。彼女がアメリカに強く求めるものは,独断的かつ道徳主義的な新世界任務の一部と考えられるものである。ここに彼女がアメリカの任務を機能させようともがく,舞台裏の光景がある。 | 語彙 assertive: 強引な moralistic: 道徳主義の urge: しきりに勧める behind the scenes: 舞台裏で |
| 1 | 「ここでの問題は,侵略が割に合わないということであり民族浄化は許さないという根本方針である」 軍人達はドイツ語の喝采を持って,スパンガヘルム空軍基地の格納庫に集まった。国務長官メデリン・オルブライトはF16機の前に立ち,コソヴォにおける戦争の意義を彼らに説明している。それはまた自分に対するものでもあり,冷戦後のアメリカが岐路を成す任務である。それはまた,幼少時にヒトラーやスターリンから逃れた人間にとっての,非常に個人的な任務でもある。大統領としてクリントンは,彼女が話し終わると声高らかに述べる。「オルブライト長官,バルカン居住民族の自由を守ることで,自らの人生で得られた教訓を再び生かされることに感謝の意を表します」と。 | 語彙 at stake: 問題となって aggression: 侵略 principle: 基本方針 pay: 割に合う ethnic cleansing: 民族浄化 permit: 許す troop: 軍人 hangar: 格納庫 cheer: 声援 Secretary of State: 国務長官 defining mission: 岐路を成す任務 (a mission to decide something very important for the future) flee: 逃げる proclaim: はっきり示す,表す redeem: 取り戻す lesson: 教訓 stand up for〜: 〜を擁護する(support,defend) |
| 2 | コソヴォ紛争はしばしば,支持者や敵対者達によってメデリンの戦いと呼ばれている。もちろん,文字通りの意味では今のこの世の中で適切な表現とはいえない。今や武装化した戦いとなり,彼女は大統領,国家安全保障会議大統領補佐官サンディ・バーガー,国防省長官ビル・コーエンやその他軍のお偉方を支える役割をしている。しかし,誰よりも彼女はこの関係者達をこの戦争へ後押しして参加させるための外交政策に関する未来の展望を具体化している。そして彼女は連合国―及び行政機関―が勝利を求めて結束するよう,環境を整えることに責任のある立場の人間なのだ。 | 語彙 conflict: 争い refer: 言及する foe: 敵対者 literal: 文字通りの supporting: 支える National Security: 国家安全保障会議 Defense Secretary: 国防省 brass: 高級将校連,お偉方 embody: 具体化する ally: 連合国 administration: 行政機関 pursuit: 追求 |
| 3 | 安定したヨーロッパは私達の主な関心事であり,民族浄化への抵抗は私達の価値観の中核を成すとオルブライトは考える。骨身にしみこんだ世界観と成長過程の心に刻み込まれた世界観故に,彼女はアメリカの関心事がその価値観からそうたやすく切り離されることはないと強く信じているのである。「私達はNATO存在の中核意義―ヨーロッパという土壌における民主主義や安定、人権遵守の擁護―を再確認しているのです」と彼女は語る。 | 語彙 stable: 安定した central: 主要な,中心と成す bred in the born: (性質・意見などが)骨までしみこんだ,生まれつきの sear: 〜を記憶に焼き付ける reaffirm: 再び断言する purpose: 目的 stability: 安定 human decency: 人間としての正しい振る舞い;人として守るべき人権問題 soil: 土地,国 |
| 4 | いまだかつて,これがNATO存在の中核意義であったことはないと彼女の批評家達は言う。50年に渡りそれは防衛同盟であり,いかに民主主義,安定,人権問題に欠けるものがあってもヨーロッパ非加盟国に対し決して戦いを挑むものではなかったのだ。彼らはメデリンの戦いを,道徳的な衝動に駆られ感傷によって動かされる外交政策であると考え,本来あるべき方向性から外れた最近の例―他国に対し威張りちらし,叱り付けて神聖ぶった命令に従わせる外交政策で,従わなければ無意味な空爆や制裁規定を設けられるもの―としている。 | 語彙 critic: 評論家 argue: 論じる defense: 防衛手段 wage: 行う lacking: 欠けて incoherent: 性質を異にする moral: 道徳上の impulse: 衝動 mushy: 感傷的な hector: 威張り散らす obey: 従う sanctimonious: 神聖ぶる dictate: 命令 sanction: 制裁規定を設ける |
| 5 | かくしてコソボにおける紛争、それはまたこの紛争に対するオルブライトの確固たる決意の現われでもあるのだが、それは単に新たなる地域紛争といった枠を超えたものとなった。それは,アメリカが世界における新しい役割を演じるべきか否かに関する討論で,今後の波及効果が計れるテストポイントとなっており,安定を求め,悪漢の出現を阻止し,残酷な行為が蔓延することを防ぐアメリカの関心事と同様,道徳律までも主張する国家が必要であるかというものでもあるのだ。 | 語彙 determined: 決然とした regional: 地方の,局地的な ground zero: ゼロ地点(原水爆の爆心地);ある物事が今後どのような波及効果を持つかというテストポイント debate: 討論 indispensable: 必須の assert: 主張する morality: 道徳律 assure: 確実にする thug: 悪漢,人殺し prevent: 防ぐ,妨げる atrocity: 残虐行為 |
| 6 | オルブライトが外交政策にその手腕を発揮したのは,クリントン政権1期目の初期の頃,セルビアとボスニアが初めての交戦するに至った時期,彼女が国連大使であった頃に遡る。1993年統合参謀本部議長であるコリン・パウエル―軍隊は明確な政治的目標が定まった後においてのみ使用されるべきものであり,しかも明確な結果をもたらす軍隊をもってのみ,という外交政策に名を連ねる者―との会議の席においてである。「もし使えないのであれば,あなたがいつも話されているこのすばらしい軍隊を持っている意義は何でしょうかね」 パウエルは後で思い出していた。「動脈瘤を起こすかもしれないと思ったくらいだよ」 | 語彙 ambassador: 大使 showdown: 対決 stripe: (軍隊において階級・勤続年数を示す)記章,袖章 Joint Chief: 統合参謀本部 doctrine: 主義 decisive: 明確な結果をもたらす general: 将軍 superb: すばらしい recall: 思い出す aneurysm: 動脈瘤 |
| 7 | このようにして,国務長官へと昇進してから影響力を持ちつづけるオルブライト主義が起こった。妥協のない討論,軍隊使用を信条とする半武力的な干渉政策―より強力な兵器ものが何も可能でなければ,使用制限が設けられた空軍のような特別軍隊を含むというもの―という戦略的かつ道義的目的が合わさったものを支持するものである。ヴェトナムでの教訓を解釈したり解釈し違えたりすることで,臆病になってしまった行政機関において,彼女は唯一ミュンヘンの教訓から個人的に苦しみを伴い学ぶことで妥協のない人間に成長した人物なのだ。 | 語彙 sway: 影響力 ascension: 上昇,昇進 semimuscular: 半武力的な interventionism: 干渉政策 calibrate: 目盛りを定める hearty: 力強い,激しい strategic: 戦略の gun-shy: 怖がりの appeasement-shy: 妥協しない,宥和政策を行わない |
| 8 | 1998年2月―ミロシェヴィッチがコソヴォ州のアルバニア民族に対して恐ろしい軍事行動を起こした年―から今日に至るまで,オルブライトはボスニアの時のように西側諸国が躊躇することを許さない断固とした姿勢を貫いてきた。「歴史が我々を見つめているのです」と,昨年行われた外相会談で発言したのは,ボスニアに関する話し合いが行われた同じロンドンの会議室においてであった。「まさにこの部屋で,ボスニアが焼け野原と化そうする頃,前任者達はぐずついていたのです。同じことが繰り返されるとするならば,歴史は我々を暖かな目で見つめてはくれないでしょう」 彼女には妥協の姿勢が見られなかった。イタリアとフランスの外相がセルビアを刺激する恐れのある言葉の中に表現的な柔らかさを求めたとき,オルブライトの側近であるジャミ・ルービンはその提案を受け入れた方がよいのではないかと彼女の耳元でささやいた。すると彼女は鋭く言い返したのだ。「我々はどこにいるとお思いですか。ミュンヘンですか」 | 語彙 gruesome: 恐ろしい campaign: 戦闘,軍事行動 ethnic: 民族の province: 州 resolute: 断固とした dither: 躊躇する debate: 討論する predecessor: 前任者 compromise: 妥協する whisper: ささやく snap: 鋭く言い返す |
| 9 | 1年が経過し,激しい空爆軍事行動に移ってから7週間目,オルブライトはいまだ,自らを強硬論者であると捉えている。自分の考えで動く平和賞狙いの様々な人間がおり,妥協案を模索することに躍起になっているのだが,その彼らを抑える(ことで自らが中心的な存在となる)ことが仕事であると考えるのだ。彼女は自分の行動を叩かれれば別の場所からポンと飛び出てくるキャラクターを両手で押さえる子供のおもちゃの一つに例えている。「紛争が始まる頃まで,軍隊は我々の外交手段を支えるのに役立っていました」と彼女は言う。「今日,我々の外交手段は我々の軍隊を支えるのに役立っているのです」 | 語彙 messy: 散らかった hard-liner: 強硬論者 restrain: 抑える assorted: 雑多な free-lance: (自分の信念で行動する)自由人 liken: 例える tamp down: 叩いて詰める pop: ひょいっと動く swat: ぴしゃりと打つ conflict: 闘争 serve: 役立つ diplomacy: 外交,外交的手腕 |
| 10 | 先週外交活動が強まり,その後NATOがベオグラードにある中国大使館に誤って空爆することでさらに緊迫度は高まった。この空爆は北京と国連安全保障理事会の両者で政治的に大きな議論を引き起こしたのだ。オルブライトは中央舞台へ戻っていた―ワシントンやヨーロッパにいるロシアの外交官達と会談をし,クリントンと共にブルッセルにあるNATO本部やドイツの軍基地を訪問,さらに連合国やロシアの外相とボンで会談を開き,国連事務総長のコフィ・アナンからコソヴォの指導者であるイブラヒム・ルゴヴァに渡る人間に規律を守らせるよう電話でコンタクトを取ったのだ。 | 語彙 intensify: 強める urgent: 差し迫った embassy: 大使館 set off: 引き起こす explosion: 大きな議論 security council: 安全保障理事会 diplomat: 外交官 convene: 召集する keep in line: 規則を守らせる range: 及ぶ Secretary-General: 事務総長 |
| 11 | それは月曜日,ヴィクトール・チェルノムイルジン―コソヴォ調停の手助けを目的としボリス・エリツィンに任命された前ロシア首相―の到着を持って始まった。「我々は間接的戦略を取ったのです」とオルブライトは説明する。「どのようにしてコソヴォ問題は解決されるべきか我々の考えを説明しその立場へとモスクワを強力に導いてきたのです。さらにその方向へベオグラードを強く説得するよう奨励してきました」 机上には多くの問題が山積していたが,一つの事柄が先週の外交作戦行動の良い例として役立つ。ロシアにコソヴォの国際的軍事配置を公的に支援させ,その後その事実を持ってセルビアの指導者ソロボダン・ミロシェヴィッチに和平協定の一部として納得させようとする案である。 | 語彙 premier: 首相 tap: 指名する mediate: 調停する pursue: 追い求める double-magnet: 間接的な strategy: 戦略 tug: 引っ張る resolve: 解決する encourage: 奨励する issue: 問題 maneuver: 作戦行動 deployment: 展開,配置 sell: (考えを)納得させようとする |
| 12 | オルブライトは1月からほぼ毎日,この問題についてロシア外相イーゴル・イワノフと仕事をしていた。1月は彼女がモスクワに飛び―ボリショイ劇場での椿姫の休憩時間に―彼へNATOが空爆の恐れを示唆していることを伝えたその時である。4週間前,彼らはオスロ空港の誰もいないベージュ色の部屋で会い,そこで彼はテーブルの上に飾ってあるシルクの花を一輪抜き彼女へ与え,さらに胸ポケットから解決への「基本原則」10ヶ条の書かれた紙を取り出したのだ。オルブライトはNATOの考えている方向性と一致するものが幾つかあることに気づき,鉛筆を取り出して同意できるものに印をつけるよう提案した。3時間後,イワノフはワシントンが考えているNATO主導型の治安部隊という中核要求を飲めずにいた。しかし,オルブライトとイワノフ両者にとって共同声明を発するに十分な合意点は存在していたのである。 | 語彙 intermission: 中断 La Traviata:「椿姫」「ラ トラヴィアータ」 bare: 何もない beige: ベージュ色の pluck: 引き抜く principle: 基本方針 coincide: 一致する peace-keeping: 平和維持の emerge: 浮かび上がる |
| 13 | その時点から,副大統領アル・ゴアと国務副長官ストロウブ・タルボットはチェルノムイルジンを説得し続け,クリントンはエルツィンと3度会談を開き,オルブライトはほぼ毎日のようにイワノフと話を進めていた。チェルノムイルジンはこの前の月曜日姿を現し,ロシアは国際安全保障による軍隊という考えを,少なくとも彼個人の意見としては,受け入れる用意があることを明らかにした。とはいうものの,常にNATO主導型であるとは考えてはいない。話し合いはゴアの官邸にて,夜を通して続けられ(その間,オルブライトは晩餐会に出席していた),火曜日の朝再びそこで話し合いがもたれたのだ。 | 語彙 vice president: 副大統領 Deputy Secretary: 副書記 residence: 官邸 state dinner: 晩餐会 resume: 再び始める |
| 14 | 火曜日,彼が朝食に現れたとき,チェルノムイルジンはオルブライトと数分間ロシア語―彼女が理解できる6つの言葉の一つ―で話した。父親がチェコスロバキアの大使をしていた子供時代,彼女がベオグラードで過ごした日々のことであった。彼女はチトーと会い花を渡したという話をしていた。ロシア人はセルビア人が反対するものは何物も公的に支援する意向はないとチェルノムイルジンは力説した。が,それを彼女は馬鹿げていると荒っぽく言い放った。ロシアの役割はセルビア人を強いることであり,単に自分たちの立場を表明するだけではないと言ったのだ。NATO主導型の軍隊に関するアメリカの神学は技術の問題ではなく,実際的な問題なのである。誰もが皆,コソヴォ人が自分達の住んでいた土地へ戻るべきだと考えているが,彼らの安全を保障する少々手荒な力なくしてそれは行えないのだ。会議が終わり,オルブライトは2人のロシア人が同様のメッセージを受け取ったことを確信するため,モスクワにいるイワノフへ電話をかけた。 | 語彙 chat: 談笑する ambassador: 大使 absurd: 不合理な bluntly: ぶっきらぼうに convey: 伝える insistence: 主張 practicality: 実際的な事柄 robust: 少し荒っぽい |
| 15 | その日の夜,彼女は夜間飛行機で大統領と共にヨーロッパへと向った。大統領専用機にある会議室で,バーガーとコーエンが軍隊問題に関してかいつまんで話をした後,彼女は自分の計画を示した。それは,ロシアに公的な形で,コソヴォへの国際治安部隊を受け入れさせる計画であり,彼女がボンで開いたG8(ロシアを含む先進主要8カ国)の外相会談の場で明らかにするものであった。 | 語彙 conference: 会議 aboard: 乗って brief: 要点をかいつまんで話す convene: 召集する |
| 16 | 彼らが最初に立ち寄ったのは,ブルッセルで行われるNATOの情況説明のためであった。しかしウェスレー・クラーク将軍がいかにして治安部隊が組織化されうるか話をする途中,オルブライトは呼び出されたのだ。イタリアの外相ランベルト・ディニは多少驚きを伴う知らせを持って電話をしていた。それはミロシェビッチがイブラーヒーム・ルーゴヴァ―コソヴォ・アルバニア系指導者―が国外に退去することを許す決定を下したというものである。5週間前,恐らく監禁された状態で話をしていたと思われるが,セルビアのテレビでルゴヴァはNATO空爆を批判していた。一旦イタリアにたどり着けば,彼はNATOの立場を支援するであろうということにオルブライトは確信を持ちたがっていた。彼女が大使クリストファー・ヒルを派遣したのは,彼がローマに到着したときそこにいるためであった。 | 語彙 briefing: 概況説明 midway: 中道 call out: 呼び出す criticize: 批評する presumably: 恐らく duress: 監禁 dispatch: 派遣する |
| 17 | その日の午後,ドイツのスパングダヘルム空軍基地で,オルブライトは出会った兵士や航空兵の活気のある応答からエネルギーを吸収しているかのようであった。それは彼女を快活できりりとした雰囲気へと導いたのだ。彼女はF16パイロットに厳しい言葉を投げかけた。それは彼の飛行機が最大重量の弾頭を積んでいるかというものである。「はい,長官」とそのパイロットは返答し,そしてどもりながら言ったのだ。「ええ,あの,そう思いますが」 | 語彙 airman: 航空兵 feisty: 活発な pepper: (話などに)辛辣さを加える maximum: 最大限の payload: 弾頭 stammer: どもりながら言う |
| 18 | 彼女は名声を享受し,事実空軍基地においても国防長官コーエンや統合参謀本部議長ヒュー・シェルトンよりも多くの関心を集めていた。「自分達の行動が誇れるようお導きいただきありがとうございます」と一人の軍人は述べていた。しかし,彼よりも上官で,人だかりの外で立ちずさんでいる者は慎重で批判的なコメントを残していた。「私達は世界警察としての役割を押しつけられていますが,その意志や正しくやり遂げる軍事構造が存在しないのです。さらには自分達が関わりを持つ場所を選ぶ合理的な方法すら持ち合わせていないのです。私達に目的のはっきりした仕事を与えてください。そうすればいつものようにこなせるのです。それはボスニアや朝鮮の例を見ればお分かりいただけるでしょう。とはいえ,優先順位を設けることも必要です。中国,ロシアは最優先事項ですが,コソヴォはCクラスの優先順位といえたかもしれません。私達はコソヴォを信頼度のテストとしたのです」 | 語彙 relish: 喜ぶ celebrity: 名声 serviceman: 軍人 senior: 先輩の,年長の cautious: 用心深い critique: 批評 rational: 合理的な,論理的な pick: 選ぶ witness: (証拠の裏づけとして)〜の例を見よ priority: 優先するもの Class A: A級の,最高の credibility: 信用性,威信,確実性 |
| 19 | その日遅く,ラムステイン空軍基地の軍部を訪問目的で移動している際,オルブライトは革のボマージャケットを身につけていた。しかし,クリントンが加わって話をしながら数時間を過ごしている間,彼女は携帯電話をかけに立ち去っていたのだ。彼女はウクライナ外相にロシアの変わりつつある姿勢を話し,フランスとイギリスの外相にはG8で得たい発言について話した。最後はルゴヴァ釈放の最新情報に関する,要となるNATO公使との電話による会議であった。 | 語彙 troop: 軍隊 don: 身につける mingle: 参加する cell phone: 携帯電話 evolve: (徐々に)進化,発展する update: 最新のもの release: 釈放 |
| 20 | 国連事務総長アナンへの2つの電話が最も重要なものであった。潜在的に起こりうる可能性を持つ嫌な出来事が起ころうとしていたのだ。アナンは傍観姿勢を維持し続けていたが,ここにきてベオグラードを対処するために,交渉団を任命することを提案していたのだ。アナンはNATOの姿勢を支持する点に関して当初から信頼の置ける人間であった。しかし妥協案を推し進める国連任命の外交官の一団は彼女が一番望まないものであった。「コフィ,そこら中に交渉人を置く必要はないのよ」と彼女は言った。彼らは,政治的かつ人道的な側面に即して国連の使節団が機能する方法を模索し続けることで合意に達したのだ。それは,NATOと折り合いをつける形でベオグラードとの仲介役をつとめる権限を国連使節団へは与えず,問題を解決するというものであった。 | 語彙 potential: 潜在的な brew: (嫌なことが)起ころうとしている on the sideline: 傍観して reliable: 信頼できる outset: 最初 appreciate: 高く評価する,ありがたいと思う pod: 群れ anoint: 〜として指名する envoy: 使節 humanitarian: 人道主義の implement: 実行する settlement: 解決 authorize: 権限を与える,正式に認可する broker: 仲介役をつとめる |
| 21 | 木曜日の朝,オルブライトと側近は大統領の歴訪から離れ,G8参加のために空軍機に乗りボンへ向った。インテル(情報・諜報)と書かれた赤いフォルダーを膝の上に乗せ,彼女は朝の定例会議を短いフライトで行った。「スロボ(ダン・ミロシェビッチ)は熱くなっているわね」と彼女は目を輝かせながら言った。ミロシェビッチがどのように軍部高官達を自宅監禁しているのかが書かれたメモから,すっと見上げてそう言うのである。 | 語彙 entourage: 側近 break away: 離れる conduct: 指揮する twinkle: きらめき glance: チラッと見る house arrest: 自宅監禁 |
| 22 | 彼女は嘲笑的で,時に快活な人間であり,時折気短で,いつもきびきびとしている。「コフィとまた話をしなければなりません。彼が交渉する人間を増やしていないかを確かめるためにも」 しかし彼女は自分に有利となる主導権の握り方を心得ていた。「イワノフに会うときは,国連の(和平プロセスの)構成要素に強調を置くようにしているのです」 補佐官の一人が決定を下す段階に手間取っていたのだ。「私に3つの選択権を与えてくれましたね」とオルブライトは言う。「そして,私は最も悪い部分が少ないものを選びました。それが十分でない場合,選択の幅を増やしてください」 | 語彙 sardonic: 嘲笑的な amused: 楽しい occasionally: 時折 impatient: 気短な crisp: きびきびした proliferate: 急増する initiative: 主導権 component: 構成要素 aide: 補佐官 take issue: 問題がある option: 選択可能なもの |
| 23 | 話が終わると,彼女は代表取締役の立場から教授の立場へと移行した。ロシアとセルビアの複雑な歴史を心に留めておくことは大切である―イスにもたれ,メガネを頭に差し掛け,彼女は講義をするのであった。長きに渡る文化的かつ宗教的な結びつきが存在するとはいえ,チトーはスターリンとの絆を断ち切り,1968年プラハの春において,チェコスロバキアの自由主義者を支援さえしたではないか。我々のセルビアとの戦いは,危険なほどロシアを疎外してきた,そう彼女は指摘するのであった。そして,彼らにそれを解決させる手助けをさせることが有効であると加えていた。 | 語彙 CEO: 大統領,代表取締役 mode: 様相 lean: もたれる prop: 支える atop: 頂上に long-standing: 積年の religious: 宗教の liberal: 自由主義者 Prague Spring: プラハの春 《1968 年 1 月に成立した Alexander Dub ek 政権下でチェコスロヴァキア全土をおおった一連の自由化のうねり; 同年 8 月のソ連など 5 か国のワルシャワ条約機構軍の介入により崩壊し, 翌年 Gust v Hus k 政権が誕生した》 alienate: 遠ざける note: 指摘する |
| 24 | 彼女がペテルスブルグ会議センター(ボンを見渡せる城)にたどり着くとすぐに,オルブライトはロシアのイワノフと個人的な会議を開いた。それは3対3で企画されたものであったが,1対1で,しかも(それぞれがお互いの言語を理解しうる)通訳なしで行うことを決めたのだ。G8 の申し立ての中で彼が受け入れるであろう言葉の言いまわしに彼らは真剣に取り組んだ。というのも,ロシアが初めてコソヴォへの国際部隊を公的に認めることになるからだ。オルブライトはそれを「軍隊」と呼ぶことを提案し,イワノフは「駐留」と称することにのみ合意すると返答した。 | 語彙 overlook: 見下ろす interpreter: 通訳 wrestle: 全力を尽くす wording: 言葉遣い endorsement: 是認 presence: (軍隊の)駐留 |
| 25 | 「安全保障という表現には同意していただかないと」とオルブライトは言った。「イーゴリ,私を喜ばせてくれませんか。この点を飲んでくれるだけでいいのです」 | 語彙 security: 安全保障 |
| 26 | 「ええ」と彼はほのかな笑みを浮かべて答えた。「ところで,私のことはいつ喜ばせていただけるのでしょうか。私は自分の番が来るのを待ち続けているのですが」 | 語彙 hint: かすかなもの |
| 27 | イワノフは紙を一枚取りだし,様々な軍隊の役割を表すのに円を用いて,可能と思われる防衛配備を描いたのだ。オルブライトはペンを使って,NATOがどのように関与すべきかを示したが,イワノフは合意しなかった。「これは我々二人が行うことではありません」彼女は最後に言った。「それは専門家に任せて,この点について話す方べきですね」 | 語彙 sketch out: 概略を述べる composition: 構図 arrangement: 配置 represent: 表現する expert: 専門家 |
| 28 | 半分成功を収めてイワノフとの会議を終えてから,オルブライトは電話を渡された。クリストファー・ヒルがルゴヴァと共にローマ郊外の別荘にいるとのことであった。彼はオルブライトと話をしたがっていた。そう,ルゴヴァはNATOの空爆や交渉する立場を公の発言として支持すると彼女に伝えたのだ。「それを聞いて安心しました」と彼女は答え,「我々は,あなたがミロシェビッチとテレビに出られてから,どのような立場に立っておられるのかを心配していたのです」と言った。オルブライトは安心した。彼がもしNATO派遣に反対したならば,宣伝活動が大失敗に終わったことを意味したからだ。ペテルスブルグセンターの大日光浴場で,計画通りG8の公式会議が開かれた。魚や果物を食べながらイギリスの外務大臣ロビン・クックとオルブライトはイワノフに関して協力した。それは彼に「安全保障上の駐留」を超えるものを受け入れさせる最後の試みを行うためである。オルブライトは説得して彼に「効果的」という形容詞を加えさせようとした。クックは括弧つきで「軍隊を含む」という語句を加えることを提案した。イワノフはどうしてもそこまでは行こうとしなかった。「申し訳ありませんが」と彼は言った。「これが本日,私のできる限界です」 | 語彙 triumph: 大成功 villa: 別荘 concerned: 心配している relieve: ほっとさせる fiasco: 大失敗 solarium: 日光浴室 team: 協力する persuade: 説得する adjective: 形容詞 parentheses: かっこ |
| 29 | オルブライトにはそれで十分であった。つまり,刺激を与えてロシアに国際部隊がいかなる解決に関しても必要であると公的に言わせしめることができたこの1ヶ月は満足に足るものであったのだ。主要となる連合国の閣僚達は各々,マイクロホンの前に歩み寄りその後NATOが中心的な役割を担うべきであると強調した。ゴア,タルボット,オルブライトはチェルノムイルジンがベオグラードへ行き,ミロシェビッチとG8声明に同意できるか確かめるようにすすめたのだ。ロシアの合意もまた,国連安保が治安部隊を承認する解決案への道を開くものであった。 | 語彙 culmination: 最高点 nudge: 刺激する negotiate: 交渉する concurrence: 合意 resolution: 解決 endorse: 是認する |
| 30 | 木曜日の夜遅く,オルブライトと側近は家路へ向う大統領専用機に乗るため,ドイツにいる難民を訪れていた大統領と再会した。移動中の飛行機でシェットランド羊のセーターを着てくつろぎながらクリントンは,コソヴォはアメリカの価値と利益が絡み合う政策の良い例であると言った。「平和と繁栄のヨーロッパを持てることが私達にとって有利なのです。しかもそこには強要せざるを得ない人道主義もあります。とはいえ,アメリカが強い影響力を持てる地域でこのような残忍な出来事から立ち去るならば,この手の状況は蔓延することでしょう。世界はアイルランド,中東,バルカン半島に至るまで民族紛争で満ちています。人々に説得してこのような緊張を克服させることができれば,私達は自分達の持てる価値と同様に利益も得られるのです」 | 語彙 reunite: 再会する refugee: 避難者 airborne: 空輸される intertwine: 絡み合う prosperous: 繁栄する compel: 強要する humanitarian: 人道主義の atrocity: 残虐行為 impact: 強い影響力 spread: 広がる ethnic struggle: 民族紛争 convince: 説得して〜させる bridge: 克服する tension: 緊張 serve: 〜のために尽くす |
| 31 | 国連調停は「NATOの基本原則に固執し続けるならば,役立つかもしれない」と考えているものの,クリントンは,ロシア関係閣僚にベオグラードとの交渉で中心的な働きをさせる熱意を示しているのだ。「この状況はロシアの民族主義を引き起こし,彼らを西側から当てもなく漂流させることになりました。一番大きな成果はモスクワが良い解決が得られる手助けをするか否かにかかっています。その解決によって,ロシアの関係者達を国際主流へと戻し,私達が位置するところへより近づかせるものなのです。国連はロシアの役割を蝕むべきではないのです」 | 語彙 allow: (方)思う,考える mediator: 調停者 adhere: 固執する enthusiasm: 熱意 negotiator: 交渉者 nationalism: 独立運動 drift: 当てもなく漂う outcome: 成果 settlement: 解決 mainstream: 主流 undermine: 蝕む |
| 32 | クリントンはオルブライトを高く評価しているが,二人はまだ親密な間柄ではない。彼女はいまだ,ルウィンスキースキャンダル初期の頃,彼女(ルウィンスキー)をカメラの前に立たせて無実を主張させたことに腹を立てているのだ。オルブライトに対して公的に謝罪を負うかとたずねられ,そのことに関して何か言うことはないかと聞かれると,大統領は冷たい目でじろっと見つめて,数秒間無表情を浮かべている。「いいえ」 長い沈黙。「いいえ,そのことに関して何も言うことはありません」 彼は彼女が仕事の上で示す個人的な資質について話題を広げるのだ。「彼女はミュンヘンから教訓を学んだだけでなく,共産主義下のチェコスロヴァキアからも学んだのです」 | 語彙 appreciate: 高く評価する pal: 仲間 resent: 腹を立てる proclaim: 明らかに示す innocence: 無罪 apology: 弁明 stare: じろっと見る harden: 無表情にする expansive: 拡張的な communism: 共産主義 |
| 33 | 実際コソヴォは,オルブライトの見解や姿勢が,どの程度個人史の中で根付いているかを明らかにしてくれた。彼女の父,戦時チェコスロヴァキアの外交官であったジョセフ・コーベル,は機知に富み社交的で,迫害から逃れる術を身につけている人間だった。メデリンは子供の頃,父親が大使であったため,べオグラードで2年間寂しい日々を送っていた。その彼女は悪漢に対し本能的な反感を強めてきたのだ。タイム誌アン・ブラックマンはオルブライトの伝記「彼女の人生」の中で,彼女は父親を忠実に再現していると説明している。彼女は知性と機知の深い宝庫を持ち合わせているが,時に自分を守るために自分のイメージと相容れないものは見せないようにしていることがある。例えば,数年間に渡り彼女はほとんど故意といえるほど,一族がユダヤ人でホロコーストでは多くの人間が死んだという事実を隠していたのだ。それは父親が彼女から隠していたようにである。 | 語彙 illustrate: 説明する outlook: 見解 witty: 機知に富んだ gregarious: 社交的な knack: こつ,わざ instinctive: 本能的な antipathy: 反感 thug: 悪漢,人殺し biography: 伝記 season: 時期,期間 mirror: 忠実に描写する reservoir: (知識,事実などの)宝庫,蓄積 intelligence: 知性 wit: 機知 blinder: 目隠し self-image: 自分の印象 willfully: 故意に evidence: 証拠 Jewish: ユダヤ人 perish: 死ぬ Holocaust: ナチによるユダヤ人大虐殺 |
| 34 | 人々は通例,どちらか一方を持ってそのような経験の中から現れてくる。オルブライトのように攻撃的な道徳主義と理想主義を作り上げ,世界が残忍さに目を背けることが「2度とないように」誓うものがいる。その一方で,ナチから逃れたもう一人の人物キッシンジャーを一例として挙げられる者達がいる。彼らは権力のニュアンスを指先で感じ取り,いかにして世界舞台の上で利益がぶつかり合うかの先見の明や,感情的衝動や観念的熱気と呼ばれるものに対して軽蔑を持つ,かたくなな現実主義者となるものだ。 | 語彙 aggressive: 攻撃的な moralism: 道徳主義 idealism: 理想主義 pledge: 誓う atrocity: 残虐行為 refugee: 難民 hardened: かたくなな nuance: 微妙な違い clash: ぶつかり合う disdain: 軽蔑 view: 見なす impulse: 衝動 ideological: 観念的な fervor: 熱烈 |
| 35 | オルブライトはキッシンジャーの全てを包含した戦力構成を概念化する才能(または願望)を持ち合わせておらず,一地域での行動がクモの巣の(相互関連し合う構造の)ように,どのように世界へ波及するかを分析したりすることもない。彼女は、かつて彼女の立場にいたことのあるサイアラス・ヴァンス,ジェームズ・ベーカー,ウォーレン・クリストファーといった法人弁護士を特徴づけ,時に彼らを不能にさせる慎重を要する不測事態対応計画にも秀でているわけではない。結果として彼女はコソヴォでの干渉を急かした。それは戦略地政学的事態の波及(それがいかにしてロシア,中国,マケドニア,ギリシャなどに影響を与えるか)やあらゆる不測の事態を生み出すもくろみ(津波のように押し寄せる避難民をいかにして扱うかやミロシェビッチが挑戦的であるなら地上軍部隊をいかにして準備するか)をあまり考えすぎることなく急かすのである。 | 語彙 conceptualize: 概念化する overarch: framework: 構成 analyze: 分析する ripple: 波形をつける spider web: クモの巣;ここでは一つの事柄が相互関連し合いながら大きな波及効果を生み出してしまうことを意味している excel: 勝る cautious: 用心深い contingency planning: 不測事態対応計画 paralyze: 麻痺させる corporate: 法人の consequently: 結果として urge: しきりに勧める intervention: 干渉 geostrategic: 戦略地政学的 ramification: 事態の波及 affect: 影響する game: もくろみ horrific: 恐ろしい defiant: 挑戦的な |
| 36 | これらの方針に最も痛烈な批評があり,それは特に大きなものであった。ピーター・クローは彼女の親友であり指導者であった。彼はジョージタウン大学外務研究院の学部長の頃,彼女もそこで仕事についていたのだ。その彼が2週間前にウォールストリートジャーナルに寄せた原稿がある。「私は外交政策がこれほど力のない人々によって治められている時代を記憶の中から呼び起こすことができないのです」 イラクの爆撃はサダム・フセインの力を確固たるものとし,セルビアへの空爆は同様にミロシェビッチの立場を確立させ,非常に多くの避難民を生み出す結果となった。さらに困ったことに,これらの抜き差しならない状況はアメリカが第一義的戦略利益を犠牲にして行われているということだ。ロシアと中国を国際組織の中へ溶け込ませるということである。 | 語彙 scathing: 痛烈な line: (行動の)方法,指針 particularly: 特に mentor: 指導者 dean: 学部長 Foreign Service: 外務 tenure: 在職期間 competent: 十分な entrench: 確立する likewise: 同様に contribute: 貢献する debacle: 大失敗,敗走 at the expense of: 〜を犠牲にして,負担で integrate: まとめる |
| 37 | クローはさらに露骨に,他の民族を叱り付けることに基礎をおく政策を実践していると,オルブライトと彼女の取り巻きを非難した。「ロシアや日本にその国の経済,中国にその国の政策,イラクにその国の軍隊,セルビアにその国の州,ラテンアメリカにその国の麻薬,国連にその組織の改革…といったものを指導しているのだ。それはトマホークを振りかざしながらお説教や神聖ぶりを発揮する外交政策といえるのです」 この記事は,クローが外交政策のエリート達へあらかじめ回覧させたものであるが,ワシントンをざわめかせた。冷淡なイメージのオルブライトは,激怒したのだ。 | 語彙 broadly: はっきりと accuse: 非難する colleague: 同業者 province: 州,地方 sermon: お説教 sanctimony: 神聖ぶること brandish: 振り回す Tomahawk: 米国海軍の巡航ミサイル buzz: ざわめく brittle: 冷淡な furious: 激怒した,激しい |
| 38 | オルブライトは―話に持ち出していたが―2月にランブイエで行わた不運な和平会談は失敗だったという非難には,特に防御的であった。隙間風の入るフランス城の階段を,提案を持って上り下りしながら,彼女は個人的にその会議に没頭していた。しかしそれは屈辱に近い形で終わったのだ。彼女はミロシェビッチが個人的に会議へ参加するように導くこともできず,セルビアに負けを認めさせることもほとんどできなかった。コソヴォの人々も初めのうちは反抗的であった。今行われている空爆が失敗に終わったとしても,陸軍使用や残虐な難民危機対応を目的とした不測事態対応計画を何も持てない厄介な委員会指導型の空爆軍事行動に,アメリカとNATOは身を委ねていることに気づいたのだ。 | 語彙 defensive: 防御の charge: 非難 hike up and down: 駆け上がったり降りたりする drafty: 隙間風の入る humiliation: 屈辱 yield: 屈服する initially: 初めに recalcitrant: 反抗的な unwieldy: 扱いにくい contingency: 不測の事態;ここではその計画 crisis: 危機 |
| 39 | しかしその代替になるものは何であったのか。恐らく,徹底した地上戦であったことであろう。とはいえ,そのことに関して大西洋のどちら側も政治的に支援することはなかったと思われるが。あるいは,空爆の代わりにアメリカは,さらなる監視を強めることや裏で停戦をまとめることで,セルビアがコソヴォの村を次々と襲撃するという行為を緩やかにしようとしたかもしれない。あるいは,このごたごたした世の中には時折あることだが、内戦による解決に任せることもできたであろう。そのとき、NATOは単に、難民危機の抑制や人道主義的救済に徹することとなるのだ。 | 語彙 alternative: 代わりになるもの all-out: 完全な monitor: 監視 broker: (権力者として)まとめる messy: ごたごたした prevent: 妨げる humanitarian: 人道主義の |
| 40 | オルブライトにとって残虐行為から目を背けることは選択できるものではなかった。ランブエの会議は,ヨーローッパの一部の人間―アルバニア系イスラム教徒支援を決して快く思わないもの―に,セルビアの動きを止める目的で軍隊使用を勧めるには必要であった。そう彼女は考えている。その基準で,ランブイエは成功であった。これはオルブライトがヨーロッパの国々の人々(やワシントンの同僚達)に行動を起こさせることを可能にしたのだ。 | 語彙 atrocity: 残虐行為 option: 選択可能なもの criterion: 基準 compel: 強要する colleague: 同僚 |
| 41 | 実際,現在までのオルブライトの大きな成功はNATO・19カ国の連立における一致強力を作り出し,維持していることである。毎朝,彼女は6時に起き電話を手に持ち日々の仕事を始める。政府内の居心地のよい専用オフィスで行われるものもあれば,ジョージタウンの自宅で行われるものもある。時に,はっきりとした決断の取れない大臣に直接電話をし,反抗する計画を突き固めることもあれば,イギリスのロビン・クックやドイツの外相ジョスカ・フィシャを使って彼らへ電話をさせるといったバンクショット(間接交渉)を行うこともあるのだ。目的はいたって簡単である―NATOの目的からそれる国がないこととミロシェビッチへあいまいな印象を送る国がないことを確信することなのだ。 | 語彙 so far: 現在までの maintain: 維持する coalition: 連立 daily round: 日々の仕事 cozy: 居心地の良い waver: ためらう tamp down: 突き固める renegade: 反抗する mixed signal: あいまいな印象 |
| 42 | 彼女はまたバルカン半島における長期戦略を作り上げてきている。それは経済改革を通して,長期に渡る安定を促す小規模マーシャルプランである。彼女はホワイトハウスの会議でその考え―国務省の政策立案者やヨーロッパの専門家達によって用意された長いメモに書き込まれたもの―を売りこんだのだ。大統領は彼女を招き,彼に「夜の覚書」と呼ばれるものを送るように言った。それは動きの悪い国家安全保障会議を避けて直接大統領執務室へ渡る提案を称している。それは重要であった。というのも,オルブライトは大統領と単独でしばしば会談する前長官の特権を快く思ってはいないからだ。 | 語彙 Marshall Plan: (1948〜52)欧州復興計画 lasting: 永続する pitch: 売りこむ contain: 含む bypass: 避ける NSC: 国家安全保障会議 bureaucracy: (集合的に)官僚 Oval Office: 大統領執務室 privilege: 特権 previous: 前〜 |
| 43 | 自分の意見を曲げない点では頑固であるものの,オルブライトは国家安全保障大統領補佐官バーガーとは良い関係にある。二人はお互いの直通電話を有しており,一日に3回から4回,秘書を通さずに話をする。彼女と国防省長官コーエンは観念的な部分では幾分異なった部分―軍事力を軽々しく口にすることに国防省は伝統的に警戒心を示しており,コーエンもその警戒心を有しているという点―を見せているが,現在までのところ二人は大きな衝突を起こしてはいない。彼女の力の源に,共和党ジェシ・ヘルムズとの,共通部分をあまりもたない二人の関係が一つ挙げられる。彼は奥ゆかしいが,同時につむじ曲がりの保守派人間であり,上院外交委員会の議長である。しかし難航するリチャード・ホルブルックの国連大使任命を推し進めるために,彼女はヘルムズとの関係を使おうとしないのか,それとも使うことができずにいるのか,どちらか一方であるといえる(が,そのどちらにせよどの程度のものであるか人々は大いなる関心を抱いているのだ)。彼はボスニアの和平プランの強力な交渉人であり,「強力かつ複雑」とうまく称されるであろう関係をオルブライトが保てる考え方が似た人物なのである。 | 語彙 rapport: 調和,親密な関係 ideologically: 観念的に caution: 警戒 toss around: 軽く冷やかし半分で話す odd-couple: 共通部分があまりない二人のこと;アメリカの同名のドラマより kinship: 関係 courtly: 奥ゆかしい cantankerous: つむじ曲がりの conservative: 保守派 Senate Foreign Relation Committee: 上院外交委員会 speculation: 憶測 nomination: 指名,推薦 high-octane: ハイオクの;ここでは「強力なパワーを持つ」という意味 negotiator: 交渉人 philosophical: 哲学に通じた soulmate: 心の分かち合える人 relationship: 関係 diplomatically: 巧みに |
| 44 | 木曜日の夜,ヨーロッパから帰国するとき,オルブライトは大統領専用機の大統領室に近い,小さな戦況報告室の回転イスに座っていた。「随分流動的で,興味深い週でしたね」と彼女は疲労の陰を見せながらも元気に言う。「我々が行っていることに,ロシアを関わらせることは大切なことだったのです。我々はロシアが孤立することは望んでいませんでした。道は2つあったのです。NATOを結束させることとロシアをもっと我々の元へ引き寄せることです。我々はそれに関してなんとかこなしてきていると思いますよ」 | 語彙 swivel: 回転する situation room: 戦況報告室 fluid: 変わりやすい spunkiness: 元気 mask: 隠す exhaustion: 疲労 isolate: 孤立させる |
| 45 | コソヴォや他の道義心に奮い立たせられた干渉は,冷戦後アメリカの関心が新たな目的を有することを表すのであろうか。「我々の国家利益への脅威は様々な問題―民族浄化の結果,生み出された混沌や不安定[を含む]―から派生するのです」 我々が一体どうやってそのような紛争を選べるというのだろうか。何故にコソヴォで,ルワンダではないのか。「あなたがとても単純な方式を作れるとは思いません。何が起きているのかを広範囲で見つめなければならないからです。我々はルワンダで,もっと何かをしなければならなかったと考えるようになり,その時点でもそう論議しました。犯罪規模が大きく,我々の安定を脅かす領域―ヨーロッパの安定は過去200年間においてアメリカにとって重要な働きをするものでありつづけている―で,それを扱える能力を持つ組織が存在するところに,我々は関わっているのです。すべての場所に関われないということがどこにも関わりを持てないということは意味しないのです。我々はこれらの基準というものを作り上げつつあるのです。未だ組織だった方法でこれを動かす方策はないのです。 | 語彙 inspire: 奮い立たせる intervention: 干渉 chaos: 無秩序 instability: 不安定 matrix: 母体 immensity: 広大なもの evolve: 進化させる doctrine: 方策,理論 |
| 46 | 逞しくあることを誇りに思う人間にとって,彼女は承認を求めて必死に取り組み,記事に自分がどう映るかを気にしているように見える。(安心してください,と私は言いたい。今の状況に問題はありません)。しかし物の考え方や熱意において彼女は,自分の見解に自信喪失するそぶりは決して見せない。メデリンの戦い?「そうですね。完全に自分の戦いとは言えないでしょうね。しかし,我々は正しいことを行ったと思いますし,その中で私が担った役割にも誇りを持っています」 今日,平和への可能性が高まりつつある週を過ぎ,彼女の課題は,戦争に関わることと同様,戦争から逃れることにも秀でていることを示すことなのだ。 | 語彙 touchingly: 感動的に approval: 承認 assure: 確信させる betray: さらけ出す self-doubt: 自信喪失 solely: 全く advance: 進める |
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